朝日新聞400万部割れも経営は安泰か:その一方で…
実質債務超過状態のゾンビ会社もあるようで…
一般社団法人日本ABC協会が公表したレポートで、朝日新聞の9月の朝刊部数が400万部を割り込んだと報じられています。朝日新聞の朝刊部数が2014年3月時点で753万部だったことを思い起こせば、この8年あまりで半分近くに減少した計算です。しかし、株式会社朝日新聞社は不動産賃貸業でメディア・コンテンツ事業と変わらない利益を上げており、同社の経営がただちに行き詰るという可能性は低いのが実情です。では、そうではない会社の場合はどうでしょうか?
目次
新聞発行部数は右肩下がり
以前からたびたび取り上げてきたとおり、紙媒体としての新聞の発行部数は右肩下がりです。
一般社団法人日本新聞協会は2000年から2021年までの22年分の新聞発行部数に関するデータを公表しているのですが、これに基づけば、この22年間で朝刊の部数は5189万部から3240万部へと38%減少。夕刊に至っては2001万部から711万部へと、じつに64%も減少した計算です。
(※日本新聞協会の元データの集計区分は「セット部数」「朝刊単独部数」「夕刊単独部数」であるため、上記集計にあたっては著者の側にてデータを加工している点についてはご承知おきください。)
これについて、少なくとも新聞業界全体における部数については右肩下がりであることは間違いなく(図表1)、また、今後紙媒体の新聞の発行部数は、減少することはあったとしても、増加に転じることは考え辛いというのが実情でしょう。
図表1 新聞の発行部数
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データをもとに著者作成。ただし、「朝刊」は「セット部数+朝刊単独部数」、「夕刊」は「セット部数+夕刊単独部数」を意味する)
ただし、朝刊と夕刊を比べると、朝刊の減少率は緩やかですが、その理由はよくわかりません。
朝刊に折り込まれる近所のスーパーのチラシなどを目当てに朝刊を取り続けている人がいるからなのか、訃報欄への根強い需要があるのか、単純に夕刊自体が廃刊となるケースが増えているからなのか、あるいはいわゆる「押し紙」が横行し、部数が大幅に水増し・虚偽報告されているからなのか。
これについては現時点において、著者自身にも確たる分析ができているわけではありませんので、今後の研究がまたれるところ、といったところでしょうか。
各新聞の内訳についてはよくわからない
ところで、それ以上に困ったことがあるとすると、この発行部数については「総数」しかわからない、という点です。
各新聞の発行部数については、一般社団法人日本ABC協会が公表しているようなのですが、これについては費用を支払わなければ閲覧することもできないようであり、したがって、図表1のような分析を各新聞について実施することは困難です。
そこでやむなく、各新聞の部数については、どこかのメディアが報じるABC部数を間接的に取り上げるか、もしくはABC部数以外のデータを使って調べっるしかないのですが、ここでもっと不可解な点があるとしたら、新聞社の経営内容に関するデータは、ほとんど手に入らないことにあります。
新聞社は普段、政府や各企業に対し、「情報を開示せよ」と高圧的に要求するわりには、自分たちの経営情報についてはできるだけ出さないようにしているというのですから、これも強烈な話でしょう。
朝日新聞の減少率は新聞業界全体のそれを上回る
しかし、こうしたなかで、大手新聞社のなかで1社、かなり詳細に経営内容を開示している社があります。
それが、株式会社朝日新聞社です。
以前の『【速報】朝日新聞朝刊部数は8年前と比較して4割減少』を含めて何度か取り上げてきたとおり、株式会社朝日新聞社は有価証券報告書を財務局に届け出ており、これについては「EDINET」と呼ばれるシステムを使い、誰もが自由に検索可能です(※ただし、検索できるのは直近5年分に限られます)。
そして、EDINETを使って同社の有価証券報告書を検索し、そこに掲載されていた朝日新聞の部数をグラフ化したものが、次の図表2です。
図表2 朝日新聞の部数の推移
(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度の有価証券報告書を参考に著者作成)
日本新聞協会と朝日新聞のデータの間には、約半年のズレがありますが、このズレを半年補正し、日本新聞協会の2013年10月時点・2021年10月時点のデータと朝日新聞の2014年3月時点・2022年3月時点のデータを比較すると、朝日新聞の部数は業界全体と比べ、大きく落ち込んでいることがわかります。
つまり、日本新聞協会のデータでは、2013年10月から2021年10月までの8年間で部数が1355万部落ち込んでいる(減少率は29.49%である)のに対し、朝日新聞は2014年3月期から22年3月期までの8年間で、部数が297万部落ち込んでいる(減少率は39.45%である)のです。
近年、朝日新聞「だけ」が部数減に直面しているわけではないにせよ、朝日新聞の部数の落ち込みは他紙と比べても大きい、ということが、この2つのデータから浮かび上がってくる格好です。
ABC部数で400万部割り込んだ朝日新聞:しかし…
こうしたなか、先ほども取り上げた「ABC部数」に関し、いくつかのメディアが記事にしています。
スクープ! 朝日新聞ついに「400万部割れ!」/実売300万部程度か/「紙に代わる収益源」いまだ見いだせず
―――2022/10/30 19:50付 FACTA ONLINEより
深刻化する“朝日新聞離れ”「吉田調書」問題で社内は萎縮、気骨ある記者は一掃された
―――2022/11/01 07:13付 Yahoo!ニュースより【NEWSポストセブン配信】
ここでは2つの情報源を示しておきますが、これらの報道によると、2022年9月度のABC協会レポートによれば、朝日新聞の朝刊の発行部数は400万部を割り込み、前年同月比63万部のマイナスとなる399万部を記録したのだそうです。
著者自身が手元に持っている有報データだと、2014年3月末時点で753万部でしたので、この8年半で半分近くの部数が失われたということです。あるいは2022年3月末時点で455.7万部でしたので、たった半年で57万部も減少したということでしょうか。
このように考えると、部数の減少はなかなかに深刻です。
ただし、当ウェブサイトでは普段から申し上げている通り、株式会社朝日新聞社は不動産を筆頭に優良資産を大量に抱えており、営業利益ベースでも「不動産事業」がたたき出す利益は「メディア・コンテンツ事業」のそれと大して変わりません(図表3)。
図表3 株式会社朝日新聞社・セグメント利益
(【出所】株式会社朝日新聞社有価証券報告書より著者作成)
「メディア・コンテンツ事業」が2020年3月期、21年3月期において大幅なマイナスに陥り、22年3月期に黒字に転換しているのは、この時期に大規模な人員整理や経営改革が行われた証拠でしょうが、それにしても不動産業の収益は安定しています。
このあたり、株式会社朝日新聞社に限らず、止まらない部数の減少は大きな経営課題のひとつですが、それと同時に経営学的な視点で申し上げるならば、極端な話、赤字にならない程度にまで新聞事業を縮小し、不動産業で「食っていく」という選択もアリです。
もっとも、その場合、すでにそれは「新聞社」ではなく「不動産会社」であり、「資産運用会社」の一種と化してしまいます。そのような会社に記者クラブに出入りする特権を与えて良いのか、優先的にさまざまな情報を与えて良いのか、といった問題提起も必要となるでしょう。
優良資産がない会社の場合はどうなるのか?
ただ株式会社朝日新聞社の場合は「不動産屋さんが趣味で新聞を刷っている」、株式会社TBSホールディングスは「不動産屋さんが趣味で電波を流している」くらいでも良いかもしれませんが、優良資産がない新聞社、テレビ局の場合、こうした逃げ道がないだけに、状況は悲惨です。
とくに日本にはかつて「大新聞」を名乗っていたものの、現在は資本金基準で「中小企業」と化してしまった企業もあるらしく、しかも純資産の部を大きく上回る繰延税金資産を計上しているなど、実質債務超過の疑いは濃厚です(『とある中小企業「売上高が5年間で40%減少」の衝撃』等参照)。
このように考えていくと、某新聞社の場合はすでに実質破綻状態でゾンビと化しており、そのゾンビが新聞の刊行を続けている、という見方もできるかもしれません。ハロウィンは終わってしまいましたが、ゾンビジャーナリズムというのも恐ろしい話です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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素朴な感想ですか、(別に朝日新聞に限った話ではありませんが)経営環境が悪化するにしても、その悪化するスピード次第で、その悪影響が違ってくるのではないでしょうか。もちろん、経営陣が無能(?)すぎて、何もしてこなかった、という場合もありますが。(日本の企業は、経営環境が悪化していく、ということを、経営陣が共有して、それを互いに言い合えるようになるまでが、長いのかもしれません)
朝日新聞はかつて「くたばれGNP」という論陣を張っていた。要するに反成長主義。
自社の主張に沿った方向に行ってるんじゃないですか。
朝日新聞はいわゆる「インテリ左派」を主たる顧客としていると推察します。典型的な顧客層は学生時代に学生運動を経験或いは影響を受けた、首都圏などに在住する団塊世代の元ビジネスパーソンでしょう。
オリンピックや国葬儀に動員されていた人々はその先鋭部隊に思います。
彼ら彼女らも後期高齢者になりつつあり、体力気力更には経済力の減退、更には寿命がきて、顧客層の厚みがどんどん薄くなりつつあるのでしょう。
なお、朝夕刊の減少率に偏りについては、朝日新聞の購読者は、主に元ビジネスパーソンで、朝夕刊両方配達する市街地域に在住していることが多いため、朝夕刊の減少率に偏りが少ないのでは?と推察します。
個人的には、朝日新聞の発行母体が「株式会社朝日新聞社」から「株式会社朝日不動産総務部広報課朝日新聞編集発行係」に変わる姿を見て見たい気がします。
と書いたところで念のため検索をかけたら、「株式会社朝日不動産」ってもう別の既存事業者が実在するじゃん、ということで、当方の妄想は謹んで取り下げさせていただきます。