ロシア国内で西側諸国「知的財産権保護」を解除の動き
ロシアではマクドを「勝手に開業」できるようになる?
「米マクド社の許可なくマクドの店舗を出しても違法ではない」。そんな状態が実現するのでしょうか。先日はロシア政府がる西側諸国からの金融制裁に困惑するあまり、事実上の「借金踏み倒し宣言」を行ったとする話題について取り上げましたが、こうした宣言に加え、もうひとつ興味深い話題が出て来ました。それは、ロシア国内で西側諸国の知的財産権の保護を無効にする措置が検討されている、というものです。
相次ぐロシアに対する制裁措置
ロシアのウクライナ侵攻からもう2週間以上が経過しましたが、この話題が報じられない日はありません。なぜなら、これ自体、かなり「話題性」に富んでいるからです。
「外国政府を打倒することを目指して軍事侵攻した」というロシアの行動の異例さはもちろんのこと、「ものの数日でロシア軍に制圧される」との大方の予測を覆し、いまだに首都・キーウが陥落していないというウクライナ軍の健闘ぶり、そして戦争が長引くなかでの西側諸国のさまざまな経済・金融制裁――。
本当に、「事実は小説より奇なり」という格言を思い出してしまいます。
ロシアによる公式の「借金踏み倒し宣言」
しかも、「話題性」は、それだけではありません。西側諸国に対する経済・金融制裁に対するロシア側の反応も、何かと異例ずくめだからです。
たとえば、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも取り上げたとおり、ロシア政府は「非友好国からの外貨建ての債務の元利払いをルーブルで支払っても良いこととする」、という大統領令を出しました。
これは、ロシア政府が公表した「非友好国」リストを公表し、このリストに含まれた国・地域からの外貨建ての債務のうち、毎月1000万ルーブル(かそれに相当する外貨)を超える支払手続については、外貨ではなくルーブルを使用することを容認する、などとする措置です。
そして、債務者であるロシアの企業などが、ロシア国内の銀行に別段預金口座を設け、その口座に外貨建て債務の元金や利息をルーブルで振り込めばよい、というわけですが、その際の為替換算レートがロシア中央銀行の定める公式レートによるものとされています。
たとえば日本企業のA銀行がロシアのB社に対し、円建てで10億円の融資をしていたとしましょう。
このとき、B社はA銀行からの10億円の借金を負っている格好ですが、この大統領令のおかげでA銀行に対する債務を日本円ではなくロシアルーブルで支払うことが容認される、というものです。
しかも、A銀行に対して直接支払う必要すらなく、ロシア国内の銀行(たとえばC銀行)に「A銀行からの債務弁済口」などの名称の別段預金口座を設け、その口座に「10億円をロシア中央銀行が(勝手に)定めた為替レート」で換算したルーブルを振り込めば、それで良い、というわけです。
こんなメチャクチャな大統領令、当然のことながら、国際法にも違反していますし、もしロシア企業がこの大統領令に従って外貨建て債務をルーブルで支払ったとしても、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の「債務不履行」(failure to pay)に抵触することは、ほぼ間違いないでしょう。
ロシア政府「知財使用制限の解除を検討中」
ただ、「メチャクチャ」度合いでは、この「借金踏み倒し」大統領令と並ぶ、大変興味深いものもあるようです。
ここで参考になるのが、タス通信に先週日曜日掲載された、こんな記事です。
МЭР России обсуждает снятие ограничений на использование интеллектуальной собственности
―――2022/03/06 02:48付 タス通信より
これについては英語版を探してみたのですが、見当たらなかったので、ロシア語版をそのまま紹介しています。
タス通信によると、ロシア経済開発省は5日、ロシアへの輸入制限が適用されている製品に関わる知的財産権の使用制限を解除することを検討している、などと発表。同省はその狙いについて、「サプライチェーンの寸断、製品不足による市場への影響の緩和にある」、などとしているのだそうです。
とりわけ、そのターゲットとなるのは、特許権やコンピュータ・プログラム、さらにはトレードマークが想定されているのだとか。
なんだか、凄いことを言い出しています。
『ロシア30年の歩みを象徴するマクド1号店の長蛇の列』などでも取り上げたとおり、マクドからケンタッキー、コカ・コーラ、さらにはKPMGやゴールドマン・サックスなどに至るまで、さまざまな西側企業がロシアでのサービス提供等を中止または終了すると発表しています。
WP「知財窃盗を容認する措置だ」
これに関連し、米紙『ワシントンポスト』(WP)は「(ロシアでの事業の一時中止を発表した)マクド社のブランドを、ロシア国内で継続して使用することが可能とするもの」であり、いわば「非友好国の企業の知的財産権を盗むことを容認するものだ」と評しています。
Russia says its businesses can steal patents from anyone in ‘unfriendly’ countries
―――2022/03/09 20:19付 WPより
といっても、このWPのたとえ自体、ちょっと極端な気がします。タス通信(英語版)でも書かれているとおり、「西側諸国の食品や飲料がロシアに入らなくなる」からです。
No more cola, burgers: Western food, beverage suppliers suspend work in Russia
―――2022/03/09 23:12付 タス通信英語版より
たとえばマクド社の場合、提供されているポテトの原産国は米国・カナダであり、牛肉の原産国は豪州、ニュージーランド、米国です。したがって、ロシア国内で採れた食材を使って勝手にマクドのブランドを使用したとしても、あの味を出すことができるとは限りません。
もっとも、WPの表現を借りれば、この「知財ドロボウ」措置がターゲットとしているのは、どちらかといえばコンピュータ・ソフトウェアが中心であり、ロシア国内で自前のソフトウェアが出来上がるまでの間、一時的に「寸借」することを容認する措置、と考えた方が正確かもしれません。
いずれにせよ、何とも凄い国だと思わざるを得ません。
ロシアの国際的孤立?それとも…
もっとも、こうしたさまざまな措置の異例さもさることながら、やはり非常に気になるのは、ロシア自身が「内に籠る」だけのポテンシャルを持っていること、そして中国との強い関係を持っていることです。
もちろん、西側諸国の制裁で、短期的にはかなり苦しい立場に追い込まれることは間違いないでしょう。これに加えて現代文明の象徴でもあるスマートフォンやマクド、コーラなどを取り上げれば、個々のロシア人の怒りがロシア政府に向けられるかもしれません。
ただ、短期的なさまざまな混乱を乗り越えれば、中・長期的には、ロシアは中国などとの関係を強化し、生き残りを図ることもできるでしょう。
たとえば、ロシアの特定銀行は国際決済網であるSWIFTNetから排除されましたが、このこと自体、中国が運営するCIPSという決済システムにロシアが依存するようになる可能性は十分にあります。
また、ビザ、マスターカード、アメックス、JCBといった国際的なクレジットカードブランドは、ロシアでの事業の一部または全部を停止するようですが、こうした動きは、ロシアの銀行が銀聯(ユニオンペイ)との提携を強めることにもつながっているようです。
Russian banks plan to issue co-badged Mir-UnionPay cards due to sanctions
―――2022/03/06 18:57付 タス通信英語版より
CIPSの件については、正直、あまり影響はないのですが、銀聯に関しては、ケースによってはビザ、マスター、JCBなどのサービス停止の「抜け道」として機能する可能性があります。
このように考えていくならば、西側諸国のさまざまな制裁は、ロシア人から「現代人の楽しみ」を奪い、国際社会からの孤立感を味わわせることなどを通じて厭戦気分を蔓延させる効果は期待できるかもしれませんが、「ロシア経済を完全に崩壊させる」ことにつながるかどうかは微妙でしょう。
もっとも、ロシア軍がウクライナをいつまで経っても制圧することができなければ、話はまた変わってくるかもしれません。西側諸国からの制裁もよりいっそう厳しくなっていくでしょうし、場合によっては米国などが中国企業に対する「セカンダリー・サンクション」を発動する可能性もあるからです。
その意味では、この問題を巡ってはまだまだ予断を許さない展開が続くことは間違いなさそうです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(とういうより、自分でも外れて欲しいので)
これは、(ロシアに倣って)他の国も、国内法で他国の知的財産権を無効化する前例になる、ということでしょうか。
駄文にて失礼しました。
裁判の原告が他国企業の知財権を差し押さえている国があったように思いますが、今般のロシアの動きを見て益々増長、もとい自信を深めるのかも知れません….
3月決算が近いけどでロシア向け債権持ってる日本の銀行はどうするのかな。
「無理が通れば道理引っ込む」
ロシアがこういうことを続けると、誰もロシアに進出しない、誰もロシアに金貸さないことになる。
いやはや、新時代ですね。冷戦の孤軍奮闘版とでも言うべきか。
ロシアがやってる数々の無茶苦茶とその結果は他の国々にとって、
物凄く重要なデータとなるでしょう。
「とりあえずメシとエネルギーはあるロシアならこれくらいは耐えられた。
ウチの場合はどうか?同じ事が出来るか?」とシミュレートしていそう。
ロシアとウクライナの命運と、世界の方向性が連動している感が凄い……
ロシアによる公式の「借金踏み倒し宣言」 >
窮鼠猫を噛む、のロシア版といったところでしょうか?
ただこの場合、噛めば噛むほどに自分で自分の首を絞めていくことになりかねないことに、ロシアは未だに気づいていないのでしょうか?
唯一味方のふりをしてくれそうだった中国が、ここ数日来ロシアと距離を取り始めてきているような気配を感じますが、本当のところどうなんでしょうか?侵攻以来指摘されてきたロシアの意外なほどの弱体ぶりを見て、中国否習近平の気持ちに変化が生じた可能性も否定しきれません。
今回の行動に同調してくれると期待していた中国にまで見放されれば、もはやロシアにとって周辺にある友好国はベラルーシだけとなるでしょう。
沈む泥船と運命をともする覚悟もないし、さらにこれから三期目をスタートさせる習近平にはその余裕もない、というのが案外本音なのかもしれません。
ロシアがこのまま勝手に弱まってしまえば、2年、5年とじっっっくりと人民元の支配下に置く喜びもあるのでは。そして沿海州は自然に中国の手に入ります。次は中国だという自覚があれば、泥船を助けないと思いますね・・。
非友好国に台湾をいれたあたり、なんらかの軋轢を感じさせると共に、なんらかの役割分担があったのかなとも窺えます。集中統一的迅速経済制裁もさることながら、ウクライナでのロジック自体、台湾に適用されると困ることになるので、身動きできないですよね。弱い人は強い人に喧嘩をうってはいけない。自戒のセリフだったのだと思います。軍の動きはまるみえなので、へんな動きすると、即座に国家承認&3国同盟締結されてしまいほぼ永遠に手出しできなくなるかと思います。まぁゆっくり対話路線でやればいいというだけですが。何にしろ平和が一番。
通りすがり 様
弱い人は強い人に喧嘩をうってはいけない。自戒のセリフだったと思います >
それ、痛烈な皮肉ですよね。(笑)
一方ウクライナでは、道端に落ちているロシア戦車を拾得しても、課税免除になったそうな。
数年~20年くらい前は,ロシア人や中国人の大半は,知的財産権とか著作権の概念を持っていなかったのか,コピー天国だった記憶があります。30年くらい前の韓国もそうだったかな。そもそも,「国際法」なんていうのはロシアや中国の都合次第と考えているでしょう。
債券(債務)のルーブルでの返済は,外貨がないから当てつけでしょう。
ベンジャミンフランクリンも「特許なんてものは存在するのがおかしい。じゃんじゃん欧州からパクるべき」の信念持った人だったっけ?
借金踏み倒しの件ですけど、大本営発表によれば、
「ルーブルで払うんだからデフォルトじゃねぇ」だそうです。
一応まあ、ロシア大使館が公式アカウントで言ってましたんで、足跡的に。
駐日ロシア連邦大使館
https://twitter.com/RusEmbassyJ/status/1502545696993726468?s=20&t=Tc6pzCqNRVdXFmF3Ms59XQ
ペスコフ大統領報道官、ロシアのデフォルト可能性について
皆さんご存知のとおり、財務省等の財務官庁トップは、すべての対外債務をルーブルで返済する用意があること、またそのために必要な安全マージン額を保有していることを発表している。
実際、人為的にデフォルト発生の条件を作り出しロシアに適用しない限り、我が国はデフォルトを起こす状況にはない。
ルーブルには、一応ロシア産石油やガス、地下資源の裏書(保証)があると思えば
一概に踏み倒しとは言えないような気もしますが・・・
まあ、どうなることやら
なんでしょうね…
元から「えっなんで戦争になるん?」
な戦争開始だったんですが。
武闘派トップが
「こんなこといいな〜♪出来たらいいな〜♪」
を頭溶ろかしながら戦争するとこうなるのかな…
何一つ義も無ければ論理性も無い。
当初ナチスがどうたら言ってたけど、ナチスとヒトラーのほうがよっぽど追い込まれた状況で致し方ない部分もあった。
歴史のは残ったプーチン大統領。
なんか、ウクライナにおけるナチスには、ロシアからの解放者、という意味があるらしく
反ロシア主義者ががネオナチを名乗るのは不思議じゃないそうな。
だから、ウクライナにネオナチがいたのも、ロシアがネオナチを攻めたのも
言い訳でも何でもない事実の様で、でも、ネオナチの意味が違うという。
なんだかな~
あからさまに反ロシアを表明したら攻撃されて不思議は無いな
特許も知的財産の範疇です、ってここを読まれている方たちにはきっと説明不要ですね。
特許は相互契約ですからロシアが特許を無断使用するのなら
ロシアの特許を他国が無断使用するのもOK?と思って調べてみました。
https://iti.or.jp/stat/3-046-3.pdf
「世界各国の知的財産使用料」
最近は中国が山のように特許を出願していますが、お金になる特許の数では米国、日本、ドイツがトップ3を独占しています。
ロシアは収支がマイナスで、他の国が使いたいような特許は、ほとんど持ってなさそうです。
私の専門分野(遺伝子工学)ではロシア特許は見たことがないけど、宇宙工学の分野とかの特許があるのかしら。
こういう一次資料は、日本の技術が世界で必要とされていることを数字ではっきりと裏付けるものとして
大変興味深いと思いました。