「マクド制限」はロシア国内の厭戦気分を高めるのか?

通貨・ルーブルは意外としぶといのでしょうか、現在のところ、ロシアが為替介入を余儀なくされたという兆候は見当たりません。ただ、その一方で、英国の防衛省のツイートによれば、ロシア側では徴兵された部隊で犠牲者が出ていることが指摘されており、こうした状況は前線で「厭戦気分」を高める要因となり得ます。これに加え、マクド、iPhoneなどをロシア人から取り上げることで、後方でも「厭戦気分」を高めることができるのかもしれません。

すわ!為替介入か!?

ロシアの通貨・ルーブルの値動きが、相変わらず不安定です。

米メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)のサイトのマーケットデータによると、ルーブルの対米ドル相場(USDRUB)は3月7日時点で1ドル=158.30ルーブルという史上最安値を更新しましたが、その後は乱高下。

3月9日時点では1ドル=136.50ルーブルをつけていたのが、米国時間の3月10日午前2時ごろ(≒日本時間の3月11日午後4時ごろ)、突如として、1ドル=120ルーブルの大台を割り込むルーブル高となっています。

これについて、一瞬、「もしかして為替介入でもしたのか」、と思ったのですが、冷静に考えていくと、それは違うでしょう。ルーブルの為替がある時間で乱高下する理由は、おそらく、ロシア・ルーブル自体、取引時間がかなりの制約を受けているからだと思います。

米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドといった国際通貨の場合だと、基本的には平日ならば24時間、地球上のどこかで取引がなされているため、市場のチャート指標を眺めていると連続的にグラフが生成されていきます。

しかし、新興市場諸国通貨の場合だと、オフショア市場が十分ではないため、ある時間で為替相場が唐突に「乱高下」することがしばしば発生するようです。とくに現在のような局面だと、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する外為市場の注目度も高いためでしょうか、ちょっとした要因で乱高下するものなのかもしれません。

為替介入の兆候は今のところ見当たらず

いずれにせよ、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも指摘したとおり、西側諸国が相次いでロシアの外貨準備の凍結に踏み切るなか、ロシアにとっての「頼みの綱」は、中国からの最大1000億ドル前後の支援です。

この「1000億ドル」とは、ロシア中央銀行や中国人民銀行のレポートなどをベースに試算した金額で、ロシアが保有している、少なくとも約800億ドル相当の人民元建ての外貨準備と、ドル換算で200億ドル少々の中露通貨スワップのことを指しています。

ということは、仮にロシアの通貨当局が為替介入に踏み切るならば、ロシアとしては中国から人民元を入手し、それを外為市場で米ドルに両替する、という流れが考えられるのですが、その過程で人民元の対ドル相場(USDCNYやUSDCNH)が崩れるはずです。

しかし、現実にはUSDCNY、USDCNHともに相場が顕著に崩れているという兆候は見当たりませんし、ロシアがスワップを発動した、といった報道も見当たりません。したがって、現時点までにロシアが為替介入に追い込まれた、という兆候は、確認できないのです。

このあたり、先日の『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』で述べた「西側諸国の経済制裁の結果、ルーブルが『紙屑』となる」、というほど単純なものではない、とする内容と、非常に整合する現象です。

ロシア人からマクドやiPhoneを取り上げると…!?

ところで、以前から当ウェブサイトでは、「ロシアは産油国でもあるため、経済構造として、ある程度は『内に籠る』ことができてしまう国だ」、と申し上げてきました。

また、ロシアにとっては1ルーブルは1ルーブルですので、仮にルーブルが外貨に対し暴落したとしても、ロシア国内で経済が廻っている限りにおいては、あまり実害はないのかもしれない、とも指摘したつもりです。

ただし、旧ソ連崩壊以降の30余年で便利になった生活を、ロシアの人々が手放すのを甘受するかどうかは、また別の議論でしょう。

ロシア30年の歩みを象徴するマクド1号店の長蛇の列』でも議論したとおり、現在、ロシア人はマクド・ナルドやコカ・コーラ、iPhoneや任天堂といった西側諸国のさまざまな製品・サービスへのアクセスを失おうとしているからです。

経済統計上、ロシア経済の輸入依存度はさほど高くはありません。

しかし、やはり、魅力的な西側諸国の製品、サービスを失うことは、ロシア人にとって耐えられるのでしょうか?とりわけ、「マクドのミールが350ユーロで転売されている」、といった話題(※ただし真偽不詳)を見ると、ロシア人が1990年以前の旧ソ連時代に戻れるのかと言われれば、そこは微妙でしょう。

英国防衛省ツイートから垣間見える「厭戦気分」

さて、「戦況」についても確認してみたいと思います。

最近個人的に注目しているツイートが、英国防衛省の「インテリジェンス・アップデート」です。

これによると、3月10日時点で、相変わらず、首都キーウ北西部でこの1週間ほど、ロシア軍の隊列はほとんど動けておらず、また、「ウクライナ軍の抵抗による損害も生じている」、「ロシア空軍の活動がここ数日で急に少なくなってきた」、「徴兵された部隊に犠牲者が増えている」、などとも記載されています。

このあたり、英国政府のツイートを素直に信頼して良いかという問題はあるのですが、ただ、とくに「徴兵された部隊が前線で犠牲者を増やしている」とする指摘が事実ならば、ロシア軍に「厭戦気分」が蔓延し始めている可能性もあるでしょう。

このように考えると、マクドだの、コーラだのといった「文化」の制限は、ロシア国内での「厭戦気分」をさらに蔓延させ、ロシアのウクライナ侵略を失敗に導くのかもしれません(※もちろん、楽観視は禁物ですが…)。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    ロシア政府は現地進出企業の資産を接収するとのこと。国外脱出遅れ者はいずれ強制労働に課せられる。歴史の筋書き通りではありませんか。

  2. 通りすがり より:

    キエフ占領のための電撃作戦の失敗は相当誤算だったと見えますね。
    ただプーチンの思惑を簡単に達成させなかったことは良かったものの、結果として非戦闘員である一般国民への無差別攻撃や人道に反する病院や原発への攻撃や占拠、核使用を仄めかしての恫喝など長引くことがいいのか悪いのかわからない状態に陥っています。

    やはりならず者国家の蛮行を止めるには、最高指導者の物理的排除しか無いように思います。
    これはロシアに限った話ではなく特定アジア諸国にも同様のことが言えるかと。

  3. 匿名 より:

    経済制裁の効果が現れるには時間が掛かり、今現在戦闘が行われていることへの抑止には直接働かないことは誰しも知っていること。マクドやスタバのコーヒーが飲めないからといって戦闘を止めると思う方がおかしいのでは。外国企業が撤退したあとは、ロシアが接収するか中国が穴をうめて漁夫の利を得るだけであり、効果は知れています。撤退しない企業に対して風当たりが強すぎるのは感情的な同調圧力のなせる業でしょう。
    ウクライナ駐日大使の感情を揺さぶる発信に振り回されています。
    日本には日本の事情があるのであって、英米の産油国と違い、特にエネルギー安全保障が脆弱な日本は、ガス・石油他のエネルギー関係のロシア制裁に足並みをそろえるかは、よく考える必要があります。特に天然ガスが遮断されると原発を再稼働しない限り、長期にわたって電力不足を生じます。

    1. フライドベアー より:

      冷静な意見にも聞こえますし悪魔の囁きにも聞こえます。ピンチはチャンス!

    2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      マクドナルドなければ、自作のハンバーガー作れば良いだけだからね

  4. より:

    経済制裁は間違いなく効果があるでしょうし、ハンバーガーやコカ・コーラが入手できなくなることは確かにロシア国民の厭戦気運を盛り上げることでしょう。でも、それだけでプーチン氏に撤兵を決断させるには、少なくとも半年以上必要になるだろうと思います。理由は、新宿会計士様も挙げていた通り、ロシアはエネルギーや食糧を自前で賄える国だからです。従って、各種経済制裁も、現在進行形で破壊されていくウクライナの街や、傷ついていくウクライナの人々にとっては、多少の慰めになる程度と考えるべきです。

    しかしながら、各種経済制裁や国内の厭戦気運の高まりは、現在の軍事侵攻が何らかの形で一段落した後、その「後始末」でプーチン氏を大いに苦しめることになりそうです。制裁がいつまで継続されるかは見通せませんが、ロシア経済が大きな打撃を受けることはほぼ確実で、場合によっては、ロシアが政治的に大きな混乱状態に陥る可能性もあるでしょう。
    ただし、その場合、処理を誤ると、ユーラシア全域で騒乱状態に陥る可能性もあります。そろそろ、「一段落後」についてのシミュレーションをいくつかのシナリオで検討し始めるべきかもしれません。

    1. 匿名 より:

      月給の中央値が5万円の国から iPhoneやコーラを奪った所で
      どれだけの国民がソレを実感するのでしょうか?
      大多数は 元々買えませんよね
      むしろ欧米が嫌がらせをしていると吹聴されたら
      憎しみの矛先が打倒プーチンどころか こちらに向かうのではないかと思います
       

  5. 引っ掛かったオタク より:

    ロシアが墓坑掘り拡げている様です
    「非友好国」企業の特許・商標をロシア企業が使うことを合法化するんだそうで…
    戦後の展開全く考えていないかにも見えますが、この先鎖国するんでしょうかね

  6. おとと より:

    >マクドだの、コーラだのといった「文化」の制限
    旧ソ連の国民のアルコール摂取量は、WHOが推奨する量の30倍。国を挙げて禁酒を推奨した結果、靴墨からアルコールを抽出する方法や、様々な自家製のウォッカ製造機などが発明されて、この努力を何故他の分野に向けないのかと取り締まる側の役人が嘆いたそうです。また新たな発明がありそうで楽しみではあります。【簡単に手に入るもの】が【手に入る何だか似たもの】に変わっても、プーチン大統領は国民の心をグッと掴んでおくことは出来るのかしら?

  7. 普通の日本人 より:

    ㇷ゚トラーは48時間で終わらせようとしていた。そして間違えた。敗北する。
    などと報道されていますが、私の考えは例えそうでもㇷ゚トラーは負けない。です。
    何故かすでに経済が崩壊しても国の形を保っている「北朝鮮」があります。
    強大なIT鎖国国家「中国」があります。世界の半数以上は専制国家です。
    情報統制を徹底し、核を持っている以上国の崩壊はあり得ません。
    抵抗する国民は中国の様に抹殺すればよいのです。
    中国では聞くところでは軍事予算より公安予算の方が大きいとか。
    最終的に大きな北朝鮮(資源大国)が出来上がります。

  8. 欧州某国駐在 より:

    同僚にロシア人がいました。正確に言うとウクライナ人なんですけどルーツとか考え方とかなにもかもウクライナ人というよりロシア人でした。ついさっきわかりました。なんでウクライナのパスポート持っているのかしらないけれどいろいろ事情があるのでしょう。よくわかりませんが、彼みたいのがウクライナにいる親ロシア派のような人なんですかね?彼がウクライナ人だという認識のもとオフィスで仕事の合間に「経済制裁で苦しくなってきたら国民がプーチンおろしをするんじゃないか?」と、言うとはなしに言ったら彼がいつにないマジな顔で「不満はプーチンにはいかない、不満や怒りの対象は制裁に参加している諸外国にいく」のだそうです。臥薪嘗胆ではありませんがある意味団結してしまう可能性もあるようです。個人的には今まで考えつかなかった意見なので忘れないうちに思わず仕事の合間にもかかわらず書いてしまいました。

  9. M1A2 より:

     いや、絶対おかしいって・・・・マクドはないわぁ・・・・あり得んて。
    関西人はビッグマクドとかマクドフライポテトとか言ったりするんですか?
    ビッグマクド指数?なんじゃそりゃ

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