土地と利益剰余金が「両建て」で膨らむことはあるのか

このOSINT時代に新聞社経営が苦しくなってくるのは自明の理かもしれませんが、こうしたなか、今年もあるXユーザーが、とある「税法上の中小企業」の要約貸借対照表・要約損益計算書をポストしていたようです。ちなみにその企業、特別利益が54億円計上され、貸借対照表上も「土地」勘定が64億円増えており、純資産の部においても利益剰余金が前期末の約3億円から一気に57億円に膨らんでいます。

数字で見る新聞社経営の実情

ここ数日、当ウェブサイトでは新聞社経営について話題に取り上げることが増えています。

といっても、どちらかというとネガティブな文脈で、です。

たとえば『OSINT時代に新聞社がデジタル戦略で生き残れるか』では、「社会のインターネット化が進み、『オープン・ソース・インテリジェンス』(いわゆるOSINT)が広がってくると、正直、新聞社が生き延びていくことは困難だ」と申し上げました。

ただ、こうした観測は、数字なしでお伝えしているわけではありません。

たとえば『部数減少とコスト増大の新聞事業は「赤字の恒常化」も』では、こんな趣旨の内容を説明しました。

  • 株式会社朝日新聞社の有価証券報告書から判断する限り、新聞事業はかなり苦戦しているようだ
  • 新聞などの「メディア・コンテンツ事業」は3期連続して赤字となった
  • 部数は引き続き減少し、また、新聞1部あたりの売上原価も急上昇している

…。

余力のない新聞社の経営はどうなるのか

すなわち、株式会社朝日新聞社の事例をもとに、「新聞事業自体、ビジネスとしては極めて厳しい状況に追い込まれているのではないか」とする仮説を提示しました。いわば、部数はジリ貧で低迷し続けているなかで電子版有料契約も伸びず、しかも新聞の製造コストも上昇しているからです。

この点、株式会社朝日新聞社の事例でいえば、また、本業の一部を構成する不動産事業であったり、連結上の「持分法投資損益」に計上されるテレビ放送事業であったり、といった優良資産・優良事業のおかげで、(少なくとも今期決算は)連単ともに最終黒字です。

ただ、読売新聞に次ぎわが国で2番目の発行部数を誇っている朝日新聞でさえこんな状況なのだとしたら、他の全国紙や主要ブロック紙なども経営的には非常に厳しい状況にあると考えられますし、事実、スポーツ紙、夕刊紙、地域紙などのなかには休・廃刊に追い込まれているケースも相次いでいます。

今年も出てきた「なにやら気になるポスト」

こうしたなかで、Xでは例年のごとく、とあるユーザーがなにやら気になる内容をポストしました。そのユーザーによると、その画像はとある「税法上の中小企業」が6月26日付で毎日新聞に発表した要約貸借対照表と要約損益計算書なのだそうです。

このユーザーがポストした内容が気になって、著者自身も6月26日付毎日新聞朝刊に掲載された今年のデータを入手し、手元に保管している同社の過去の要約貸借対照表・要約損益計算書(2017年3月期以降)などをもとに、簡単な趨勢分析を行いました。

その会社の単体決算上の2017年3月期以降の売上高について、推移をとってみると、売上高は2022年3月期ごろまで急落していたのが、ここ4年ほどは横ばいであることがわかります(図表)。

図表 某社の売上高と売上原価・販管費の状況

(【出所】とあるXユーザーがポストした画像などをもとに作成)

ただ、2017年3月期に1102億円あった売上高が、直近の2025年3月期にはおよそ半分の561億円にまで減っています。

また、売上原価や販管費が売上高に占める割合も非常に高く、今年度については営業利益を計上している反面、過年度においてしばしば営業損失状態となっていることもわかります。

この「営業損失」とは、わかりやすくいえば、本業で赤字が発生している状態です。つまり、営業損失とは「その事業を営むことで赤字となってしまっている」という意味です。

ちなみに財務論的な立場からすれば、売上高が減っている局面においては、売上高をてこ入れするか、それとも経費をさらに節減するか、そのどちらかの対策を講じなければ、再び営業赤字に転落する可能性がある、などとされています。

なぜか土地勘定と利益剰余金が膨らむ

ただ、この企業については、利益剰余金が前期末の約3億円から一気に57億円に膨らんでいます。

いったい何が発生したのでしょうか。

これについては財務諸表の動きから類推するしかありませんが、可能性のひとつを挙げるなら、誰かから固定資産の贈与を受けたのかもしれません。というのも、2024年3月期に約627億円ほどだった固定資産の部の「土地」勘定が、25年3月期には一気に691億円に膨らんでいるからです。

企業会計上、有価証券の場合は原則として毎期時価評価されますが、土地は基本的に時価評価の対象外です(かつて土地再評価法という法律で再評価・OCI処理が認められていたことがありましたが、現在、それはできません)。

ということは、64億円分の土地の受贈を受けた可能性があるのです。

実際、損益計算書に目を転じると、「特別利益」として約54億円が計上されているのですが、これも土地を同社が第三者から譲り受けたことにより生じた項目、という可能性があります。

実際、純資産合計は125億円と、前期の約81億円からは約44億円増えており、これは土地受贈益なのかもしれません(ただし、今期の特別利益が土地受贈によるものだったとして、それを「誰が」贈呈したのかについてはわかりませんが…)。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、新聞部数の低迷は続いており、まだ当面、新聞業界をめぐる「夕刊事業からの撤退」「スポーツ紙の廃刊」といった動きは出てくるのではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    利益剰余金が、3億円から57億円、つまり54億円増えました。これが定期的にあれば、どんな業種の企業であっても安泰ではないでしょうか。(もちろん、あればの話ですが)

  2. Masuo より:

    贈呈ってことは、タダであげたって事??
    奇特な人もいるものですね。

    チャイナマネーでなければいいですが・・・

  3. 匿名 より:

    それ土地の再評価やったんじゃね?
    タダで土地くれる人がいるとは考えにくいし。 純資産の部がマイナスになるのを避けたかったのでは?

  4. Sky より:

    毎日新聞社ではなく朝日新聞社ですが。
    朝日新聞社が所有していた杉並区の「朝日・浜田山グラウンド土地」を大蔵省(現財務省)に譲渡し、代わりに築地の国有地を取得って話しがかつてありました。
    あの界隈、幼少期住んでいたことがあり記憶が残っているのですが武蔵野の森林が残る広大な土地でした。
    今でも片鱗を感じさせます。
    モリカケ騒いでいるクセに、自身は相当きな臭いことやっとる。
    と、この情報を得た当時思ったものです。

  5. カズ より:

    *債務超過は回避しなくちゃなんですよね。

    「社屋等を活用したリースバック契約に際しての評価替え」とかでしょうか?
    財務諸表上で体裁を整えても、「窮する実情」は変わらないんですけどね・・。

    1. 匿名 より:

      貧すれば貪するでしょう

  6. 丸の内会計士 より:

    大手町近傍の駅直結の新聞社ですが、確か現在、大手不動産各社から再開発の提案を受けている最中かと思います。以前、ネット記事で読みました。土地と剰余金が両建てで増加したとのことですが、多分、土地の益出しスキームにつき合った会社があったのではと推測します。土地を売却して、同額で買い戻す。普通、これをやると税金がかかるだけと思いますが、一連の提案の中での対応かと思います。全貌は、不明ですが、提案が益出しで終了ということはないと思います。まさか。多分、SPCに土地を売却して、大手不動産と共同不動産事業に持ち込むものと思います。今後は、新聞記者andテナント管理andRAG用のテキストデータ作成と大忙しになる可能性が期待できます。さてどうなるか?乗ってくる大手不動産会社があるかどうかです。

  7. 匿名 より:

    当期純利益が利益剰余金にいったってだけじゃないの?簿記3級程度じゃないの?
    前期の情報持ってないから不確かだけど、あるとすれば借入金が増えて土地が増えたか

    1. 匿名 より:

      >当期純利益が利益剰余金にいったってだけじゃないの?

      だ~か~ら~、なぜ当期純利益が生じたかって話してんの。

      >簿記3級程度じゃないの?

      その簿記3級程度の知識もないくせに偉そうに。

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