外貨準備での日本円の地位の高さ

外貨準備の世界で財政破綻の兆しはまったく見えない

「日本は財政破綻し通貨の信認も失墜する」、などとまことしやかに唱えられているわりには、そのような兆候はまったく見えないようです。国際通貨基金(IMF)が四半期に1度作成・公表している『COFER』と呼ばれる統計データによると、世界の外貨準備に占める日本円の地位は、私たちが思っているよりも遥かに高いのが実情だからです。

COFER最新データ

当ウェブサイトで「定点観測」的に取り上げている話題はいくつかあるのですが、そのひとつが、国際通貨基金(IMF)が3ヵ月に1回公表している、『COFER』と呼ばれる統計です。

COFERは英語の “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” を略したもので、意訳すれば『外貨準備通貨構成統計』といったところですが、財務省や日銀などによる公式訳は見当たらないため、当ウェブサイトではそのまま『COFER』と呼ぶことが多いです。

このCOFER、世界各国の政府や通貨当局が提出した外貨準備に関する構成内訳データを通貨別に集計したものですが、IMFは日本時間の4月1日までに、この最新データを更新したうえでウェブサイトにて公表していました。

通貨別内訳を示すと、図表1のとおりです。

図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2024年12月時点)
通貨金額割合
内訳判明分11兆4719億ドル
 うち米ドル6兆6313億ドル57.80%
 うちユーロ2兆2750億ドル19.83%
 うち日本円6671億ドル5.82%
 うち英ポンド5424億ドル4.73%
 うち加ドル3179億ドル2.77%
 うち人民元2497億ドル2.18%
 うち豪ドル2359億ドル2.06%
 うちスイスフラン198億ドル0.17%
その他通貨5328億ドル4.64%
内訳不明分8922億ドル
合計12兆3641億ドル

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。なお、「割合」は「内訳判明分」に対するその通貨のシェアを示している)

意外と高い日本円の地位

これによると全世界の外貨準備は(IMFにデータを提出している国に限りますが)2024年12月末時点で12兆3641億ドルであり、便宜上、1ドル=150円で換算すれば1855兆円(※日本のGDPの約3年分)に相当します。

ただ、それ以上に驚くのは、私たち日本国の通貨・日本円の地位の高さではないでしょうか。

日本円は6671億ドルで、世界の外貨準備のうち通貨別内訳が判明している11兆4719億ドルに対し、5.82%に達しています。

ちなみに外貨準備の世界において、日本円は一時、金額、シェアともに伸び悩んでいたことがあったのですが、図表2のとおり、ここ最近は持ち直していて、金額割合も6%を目指している状況にあります。

図表2 外貨準備に占める日本円の金額【億ドル】と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

世の中ではよく「日本は借金大国だから、そのうち通貨の信認が失われ、紙屑化する」、などとまことしやかに唱える人がいるのですが、現実に通貨の信認が傷ついている兆候は確認できません。現実の世界では、日本円は米ドル、ユーロに次いで3番目に外貨準備通貨として好まれているからです。

円建てで見たら過去最高額を更新

また、元データはドル換算されていますが、国際決済銀行(BIS)などのデータを使い、ドルを円換算してみると、図表3のとおり、円建てで見たら104.7兆円史上最高水準にあることがわかります。

図表3 外貨準備に占める日本円【米ドル建てと円建て】

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データおよび The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series  データをもとに作成)

冷静に考えたら、これもすごい話かもしれません。

外貨準備は各国の政府、中央銀行といった「通貨のプロ」が、いざというときのための準備として備えておくものです。もしも日本円という通貨の信認が毀損しているというのであれば、なぜ日本円の組入額がここまで増えているのか、説明が付きません。

米ドルは徐々に減少傾向にあるが…

ちなみに外貨準備の世界では米ドルが圧倒的な強さを誇っていたのですが、その米ドルの外貨準備の組入比率は徐々に減少傾向にあります(図表4)。

図表4 外貨準備に占める米ドルの金額【億ドル】と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成)

ただ、米ドルの地位がジリジリと下がっているのが事実だとしても、その分、たとえば人民元のシェアが著しく増えているという事実は確認できません。

人民元が強いというわけではない

というよりも、人民元は2021年12月にピークを付け、その後は「鳴かず飛ばず」状態にあることが確認できます(図表5)。

図表5 外貨準備に占める人民元の金額【億ドル】と割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。データは2016年12月以降分しかない)

要するに、ロシアがウクライナ侵攻に備えて外貨準備を米ドルなどから人民元にシフトさせたことの影響でしょう。

そういえば、「BRICS諸国が共通通貨を作る」だの、「BRICSが域内貿易の決済通貨で脱ドル化を目指している」だのといった話題を目にすることもときどきあるのですが、残念ながら、データでは目に見えてこうした脱ドル化が進んでいる事実は確認できません。

このあたりは統計データを基にした冷静な判断が必要なゆえんだと思われるのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    これは知らない世界の話をありがとう御座います。
    世界の基軸通貨がドルなのか元なのかとかの話はたまに耳にする程度なので日本が3位とは驚きでした

  2. 引きこもり中年 より:

    外貨の備蓄(?)より、砲弾の備蓄のほうが評価(?)される世界になったりして。

  3. どみそ より:

    G8国のウォンは どこですかぁ?

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