立憲民主党「共産タナボタ効果」は自民党を利するのか

日本共産党が全国各地の選挙区で候補を立てることに関し、一部の立憲民主党議員からは、「なぜこういう仕打ちをするのか」、といった悲痛な声があがっているようです。立憲民主党にとって日本共産党との選挙協力はどういう意味を持つのでしょうか。東京都知事選では「立憲共産党」に対するアレルギー反応も見られましたが、それと同時に2021年総選挙では、立憲民主党が小選挙区でそこそこの議席を確保する原動力だった可能性も濃厚です。

過去の選挙と民主党

大型国政選で勝てなくなった野党

野党が信頼されない理由は、いまだに2009年からの3年3ヵ月の民主党政権に対する有権者の強いアレルギーがあるのかもしれません。

今から15年前の2009年、当時の野党だった民主党は衆議院議員総選挙で地滑り的な勝利を収め、見事、政権を獲得しました。民主党が得た議席はじつに308議席と、当時の定数480議席に対し、3分の2近くに達したのです。

しかし、少なくともそれ以降の大型国政選挙(衆院総選挙と参院通常選挙)では自民党が常に獲得議席トップを占め、民主党(やその後継政党である民進党、立憲民主党など)を含めた野党が獲得議席数でトップになったことは、ただの1度もありません。

図表1 過年度衆院選の第1党~第3党
選挙年第1党第2党第3党
2005年自由民主党(296)民主党(113)公明党(31)
2009年民主党(308)自由民主党(119)公明党(21)
2012年自由民主党(294)民主党(57)日本維新の会(54)
2014年自由民主党(290)民主党(73)維新の党(41)
2017年自由民主党(281)立憲民主党(54)希望の党(50)
2021年自由民主党(259)立憲民主党(96)日本維新の会(41)

(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』データをもとに作成)

図表2 過年度参院選の第1党~第3党
選挙年第1党第2党第3党
2007年民主党(60)自由民主党(37)公明党(9)
2010年自由民主党(51)民主党(44)みんなの党(10)
2013年自由民主党(65)民主党(17)公明党(11)
2016年自由民主党(55)民進党(32)公明党(14)
2019年自由民主党(57)立憲民主党(17)公明党(14)
2022年自由民主党(63)立憲民主党(16)公明党(13)

(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』データをもとに作成)

自民党は立憲民主党等のほぼ倍以上の議席を獲得し続けている

たとえば、民主党政権時代の2010年に行われた参院選では、改選121議席中、与党・民主党が得たのは44議席で、これに対し自民党は51議席。民主党が下野するきっかけとなった2012年の衆院総選挙では、定数480議席に対し自民党が294議席でトップとなり、民主党は57議席(!)で惨敗しました。

それ以降の衆院選では、自民党は常に過半数を獲得し続けており、これに対し、その時点の「最大野党」は民主党、民進党、立憲民主党と移ろってきたのですが、どの選挙でも自民党を上回る議席を獲得できていないことがよくわかります。

自民党が政権に復帰したのは2012年のことですが、それ以降の大型国政選挙で第1党と第2党の獲得議席差が最も縮まったのは2016年参院選で、自民党の獲得議席が改選議席のうち55議席だったのに対し、民進党が32議席で、両者の倍率は1.72倍でした。

しかし、この2016年参院選を例外として、自民党の獲得議席数はその時点の「第2党」の獲得議席数と比べ、常に2倍以上を維持してきています。

IFRS阻止以外に評価項目に乏しい民主党政権

これについては「有権者が自民党を積極的に選んでいる」という見方もできるかもしれませんが、著者自身はこれについて、「有権者が民主党とその後継政党(民進党と立憲民主党)を積極的に回避している証拠」、という仮説を立てています。

民主党政権時代を「悪夢」と呼んだのは故・安倍晋三総理大臣だったと記憶していますが、やはり、たった3年3ヵ月で東京の夜空が真っ暗になったことのインパクトは強烈だったのではないかとも思います。

著者自身、民主党政権時代に「インチキ会計基準(と著者が呼ぶ)」IFRS(国際財務報告基準)の強制適用が回避されたことについては高く評価している次第ですが、民主党政権で良かったことといえばそれくらいで、それ以外はほとんどの政策が「落第点」だったと考えています。

(※余談ですが、IFRSの発音は「いふぁーす」ではありません。監査業界を中心にこの間の抜けた語感でと呼ぶ者が多いですが、なぜそう呼ぶようになったのかについて、著者自身はそれを言い出した者を含め、内情をよ~く存じ上げています。いつか当ウェブサイトを閉鎖する前には明らかにしたいと思っています。)

余談はどうでも良いとして、民主党政権の「負の遺産」の最たるものは、政権公約にない増税、あるいは「国民負担の増加」の数々でしょう。

15歳までの扶養親族控除(いわゆる年少扶養控除)の廃止、復興税の導入、再エネ賦課金の導入、そしてなにより、2014年4月と15年10月を期日とした消費税・地方消費税の税率の引き上げです。

これらのなかには、現在の連立与党である自民党と公明党が賛成したものも含まれているのですが、その一方で2012年12月に発足した第二次安倍政権は、2014年の方の消費増税については止められなかったものの、2015年の方の消費増税については結局4年延期し、最後には朝日新聞から社説で、「消費税を確実に増税せよ」と叱られてしまうほどでした。

(どうでも良いのですが、消費税の軽減税率という恩恵を受けている新聞社に、消費税を含めた税制について、偉そうに語る資格があるとも思えないのは気のせいでしょうか?)

最近だと自民党に投票する人は「劣等民族」などと罵(ののし)られてしまうようですが(『「テレビ出演を当面自粛」で済まされない列島民族発言』等参照)、たとえ「劣等民族」と批判されたとしても、自民党に投票する(あるいは野党に投票しない)人が減らないのも、仕方がない話かもしれません。

選挙協力とタナボタ効果

小選挙区の特徴

こうしたなかで、本稿で改めて指摘しておきたいのですが、衆議院議員総選挙というものは、小選挙区を制した政党が勝利を収める、という特徴があります。

というのも、衆院選では「小選挙区比例代表並立制」を採用していて、定数465議席のうち、小選挙区の方には全体の6割を超える289議席が配分されており、しかも各小選挙区ではトップを獲得した候補者が1人しか当選できないからです。

もちろん、比例代表で「重複立候補」をしていれば、惜敗率に応じて比例区で当選することもできますが(いわゆる比例復活、あるいは「比例ゾンビ」)、そもそも比例代表に配分されているのは176議席と全体の4割弱に過ぎず、したがって、小選挙区で2位以下で落選すると、多くの場合は救済されません。

実際、2021年の事例で見ると、第1党である自民党は選挙区で187議席を獲得している(※当選後に自民党の追加公認を得た2候補を含まず)のに対し、第2党である立憲民主党が選挙区で得たのは57議席、第3党である日本維新の会に至っては、選挙区での獲得議席は16議席に留まります。

また、2021年の時点では、小選挙区で当選したものの、第2位との得票差が2万票以下だったという議員の数は、自民党が58人であるのに対し、立憲民主党側は41人もいたことを忘れてはなりません(『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』等参照)。

選挙コンサルティング業界界隈などでは、この「2万票」というのは、「ちょっとした風が吹けばひっくり返る得票差」として認識されているそうなのですが、この程度の得票差であれば、たとえば野党が選挙協力を進めるなどすれば容易にひっくり返るものでもあります。

維新タナボタ効果はどちらに働くのか

この点、これから予定されている選挙は2021年と比べ、小選挙区の区割りもいろいろ変更されているため、一概に確たることは申し上げられませんが、あくまでも野党の獲得議席数はその時点の野党に対する投票率と選挙協力の進展に大きく依存するのだ、という点については指摘しておく価値があるでしょう。

とりわけ第1党、第2党にとっての「波乱要因」は、第3党の存在です。

現時点における第3党といえば日本維新の会ですが、仮に「維新旋風」が巻き起これば、自民党の候補も立憲民主党の候補も、双方ともに得票を減らすものの、票を奪われる効果がより大きく出た側が落選し、そうでない側が当選する可能性が高いです。

これが、当ウェブサイトの用語でいう「維新タナボタ効果」です。

毎回の選挙の投票総数が20万票という選挙区があったとして、2021年の選挙ではA党候補が9万票、B党候補が8万票、C党候補が3万票を獲得したとしましょう。このときは獲得議席がトップだったA党候補者が、この小選挙区の勝者となります。

ところが、2024年の選挙ではC党に風向きが変わり、C党候補者の獲得票数がA党候補者から2万票を奪い、5万票を獲得したら、いったいどうなるでしょうか?つまり、A党候補者7万票、B党候補者8万票、C党候補者5万票、です。

結論的にはC党の候補者は当選できず、A党の候補者も落選し、無関係なB党の候補者が当選するのです。

立憲共産党効果が最大限発揮された2021年衆院選

こうした「タナボタ効果」が読めないところが、小選挙区の怖いところだといえるでしょう。

たとえば(あり得ないことですが)自民党と日本維新の会が選挙協力(という名の談合)を行い、自民候補者が立候補している選挙区では維新票を自民に集め、維新候補者が立候補している選挙区では自民票を維新に集めれば、立憲民主党・日本共産党らを抑え、当選確率が上がるかもしれません。

じつは、これと同じことが起こったのが、2021年の総選挙だったのです。

といっても、当時「談合」したのは自民と維新ではなく、立憲民主党と日本共産党などの左派政党でした。

もちろん、すべての選挙区で選挙協力をやったわけではないのですが、ただ、2021年の選挙では、立憲民主党の小選挙区における得票総数が17,215,621票だったのに対し、勢力としては57議席を確保することができました。

これに対し、たとえば2012年のケースだと、当時の民主党が獲得したのは13,598,774票で、2021年と比べて400万票弱少なかったに過ぎませんが、獲得できたのは2021年の半分以下のたった27議席に留まっています。

さらには、民主党が2005年の総選挙で得たのは24,804,787票と、2021年の立憲民主党の獲得票数を1000万票以上上回っていますが、小選挙区で獲得できたのは52議席と、2021年の議席を下回ってしまっているのです。

つまり、短期的に見て、立憲民主党にとっては日本共産党との選挙協力は同じ得票数で獲得できる議席を押し上げていることは確実だといえるのです。

都知事選では「立憲共産党アレルギー」だが…共産タナボタ効果にもご注意!

もっとも、立憲民主党にとって日本共産党との選挙協力は、諸刃の剣です。

立憲民主党の支持基盤である連合には「共産党アレルギー」のようなものがありますし、また、今年7月の東京都知事選では、齊藤蓮舫(謝蓮舫)前参議院議員が日本共産党の全面的なバックアップを受け、2022年の参院選と比べ、むしろ獲得票数を大きく減らしたという事例があったことも忘れてはなりません。

立憲共産党「マイナス効果」連合事務局長が適切な指摘』でも指摘したとおり、立憲民主党が日本共産党と組むことで、むしろ立憲民主党の支持層のなかには日本共産党との共闘に対する反発も生じているであろうことが、現実の数字で示されてしまっているからです。

ただし、立憲民主党にとっては、日本共産党に全選挙区で候補者を立てられてしまうのも困りものです。

「維新タナボタ効果」で自民党が議席を減らす可能性が高いのと同じ理由で、「共産タナボタ効果」では立憲民主党も議席を減らしてしまう可能性が高いからです。

こうしたなかで先週金曜日、産経ニュースにこんな記事が配信されていました。

「なぜこういう仕打ち」 立民の本庄知史氏、共産の衆院千葉全区擁立を批判

―――2024/10/04 21:16付 産経ニュースより

短い記事ですが、なかなか示唆に富んでいます。

千葉8区の立憲民主党の本庄知史衆院議員(千葉8区)が4日、千葉市内で記者団に対し、日本共産党について次のように批判したのだそうです。

なぜこういう仕打ちをするのか。自民党が勝てば憲法改正派が増える。それでいいのか

「こういう仕打ち」とは、日本共産党が千葉県内全14選挙区に衆院選の公認候補を擁立するという方針のことを指しています。

有権者のどんな評価が下るのか

ちなみに報道等によれば、日本共産党は野田佳彦体制下で立憲民主党との共闘関係が損なわれているとして、各小選挙区で「最大限の候補を立てる」という方針を示しているそうですが、そうすることで、少なくとも40前後の小選挙区で、立憲民主党が苦戦を強いられる可能性が生じて来そうです。

もちろん、現在の「石破茂体制」下の自民党に関しても、選挙区によってはそこそこの苦戦が予想されるところではありますが、それ以上に、2021年のときには広範囲に見られた日本共産党との選挙協力が各地で立ち消えとなる効果がどう出るかは興味深いところです。

この点、東京都知事選で明らかになったとおり、「立憲共産党」(立憲民主党と日本共産党の協力関係を揶揄した表現)に対するアレルギー反応を持つ有権者も多いと思われるため、日本共産党との共闘見送りが結果として、立憲民主党にプラスの効果をもたらす可能性ももちろんあります。

しかし、本稿で確認したとおり、テクニカルに見れば、少なくとも2021年と比べて獲得議席数が減るという可能性がある、という点についても注意する必要がありそうです。

いずれにせよ、その答えはあと1ヵ月以内に判明するはずであり、こうした観点からは、その結果が待ち遠しくてならないと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 村人B より:

    都知事選での悪い教訓なのか、地元議員の親戚を名乗る人が、地元議員が選挙期間中にするようなスピーチをしてました。
    自身は立候補しないし本人じゃないから公選法違反にあたらないと主張するつもりなのでしょうか。
    その対象議員はもちろん立憲でした。

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