「災害時もスマホと回線さえあれば決済可能」…本当?
先般より、当ウェブサイトでは「災害時への備え」として、たとえば飲料水や非常食に加え、懐中電灯、モバイルバッテリーなどと並び、「現金」の重要性を論じています。キャッシュレス決済が普及している一部の国から見ると、現金がありがたがられている日本というのは後進国に映るのかもしれませんが、現実問題、やはり災害時に圧倒的な強みを発揮するのは現金です。
目次
改めて:リストを提示します(転載自由)
先日の『「災害対策で何を備蓄すべきか」についてまとめてみた』では、ごく簡単にではありますが、災害に備えて手っ取り早く準備できるもののリストをまとめてみました(図表)。
図表 災害時に備え、普段から準備しておきたいものの例(転載自由)
品目 | めやす | 備考 |
飲料水 | 1人3リットル×3日分 | 飲料用および調理用 |
生活用水 | ポリタンク数個分 | トイレ用など |
非常食(主食) | アルファ米、パン、乾麺など3日分 | 加水だけで食べられるものなど |
非常食(副食) | レトルトのおかずなど3日分 | |
非常食(その他) | ビスケット、板チョコ、乾パンなど | |
衛生用品 | トイレットペーパー、ティッシュペーパー、衛生用品など | 普段の生活に必要な分量に加えある程度ストックしておく |
消耗品 | マスク、軍手、厚手の靴下 | 転倒した家具の片付けなどに重宝 |
袋 | ビニール袋、レジ袋等 | ビニール袋はゴミを密封するのに有益 |
災害用品 | 災害用トイレ、凝固剤など | トイレが流せない場合に備える |
着火具・照明具 | マッチ、ろうそく、カセットコンロ、懐中電灯など | 夜間の災害に備え取り外すと自動で光る電灯なども便利 |
非常用電力 | ポータブル電源、モバイルバッテリー、太陽光パネル、乾電池 | ポータブル電源と太陽光パネルで簡易発電・蓄電が可能 |
現金 | とくに10円玉、100円玉、1000円札を数枚から数十枚 |
©新宿会計士の政治経済評論/引用・転載自由
この程度のリストであれば、いくらでも引用・転載なさってください。
また、「こういうものがあった方が良い」とお気づきの方は、読者コメント欄でその旨ご指摘ください。良いものがあれば、アップデートする際に追加します。
現金の有用性
そして、じつはここに示したリスト、著者自身、あるいは著者のごく身近な知り合いなどに聞いて作った「実体験に基づくもの」でもあります。もちろん、ここに示しきれなかった項目もありますが、ただ、「最低限必要な物」という意味では、少なくともこの図表に示した項目くらいは準備しておいた方がよいかもしれません。
この点、キャンプが好きなご家庭だと、上記のうち着火具や照明具、ポータブル電源などのキャンプ用品を、普段から自家用車に積んでいるかもしれませんが、そのようなご家庭には正直、「釈迦に説法」というレベルではないかと思います。
ただ、そうでないご家庭もいらっしゃるでしょうし、ここに示したもののなかには、日常で使用するものもあれば、最近、滅多に使わなくなったものもあるかもしれません。
この点、個人的にやはり強調しておきたいのは、現金の有用性です。
先日も申し上げたとおり、現金は、最強の決済手段です。
極端な話、あなた自身がおカネを数えることさえできれば、あなたは災害後、電気が使えない商店でも、目の前にあるモノを買うことができてしまうのです。
この点、普段から当ウェブサイトにて指摘し続けている通り、現代社会ではキャッシュレス化がすごい勢いで進んでいて、クレジットカード、交通系ICカード(首都圏の場合だとSUICAやPASMOなど)、コード決済など、さまざまな決済手段があり、これはこれで便利ではあります。
著者自身も普段は「サイフを持たず、ケータイひとつでどこまで済ませられるか」という社会実験を好む人間であり、実際、現金を使用する機会は年々減っているのですが、それでもいざというときへの備えとして、現金をある程度は溜め込んでいるのです。
中国から見たら日本は「現金主義の後進国」?
こうしたなかで思い出してしまうのが、『中国貨幣経済「ニセ札横行と電子決済のガラパゴス化」』でも述べた、「電子決済が進み過ぎ、ガラパゴス化してしまった中国」という事例です。とあるメディアに先月、「新紙幣発行にわく日本を、中国人が『遅れ過ぎでヤバイ』などと嘲笑している」などとする記事が掲載されました。
「日本ではまだ紙幣を使ってるの?中国はキャッシュレス決済だよ?」。
「決済手段では日本が遅れていて中国が進んでいる」。
「早くデジタル円を普及させないと、日本は『デジタル人民元経済圏』になっちまうぞ」。
…。
なんだか、ツッコミどころが山ほどあります。
たとえば、中国でいくら「デジタル人民元」が普及しようが、現状の金融規制が続く限り、日本が「デジタル人民元」圏に取り込まれることはありません。そもそも中国政府が外国機関投資家などに対し、人民元に関し、完全に自由な取引を認めていないからです。
ただ、ツッコミどころは、それだけではありません。
そもそも中国でキャッシュレス化が進んでいることは(おそらくは)事実ですが、著者自身の調査および考察によると、これには「やむにやまれぬ事情」があります。中国では紙幣に対する社会全体の信頼度が非常に低く、否が応でも電子決済を「使わざるを得ない」からです。
「市中に流通している紙幣の一定割合がニセ札とされ、百貨店などでは真贋判定装置がある」。
「(一部報告によれば)ATMからもニセ札が出て来ることもある」。
「中国の国内事情に詳しくない外国人がニセ札を掴まされるという事例も相次いでいる」。
これらに加え、そもそも中国では日本の1万円紙幣などに相当する高額紙幣が存在せず、高額の買い物をするときの決済が非常に不便である、といった事情もあり、都市部を中心にキャッシュレス決済が普及したという事情があるのです。
しかもこれらの「中華キャッシュレス決済」、困ったことに、高齢者や外国人旅行者などにとっては、大変使い勝手が悪いようだ、というオマケまでついています。
とりわけ「中華キャッシュレス決済」システムは外国発行のクレジットカードとの紐づけが難しいらしく、中国国内に銀行口座を持っていない人(たとえば外国人旅行者)などは、中国国内でまともに支払いをすることすら難しいようです。
現金だとニセ札が横行していて、電子決済だと外国人や高齢者などが不便を被る。
なんとも理不尽な社会です。
一部の中国人にとっては、「いまだに紙の現金をありがたがる日本社会」は後進的で滑稽に見えるのかもしれませんが、それと同時に「現金が信頼される社会」というものが、非常に貴重である、という点については指摘しておく価値はあるかもしれません。
そもそも日本国内で真贋判定機を街中で見かけることがほとんどないというのも、ニセ札がほとんど流通していない証拠ですし、高額紙幣の受取を拒絶されることも、ほとんどありません(稀に「お釣りがないから」という理由で受取を拒否されることはありますが…)。
Xに「我が意を得たり」のポスト
さて、「日本社会における現金使用率の高さ」および「災害時の現金の強さ」という視点から、X(旧ツイッター)を眺めていると、思わず「我が意を得たり」と言いたくなる内容をポストした人がいました。加藤AZUKIさんという方の投稿がそれです。
「日本は現金のみの場面がまだまだあるから電子マネー後進国!」
みたいに内外で言われがちだけど、日本は災害多発国でもあるから
「電子決済が完全喪失した場合でも、現金決済ができれば買い物ができる」
「その現金は偽造が困難で政府保証が確実」
ってことで、現金の信用が低い国とは違う課題がある— 加藤AZUKI (@azukiglg) August 11, 2024
なるほど、日本でも近年、キャッシュレス決済の普及が目覚ましいことは事実ですが、それと同時にいまだに現金が広く使われているのは、私たち日本人が心のどこかで、「完全にキャッシュレス化するのはマズい」と理解しているからなのかもしれません。
そして、加藤AZUKI氏の指摘通り、現実に日本は現金の信頼度が非常に高く、電子決済機能が完全に失われてしまうような事態に陥ったとしても、いざとなれば現金社会に戻れば良い、という事情があるのです。
「災害時にはキャッシュレスが現金に勝る」…本当!?
ところが、これに対し、電子決済を巡って「キャッシュレス決済の方が明らかに災害に強い」、などと言い出すユーザーが出現したようです。そのポスト内容の要旨は、こんな具合です(※あえて出所は示しません)。
「(キャッシュレス決済は)スマホと回線さえあれば決済が可能(だが)、現金(決済)はATMや釣り銭を用意しなければならないし店舗側でずっと現金を置いておかなければならない」。
これに続き、現金決済を重視する立場の人を攻撃する趣旨の罵詈雑言が続く、というわけですが、こうした罵詈雑言も論外として、通常、電気もネットも使えなくなるような大災害に際し、「スマホと回線さえあれば決済は可能」は、果たして適切なのでしょうか?
結論からいえば、不適切です。
このポストに付いている、こんな趣旨のコミュニティノートがわかりやすいでしょう。
「災害時、かりに基地局が生存していたとしても、伝送路が切断したり、基地局の非常用発電機の燃料がなくなったりすれば通信できなくなります。また、衛星での通信に関しても同様に、発電機等電源が必要となります」。
つまり、そもそも店舗の電気が消え、電源が失われるような大災害だと、キャッシュレス決済が使えなくなると思っておいた方が良いでしょう。
そのうえでコミュニティーノートは総務省の2024年7月31日付の能登半島地震に関する資料を引用し、ドコモとKDDIが復旧作業に約17日を要していたという事実を指摘したうえで、次のように記述しています。
「(通信回線の復旧までの)期間は、物品購入やサービス提供を受けるなどに際して現金が必要となる可能性が高く、現金の所有は(災害対策として)有効<中略>と考えられます」。
まったくそのとおりでしょう。
そのうえ、実際に熊本地震や北海道胆振東部地震などの経験者と思しき人々から、いっせいに「災害時にはそもそも回線が使えなくなりますよ」、などとする趣旨のツッコミが入っていましたが、それもある意味では当然でしょう。
実際、一部の経験者の方によると、そもそも通電していないため日没後は店内も暗く、買い物客は自身のスマートフォンで照らしながら商品を探し、店員さんは手書きのメモと電卓で買い物客から現金を受け取るなどのやり取りをしていたのだとか。
当然、普段よりも遥かに時間がかかりますし、コンビニ等の場合はポイントの付与ができませんが、それでも最悪、商品を手に入れて相手におカネを渡すという行為はできるわけですから、緊急事態に際しての決済手段としては、それで十分です。
なぜ千円・百円・十円なのか
なお、当ウェブサイトにおいて、「千円札、百円玉、十円玉」と書いた理由は簡単で、お店の側の釣銭切れという事態にも、問題なく対処する、という目的があります。
たとえば飲料などの自販機では、たいていの場合、千円札、百円玉、十円玉が使用可能ですし、釣銭が切れていたとしても、百円玉と十円玉を十分に所持していれば、商品を購入できるかもしれません(もっとも、そもそも通電していればキャッシュレス決済が使用できる可能性もありますが…)。
これに対し、五百円玉や五十円玉は、たしかにあれば便利ではあるものの、釣銭が発生する可能性があります。
たとえば480円の買い物をするときは、五百円玉だと相手に20円の釣銭を用意させる必要がありますし、320円の買い物で百円玉3枚、五十円玉1枚を準備すると、やはり相手に30円の釣銭を用意させる必要が出てきます。
五百円玉や五十円玉自体、あればあったで便利なのですが、やはり有用性では百円玉や十円玉に劣後してしまいます(五千円札も同じ理由です)。
また、10円未満の単位の買い物をしたときには、五円玉、一円玉などがないと困る、という可能性ももちろんあるのですが、あくまでも個人的には、非常事態であれば10円未満の端数については、お店からお釣りを受け取らない、という選択肢もアリだと思います。
つまり、こちらが十分な枚数の千円札、百円玉、十円玉を持っていれば、そもそもお店の側で釣銭を準備する必要がほとんどないはずなのです。
いずれにせよ、「現金」はローテクな決済手段ではあるものの、それと同時に「最強の決済手段」でもあります。
普段、当ウェブサイトでは「現金がなくても生活ができるのは素晴らしい」、といったニュアンスで議論を展開しているフシもあるのですが、災害対応は、やはりシンプルな手法が最も優れているといえるのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
会社で経理やってた人間から言わせてもらうと「現金」ほど厄介なものはない。記録と実在高を合わせなければならない。合わなければ経理処理。大きく合わなければ対策。さらに不正を疑わなければならない。
中国でキャッシュレス決済が発達しているのは現金をめぐる事故、つまり窃盗が多いのではないか。
日本マクドナルドの創業者「藤田田」が著書でアメリカのマックではカウンターで接客する女性の制服はズボンでスカートをはかせないと書いていた。現金を隠す場所ができてしまうということらしい。今はどうか知らないがマックは現金オンリーだった。
先日久しぶりにマックで食事をして現金で支払った。レジは昔と同じだった。つまりカウンターで接客する人が金箱に手を突っ込んで釣銭を出すタイプ。最近はコンビニなどでも現金を入れると釣銭が自動で計算されて出てくるレジが多い。これだと店の人間は現金へのアクセスがゼロで不正を心配する必要がない。
マックでも閉店後にレジの実在高とレジの記録を合わせているはずだ。たぶん毎日差額が出ていて店のマネージャーを悩ませているのだろう。
中国社会では現金を取り扱う会計係は経営者が自分でやります。現金は他人に任せられないからです。会社の現金出納係は経営者の妻、或は「小三」(愛人)が担当します。
日本の従業員はお金の取り扱いを任せることができますが、中国では無理です。
中国でキャッシュレスが普及したのはこんな事情もあると思います。
>スマホと回線さえあれば決済が可能
災害時に回線が使えるのか?というのは新宿会計士様のご指摘のとおりだと思います♪
加えて、仮に自分のスマホと回線が無事だったとしても、お店側の端末と回線も生きてなければ、やっぱり電子決済は使えないと思うのです♪
障害発生箇所が少ないほど、非常時にも使える可能性は高いんだろうと思うのです♪
ただ、もし生体認証のみで使える電子決済(か現金引き出し手段)があって、自分が住んでる地域は発災時には、外部からいち早く端末が持ち込まれて、回線も回復させてくれるとこだったら、埋まったり燃えたりしたら使えない現金よりも電子決済が便利だってこともあるかもと思うのですが
人民共和国がキャッシュレス決済一辺倒なのは、会計士さんが指摘なさるように高額紙幣がない、贋札が多いこともさりながら、人民を監視する手段であることがとても大きな動機だろうと思う。
いつどこへ行って何を買ったか、移動手段も含めて全て党に把握されている。党に睨まれてアカウントを不活化されると、何も買えない、どこへも行けない、、通信もできない。
すげえ楽園。絶対に行きたくないわ。
>すげえ楽園。絶対に行きたくないわ。
まさに(自称)楽園ですな。
店頭の人間に現金いじらせないのが目的ではないか?
毎日何万元も差(要するに使い込み)が出たら商売にならない。
回線があれば大丈夫
当たり前です。回線がないのはもちろん電気も通じないって状況 を考えるのが銀行のBCPです。
最悪の状況では、簡易な本人確認だけで、口座確認も省略して一定金額までの現金引き出しを認めるってことをします。東日本大震災ではそこまでやったみたいですね。悪知恵が働く輩が口座も残高もないのに引き出して逃げて損害になるってのもある程度覚悟の上です。億円単位の損害になったらしいです。それが社会に対する金融機関の負ってる責任です。
まあ、中国なんかは現金に対する信頼度が極めて低いので、災害のことを考えてもキャッシュレスが信頼高いのでしょう。社会のインフラの差なので仕方ないことなのですが、深い洞察も無しに日本が遅れてるというのはどうかと。
まあ、口だけの人たちも、ひとたび令和の新札の現物を手にすれば、その超技術に観念することでしょう。
数年前北タイの街場の両替所でチャイニーズが100元の束を両替してて概ね1/3くらいを両替不能で戻されてた。しわくちゃな汚いのもあったがほとんど綺麗な札だったが当の本人は特に異議も唱えず当然のようにまたウォレットに仕舞い込んだ。円がこんな風に戻されたらとても平静ではいられないが・・・
件のポスト主は、いわゆる炎上狙いかな?それとも天然かな?
どちらにしても、「両方あった方が良いじゃないか」は受け入れられないタイプみたいですね。
私も普段はクレジットカードばっかりだけど、必要な時の為にある程度の現金は
持ち歩いている。現金は食べ物と違って腐ったりしないんだから、
財布の中に入れっぱなしにしているだけで良いのにねえ……
災害時に欲しいものですか…。
古い話ですが、被災した時には防災グッズの中に運動靴というか部屋履きというか、とにかく靴が欲しいと思いましたね。
家屋が倒壊して玄関の下駄箱にアクセスしにくくなったことと、ガラスが割れて窓から部屋の外に出る時に、足を保護するものが欲しくて。
そういうケースは多くはないのかもしれませんが、イザとなった時に代替手段が無いのは困りもの。とはいえ、靴は嵩張るので防災グッズの中に入れられないんですよね。