毎日新聞が富山県での配送を停止へ:他紙への波及は?
こうしたなか、大手全国紙の一角を占める毎日新聞が、富山県への配送を休止すると発表しました。毎日新聞の富山県での販売部数は840部だったのだそうですが、石川県や高知県もそれぞれ1,202部と少ないため、こうした配送休止は他県にも波及するのか、あるいは一部県への配送を休止する動きが毎日新聞以外の各紙にも広がるのかについては気になるところです。
目次
ビジネスとして成り立たなくなる新聞事業
『ウェブサイト運営8年で見えたオールドメディアの未来』でも申し上げましたが、ウェブ主自身はかなり以前から、少なくとも新聞業界については、早ければあと10年以内に、紙媒体の新聞を発行するという行為そのものが、ビジネスとして成り立たなくなると考えています。
その理由はとても簡単で、新聞を印刷し、全国津々浦々に人海戦術で送り届けるという行為自体、とてもコストがかかるからです。
新聞を物理的に印刷するための工場、その工場に設置する巨大な輪転機などの行程費に加え、日々の新聞に必要なロール紙、インク、電力などの変動費、さらには工場で働く人々の人件費、トラック輸送代、新聞販売店の人件費や設備投資…等々、挙げていけばキリがありません。
こうしたなか、一般社団法人日本新聞協会のデータによれば、新聞部数の減少に歯止めがかからず、2023年のトータル部数は3305万部と、ピーク時の1996年の部数(7271万部)と比べ半分以下に減ってしまいました(図表)。
図表 新聞部数の推移
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)
しかも新聞部数の減少ペースはさらに拡大しており、2023年の部数は前年比10%以上の減少となるなど、減少率は初めて「フタケタ」となった格好です。
CVP分析とは?
この点、会計学のなかの、いわゆる「CVP分析」(Cost-Volume-Profit Analysis, 損益分岐点分析)における基本ですが、固定費を賄えなくなる程度に売上高が減少すれば、事業継続が不可能になります。
ある新聞社の固定費をF、部数1部当たりの販売価格をP、変動費をV、販売部数がXを置くと、利益Yは次の計算式で求まります。
- Y=(P-V)X-F…①
つまり、利益を増やすためには、単価(P)を増やすか、変動費(V)を削減するか、固定費(F)を削減するか、販売部数(X)を引き上げるか、のいずれかが必要です(ここまでの話は、ごくごく当たり前のことですが…)。
ただ、仮に極限までコストを削ったとして、また、値上げをしたとしても、利益がゼロになってしまうことがあります。
そう、販売部数が落ち込んだ場合です。
たとえば、上記①式において、利益がゼロになってしまう(つまりY=0)という状態になってしまうと、どうなるでしょうか。
- 0=(P-V)X-F…②
このような状態になると、その新聞社としては、これ以上、新聞を作らない方がマシ、という状況になります。
ちなみに②式を変形すると、次の③のとおりです。
- X=F÷(P-V)…③
つまり、固定費を1部当たりの変動利益で割った数値が、損益分岐点売上です。
朝日新聞の損益分岐点は360万部程度か?
大手新聞社の中でも珍しく有価証券報告書を公表している株式会社朝日新聞社の2024年3月期決算の事例でいえば、Xは約363万部と計算できます(便宜上、夕刊は勘案しません)。
その根拠は次の通りです。
- P=4,260円(※単体決算の売上高を部数で割った数値をさらに12で割った数値)
- V=1,037円(※材料費と印刷費を「変動費」とみなし、それを部数で割り、さらに12で割った数値)
- F=116.8億円(※売上原価と販管費のうち、V以外のすべての費用を12で割った数値)
このP、V、Fを③式に当てはめると、
- X=3,623,953部
ですが、現実に朝日新聞の2024年3月期における朝刊部数は358.0万部で、販売部数は微妙にこの損益分岐点を割り込んでいます。
実際、株式会社朝日新聞社の連結セグメント情報によると、2024年3月期の「メディア・コンテンツ事業」のセグメント利益はマイナス25億円と、前期(2023年3月期のマイナス70億円)に続いて赤字を記録しています。
(※ちなみに「営業赤字」とは、その企業の「本業」を続ければ続けるほど赤字になる、という意味であり、常識的に考えたら、これ以上営業を続けられない状況、ということです。)
赤字幅が前期よりも改善した理由は、月ぎめ購読料を500円引き上げたことによる効果と見られますが、おそらくは部数が前年同期比マイナス10.3%と想定以上に落ち込んだことの影響でしょう(ちなみに、ただでさえ部数が落ち込んでいるときに値上げするというのは、経営学的には「悪手」ともされています)。
この点、株式会社朝日新聞社など、一部の社を除けば、新聞社というものは総じて経営内容の開示に後ろ向きであることから、どのくらいの会社が「ヤバい状況」にあるのかについて、正確に知ることはできません。
しかし、読売新聞に続く最大手の朝日新聞でさえこういう状況なのですから、現時点において、日本全国における新聞の販売部数は、すでに損益分岐点を割り込んでいるケースがかなり多いのではないかと推察されるゆえんです。
週刊誌や夕刊の休刊が相次ぐ
こうしたなかで、事業継続ができなくなり始めるには、やはりいくつかの「前兆」があると考えるべきでしょう。
そのひとつが、事業の部分縮小です。
たとえば、株式会社朝日新聞社の子会社である株式会社朝日新聞出版は2023年5月、週刊朝日の発行を「休刊」しました(『週刊朝日が5月末で「休刊」へ:新聞業界の今後を示唆』等参照)。
また、東海地区では2023年4月に毎日新聞が、同5月に朝日新聞が、それぞれ夕刊の発行を取り止めており(『いよいよ東海地区から始まった「夕刊廃止ドミノ倒し」』等参照)、同年9月には北海道新聞が夕刊発行を取り止めました(『事実なら主要紙で初:北海道新聞が夕刊から完全撤退か』等参照)。
もともと夕刊は速報性にも劣るうえ、輸送コスト・配達コストが重しとなっている、などと指摘されることも多かったことを踏まえれば、いくつかの新聞社が夕刊の部分的・全面的撤退に踏み切っているというのも、経済性に照らせば当然の話かもしれません。
毎日新聞が富山県配送を休止
しかし、これが週刊誌や夕刊に限定されているうちはまだ良いのですが、部数減がもっと進めば、そのうち朝刊事業すらも撤退に追い込まれることになりそうだ、などと当ウェブサイトでは指摘してきたのですが、それがそろそろ実現し始めたようです。
いくつかのメディアがすでに昨日の時点で報じたとおり、全国紙の一角を占める毎日新聞が、富山県での配送を「休止」すると発表したのです。ここでは産経ニュースや朝日新聞デジタルが配信した記事を紹介しておきましょう。
毎日新聞、富山県で配送休止 全国の配送網で初 部数減少で体制維持が困難に
―――2024/07/17 14:28付 産経ニュースより
毎日新聞、富山での配送9月末まで 全国47都道府県で初の休止
―――2024年7月17日 19時22分付 朝日新聞デジタル日本語版より
産経新聞や朝日新聞によると、毎日新聞は富山県内に配送した17日付の「北陸版」で、同県内の新聞配送を9月末で「休止」し、コンビニの1部売りもやめる、などと発表したそうです。
背景には印刷・輸送コストの増大に加え、富山県内での発行部数の減少で配送体制維持が困難になったためとしていますが、富山支局自体は10月以降も残し、取材体制については維持する、などとしています。
ちなみに2023年時点の富山県内(朝刊のみ)の発行部数は約840部(!)だったのだそうです。
たしかに、毎日新聞社ウェブサイト『全国の配布エリアと販売部数』で見ても、富山県の840部という数値は、(沖縄県の219部を除けば)群を抜いて少ないことがわかります。
これはあくまでも想像ですが、「840部」ということは、毎日新聞を取っているのは官公庁や図書館、ホテルなどに限られていて、一般の事業所や家庭で購読しているというケースは非常に少なかった、という可能性はありそうです。
他県への波及、あるいは他紙への波及は?
ただ、そうなってくると気になるのが、同紙の他県への配送状況、あるいは他紙の地方への配送状況です。
たとえば毎日新聞の場合、富山県での販売部数は840部とされていますが、ほかにも販売部数が少ない件はあります。たとえば1,202部の石川県、同じく1,202部の高知県、あるいは1,324部の福井県などがその例ですが、これらの件も、ごく近いうちに配送停止となるのでしょうか。
あるいは一部の県で配送を停止するという事例が、毎日新聞以外の各社にも波及していくのでしょうか。
気になる点です(そういえば、『三菱重工が新聞輪転機から撤退か』などでも取り上げたとおり、新聞産業の関連サプライヤーの間でも、徐々に撤退の動きが始まりつつあるようです)。
いずれにせよ、週刊誌や夕刊などの休刊・廃刊、そして一部地域からの朝刊の撤退、といった動きは、ある程度は予想されたものとはいえ、「全国紙」である毎日新聞において、とうとうそれが実現したというのは、新聞業界がこれから衰退に向かうとする当ウェブサイトの予測が正しいことを裏付ける現象でしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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新聞は正確な情報を国民に届けるという大切な役割を担っています♪
その役割故に消費税の減免までされています♪
そんな新聞の役割を損なう配送停止を毎日新聞一社の都合で決めるのは許されないと思います♪
・・・・
( ̄▽ ̄)なんてね〜w
元野党第一党党首による
露骨な言論弾圧を朝日新聞の記者が受けました。
日頃報道の自由度を憂慮している毎日新聞は本件にどのように思っているのでしょうか?
もしも自身が好ましいと考える勢力の不祥事を指摘できないのであれば
新聞の衰退やむ無し
まだまともに指摘ができるインターネットに移ることでしょう
素朴な疑問なのですが、毎日新聞社は、これまで毎日新聞をとっていた富山県内の読者を、どう処理(?)したのでしょうか。(購買契約期間内なら、更には契約延長を望んでいた人に対しては、どうしたのでしょうか)
社告を出してるよ
選択肢は
*デジタルへの切り替え(一定期間優遇条件つき)
*郵送へ切り替え(届くのは遅れる 主に図書館など向けでしょう あるいは将棋や囲碁の切り抜きしたい人)
いずれも望まないなら合意解除でしょ(これは明記していないが、一般常識ではそうなる)
>いずれも望まないなら合意解除でしょ
ヤがつく職業の人が「購買契約を一方的に変更するとはけしからん。俺は絶対に認めない」と、ごねだしたら、どうなるのでしょうか。
なんか、こんなの拾いました。
東京新聞、23区除き夕刊終了へ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024071800473
バタバタと来てる感。
三菱重工業の印刷機撤退が、これほどまでに効いてるとわ。
怖いな、クリティカル。
全国紙をあきらめブロック紙への移行の第一歩と見た。
毎日新聞の都道府県別販売部数をみると関東で56万部、近畿で69万部、福岡県1県で17万部合計142万部で全体の8割。四国なんか4県で1.8万部、北海道全域で1.7万部だから経営的な観点からはこの3地域に集中するのが正解だろう。
毎日新聞さん、全国紙って言っても所詮中小企業さんですからね。
大企業さんのようにはいきませんわね。身の程に事業を考えないとあきませんね。
せいぜい関東一園ぐらいの商売にしといたらいかがですか?と、思います。
記事の中身へのコメントではないですが
見出し下の概述で
「こうしたなか、大手全国紙の一角を占める毎日新聞が、…」と始まってますが、前段が抜けているような気がします。(「こうした」って何がどうしたの?)
おおっと!!
本当だ、間違っていますね。これは酷いorz
>「こうした」って何がどうしたの?
まったくその通りだと思います。
本当に誤植が多いサイトです。
あとで直せるなら直しておきます。
差し出がましいコメントに返信ありがとうございます。
毎日頻繁な更新お疲れさまです。
毎回興味深く拝読しています。
毎日新聞さんはそろそろ事業の見直しをされた方が良さそうですね。
毎日新聞さんの資産は何かと考えた場合、記者さん達はどうも資産性が無さそうです。(記者さんには申し訳ありません。)
会社名に「新聞」が付いていますのでブランドの価値も無さそうです。
輪転機に資産価値があるかどうかよく分かりませんが、印刷請負業あたりが取り敢えず良さそうな気がします。
まあ頑張ってください。
[提案]毎日新聞社の富山県販売数(かな?)は、現状840部ですから、経費削減策、P/L改善案を申し上げます。
もう支局は要らないでしょう。手っ取り早く北國新聞社とかから机・椅子一つ置けるスペースを賃貸すれば良い話です。電話も要らない。スマホで十分。記者は月〜木にレンタルマンション、金曜日は地元に帰宅する(^.^)。地方紙は中央紙のワンオペセンターとして、収入を確保出来ます。
これで全国紙名乗れなくなりますね!
残りは3?4?チキンレースですかねw
なぜ新聞に軽減税率が適用されるのか…
ニュースや知識を得るための負担を減らすために新聞界は購読料金に対して軽減税率を求めているらしい。
読者の負担を軽くすることは活字文化の維持普及にとって不可欠だと考えているそうだ。
それなら大都市での利益を全て吐き出してでも継続すれば?
需給関係や市場原理ではなく「公器」だって言い張るんだから一部でも講読者がいたら死ぬ気で配達して下さいね。
富山県民ですが、新聞は富山ローカル新聞の北日本新聞だけで必要十分なので他にはいりません。巨人を応援したければ、正力松太郎が富山出身なので読売をとるくらいでしょうか。
正直折込広告のためだけにとってる家も多いので、その用途では全国紙はまったく使い物になりません。なんかDMもどきの通販の広告ばっかりなんだもの。
>富山県への配送を休止すると発表しました。
「休止に一生を得る」ことには…ならないか…
はいそうですね。
一番体力がない、と言われていた毎日新聞がとうとう音を上げつつありますね。
2008年の”変態新聞事件”以来、朝日に劣らない程ネット上と敵対し続けた毎日が
いよいよもって全国紙を名乗れなくなっていく。
この状況で若手を雇えるのでしょうか?雇えたとして、まともな人材が来てくれるのか?
以前朝日がWeb論座にDr.ナイフと言う”インフルエンサー”を使おうとして、
結局四方八方から指をさされて笑われ、関係者からも「これは良くない」と言われる
不始末になった事があります。
有能で、ジャーナリズムの劣化を善しとしない若者は入ってこない。
劣化を気にせず金が儲けられればそれで良いと言う若者も、
有能なら「この業界に未来はないな」と判断して入ってこない。
そうなると残る人材は、他の所に行けなかった若者ばっかりに……?
「ジリ貧」と言う言葉を「実写化」すると毎日新聞の状況になりそうです。
どんどんこういうのを推し進めて
全ての新聞が全県で配送停止にすべき
記憶違いかも知れませんが、新上念さんがいつだったかの動画で、日経ってたった160万部しか売ってないの(え”~)といつも話法で発言していました。経営実態を仔細公開せず記事にもしないは報道業界は社会に対して不誠実ですね。
正:上念司さん