報道は「救急車の遅延」を必要以上にあげつらうべきか

自分たちの不祥事には徹底的に甘いわりには、企業や役所の不祥事は針小棒大にあげつらい、徹底的に追及する――。日本のメディアには、そんな側面がありそうです。こうしたなかでちょっと気になったのは、横浜市の救急隊が道を間違え、搬送時に心肺停止だった女性の死亡が確認された、などとする話題です。記事タイトルだけをパッと読むと救急隊のミスにも読めてしまうのですが、こうした読み方は正しいのでしょうか?

不誠実なメディア

報道機関(新聞、テレビなど)が誤った報道をしたときには、メディアは総じて不誠実です。

大々的に報じた記事が誤っていたとしても、多くの場合はごく小さな訂正・謝罪記事を掲載しておしまい。

それでも訂正記事を配信したり、謝罪声明を出したりするのはまだマシな方で、一部のメディアは完全にダンマリを決め込んだり、シレッと内容を削除・改変したりして「無かったこと」にしてしまうことも多いようです。

これらマスメディアの姿勢は、不誠実と言わざるを得ません。なぜなら、報道や情報といえば、新聞社やテレビ局にとっては「自社が世に送り出した製品そのもの」であるはずですが、その「自分たちの製品」であるところの報道、情報に対する扱いが雑過ぎるからです。

「製造物責任を負っていない」、という言い方をしても良いでしょう。

故・渡部昇一氏の「集団訴訟」はどうなったのか

なぜ、新聞社やテレビ局は、製造物責任を負わないのか。

その理由はよくわかりませんが、『読売新聞記者が記事捏造…「自分のイメージと違った」』などでも指摘してきたとおり、そもそも製造物責任法(PL法)の「製造物」の範囲には「情報」や「報道」が含まれていませんし、報道機関の虚報を予防したり、罰したりする仕組みが存在しないことは間違いありません。

もちろん、その気になれば、新聞社やテレビ局を一般不法行為責任で追及することもできなくはないのですが、こうした責任が認められることはほとんどないようです。

たとえば、朝日新聞の慰安婦関連報道で「日本の国際的評価が低下し、国民の名誉を傷つけられた」として、上智大学の渡部昇一名誉教授(2017年4月17日没)が株式会社朝日新聞社を相手取って損害賠償や謝罪広告の掲載を求めた訴訟を起こしたことがあります。

朝日新聞「慰安婦報道」原告団2万人超え 史上空前の集団訴訟に

―――2015.02.18付 zakzakより

しかし、『朝日新聞を糺す国民会議』ウェブサイトによると、この訴訟は結局、2017年9月29日付で控訴棄却となってしまい、同団体もウェブサイトの更新が途絶えてしまっています。

司法が新聞社に対して甘いからなのか、それとも株式会社朝日新聞社を提訴した側の証拠集めが甘かったからなのかはさだかではありませんが、いずれにせよ、メディアの大々的な虚偽報道で多くの人が損害を被ったとしても、そのメディアに対する「法的な制裁」を下すことは、なかなかに難しそうです。

いずれにせよ、現代の日本では、新聞社、テレビ局などは好き放題に報じていることは間違いありません。

日本の報道の自由度が低い?まさか!

こうしたなかで思わず苦笑してしまうのが、フランスに本部を置く「国境なき記者団」(Reporters sans frontières, RSF)が発表した今年の報道の自由度ランキングで、日本の「報道の自由度」が世界180ヵ国中で70位と、G7諸国と比べても明らかに低い順位に留まったことでしょう。

これについては『日本の報道の自由度を引き下げているのはメディア自身』などでも指摘したとおり、RSFのレポートの原文を読むと、日本の報道の自由度が低い理由としては「記者クラブ制度」や「メディアの自己検閲」などが挙げられています。

要するに政府の問題ではなく、メディアの問題なのです。

その証拠に、このRSFランキングをメディアが喜々として取り上げるわりには、米NGOの「フリーダムハウス」の『世界の自由度』で日本がG7でカナダに次いで2番目の96点という高得点を9年連続して獲得しているという事実を、頑なに報じようとしません。

すなわち、現在の日本では、政府も民主主義的な手続で選ばれていて、自由経済競争も行われているなど、非常に健全な「自由民主主義社会」が実現しているのですが、その日本社会のボトルネックのひとつが虚報、印象操作などを繰り返すマスメディアなのだ、と考えておいて良いのかもしれません。

(あるいは、RSFランキングは「報道の自由度」ではなく「報道の正確度」に関するランキングなのだとしたら、何となく納得できる気もしますが…。)

「救急車が道を誤り患者が病院で死亡」

さて、メディアの不適切な報道、枚挙にいとまがないのですが、個人的に強い違和感を覚える記事があるとすれば、これかもしれません。

救急車が道間違え到着遅延 搬送時に心肺停止の女性は死亡 横浜

―――2024/05/13 20:52付 Yahoo!ニュースより【毎日新聞配信】

救急車、分岐を誤り到着13分遅れ 患者は病院で死亡 横浜

―――2024年5月13日 21時23分付 朝日新聞デジタル日本語版より

横浜市消防局 救急隊が道を間違え病院到着遅れる 家族に謝罪

―――2024年5月13日 20時41分付 NHK 首都圏 NEWS WEBより

これは、各社が13日に報じた記事ですが、救急隊が急病の80代女性を搬送中に道を間違え、医療機関への到着が約13分遅延。病院到着後に死亡が確認された、とする趣旨のものです。

これらの記事の表題を読むと、「救急車の運転手が道を間違えたから医療機関への到着が遅れ、女性が助からなかった」、とする印象を抱く人もいるかもしれませんし、あるいは「市民の緊急医療に対する信頼を損ねる出来事だ」、などと問題視する人もいるかもしれません。

その報道、本当に正しいのか?

ただ、事実関係をよく調べてみると、救急隊員の「過失」がどの程度のものだったのかについては、疑問です。というのもそもそも救急隊が福祉施設から女性を搬送する前の時点で女性に意識はなく、救急車内で心肺停止状態が確認されたなかで、救急車内で隊員らが心臓マッサージなど救命措置を施していたからです。

また、「正しい経路であれば3分で到着したはずのところ、道を誤ったことで13分遅れた」、とありますが、通常、このような状態で医療機関への到着が遅れていなかったとして、この患者が助かっていたとも限りません。

実際、これらの記事によれば、搬送先の医師も「到着の遅れが患者に与えた影響は不明」とする趣旨の内容を述べています。女性が亡くなったのは残念ではありますが、正直、救急隊員は十分に手を尽くしたのではないでしょうか。

それなのに、こうやってよってたかって報じること自体、「救急隊の不祥事」を過度に強調することになりかねません。敢えて報じるならば、「救急隊が道誤り13分遅れも女性は搬送時に心肺停止状態」、など、もう少し公平かつ正確に伝える努力をすべきではないでしょうか。

もちろん、救急医療において、ほんの数分の違いが生死を分けることもあるのですが、それと同時に救急搬送では受入先医療機関の調整に手間取ったり、交通渋滞に巻き込まれたりすれば、遅延することもあり得ます。

むしろ、今回の報道各社のように、「救急隊員のミス」をことさらに強調するような報道を行えば、国民生活の安全を守るうえで本当に必要な、現場の救急隊員、消防隊員などが委縮してしまうようなこともあるかもしれません。

というよりも、自分たちの不祥事には徹底して甘いわりに、役所や企業などの「不祥事」を針小棒大に取り立てて大騒ぎする、日本のマスメディアの報道姿勢には、やはり、強い違和感を覚えざるを得ないのです。

もっとも、近年、新聞の部数が急減しているのも、テレビの視聴者数が減っているのも、たんに「社会のインターネット化が進んでいる」といだけでなく、自分たちの製造物たる情報、報道などに責任を持たないメディアに対する人々の不信感の集積、という側面もあるのかもしれませんね。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    結局のところ、マスゴミは善役悪役を決めないと、記事が書けないということではないでしょうか。(善役は何があっても絶対に正しく、悪役は何があっても絶対に悪い、ということです。勧善懲悪にしないと話が盛り上がらないので、事実よりシナリオにあわせるということで)

  2. CRUSH より:

    時代劇では江戸の街角で、瓦版売り子が、
    「てえへんだ!てえへんだ!」
    と、さも大事件かのように騒いでますが、基本的に今の日本のマスメディアは同じようなビジネスモデルみたいですね。

    常に誰かを悪者にして。口に糊する。
    卑しい職業ですな。

    ゲスな勘繰りですが、こういうビジネスモデルには、
    「悪いように報道されたくなければ、
    俺たちに便宜をよこせ!」
    という遠回しな恐喝恫喝おねだりが含まれておりますな。
    イチローや大谷翔平がネチネチ悪口を書かれ続けるのもそうかな。
    フランス書院の黄金パターンだと、支払いや裏取引に応じた瞬間に、勝敗は決します。

    893と関わったら、負け。

    1. 世相マンボウ(^^) より:

      たしかにそうですね (^^)

      マスコミの大げさな騒ぎ立てと
      文屋根性は、江戸時代からも
      変わらぬものなのでしょう。

      ただ、江戸時代の瓦版屋さんの
      名誉のために申し上げると
      今のマスコミの
      嘘捏造共謀して謝罪や賠償させようと
      さらにそれがバレてもやっている姿や
      モリカケでっち上げで政権転覆画策は
      江戸時代でいうと、
      瓦版屋が江戸の外の山賊追い剥ぎと
      結託しているようなものになりますが、
      さすがにそんなとんでもない話は
      聞いたことがありません。 (^^);

    2. ドラちゃん より:

      江戸時代の寺子屋の師匠や瓦版屋は「関ヶ原で負けた方の元武士」だったりするからね
      「上様?老中様?あいつらは単に運が良かっただけ。能力的に優れていたわけでも道徳的に高尚なわけでもない。関ヶ原で西軍が勝ってたら、自分が老中になってたわい」と素で思って政権批判していた人もいたかもね

      明治時代のマスコミや私立大学学長(福沢諭吉とか)も薩長政権の主流派になれなかった人で
      自分が大臣になれなかった恨み節が多分にありそう

      1. 世相マンボウ(^^) より:

        そうですね。
        負けた西軍側も勝負はときの運、
        しっかりした勢力でしたから。
        また、私立大学学長さんたちも、
        もし恨みもあったとしても、
        その後の日本のために素晴らしい道を
        拓いてくれました。

        それに引き換え、
        人々の支える日本の社会と
        政権転覆させようと
        隣国とウッシッシまでする今の
        瓦版屋や特定野党さんたちは
        元武士などとはおこがましい(笑)
        山賊追い剥ぎ上がりのような
        了見のものなのでしょう。

        実際、援交メールバレて辞任の際、
        「武士の情け」と追求逃げた
        どっかのはっぴいな人もいましたが、
        体面を重んじる武士ならあんな場で
        自ら武士と名乗らないものであり、
        武士を騙って命乞いをする
        山賊追い剥ぎさんの姿ように
        映りました。

  3. 匿名 より:

    >>国民生活の安全を守るうえで本当に必要な、現場の救急隊員、消防隊員などが委縮してしまうようなこともあるかもしれません。
    マスゴミのせいで警察は萎縮しちゃってるよね。外国人犯罪。

  4. 匿名 より:

    RSFは組合員の問題を指摘しない労組みたいなもんですかね。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告