「福島第二」再稼働で日本は年間電力の3%弱を賄える

日経電子版は29日、米国が廃炉原発の再稼働に向けて舵を切ったと報じました。これについて日経は「廃炉となった原発が再稼働すれば米国で初めてで、世界的にも異例」と評していますが、こうした試みは、非常に興味深いものでもあります。日本でもたとえば福島第二原発(出力440万kW)が廃止措置中ですが、その廃止措置をいったん停止し、再稼働することができれば、日本全体の年間発電量の3%弱に相当する電力が新たに生み出されることになるからです。

福島第一原発事故は「地震が原因」ではない

当ウェブサイトでは以前からしばしば指摘してきたとおり、原子力発電は非常に安価かつ安定的に発電が可能な「ベースロード電源」のひとつであり、また、日本の経済・産業をこれまで支えてきた、非常に重要なインフラのひとつです。

もちろん、だからといって事故を発生させても良い、という話ではありません。

ただ、「墜落したら怖いから飛行機を禁止すべき」という話にならないのと同様、原発もまた、特性をちゃんと理解したうえで、何重にも安全性に配慮して運転すれば、基本的には事故が発生する確率は非常に低いと考えられます。あの福島第一原発事故ですら、原子炉自体は地震による揺れで正常に停止していたのです。

福島第一原発の水蒸気爆発などの事故は非常に残念でしたが、この事故にしたって、結局は地震による外部電源の喪失と津波による非常用電源の喪失により、原子炉を冷やすことができない状況になったことが大きな原因です(原因はそれだけではありませんが)。

「放射能による死者はゼロ」

また、ジャーナリストの池田信夫氏が2013年6月20日付でJBプレスに寄稿した『福島第一原発事故の放射能による死者はゼロ』で指摘している通り、二次災害を含めれば、「原発事故による死者はゼロ」は誤りですが、「事故で環境中に放出された放射性物質の被曝による死者」はゼロ人です。

原発の水蒸気爆発という衝撃的な事故を受け、とりわけ一部の「反原発運動家」らが原発全廃などと息巻いていることは事実ですが、「原発事故はいかなるメカニズムで発生するのか」、「過去の事故は同発生したのか」について、きちんと事例を研究し、対策を講じる方が、はるかに生産的です。

もちろん、いわゆる「核のゴミ」問題も含め、原子力発電に関してはまだまだ課題も多く、また、水素など環境に優しいとされる新たな電源の開発に向けた努力も必要ですが、だからといって再稼働可能な原発の多くを再稼働せずに停止したままで放置する現在の日本の原子力行政が正当化されるものではありません。

余談ですが、『メガソーラー火災で燃え尽きるまで消火できない蓄電池』でも指摘したとおり、「いったん事故が発生したら危険だ」という意味では、太陽光発電も変わりません。

いや、事故の頻度、環境汚染被害などを考えたら、個人的には原子力発電よりも太陽光発電の方が危険ではないかとすら思います(※ただし、この点については、事故の発生確率や個別の事故における環境破壊の数量的な試算などを行っていないため、あくまでも「個人の感想」ですが)。

現在の日本の原子炉は60基・5248万kW

余談はさておき、現在の日本では、現実問題として、いったいどれだけの原子力発電能力があるのでしょうか。

原子力規制委員会ウェブサイトの『原子力発電所の現在の運転状況』のページによると、日本全国で11社・団体が合計60基の原子炉を保有しており、これらの原子炉について各社ウェブサイトの情報をもとに集計すると、合計出力は5248万kWと集計されました(図表1)。

図表1 原子炉の数と合計出力(2024年3月27日時点)
会社原子炉合計出力
北海道電力株式会社3基207万kW
東北電力株式会社4基327万kW
東京電力ホールディングス株式会社17基1731万kW
中部電力株式会社5基500万kW
北陸電力株式会社2基190万kW
日本原子力発電株式会社4基278万kW
日本原子力研究開発機構2基45万kW
関西電力株式会社11基977万kW
中国電力株式会社3基265万kW
四国電力株式会社3基202万kW
九州電力株式会社6基526万kW
合計60基5248万kW

(【出所】原子力規制委員会『原子力発電所の現在の運転状況』および各社ウェブサイト等を参考に作成。なお、その後の出力変更などにより、現時点の出力と一致していない場合があり得る)

「定期検査中」がすべて稼働すれば原子力で2割賄える

ただし、この60基の原子炉のすべてが現時点で稼働しているわけではなく、現時点で「運転中」は9基に過ぎず、24基が「停止中(定期検査中)」、20基が「廃止措置中」、6基が「廃止」となっています(ほかに「建設中」が1基)。

これをまとめると、図表2のような具合です。

図表2 原子炉の稼働状況と合計出力(2024年3月27日時点)
運転状況原子炉合計出力
運転中9基838万kW
停止中(定期検査中)24基2486万kW
廃止措置中20基1317万kW
廃止6基470万kW
建設中1基137万kW
合計60基5248万kW

(【出所】原子力規制委員会『原子力発電所の現在の運転状況』および各社ウェブサイト等を参考に作成。なお、その後の出力変更などにより、現時点の出力と一致していない場合があり得る)

ここで、原子炉の設備利用率を70%と仮定すれば、現在運転中の9基の原子炉が生み出せるであろう電力は年間514億kWhであり、また、「停止中(定期検査中)」の24基のすべてが動けば、同じ試算でさらに1524億kWhの電力を生み出します。

つまり、「運転中」「停止中(定期検査中)」の両者あわせて年間2038億kWhもの電力を生み出す潜在的な能力がある、ということであり、これは2022年の太陽光発電の年間発電量(926億kWh)と比べれば、軽く2倍以上に達します。

日本の年間発電量が約1兆kWhであることを踏まえると、原発だけで少なくとも電力の2割を賄える計算であり、もしも民主党政権時代に原発が稼働を停止しておらず、稼働可能な原発がすべて稼働していれば、太陽光発電などの再エネ電源自体、「そもそも不要だった」ことになります。

ましてや、『なぜ石油価格が下がると再エネ賦課金の額は増えるのか』でも触れた「年間16,752円の再エネ賦課金」(※金額は毎月400kWh使用する家庭の場合)も、本来ならば日本の家計が負担しなくても良かったはずのムダ金だった、というわけです。

「廃止措置中」の原発を再稼働させたら?

さて、こうしたなかで、先ほどの図表2でもわかるとおり、日本にはほかにも、「廃止措置中」の原子炉が20基、出力ベースでは1317万kW分あることがわかります。

もしもこれらを廃止せず、すべてを再稼働させれば、先ほどと同じ試算で年間808億kWhの電力を追加で生み出すことになるわけですが、こんなことを述べると必ず出てくるのが、次のような批判でしょう。

そんな非現実的な!

ただ、米国ではこんな動きが出て来ていることに注意が必要かもしれません。

米国、廃炉原発を再稼働へ バイデン政権が2300億円支援

―――2024年3月29日 2:25付 日本経済新聞電子版より

日経電子版は29日、米国政府はすでに廃炉となった原発の再稼働を支援するために、ジョー・バイデン米政権が米中西部ミシガン州のパリセイズ原発に対して約15億ドル(約2300億円)の融資を決めたと報じました。

日経によると、廃炉となった原発が再稼働すれば米国で初めてで、「世界的にも異例」。

というのも、同原発は2022年5月に「稼働を恒久的に停止」し、「原子炉から燃料は取り除かれた」のだそうですが、プラントの主要設備と建屋はまだ解体されておらず、同原発を購入した事業者は規制当局の許可を前提として、2025年後半の再稼働後を目指し、少なくとも51年まで運転する計画としています。

このあたり、世界的な地球温暖化ガス抑制の流れを受け、米国のみならず、原発の見直しが進んでいるのは欧州などでも同じですが、こうした米国の試みは興味深い限りです。

福島第二原発で日本全体の3%弱の電力を生み出す

日本でも、たとえば福島第二原発は2021年4月28日に原子力規制委員会からの廃止措置計画の認可を受けたばかりですが(東京電力『福島第二原子力発電所の現状について』等参照)、全体工程は4段階に区分し、44年かけて実施することとされています。

現時点では最初の「汚染状況の調査」などの工程が進んでいるものと考えられますが、ここでいったん廃止措置を中断し、再稼働に向けて舵を切るという考え方は、世界的な潮流に照らして悪い話ではないはずです。

ちなみに福島第二原発には1号機から4号機まで4基の原子炉があり、出力はそれぞれ110万kWずつですので、これらすべてが再稼働すれば、合計出力は440万kW、上記と同じ試算で年間270億kWh、つまり年間の日本全体の発電量の3%弱に相当する電力を生み出す計算です。

これをそのまま廃止してしまうのは、あまりにももったいない話ではないでしょうか。

いずれにせよ、日本は技術力で経済発展してきた国であり、「原発は危ない」という漠然とした理由だけで原発の運転を制限し続けるようであれば、下手をすれば、国全体としての没落も免れません。

憲法改正やさらなる減税、財務省・NHK改革などももちろん大変に重要ですが、個人的には、原発再稼働の加速と原子炉の廃止措置の見直しは、改憲と並んで大変に重要な課題のひとつであると考えています。

正直、岸田文雄内閣も「内閣支持率」だけでいえば死に体のようなものですが、だからこそ、岸田首相には良い意味で「豹変」し、原発再稼働・新増設方針に加え、再エネ賦課金制度の段階的廃止と廃止措置の撤回などを決断していただきたい、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. Sky より:

    福島の発電所、および発電所より内陸部にある大規模なスイッチングハブ所。昔、見学する機会がありました。
    それはそれは大規模精緻な場所でワクワクしました。大きなエネルギーを扱っている場所から漂ってくる雰囲気。超高圧送電線から絶えず聞こえてくる小さなパチパチ放電音にもしびれました。
    その場の設備は勿論、対応していただいた方々からも安全管理には気を配っておられたことが記憶が残っています。
    福島第一の事故は本当に残念な事故でした。しかしあの彼らならその経験を活かし、より安全なシステムを再度構築し運用をするだろうことは想像できます。
    その機会すら与えないでいる現実。反日工作を結果的に容認している現実を残念に思います。

  2. KN より:

    >「反原発運動家」らが原発全廃などと息巻いていることは事実ですが、「原発事故はいかなるメカニズムで発生するのか」、「過去の事故は同発生したのか」について、きちんと事例を研究し、対策を講じる方が、はるかに生産的です。

    「原発(事故)」を「戦争」に置き換えても同じようなことが言えることに気づきました。

    ところで、「東京湾に原発をつくればいい」などど東電に非協力的な主張が出てくるのは、東電の所有する原発が、東電エリアでない福島県と新潟県にあることが影響しているかもしれません。原発を建設するにあたり、福島県の東部と新潟県の西部を東電エリアに編入しておけばよかったのにと思います。ちなみに、原発のある福井県の若狭湾沿岸は、配電統制令が発令されたとき(1941年)から、今の関電エリアに割り当てられていたようです。

    https://www.weblio.jp/wkpja/content/%E9%85%8D%E9%9B%BB%E7%B5%B1%E5%88%B6%E4%BB%A4_%E9%85%8D%E9%9B%BB%E7%B5%B1%E5%88%B6%E3%81%AE%E5%AE%9F%E6%96%BD%E9%81%8E%E7%A8%8B

  3. 匿名 より:

    私は福島第二原発の再稼働に反対です。
    1号機が1982年運転開始、最新の4号機でさえ1987年運転開始です。

    40年前の原子炉を再稼働させるよりは、最新の安全技術を盛り込んだ新型原発を新設すべきだと思います。

    1. KY より:

       こういう時は「欧米を見倣え」とは言わないんですね。

      1. 匿名 より:

        この件に関しては見習いたいと思いません。
        日経新聞によるとパリセイズ原発の運転開始は1971年。
        50年前の原子炉は本当に安全なのでしょうか。

        それよりは最新の安全技術を盛り込んだ新型原発を新設すべきだと思います。

        1. 匿名 より:

          >50年前の原子炉は本当に安全なのでしょうか。

          素人が心配しても仕方ありません。
          気持ちや感情で判断するのは反原発の人たちと変わりませんよ。

          運転延長につては安全が担保されてるかの検証をしっかりとするのが前提です。

  4. 匿名 より:

    福島第二原子力発電所の廃炉の理由を記事検索してみると、「冷温停止に持ち込めたこともあり、東京電力は当初、存続の道も模索したが、被害に苦しんだ福島県民の『県内全基廃炉』の声は根強く、東京電力は2Fの廃炉を決めた」ということのようです。

    これを聞くと、少なくとも、福島第二原子力発電所の廃炉は、科学的合理性に基づく判断ではないものと思われますし、再稼働させようと思えば十分に再稼働可能であるようにも思われます。

    しかし、「だから福島第二原子力発電所を再稼働させようぜ」という話をした場合に、その話が福島県において受け入れてもらえるかどうかと考えると、自分は、これはかなり厳しいのではないかと思います。

    1Fの事故発生から、もう10年を優に超えましたが、1F事故に関する原子力緊急事態宣言は、未だに解除されておりませんし、帰還困難区域も未だに福島県内に存在しています。未だに自宅に戻れない福島県民も数万人規模で存在しています。福島県にとってみれば、原発事故による傷は未だに癒えていない、とも言えると思います。

    自分は福島県民ではありませんので、あくまでも、もし自分が福島県民だったら、という状況を想像した上での発言になりますが、もし自分が福島県民だったら、「もう、うちの県内で原発を動かすのは勘弁してくれ」と言うんじゃないかと思います。

    自分の発言に科学的合理性がないことは十分に承知しておりますが、それでも、自分は、原発事故の傷が未だに癒えていない福島県には、「うちの県で原発はやめてくれ」と発言する権利は十分にあると思いますし、その発言を否定したり非難しようという気持ちにはならないです。誤解を招く言い回しにもなりますが、自分は、福島は例外扱いしてもいいと思います。

    むしろ、1F事故の教訓を踏まえて原発の規制基準は格段に厳しくなったんでしょうから、福島以外のエリアにある原発については、さっさと新しい規制基準で適合性を審査で確認して、ガンガン再稼働すればいいと思います。

    1. KN より:

      再稼働した原発が西日本に偏っているのはなぜなんでしょうか(40年超のものも3機再稼働済み)。なお、西日本に多い加圧水型原子炉(PWR)と、東日本に多い沸騰水型原子炉(BWR)で安全性に大きな差はないとされています。
      https://www.energia.co.jp/faq/atom/answer01.html

      ・東京電力、柏崎刈羽原発で核燃料搬入 再稼働へ7年ぶり
      地元同意が得られるかが焦点
      https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2778V0X20C24A3000000/

      1. CRUSH より:

        「原発反対!」
        が、物理が理由ではなくて情緒が理由だから、西日本では再稼働にアレルギーがないのでは?

        「お気持ち」
        は、ぞんざいに扱ってはいけませんが、物理や経済合理性で説明つかない領域まで譲歩や妥協するのは、役所の背任にあたると個人的には思いますね。

        例えば、広島や長崎は圧力容器や格納建屋なんかないモロな被曝地ですが、住んでる人や食べ物で、なにか統計的に有意な差違なんかありませんよ。

        被害者利権で恫喝してくる活動家に、ネゴが嫌だから札束で黙らせるのは、役人や東電の現実逃避です。
        払うなら私財で払え!と思いますね。

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