東京地下鉄構想…「利便増進」利用なら秋葉原延伸は?
地下鉄の建設費補助の仕組みとしては、「地下高速鉄道整備事業費補助(地下鉄補助)」、「都市鉄道利便増進事業費補助(利便増進)」という2つの制度があるのだそうです。これに関し、最近東京で話題となりうことが増えている東京の臨海地下鉄を巡って、鉄道ライターで都市交通史研究家の枝久保達也氏が執筆した興味深い記事を発見しました。
目次
東京臨海地下鉄構想
先日の『東京臨海地下鉄構想は「羽田アクセス」で利便性上昇へ』でも取り上げたとおり、東京には現在、東京駅と臨海部(東京ビッグサイト、あるいは「有明テニスの森」付近)を結ぶ、新たな地下鉄構想が持ち上がっています。
ルート案についてはすでに2年以上前、東京都ウェブサイトに2022年11月25日付で掲載された『都心部・臨海地域地下鉄構想 事業計画検討会「事業計画案の取りまとめ」について』というページの公表資料【※PDF】にも示されている通りですが、その概要は次の通りです(図表1)。
図表1 東京臨海地下鉄構想・地図
(【出所】東京都公表資料P5図表)
朗報!晴海にも駅ができる!!
東京の地理感が乏しい方には大変申し訳ないのですが、これは実現したとしたら、大変に利便性が向上する可能性が高い路線です。また、
まず、これまで鉄道によるアクセスが乏しかった臨海部の住居、商業施設などに関しては、利便性が飛躍的に向上するうえに、東京都の資料をもとに各駅の地点や主要な乗換駅などを読み取ると、図表2のとおり、晴海を除く各駅で既存の鉄道路線との乗り換えが可能です。
図表2 都心部・臨海地域地下鉄構想 ルート案(駅名はすべて仮称)
駅名 | 地点 | 乗り換え |
東京 | 呉服橋交差点付近 | 東京、三越前、日本橋、大手町 |
新銀座 | 銀座プランタン付近 | 有楽町、東京、銀座、銀座一丁目、東銀座 |
新築地 | 築地本願寺付近 | 日比谷線築地駅等 |
勝どき | 大江戸線と交差 | 大江戸線勝どき駅 |
晴海 | 晴海トリトンスクエア付近 | (乗り換えなし) |
豊洲市場 | 豊洲市場付近 | ゆりかもめ市場前 |
有明・東京ビッグサイト | 有明テニスの森付近 | ゆりかもめ、臨海線等 |
(【出所】東京都公表資料P5及び付近地図等を参考に作成)
そもそも東京駅や銀座駅付近には、新幹線、JR各線、地下鉄線など、大変多くの路線が乗り入れており、(難工事が予想されるとはいえ)完工のあかつきには、臨海部と都心が直結されることになりますが、それだけではありません。
たとえば晴海駅は「乗り換えなし」ですが、もともとここには「晴海トリトンスクエア」という3棟のオフィスビルを中心とする複合商業施設があり、現状では都心から電車でアクセスるためには、最寄り駅である大江戸線の勝どき駅から5分ほど歩く必要があります(隣接する月島駅からだと10分ほどです)。
しかも、現状だと大江戸線の勝どき駅には非常に大きな問題があります。平日朝ラッシュ時になるとトリトンスクエアに通うための長蛇の列が発生し、(著者自身の実測によれば)駅のホームから地上出口まで10分以上の時間がかかることもあるからです。
臨海部に進出するのは東京の都市機能充実の証拠
このように考えると、「どうしてわざわざそんな不便な所にオフィスビルを作ったのか」、などと不満を覚える人もいるかもしれません。
しかし、臨海部にトリトンスクエアや豊洲市場、ビッグサイトといった大型施設が続々と建設されている理由は、単純に、都心部だと開発可能な土地が限られていて、まとまった広さの土地といえば臨海部に求めるしかないからでしょう。
すなわち、臨海部に大型の商業施設・タワマンなどが続々と出来上がっているのも、東京の都市機能がさらに充実している証拠、と見るのが自然でしょう。
こうしたなかで、東京のような「鉄道型の大都市」において、新たに開発された地域に鉄道交通がないのは大変に不便ですし、限られた交通施設に人が殺到すれば事故などが発生する恐れがあるなど、大変危険な状態にあります。
だからこそ、やはり今回の構想に示されているような新規路線を建設するのは現実的な解決策のひとつ、というわけです。
臨海部の利便性向上だけではない大きな効果
しかもこの鉄道、先日も取り上げたとおり、たんに「湾岸に暮らす人々が東京駅に行くのに便利になる」というだけのものではありません。うまくルートを選定すればJR東日本が現在建設を進めている「羽田空港アクセス線」などにも直通が可能でああるなど、大変に利便性が向上する重要なルートです。
じつは、成田エクスプレスなどでアクセスできる成田空港と異なり、羽田空港の場合は東京駅からの鉄道路線がなく、東京駅から羽田空港に行くためには▼リムジンバスを使う、▼浜松町駅まで行ってモノレールを使う、▼日本橋や宝町から浅草線(京急直通)を使う――などの方法によらざるを得ませんでした。
この点、現在、JR東日本が建設中の「東山手ルート」、つまり田町駅付近から分岐して東京貨物ターミナルを経由し、羽田空港に至るルートだと、いちおう、東京駅から羽田空港に直結することができるはずですが、この区間はすでに線路容量いっぱいまで電車が走っているという問題もあります。
このように考えると、臨海地下鉄でも羽田空港に向かうルートができれば、東京の都市機能を維持・強化するという観点からも望ましいといえます。
ただし、先日も指摘したとおり、この「臨海地下鉄」、どうせ作るのならば、個人的には東京駅を終点とするのではなく、(建設の難易度は上がるとはいえ)秋葉原まで延伸し、つくばエクスプレス(TX)とも直結することを目指すべきだと考えています。
もし秋葉原から東京ビッグサイトまで整備したとしても、新たに整備する路線の長さはトータルで10㎞に満たないものですし、つなげ方次第では東京の都市交通の一体性がさらに増すことになります。
費用対効果という意味では、大変に優れた路線であるといえることは間違いありません。
ふたつの補助金制度と建設スキームの関係
こうしたなか、この臨海地下鉄を巡る、ちょっと気になる記事がありました。
「臨海地下鉄」を「りんかい線」が運営するのが“最適”と言える理由 地下鉄建設「2種類の補助金」から見える将来ネットワーク
―――2024/02/12 08:12付 Yahoo!ニュースより【乗りものニュース配信】
執筆したのは鉄道ライターで都市交通史研究家の枝久保達也氏です。
枝久保氏によると、東京都都市整備局が3日、臨海地下鉄の事業計画の検討を、鉄道・運輸機構に加えて「りんかい線」を運営する東京臨海高速鉄道と進めることに合意したと発表したことについて、現在の我が国における補助金の仕組みが関わっていると指摘します。
枝久保氏によると、今回、(まだ確定ではないとはいえ)東京都が鉄道・運輸機構を整備主体として明記していること自体、「利便増進」制度と呼ばれる補助金を念頭に置いたものだといいます。
この「利便増進」、正式には「都市鉄道利便増進事業費補助」と呼ぶらしいのですが、これは都市鉄道等利便増進法に基づく補助制度のことだそうです。
具体的には、路線の営業主体と保有者・建設者が別となり(いわゆる上下分離方式)、建設費の3分の1については整備主体が借入金で調達するのですが、国、地方公共団体が残りを半分ずつ補助して鉄道を建設し、借入金の返済は、営業主体が支払う施設使用料で賄う、という仕組みだそうです。
一方、これと似た仕組みとしては、「地下鉄補助」(正式名称は「地下高速鉄道整備事業費補助」)というものがあるのだそうですが、これは国と地方公共団体が補助金として、それぞれ補助対象建設費の35%を交付するというもので、この場合の対象主体は公営地下鉄、東京メトロ、第3セクターだそうです。
枝久保氏によると、最近の事例でいえば、「地下鉄補助」としては、現在建設が進む大阪の新地下鉄「なにわ筋線」が、「利便増進」としては昨年3月に開業した「相鉄新横浜線・東急新横浜線」があるのだとか。
いっそ秋葉原から東京ビッグサイトまでつくっては?
この両者の違いとしては、まずはその目的にあります。
「地下鉄補助は『需要が大きく単体として事業が成り立つ路線』が対象、利便増進の対象は路線単体では採算性が低く、『速達性向上のために既存の路線間を短絡する連絡線』となります」。
つまり、「利便増進」を使うためには、「採算性は低いが速達性向上のために既存路線感を短絡する連絡線」という位置づけであることが必要であり、かつ、上下分離方式であることが必要だ、ということです。
このため、「利便増進」を目指すのであれば、都営地下鉄は「営業主体になれない」、ということなのだそうです。都営地下鉄は「上下一体方式」であるとともに、そもそも公営鉄道自体が「利便増進」の対象外だからです。
このため、「利便増進」を使う場合、臨海地下鉄の営業主体となり得るのは、つくばエクスプレスか「りんかい線」のどちらかであり、TX東京延伸のめどが立っていないという現状を踏まえれば、消去法的に東京臨海高速鉄道が事業主体とならざるを得ません。
ただし、枝久保氏によると、国交省の立場は「利便増進の営業主体は施設使用料を長期にわたって安定的に支払う前提」とするものであり、したがって「事業者の変更は想定していない」のだそうです。
ということは、JR東日本による臨海高速鉄道の買収、JR東日本との経営統合は認められない、ということであり、この場合、羽田空港アクセス線の実現には運賃の収受などの面で課題が残りそうです。
もっとも、こうした点もさることながら、せっかく鉄道を作るなら、なおさらTXの延伸を検討すべきだと思います。
あくまでも枝久保氏の記事を読んだ感想ベースではありますが、もしもこの「利便増進」を使うなら、それこそ「TXと東京臨海高速鉄道線を短絡するための路線」という名目にできないものかという気がしてなりません。
すなわち「東京駅まで」といわず、いっそのこと秋葉原から東京ビッグサイトまでをつなぐ路線を一気に建設してしまった方が、合理的ではないでしょうか。
鉄分多めのサイトになってきましたね!
このあたり、枝久保氏自身が指摘する通り、現時点において東京都がどちらの補助制度を使用するのか(あるいは使用しないのか)について最終決定を発表したわけではないため、現時点において制度を具体的・断定的に論じるには尚早かもしれません。
ただし、たった数キロの地下鉄路線が東京の交通をガラッと変えてしまう可能性があること、さらには東京のタワーマンションの価格が日本の不動産市況全体に大きな影響を与えていることなどを踏まえると、この路線は単に「東京のローカルの話題」というよりも、日本全体とも関わってくる可能性があるという点には注意が必要です。
なお、どうでも良い余談ですが、当ウェブサイトはもともと「金融」「エクセル」「ハンバーガー」などについて論じることを目的としたサイトだったつもりですが、いつのまにか鉄分豊富なサイトに変容を遂げつつあるのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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考え方には、2つあるかもしれないですね。
現行制度に合わせて新しい現実を作るか?
新しく作るべき現実に合わせて新しい制度を作るか?
行政の制度とは、新しい現実を作る補助をする為に作られるべきものなのだから、先ず補助金ありきから発想するのではなく、一番良い未来の現実はどんなものか?をじっくり考えることが先ず議論するべきことですね。
経営主体が違う為に、料金徴収の問題があるので、直通運転が出来ずに、利用者に利便性を最大限享受して貰えないものなら、巨額の投資をして作っても将来に不便を残すことになります。
巨額の投資をして物理的に鉄路を繋いでも、将来に禍根を残すような計画は?ですね。
経営主体の問題があるなら、先ず、どういう経営主体であれば良いか?を考え、必要であれば、それに合わせた制度を作るのが、筋では?
制度の為に、巨額の投資が充分に活かせない計画は止めた方がいいでしょう。
このルートは、未来ガジェット研究所のメンバーが、真夏の炎天下に自転車でビッグサイトまで行ったルートだなぁ~。
とか少しノスタルジアドライブで。
興味深い記事、毎度ありがとうございます。
乗り鉄、撮り鉄等があるようですが、ここに多いタイプは何でしょうか?
鉄道計画、鉄計? www
Plan a Railway ということで「プラ鉄」とか。
なんかプラレールを想像しそうですが・・・
>当ウェブサイトはもともと「金融」「エクセル」「ハンバーガー」などについて論じることを目的としたサイトだったつもりですが、いつのまにか鉄分豊富なサイトに変容を遂げつつあるのかもしれない、などと思う次第です。
このページの一番下にある、【おしらせ】人生で11冊目の出版をしました、は鉄道モノで決まりですねw
うーん、首都直下型地震発生後の夢が広がりますね♪( ´ω`)
輪島の朝一通りの火事では、消火栓も防火水槽も機能しなかった事でロクに消化活動が出来ず、燃える物全て燃やし尽くすのを待つ事になったと聞きます。
東京都のごちゃごちゃした地区でも同じような事が起きるかも知れず、起きた時の為に区画整理しようにも今は利害調整やら何やらで手間でしょうから、そんな手間を一気に簡単にしてくれそうな大震災を天恵としてより安全でより安心出来る都市にしていかないとですね。