ついに、米国の主要メディアであるNBCも報じてしまいました。先日から当ウェブサイトで取り上げている、日本テレビによる人気漫画の実写化ドラマで原作の大幅な改変が発生するなどしたトラブルに関し、該当する漫画のあらすじを含め、事態の経緯を報じているのです。ただ、それ以上に感心するのは、記者クラブに所属しているわけではない外国メディアがここまで正確な記事を配信したという事実ではないでしょうか。
日テレドラマ事件
正直、当ウェブサイトでは人の死に関する話題を取り上げるのは気が進まないのですが、それでもマスメディアの問題点を論じるうえでは、最低限、これについても取り上げざるを得ないこともあります。
先日の『今度はドラマで原作改変…不祥事は日テレの体質問題か』では、日本テレビによる人気漫画の実写化ドラマで、原作の大幅な改変が発生するなどしたとして、原作者が自ら命を絶つという最悪の事態が生じたとする話題を取り上げました。
また、一般に何らかの意見の対立などが発生した場合には、双方の意見を確認するのが基本ですが、本件に関しては当事者の片方である日本テレビ側からの発表が非常に少ないのが実情であり、必然的に、その経緯については限られた情報から集めるしかありません。
このように考えていくと、インターネット環境の発達は、やはり素晴らしいことだと考えざるを得ません。
関係者がSNSなどに投稿した内容など、情報の断片をつなぎ合わせることで、何が真相だったのかに迫ることが、ネットが存在しなかったころと比べれば格段に容易になっているからです(ただし、各者から見たその詳細について、当ウェブサイトでは取り上げるつもりはありませんが…)。
米メディアNBCがこの問題を取り上げる
こうしたなかで、ちょっと興味深い記事を発見しました。
Japanese manga artist A****** H***** found dead days after protesting TV version of her work
―――2024/02/01 00:19 JST付 NBC NEWSより
(記事タイトルに漫画家の名前が出ていますので、伏字にしています。)
報じたのは米NBCで、「50歳になるマンガ・アーティストが東京近郊で死亡しているのが発見された」、「日本のメディアは彼女の自宅から発見されたメモなどから自殺と見られるとの警察の見解を報じた」、などとしているのですが、報道はかなり詳細です。
「『ショガッカン』から出版された漫画を原作として『ニッポン・テレヴィジョン』が全10話予定でキナミ・ハルカを主演として昨年10月にドラマが始まった」。
どうでも良いのですが、最近は米国のメディアも日本人の人名を報じる際、「名・姓」ではなく、「姓・名」の順で表現するようです(実際、なくなった漫画家の方も「姓・名」の順ですし、ドラマ主演の木南晴夏さんも “Kinami Haruka” と表記されています)。
そのうえで、NBCは漫画の筋書きを簡単に説明したうえで、原作者がXやブログで日テレ側の脚本が「実写化の条件にもかかわらず原作に忠実でなかった」と批判したと指摘。
その後は「攻撃するつもりはなかった」とする謝罪文を日曜日の午後にポストし、その日のうちに行方不明になった、とする経過を説明しています。
また、記事では脚本家に対し、Xなどで批判が集まっている、などとする点に加え、日本テレビに対しては原作者へのサポートが不十分などとする非難の意見も見られる、などとしています。おそらく、この記事を読めば、漫画家側の言い分や本件の経緯などについては、十分に理解できるのではないでしょうか。
記者クラブに所属していないのに…
ただ、ここでもうひとつ注目したいのは、次の記述です。
“As foreign media and without membership of a Japanese press club, Variety does not have access to Tokyo police reports”.
“Variety” はNBCにこの記事を配信した米誌のことですが、日本語に意訳すれば、こんな具合でしょうか。
「本誌は外国メディアであり、日本の記者クラブに所属していないため、東京の警察の発表にアクセスすることはできない」。
このあたりに、日本のメディア業界の問題が凝縮されているようにも思えます。
すなわち、このNBCの記事は「日本のメディアの報道やXのポストなどをもとに構成したものだ」という意味であり、逆にいえば、「公開されている事実を丁寧に集めるだけでも、この程度の記事は作れるのだ」という意味でもあります。
結局は「メディアの問題」
ということは、本件については「メディアの問題」を改めて意識させるものだという言い方もできます。
メディアが記者クラブで情報を独占し続けているわりに、レベルの高い報道ができているとは言い難い現状を見るに、やはり日本社会のボトルネックのひとつはメディアにあると考えざるを得ません。
そういえば、『岸田首相自らデマ対策宣言…報道機関は日本に必要か?』でも指摘したとおり、とりわけ能登半島地震においては、最近、岸田文雄首相自身がXにさまざまな情報を精力的にポストするようになりました。
正直、能登半島地震に関しては、メディア報道を読んでいるよりも、首相のXアカウントをフォローした方が、はるかに正確で有益な情報が手に入るのではないでしょうか。
それに、記者クラブという組織はメディアに対し、特権的に情報を提供する機能であると同時に、国民の知る権利をじつは最も阻害している組織である、という実態も見えてきます。
記者クラブに所属しているはずのメディアが不正確な情報しか流さず、記者クラブに所属していない外国メディアの報道が簡潔で正確だというのは、なんだか悪い冗談にしか見えません。
いずれにせよ、年初の『「新聞がなくなったら社会に莫大な利益」とする考え方』でも述べた、「一部の新聞やテレビがなくても、世の中としてはあまり困らない」とする考え方は、案外、間違っていないのかもしれません。
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日テレがどれほど関与しているかわからない。
もしかしたら日テレは完成品のドラマ映像を渡されて放映しているだけかもしれない。
私の見立ては:
人気の漫画がある。アニメにすると時間も金もかかるので実写で放映しようという企画を広告代理店が立てる。原作者と交渉したらOKとの返事。スポンサーも乗り気だ。
脚本はいつもお願いしているxxxに発注。
原作者の意にそわない作品が出来上がり、原作者が手直し。
広告代理店としては「原作者に著作権料を払うんだからいいじゃないか」と考えていたが原作者の作品に対する愛着、プライドは考えていた以上で、極端な選択を刺せてしまった。
私も新宿会計士様同様に、人死が絡む・絡みそうな事案は全体概要が明らかになるまで軽々に語りたくないのですが(私見)、一点だけ。
記者クラブの問題も同様ですが、本案件の当事者である日テレが腰が重いのはまぁ理解できる(決して擁護ではない)のですが、見かけ上競合の立場にある日テレ以外の各社(テレビ局・新聞社含むメディア全体)が日テレに対して積極的な取材・報道をしないのが闇が深い部分と感じます。
国や政府、他企業で同様の事案が起こった場合にメディアが取っていた積極的な取材や吊し上げ(推奨するわけではないですがw)を日テレに対しては行わないあたりが、メディア全体で同じ利権集団の甘い蜜を啜り合う仲間意識で庇い合う闇を感じるのです。
類似事案でも、対象相手により報道姿勢や追求行動を変化させるダブルスタンダードを使い分けている間は、マスメディアには「正義」だの「公平」だの「国民の代表」だのと言ったお題目を掲げて欲しくはないですね。
あなた達は所詮、利益追求するだけの一私企業である(独占・寡占という利権構造に守られて甘い蜜を吸ってきた)という認識を持って、正義の味方・民衆の味方といった勘違いしないでいただきたいと思います
台湾も注目しています。
当方は第一報を中華民国のステートメディアである中央通訊の華語版ページで目しました。これほどの重大事件とはその時点では感じていなかったです。
日本の新聞およメディア産業が如何に歪んだ産業集団であるのか世界に知られることになると考えます。
いつも不思議に思っていたことだが、原作が映画化・ドラマ化される時、原作通りというものがあったことは殆ど無い。
著作権は、大変に強い法律なので、何故いとも簡単に改変が出来るのか?と。
これは、原作者が容認しているのか?と疑問だった。原作者は、自分の著作物が他人によって、意図せぬ方向に内容を改変されることは、容易に容認できないはずだ。
ただ、出版界には、著作権の他に出版権というものがあるようで、これは多分、法律上に定められたものではなく、私的な契約事項なのだろうと思うが、これは、ビジネス上は、著作権以上に大きな意味を持つのでは無いか?
著作権は、自然発生の権利だが、著作権を持っていたとして、それがお金になる訳ではない。出版して売れて初めてお金になるのだから、出版して販売してくれる出版社の力があってこそ、だ。
原作が、映画化・ドラマ化される時には、著作者だけの意向で全てが決まる訳ではなく、その他の力関係もあるだろう。
出版社が映像化したいという意向がある時、著作権者は、自分の意向を貫き通す事が出来るだろうか?そこには、著作権者、出版社との力関係のシーソーが働くこともあるのではないだろうか?
今回の件、そんな力関係の狭間で起きた痛ましいことのように感じられて、原作者の純粋さを思うと、周りに相談出来る人がいなかったのか?と、悔やまれる。
>ただ、出版界には、著作権の他に出版権というものがあるようで、これは多分、法律上に定められたものではなく、私的な契約事項なのだろうと思うが、これは、ビジネス上は、著作権以上に大きな意味を持つのでは無いか?
出版権は「著作権法 第三章 出版権」で制定しています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048
契約内容が公開されることはないと思いますが、
全貌が明らかになるまで事件についてのコメントは控えさせていただきます。
>記者クラブに所属しているはずのメディアが不正確な情報しか流さず、記者クラブに所属していない外国メディアの報道が簡潔で正確だというのは、なんだか悪い冗談にしか見えません。
一昔前なら、日本を取り扱った話題など、中国との区別も定かでなく、せいぜいフジヤマ、ゲイシャくらいのイメージしか持たなかった一般の欧米人にとっては、どこの世界の話?くらいの関心しか惹かなかったでしょう。
それが今では、アニメ、コスプレファンなどの域を遙かに超えて、欧米に住むさまざまなひとびとが、日本でのできごとに強い興味を示すようになっているようです。当然各国のメディアも、日本国内に拠点を設け、長期わたってに取材をおこなうスタッフの数も増やし、多様な視点で日本社会を分析し、本国に記事を送っています。
そうした海外メディアの報道姿勢ですが、日本という国に対して相応のリスペクトの念を以て記事にはしてるんでしょうが、「こんなおかしな、不合理な社会でもあるんだよ」と、あげつらう機会があればと、鵜の目鷹の目で探し回っていることも、人情としてまた当然のことでしょう。
そんな彼らにしてみたら、日本のテレビ、新聞などの大手メディアなんかは、絶好のターゲット。これからますます、そうなっていくでしょうね。なにせ「社会の公器」を自負し、ネットが出しゃばる世になれば、「正しい言論空間」が守れなくなるなどと言って憚らないくせに、その言説、報道内容について、当のネットからさんざんに証拠付で誤りを指摘されても、反論ひとつできず、だんまりを決め込んでいるのが「現実」。
シャルリー・エブドあたり、この漫画的状況に興味を持ったら、結構面白い風刺画にするかも知れないですね(笑)。
不思議の国ニッポン。BBC の対日報道なんて以前からずっとそのまま進化していないです。
故安倍総理の葬儀も同じ論旨で世界報道しちゃっていました。白人目線なんてあの程度のものなのです。
SkyNews、アルジャジーラや France 24 English あるいは Deutsche Welle あたりに英語でタレコミ入れてあげてみてはどうですか。
・総務省電波行政と TV 産業界の癒着関係
・自称公共放送の虚構
・共犯関係=芸能界と新聞およびメディア産業
既存のメディアは江戸末期に蒸気船に振り回されて結局開国に至った幕府と同じ気がします。
ということは、ネットで日本マスゴミ村の力が及ばない海外から、日本マスゴミ村の都合を忖度しないでやってくる外国メディアは、黒船ということでしょうか。
蛇足ですが、ジャニーズ問題と同じく、外国メディアが書いたということは、日本マスゴミ村は、外国メディアがすっぱ抜かないように、彼らも記者クラブに入れようと、考えるのでしょうか。
日本の報道産業界は「幼稚なので」そのつもりでテキトーに付き合っておけばいい。
口には出さないが内心そう思っているんじゃないでしょうか。英語圏に頭が上がらない。その理由を考え抜いて実力で逆転させてないといけないのだが、さて危機感は共有されているか。読者・リスナーは今般毎日毎晩海外から直接に報道記事や切り取りTV動画を仕入れて楽しんでいる。新聞記者や TV 局が気が付いている以上に平均的日本人は利発で利口なのです。
同業他社で不祥事が発生した場合、自社において
・同様の事象が発生していないか
・発生していた場合は、公表すべきか否か
・原因はなにか
・再発防止はどうすべきか
を当たり前のように調査・検討すると思います。
そして
・コンプライアンス意識の高い企業であれば、自らの判断で調査結果と再発防止策を公表
・コンプライアンス意識の低い企業であれば、自らの判断で調査結果を隠蔽
すると思います。
ただし、
当該企業が隠蔽した場合でも、多くの場合は監督官庁による指示や業界団体による自浄作用により調査と結果公表などの対応が求められると思います。
このご時世、コンプライアンス意識の低い企業は市場から見放され脱落していくと思います。
翻って日本テレビ。
そして業界団体(ここでは日本民間放送連盟でしょうか)
そして監督官庁(総務省)
今回の件でこの界隈の異常性が改めて浮き彫りになったと感じております。
自浄作用が働かないのであれば、せめて大衆の声で動いてほしいものです。
ここの記事を読み方してる人の一人でも、
セクシー田中さんの原作を読んでるといいな。
現代の若者及び作者さんを理解できるので。
新宿会計士さんは、もちろん読んでますよね。
別の漫画になりますが、「押しの子」の五巻で今回の内容に近い状況が描かれてます。漫画原作者の作品にかける愛情と、漫画を演劇に置き換える脚本家との関係性が表現されてますので、こちらも皆さんにお勧めしたいです。
毎度、ばかばかしいお話を。
日テレ:「海外メディアにドラマ改変を報道された以上、今後は原作がない日テレのオリジナルドラマを放送していく。そのためには、スポンサーに、このドラマが視聴率が取れることを説明しなければならない。だから、スポンサー相手にプレゼンもする制作会社を探そう」
日テレは、何をするのでしょうか。
根本的にテレビ局の態度は非常に高慢です。
インタビューをすれば、コメントを報じてやるんだぞ。
漫画を原作とすれば、原作として使ってやってるんだぞ、喜べ。
そうした心の内が透けて見えます。
本来であれば漫画から実写ドラマ化となれば双方WinWinな関係となり得ます。
知名度が向上して漫画自体の読者が増えるでしょう。
しかし残念ながら上手く原作を使える脚本家は少なく、技量が低くオリジナルを掛けない脚本家が幅を効かせており、それがなし得ていないのですが。
オリジナルを書かせてもらえないから原作尽きの作品を大幅改悪するのだと脚本家の人たちは言っていますが、オリジナル作品が成功しないから予算を出してもらえない自業自得ではないのでしょうか?
報道は報道しない自由を行使して宛になりません。
実写ドラマも芸能事務所への忖度や質の低い脚本が闊歩しており。
ゴールデンタイム帯から追いやったアニメだけが世界と勝負できる作品になっているあたり
テレビ局自体が凋落しているのではないかと思います。
このコメントには、普段から感じていることが書いてあります。
今は、TVerで各局のドラマが見れますが、どのドラマも、内容が金太郎アメのように同じ。本当に、日本のドラマ作り、安直で劣化しているな、と感じていた所にこの問題が起こりました。
それは、一部の脚本家を使い回しているからではないのか、と思いました。
兎に角、今のドラマ、酷い、何のオリジナリティも無し、型・パターンが同じ。
以下の引用部分、全く同感です。
>しかし残念ながら上手く原作を使える脚本家は少なく、技量が低くオリジナルを掛けない脚本家が幅を効かせており、それがなし得ていないのですが。
オリジナルを書かせてもらえないから原作尽きの作品を大幅改悪するのだと脚本家の人たちは言っていますが、オリジナル作品が成功しないから予算を出してもらえない自業自得ではないのでしょうか?