X
    Categories: 外交

日立造船供託金差押=自称徴用工

自称元徴用工問題で日韓関係を終了させる可能性がある「ちょっとした動き」が出てきました。昨年、韓国の大法院(※最高裁に相当)が日立造船に違法な判決を下した件で、被害企業の供託金を差し押さえるとの申立てを、韓国の地裁が認めたというのです。金額的には大したことはありませんが、質的に見れば、日韓関係に非常に大きなインパクトをもたらしかねません。

日韓歴史問題と自称元徴用工問題の「二重の不法行為」

自称元徴用工問題――、すなわち「戦時中、日帝により強制徴用された」などと自称する者たちが日本企業を訴え、韓国の裁判所が国際法に違反した違法な判決を下している問題――を巡っては、それが日韓間の重要懸案に浮上して以来、不思議な膠着状況が続いていました。

この問題の本質は、韓国による「二重の不法行為」の一種と特徴づけられます。

この「二重の不法行為」とは、①韓国側がウソ、捏造、でっち上げなどによる言いがかりに基づき、②日本に対し、法的根拠を欠いた、あるいは違法な要求(謝罪や賠償など)を突き付けている問題、と定義することができ、韓国が主張する「韓日歴史問題」の多くに当てはまる構造です。

日韓諸懸案巡る韓国の「二重の不法行為」
  1. 韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  2. 韓国側が日本に対して要求している「謝罪」「賠償」などには、多くの場合、法的根拠がなく、何らかの国際法違反・条約違反・約束違反を伴っている

(【出所】当ウェブサイト作成)

物的証拠を欠く自称元徴用工問題

自称元徴用工問題の場合も、この「二重の不法行為」という考え方で、韓国の行動がだいたい理解できます。

そもそも「日帝による強制徴用」も、多くの場合は「強制徴用された」とする主張は自称元徴用工らが行っているものであり、「証言」はあるかもしれませんが、物的証拠はありません。

想像するに、自称元徴用工らの多くは、①国民徴用令で徴発された朝鮮人労働者、②応募工(みずから志願した労働者)、③応募工ですらなく、自称しているだけ、というパターンが混在しているのではないでしょうか。

この点、国民徴用令に基づき、当時日本領だった朝鮮半島で245人の朝鮮人労働者が徴用されたとする政府調査が存在することは事実です。

林外相「徴用245人」否定情報なし 戦後の在日朝鮮人

―――2022/1/24 12:08付 産経ニュースより

しかしながら、韓国の(あるいは日本の一部の)学者らが主張する「数十万人」とする説とは、ずいぶん大きな開きがあることも事実でしょう。

いずれにせよ、「強制徴用の被害を受けた」と主張するのであれば、その物的証拠を出す義務は、自称元徴用工、あるいは韓国側にあります。それなのに、韓国側は、その証拠を日本に要求しているフシもあるのです(『「日本が強制動員の証拠出せ」と要求する自称元徴用工』等参照)。

岸田政権の対応のまずさ

正直、日本政府や日本企業はこんな難癖を相手にすべきではありませんし、むしろ本来、韓国の最高裁にあたる「大法院」が2018年10月、11月に日韓請求権協定に違反する違法な判決を出した時点で、日本としては韓国に対し、経済・金融制裁に踏み切っているべきでした。

それなのに、『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』でも取り上げたとおり、岸田文雄首相は尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が打ち出してきた「財団方式による解決策」を「評価する」などと絶賛。

あろうことか、▼2018年12月の火器管制レーダー照射事件を不問に付す、▼2019年7月に発表した対韓輸出管理適正化措置を、国民の圧倒的多数の反対を無視して撤回する、▼日韓通貨スワップを復活させる――などの「対韓譲歩3点セット」を繰り出したのです。

個人的に岸田首相に対しては、原発再稼働・新増設、防衛費増額、能登半島地震への適切な対応など評価する点は多いと考えていますが、この「対韓譲歩バーゲンセール」に関しては、とうてい評価することはできません。

なお、日本政府が2018年の時点で韓国に対する制裁に踏み切らなかった点について、いちおう日本政府を擁護しておくと、現在の日本では「相手国が国際法を守らない」などの理由で経済制裁を発動するということが、法的に難しい、といった事情があることは指摘しておく必要があるでしょう。

当ウェブサイトでは『人権法制定より外為法10条1項改正を優先すべき理由』などでも説明しましたが、基本的に経済制裁を発動することができるのは、①国連安保理決議、②有志国による協調制裁、③外為法第10条第1項に基づく閣議決定――の3つのいずれかです。

もちろん、広い意味での経済制裁は、もう少し発動の仕様があるのですが(いわゆる「サイレント制裁」や「消極的制裁」など)、やはり、外為法第10条第1項の規定を拡充することで、経済制裁を発動できる条件を増やしておくことが必要ではないでしょうか。

なぜか完全な膠着状況点…売却スルスル詐欺

それはともかくとして、自称元徴用工問題に話を戻すと、2018年10月以降、完全な膠着状況にある、という言い方ができるかもしれません。

というのも、自称元徴用工側は、「越えてはならない一線」を微妙に越えないようにしてきたフシがあるからです。

日本政府が設定している「越えてはならない一線」は、基本的には「日本企業に不当な不利益が生じること」、です。これについては安倍晋三総理大臣のもとで、河野太郎外相(当時)が繰り返していた論点です。

個人的には、「不当な不利益」ならば、すでに日本企業に生じている、という気がしてなりません。妙な訴訟を提起された時点で、弁護士費用、従業員の出張経費、法務部の人的リソースなどを含め、さまざまなコストが生じているからです。

ただ、個人的な理解に基づけば、ここでいう「不当な不利益」は、自称元徴用工らから訴えられている日本企業から、自称元徴用工らに対し、1円でもカネが渡るような事態が発生するかどうかで判断するのではないでしょうか。

その意味では、現時点で差し押さえられている三菱重工業の知的財産権、日本製鉄や不二越の非上場株式などが換金され、自称元徴用工らの手に渡れば、日韓関係はまた違ったフェーズを迎えることになるはずです。

ただし、知的財産権にしろ、非上場株式にしろ、売却がとても困難なことで知られている資産です(『非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい』、『民事執行手続で確認する知的財産権換金の「非現実性」』等参照)。

正直、これらの資産を原告側はどうやって売却するつもりなのか、ちょっと見てみたい気もしますが、いずれにせよ売却は極めて非現実的です。結局、「売却スルスル詐欺」のようなものでしょうか。

また、2021年には、三菱重工業が韓国国内に保有する金銭債権を、自称元徴用工側が差し押さえようとしたこともあります(『徴用工「金銭債権の差押」の衝撃』等参照)。

しかし、このときには「差し押さえようとしている金銭債権は三菱重工の連結子会社のものであり、三菱重工そのものの資産ではない」という理由などもあって、自称元徴用工側は、慌てて差し押さえを解除しています(『【速報】自称元徴用工側が金銭債権差押を「取り下げ」』等参照)。

これなども、金銭債権の場合、「売却スルスル詐欺」ができないため、差し押さえを取り下げた、という可能性が濃厚ではないでしょうか。

供託金差押を認めた韓国地裁

さて、こうしたなかで、昨年12月に韓国大法院が下した新たな自称元徴用工判決を巡り、被害企業の日立造船の供託金を巡り、新たな動きが出てきました。

徴用訴訟 日立造船の供託金差し押さえ認める=韓国地裁

―――2024.01.25 09:35付 聯合ニュース日本語版より

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の記事によると、ソウル地裁は23日、「徴用被害者」(原文ママ)ら原告側の申請通り、日立造船が差し入れている訴訟供託金の差し押さえを認めたのだそうです。

(※ちなみに自称元徴用工らのことを、聯合ニュースの記事では「徴用被害者」と誤った用語で呼んでいますが、自称元徴用工らはむしろ違法判決の加害者の側ですので、ご注意ください。)

このあたり、以前の金銭債権のケースと異なり、今回の供託金は、間違いなく日立造船の資産ですので、これが没収される事態が生じれば、訴訟で被害者である日本企業から加害者である自称元徴用工らに資金がわたる初のケースとなります。

日韓関係は、新たな局面を迎えざるを得なくなるでしょう。

ちなみに聯合ニュースによると、原告が供託金を賠償金として受け取るためには「まだ法的手続が残っている」のだそうであり、最終的な結果が出るまでに2~3ヵ月が必要、などとしています。

この話題自体、日韓メディアからはあまり注目されているフシはありませんが、その結果次第では日韓関係が大きく動く可能性は十分にあります。記事によると供託金の金額はせいぜい数百万円というレベルですが、その数百万円で日韓関係は壊れるのでしょうか。

2021年の「三菱重工金銭債権事件」のように原告側が申し立てを撤回してしまうのか、それとも一気に換金と対韓制裁措置に向かうのか――。

このあたりの展開は、なかなかに興味深いテーマのひとつではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (22)

  • 韓国が一線を超えたような気がするニュースだったから、雑談板に投稿しようかな?って思ってたら、記事ができてたのです♪

    韓国の裁判所からすれば、自称さんたちは韓国の裁判に勝ってるんだから、って軽い気持ちなのかもですね♪

    それにしても、韓国政府が解決策とやらを持ち出しのは昨年の3月頃だったでしょうか?
    韓国政府は、これまで何をしてたんでしょうか?

    あと、その解決策で、日本企業には被害は及ばなくなるなんて言ってた松川議員のコメントを聞いてみたいと思ったのです♪

  • そら見たことか。
    震災対策は評価できても、韓国対応はひどいものだ。
    変に譲歩するから相手が調子乗るんですよ。

  • 韓国がなにをやらかしても、 「遺憾に思う」しか言わない日本。こういうことやってるから 捏造慰安婦が大きな顔して騒ぐんだよ。そして たかり徴用工だって。
    日韓基本条約ですべて解決済み。国際条約を反故にする行為は 制裁案件でしょ。日本、日本企業に被害が及んでいる。
    弱る自民党に 親韓マスコミが 慰安婦もう一度で 大騒ぎ、世論誘導するんでしょうね。
    こんな時に通貨スワップ与えた政権 おかしい。

  • 自称「慰安婦」或いは自称「徴用工」、いずれにしてもまともな証拠もなしに 日本政府や日本企業を訴えていますが、韓国の裁判所は彼らの「証言(?)」のみで審理を進め審判を下しているようです。

    このことから類推するに、彼らにはそもそも証拠裁判主義という概念がないのでしょう。それとも日本政府や日本企業相手であれば、そのような建前はどうでもいいと考えているとしか思えないのです。恐らくですが、日本に対ししては何をやっても赦される、そう考えている可能性も大いにあり得ます。

    という事で、我々日本人と韓国政府及び韓国人の間では、恐らく共通の価値観や目標並びに司法観を持ち得ることは、少なくとも現時点では不可能ではないかと愚考するところであります。

    まぁ事此処に至ったのであれば、彼らが何をしてくるかを生温く見守るしかないでしょう。おそらく、彼らが狙っているのは600万円程度の端金などではないことは明らかですので、当面は現金化するぞするぞ詐欺を続けるだけだと思いますが、もし何かの拍子に間違えて現金化してしまったら・・・当然、百倍返し、否千倍し万倍返しでも構いません。(笑)

    銀行の信用状発行停止やら、ホワイト国指定の再解除やら、日韓通貨スワップの解除やら、ビザなしと公の停止やら、etc etc・・・。

    打つ手が多すぎて笑えます。

    • 愛知県東部在住様

      >彼らが狙っているのは600万円程度の端金などではないことは明らかです

      でもねえ、この連中(自称「人権派弁護士」団と、気脈を通じる裁判所に屯すアタオカ判事連)だって、最早日本政府ないし企業から、ビタ一文せびり盗れないことくらいは、学習済みだって思うんですがね。さんざん彼らを鼓舞してた前のヒダリマキ大統領にして、日本に睨まれた途端、尻尾を巻いて日和るほかなかったんだから。

      何のためにやってるかと言ったら、韓国内では反日ビジネスは、詐欺まがいの手口まで含めて、まだまだカネになると踏んでるから、そのための示威行動、ないしは自らの存在証明。

      あるいは、やるぞ、やるぞと凄んでれば、対日関係を損ねでもしたら大変と思って、現政権が収拾に動くはずだから、そのときには「親日政権」と攻撃するための、絶好の材料にしてやろうという思惑。

      さらに勘ぐれば、日韓関係ぶっ壊すために「各員一層奮闘努力せよ」の首領様からの指令が裏にあるから、従わざるを得ないという可能性。

      そんなであれば、引き延ばせるだけ引き延ばす、というのが彼らの基本戦略。解決などしては却って困るんで、いつまでもやってそう。鬱陶しいことこの上ないのは確かだけど、実際には日本に関係がない話。放っときゃ良いとしか言えないと思うんですがね。

      • 伊江太 様

        コメント有り難うございます。

        正直言って、韓国人Hが何を企んでいようと、彼らの思考回路なんぞにあまり興味はありません。少なくとも我々のそれとは、殆ど接点があるようには思われませんし。わかり合えない者同士がいくら論戦を張っても、行き着く先に生産性のある着地点などが見つかるはずもないでしょうから。

        ただ沈黙していることは、彼らのおかしな言い分を認めてしまうことにありますから、反論すべき事は十分に意を尽くす必要はあると思います。今回の訴訟でも、そもそも彼ら徴用工の中には1944年9月以前、即ち戦時中の国家総動員法が朝鮮半島住民にまで適用される以前に、本人の意思で日本国内に渡航してきた者が含まれているという事実、またそれ以降でも大半の朝鮮半島出身の労働者には、当時厚生年金加入ができたこと、殊に炭鉱での労働に従事していた人たちには戦時加算までなされていたこと、それはとりもなおさず労働に対してきちんと対価として給与が支払われていた証拠だということを、今一度大きな声で主張すべきです。その上でそれでは足りないというのなら、日本にではなく韓国政府におねだりすればいいだけのことです。文句があるなら1965年の日韓基本条約を読み直せ!と。

        その上で、後は

        >放っときゃ良い

        でいいと思います、私も。

  • 尹錫悦韓国は空手形で「対韓譲歩3点セット」を手に入れた訳で、ほんと岸田文雄は「韓国に騙される為に産まれ、韓国に騙される為に育ち、韓国に騙されて終わる無能な働き者」です。

    供託金差し押さえに関しても、差し押さえ分を韓国政府は補填すると述べた上で「いつ」補填するかを曖昧にし、岸田文雄は「韓国政府が補填すると言っているから条約違反ではない」などと誤魔化して対韓制裁等を先延ばしし続ける気がします。

  • 韓国外交部 徴用判決巡る日本の反発に「緊密に意思疎通している」
    2024.01.25 16:59
    https://jp.yna.co.kr/view/AJP20240125002900882

    >一方、大法院で日立造船に対する勝訴が確定した原告側が同社の供託金を賠償金として受け取るために行った差し押さえ申請を裁判所が認める決定を下し、今後の推移が注目される。原告側が供託金を実際に受領すれば、徴用訴訟で勝訴した原告側に日本企業の資金が渡る初の事例となる。外交部当局者は「現在までに(日本側に)政府の立場を伝えたりはしていないと承知している」と述べた。

    供託金差し押さえ時の対応について、韓国政府は「日本側に韓国政府に立場をまだ何も伝えてはいない」ってのが公式の立場なんですね。

    差し迫ってから対応を決めるんですかねぇ。

  • これは、韓国のいつものやり方です。
    少し踏み込んで、日本が怒らなければさらに踏み込み、怒れば誤解だなんだといって引っ込める。
    もし、ここで日本政府が遺憾の意だけですませたら、さらに踏み込んできます。
    が、日本政府が制裁の準備をするだけで ビビって誤解だ間違いだと言い訳して無かったことにするでしょう。
    ただ、韓国がここまで踏み込んだのは日本政府の甘い顔のせいでもあります。
    ホワイト国復帰スワップレーダー照射有耶無耶など、日本に実害がなくとも韓国にとって日本がひいたとみえたらそれは、韓国の格が日本より上になったと考えるのは当然。
    格が上な韓国が日本企業の供託金をとるのは当然の権利なのです。
    そんな事して日本からの反撃で韓国経済崩壊するなど想像出来ないのか?
    それが想像出来たら韓国人ではないのです。
    韓国経済て日本にぶら下がってるだけなのに、持ってるロープを自分で切ってる様に見えるのは自分だけ?

  • 外務省や岸田首相それからバイデン大統領は、日韓関係が今までよりももっと悪くなることを期待しているのでしょうか?
    日本の韓国に対する融和的な対応に因る韓国の益々の増長ぶりは、まともな日本人のストレスをより一層高めて、対韓感情の更なる悪化を招く事になると思います。
    そのような深慮遠謀があっての対韓外交なら大いに歓迎するところですが。

  • この対韓譲歩さえなければ、岸田首相の評価はだいぶ上がるのですが……非常に残念。

    一方韓国側は言葉遊びや小細工で「超えてはならないライン」をギリギリ超えない様には
    している。今の大統領は前任者の尻ぬぐいをかなり上手くやっていると言えるでしょう。
    何度もロウソクデモが起きそうな事をやってきたのに、意外と起きていない。
    韓国の世論も「ロウソクで大統領を取り替えたらもっと酷いのが出てくる」と学習したのかな?

1 2