観光分野の「脱中国化」進む日本
日本にとって悪い話ではない訪日外国人「多国分散化」
昨日も「速報」的に取り上げたとおり、日本政府観光局(JNTO)データによれば、昨年を通じた訪日外国人は過去4番目に多かったことが判明しました。ただ、ここで注目すべきは、中国、韓国、台湾、香港という伝統的な4ヵ国・地域以外からの入国者が増えている、という事情かもしれません。
目次
訪日外国人は過去4番目に多い水準
『昨年の訪日外国人数は過去4番目』でも「速報」的に取り上げたとおり、日本政府統計局(JNTO)が発表したデータによると、2023年を通じた訪日外国人が2507万人に達したことが明らかになりました。
年間の訪日者数としては、2019年の3188万人、2018年の3119万人、2017年の2869万人に次いで過去4番目に多い水準です。
しかも月次で見ると、とくに9月以降の訪日者数が堅調に推移しており、12月の訪日者数については273万人と、「12月としては」過去最大を記録しているという事実も見逃せません。コロナ禍中の2020年からの3年間を除いて、2016年以降の各年について、毎月の訪日外国人数をグラフ化したものが図表1です。
図表1 訪日外国人の月次推移(2016年以降、2020~22年を除く)
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
中国人入国者は激減した
このグラフの形状からわかるとおり、2023年に関しては、とくに1月から4月までは2016年の水準を下回っており、また、8月までは2017年~19年の水準を下回っていました。
その大きな理由は、中国人要因にあります。
図表2は、日本を訪問した中国人の人数の月次推移です。
図表2 訪日中国人の月次推移(2016年以降、2020~22年を除く)
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
これで見ると明らかですが、とくに年初からの数ヵ月に関していえば、中国人観光客の人数はほとんど戻って来ておらず、また、12月に関してもかなり戻ったとはいえ、2016年の水準を下回っている状態にあります。
中国人入国者の割合をコロナ禍前後で比較すると…?
ちなみに、2016年1月から2019年12月までの4年間(=48ヵ月間)における訪日外国人総数は1億1580万人でしたが、その国籍別内訳を集計してみると、中国人が全体の27.38%を占め、トップだったことがわかります(図表3)。
図表3 訪日外国人(2016年1月~2019年12月累計)
国 | 人数 | 割合 |
1位:中国 | 31,703,810 | 27.38% |
2位:韓国 | 25,354,289 | 21.89% |
3位:台湾 | 18,379,425 | 15.87% |
4位:香港 | 8,569,357 | 7.40% |
5位:米国 | 5,867,951 | 5.07% |
6位:タイ | 4,339,873 | 3.75% |
7位:豪州 | 2,114,597 | 1.83% |
8位:フィリピン | 1,889,072 | 1.63% |
9位:マレーシア | 1,803,768 | 1.56% |
10位:シンガポール | 1,695,471 | 1.46% |
その他 | 14,087,065 | 12.16% |
総数 | 115,804,678 | 100.00% |
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
しかし、これに対して2023年に関していえば、入国外国人のうち中国人の割合は10%以下に減っていることがわかります(図表4)。
図表4 訪日外国人(2023年1月~12月累計)
国 | 人数 | 割合 |
1位:韓国 | 6,958,491 | 27.76% |
2位:台湾 | 4,202,436 | 16.77% |
3位:中国 | 2,425,040 | 9.67% |
4位:香港 | 2,114,394 | 8.44% |
5位:米国 | 2,045,919 | 8.16% |
6位:タイ | 995,528 | 3.97% |
7位:フィリピン | 622,268 | 2.48% |
8位:豪州 | 613,120 | 2.45% |
9位:シンガポール | 591,320 | 2.36% |
10位:ベトナム | 573,876 | 2.29% |
その他 | 3,923,753 | 15.65% |
総数 | 25,066,145 | 100.00% |
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
コロナ前の中国人の割合と、コロナ後の韓国人の割合が、ほぼ同じであるというのは興味深いところです。
いずれにせよ、コロナ前はインバウンド需要などの4分の1以上を中国人観光客に依存していたのですが、こうした構造が大きく変化した、ということでもあります。
脱中国化…中国人に依存せずとも過去最高となった12月
また、直近の2023年12月分の単月データに関しても、中国人の入国者数は回復傾向にあるとはいえ、やはり全体に占める割合は10%を少し超える程度に過ぎません(図表5)。
図表5 訪日外国人(2023年12月単月)
国 | 人数 | 割合 |
1位:韓国 | 782,700 | 28.63% |
2位:台湾 | 399,500 | 14.61% |
3位:中国 | 312,400 | 11.43% |
4位:香港 | 251,100 | 9.18% |
5位:米国 | 183,200 | 6.70% |
6位:タイ | 125,800 | 4.60% |
7位:シンガポール | 113,700 | 4.16% |
8位:豪州 | 89,500 | 3.27% |
9位:フィリピン | 79,100 | 2.89% |
10位:インドネシア | 63,700 | 2.33% |
その他 | 333,300 | 12.19% |
総数 | 2,734,000 | 100.00% |
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
こうした傾向を見るに、中国人に依存していた日本のインバウンド需要も、少しずつ分散化が図られている、という言い方もできるかもしれません。というのも、コロナ前には4分の1以上を占めていた中国人観光客が激減した状態にあるにも関わらず、訪日外国人の総数は、大きく伸びているからです。
いわば、インバウンド観光における「脱中国化」の進展、というわけです。
ちなみに図表6は、各年の合計と、2015年以降の各年における訪日外国人の総数と、12月における入国者数を抜き出してきたものです。
図表6 訪日外国人(2015年以降の通年累計と12月の数値)
年 | 年間合計 | 12月 |
2015年 | 19,737,414 | 1,773,130 |
2016年 | 24,039,705 | 2,050,648 |
2017年 | 28,691,078 | 2,521,262 |
2018年 | 31,191,861 | 2,631,776 |
2019年 | 31,882,054 | 2,526,387 |
2020年 | 4,115,833 | 58,673 |
2021年 | 245,867 | 12,084 |
2022年 | 3,832,115 | 1,370,114 |
2023年 | 25,066,150 | 2,734,000 |
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
ここから判明する通り、12月としての入国者数は、2023年が過去最高となりました。中国人入国者数が全体の10%少々に過ぎないにも関わらず、です。
訪日外国人の多国分散化
また、もうひとつの気づきがあるとしたら、訪日外国人の多国分散化です。
伝統的に、近隣4ヵ国・地域(中国、韓国、台湾、香港)からの入国者の割合が高い、という傾向が認められ、とりわけこの4ヵ国・地域からの入国者は、2017年には全体の74.21%、つまりだいたい4分の1を占めていました。
ところが、2018年以降は中韓台港からの入国者の割合が少しずつ減少し、コロナ直前の2019年においては70.13%、そして2023年においては62.64%にまで減っているのです。
これをグラフ化したものが、図表7です。
図表7 入国者の総数と主な内訳
(【出所】JNTOデータをもとに作成)
コロナ禍で外国人の入国が滞っていた2020年から22年までのデータに関しては、中韓台港からの入国者の割合が極端に落ち込んでいることが確認できますが、コロナ後もこうした「多国分散」の傾向は続いている、という言い方ができるかもしれません。
考えてみれば、これも凄い話かもしれません。
日本は四方を海に囲まれた国です。日本の近隣諸国(中韓台港にロシアを加えた5ヵ国・地域)の場合、船(フェリーやクルーズ船など)で日本に入国することも比較的容易ですが、それ以外の国々の場合だと、日本への入国手段は、現実的には飛行機に限られるからえす。
とりわけ欧州から日本にやってくる場合、ロシア上空の最短ルートを飛行することができないという状況のなかで、長時間フライトに耐えなければなりませんが、それでもわざわざ日本にやって来てくれる人たちが増えているというのは、素直に歓迎すべき話といえるかもしれません。
多国分散化自体は悪い話ではない
このあたり、当ウェブサイトとしては以前から主張している通り、現在の日本が観光業を主軸に産業振興していくべきではないと考えている次第ですが、それと同時にインバウンド観光需要を増やすことは、日本のファンを世界中に作るという観点からは、それなりに効果が高いものでもあります。
もちろん、いわゆる「オーバーツーリズム」や「偽装難民」などの問題も踏まえると、単純に外国人観光客が増えることが日本経済にとって好ましいのかどうか、という疑問もあるのですが、それと同時に日本を好きになってくれる外国人(とくに欧米人)が増えれば、間接的に日本の安全保障にも寄与するという側面もあります。
日本がウクライナのように無法国家から攻め込まる可能性はゼロとはいえないなかで、万が一、日本が戦争に巻き込まれたときに、「日本に行ったことがある」という人がたくさんいる国で「日本を助けよ」という世論が出て来る可能性がある点については、単純な「経済効果」以上のものがあることも間違いありません。
その意味で、現在のような「多国分散傾向」自体は、日本にとっては決して悪い話ではない、という言い方もできるでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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中国は景気が悪くなって海外旅行にお金を使う人が減っているので、中国人観光客が減っているのは日本に限らずタイ等の東南アジアも同様です。
中国人客の減少は、クルーズ船の寄港が激減したことと、団体観光客が大きく減ったことによるものと見られますが、そもそもあまり日本にお金を落とさない層なので、日本にとって一番美味しくない客が大きく減って良かったと思います。中国人訪日客の主流は今や個人旅行、お金を使う富裕層は日本にたくさん来てます。
今の中国の経済的窮地と当局の締め付け具合だと、その内
「海外旅行を楽しむのは売国奴、愛国者は国内旅行せよ」などと言い出しかねないかも?
自分で言っててまさかとは思うのですが、中国ならやりかねないなあ……
強く同意します。
キンペー三が「経済なんてしらんがな」と言ったとか。
富裕層への返金は40%迄。中国は共産主義だ~ と言ったとか