「日独GDP逆転は日本の成長の伸び悩み示す」のウソ
マイナス成長のドイツはむしろスタグフレーション気味
ドル建てGDPで日本がドイツに抜かれる公算が高まりました。これについて、「公共放送」を自称するメディアは、「専門家」による、「日本の経済成長の伸び悩みを示している」というコメントを紹介したようですが、これはとんでもないウソです。少なくとも日本のドル建てGDPに関してはかわせそうばによる影響が大変に大きく、また、円建てで見たら、GDPは(とくに名目値では)は大きく伸びているからです。
「名目GDPは12年前の3分の2以下に…」
GDPをドル換算すると、日本の名目GDPは2011年9月に過去最高となる6.5兆ドルを記録していたのに対し、直近の2023年9月時点では4.0兆ドルにまで落ち込んでしまいました。すなわちこの12年間で、ドル建て名目GDPは3分の2以下に落ち込んでしまった計算です。
しかも、これが実質ベースだと、落ち込みはもっと大きくなります。というのも、2011年9月時点の名目GDPは6.7兆ドルだったのが、2023年9月時点で3.7兆ドルと、半分近くにまで減っているからです。
これらをグラフで確認しておくと、図表1のとおりです。
図表1 日本のGDP(季節調整、ドル建て)
(【出所】内閣府『国民経済計算(GDP統計)』データおよび The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) データをもとに作成)
いったいどうしてこんなことになってしまったのでしょうか。
単なる数字のマジック
結論からいえば、これは数字のマジックです。
図表2は、円建てにしたときの日本のGDPです。
図表2 日本のGDP(季節調整)
(【出所】内閣府『国民経済計算(GDP統計)』データをもとに作成)
こちらで見ると、(実質と名目の乖離などはありますが)少なくとも「名目」ベースでは特に近年、経済成長が続いており、過去最大の「600兆円台」の達成を目前にしていることがわかります。
ちなみに2008年9月に生じた、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機(日本語でいう「リーマン・ショック」)の影響でしょうか、名目GDPは2009年3月に492兆円にまで減っていますので、この十数年でGDPは100兆円以上成長した格好です。
もう少し正確に述べると、以前の『米ドル表示した日本のGDP推移は為替レートそのもの』でも取り上げたとおり、この「ドル建てGDP」というものは、とくに短期的にはGDPそのものというよりも、どちらかといえば為替レートに大きな影響を受けます。
これについては図表3を確認していただくのが手っ取り早いでしょう。
図表3 ドル建てGDPとUSDJPY(反転表示)
(【出所】内閣府『国民経済計算(GDP統計)』データおよび The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) データをもとに作成)
円安がいつまで続くかわからない
すなわち、「ドル建てGDP」と為替相場は、左右の軸さえ調整すれば、ほぼピッタリと重なるのです。
ただし、「USDJPY」を意味する灰色の線と、「ドル建てGDP」を意味する青(名目)または赤(実質)の線には微妙なズレが生じていて、とくに直近の2023年9月期においては、灰色の線が青、赤の線と比べて下に潜り込んでいることがわかります。
このズレの原因こそが、円建てで見たGDPの成長を意味します。
そして、為替レートは(あくまでも一般論ですが)両国の金利差や金融政策の違いなどから大きな影響を受けることで知られており、米国で追加利上げ観測が後退し、むしろ利下げ観測すら出ているなかで、果たしてこれ以上、円安が進むかについては個人的には疑問です。
当ウェブサイトでは頻繁に議論している通り(たとえば『為替と無関係に世界で支持される日本のコンテンツ産業』等参照)、円安はたしかに日本経済に対し多大なメリットをもたらすものではあるのですが、それと同時に円安だけに依存した産業振興は危険でもあります。
また、円安で「ドル建てGDP」が下落していることは間違いないものの、そのドル建てGDPが日本の豊かさを論じるうえでは、じつはほとんど役に立ちません。大多数の日本人は、けっして「米ドル建て」で生活しているわけではないからです。
こうした観点からは、「ドル建てGDP」は日本経済を米ドルという共通の尺度で世界と比較するという点では有益ではあるものの、「日本人の豊かさ」を示す指標としては必ずしも最適な指標とは言えませんし、ましてや「ドル建てGDPを最大化すること」を目的とするなど、愚の骨頂です。
極端な話、1ドル=10円になれば、「ドル建てGDP」は約60兆ドル(※米国の3倍)となり、日本は「世界一豊かな国」ということになります。当然、そんなことになれば日本の輸出産業は壊滅的な打撃を被ることになるでしょうし、GDPにも株価にも良い影響が生じるはずはありません。
ドイツに抜かれる日本の名目GDP
こうした前提条件を踏まえ、ここ数日、一部のメディアが大々的に報じている、こんな話題を見ておきましょう。
ドイツ名目GDP4・5兆ドル、日本抜いて世界3位濃厚に…為替レートの変動が主因との見方
―――2024/01/15 20:51付 読売新聞オンラインより
これは、独連邦統計局が15日に公表したドイツの2023年の名目GDP(速報、季節調整)が4兆1223億ユーロとなったことを受け、「ドイツの名目GDPは4.5兆ドルとなり、日本はドイツに抜かれて名目GDPで世界4位になりそうだ」、とするものです。
ここで紹介したのは読売新聞の記事ですが、ほかに日経新聞なども似たような記事を出しており、とりわけNHKによる次の記事は、なかなかに強烈です。
日本の去年のGDP ドイツに抜かれ世界4位になる見通しに
―――2024年1月17日 6時56分付 NHK NEWS WEBより
NHKは「日本の去年1月から9月までの名目GDPは436兆円余り」で、「去年1年間でドイツをドルベースで上回るには来月(2月)発表される去年10月から12月までのGDPが190兆円程度となる必要がある」、などと指摘。
その上で「専門家」が「日本の経済成長の伸び悩みを指摘している」、などとして、こんな発言が出てきます。
「名目GDPは、物価などが反映されるため、実感に近い数値とも言える。物価と為替の影響で順位が入れ代わるというのは、日本の経済成長の伸び悩みを示している」。
正直、意味不明です。
くどいようですが、「ドル建てで見たGDPがドイツに抜かれる公算が高い」理由は、「日本の経済成長が伸び悩んでいるから」、ではありません。円安が急速に進行したためにドル建てでGDPが低迷しているだけであって、円建てのGDPの成長率自体は極めて堅調だからです。
むしろドイツはスタグフレーション気味
NHK自体がそもそも「公共放送」を騙るにふさわしいメディアであるかどうかという点は脇に置くとしても、こういういい加減な情報を垂れ流してもらっては大変に困ります。
独連邦統計局(Bundesamt)によるとドイツの名目GDPはユーロベースで▲0.3%とマイナス成長となり、単純にユーロの米ドル相場が上昇したことでドル建てのGDPがプラスになったという側面が強いといえます。
そのドイツでGDPを押し上げた要因が、ウクライナ戦争の影響を受けた高インフレであるという点も強く(著者私見)、少し言い方は悪いのですが、「インフレ下でのマイナス成長」、すなわちスタグフレーションの兆候が生じている、という言い方もできるでしょう。
いずれにせよ、ドイツの今後のGDPを正確に予測することは当ウェブサイトの力量を完全に超えてしまいますが、ドル建てGDPというものは、むしろ為替相場次第でいくらでも変動するものでもあります。
こうした観点からは、「GDPでドイツに抜かれるほどに日本の現状が厳しい」、といった短絡的な結論に持っていくべきではありませんし、逆にそういった短絡的な結論を出してくる人は、じつは日本のGDP統計などの基礎統計をちゃんと見ていない可能性が高いことについては、言うまでもないでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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今 、ちょうど同僚がドイツに出張しているのでドイツの国情も聞いているのですが、ドイツは大変な状態。中露依存の高かったドイツの経済への影響は計り知れないものがあります。おまけにEVへの過度な傾倒。更に中国EVの台頭。彼らにとって災難続きです。この専門家って控えめに言って阿呆だと思います。
川口マーン恵美さんの一連の記事を読んでいれば、ドイツの悲惨さは、もう取り返しが付かないのでは?と思えるほど。
東独と統一したのが、運の尽き。
メルケルも東独出身。
ドイツではロシアからの都市ガスの供給が減少した結果、そして原発を撤廃した結果暖房費が半端な程度で増加しているそうですが、そのような生活必需品関係のインフレの影響は少なくとも短期的にはGDPの増加と言う形で表れて来ると思います。
私は門外漢なので良くわかりませんが、世界各国の経済の活力を推し量る目的の指数ってその国の内需の割合とか通貨レートとか生活必需品のインフレ率とか政策金利とかの影響を払拭して(『購買力』っていうのでしたっけ)計算する方法なんて存在しないのかな?
『ビッグマック指数』の改良版みたいな物で。
勉強になる!
普通に海外ニュースを知って考えればドイツは悲惨なことはわかる ストやでもでカオス 混乱状態
ドイツがいいっていうのはどこのドイツだ
【審議中】
∧,,∧ ∧,,∧
∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U ( ´・) (・` ) と ノ
u-u (l ) ( ノu-u
`u-u’. `u-u’
いいね 👍
ドイツは他のEU諸国から独立した政策を持っているので、『独々逸』と記すのが妥当だと思います。 なんか背景に三味線が聞こえて来そうです。
チントンシャンテントン、べベン、ジャーン。
GDPがドイツの抜かれて「貧しい日本」になるだの、「失われた30年」だのと経済の専門家と称する人が言い出したら眉に唾を付けて聞きいています(何が失われたのだって?自分を卑下して萎縮させる言葉を流行らせた責任こそ重い)
GDPは国ごとの経済状態を比較するには便利な指標ではありますが、最近はGDP以外の指標で比較した方がより現実を表しているのではないかという議論も出ているようです。とは言っても国民総幸福量を各種統計値から算出するのは難しそうですが。
○○が世界第何位に落ちただの、貧しくなっただのと他国と比較してケチをつける(最近の言い方ではディスる)だけの所謂経済専門家の話はもうたくさんなので、当サイトのように別の指標も用いて多角的に評価した話を聞きたいものです。センセーショナルな見出しで読者を釣ってニュースを売るのが商売の経済誌記者に期待するのは所詮無理かもしれませんが。
仰るようにGDPという量的拡大を物差しを成長の評価基準にすると、資源の浪費や環境破壊という問題が抜け落ちてしまいます。
マスコミは何故GDP競争を煽るのでしょうかね?
発想が隣の半島の国と大変よく似てますね。
>マスコミは何故GDP競争を煽るのでしょうかね?
>発想が隣の半島の国と大変よく似てますね。
逆です。
隣の国の人が日本のマスコミで仕事してるからです。
朝食中に見ていましたが、何のためにミスリードをするのか理解できませんでした。
日本を下げたいだけなのかしら。
私も、なんのために?と、とても不思議です。
ふつうの大学の一般教養レベルや、
大学行かれてなくてもふつうに賢い方なら
すぐに見透かされるようなこうした報道を
どうしてしてしまうのでしょうか?。
まあ、世間で言うFランさんや、
韓流政党立憲民主党支持者や
もっとクレクレ主張の赤いお旗の党員さんには
そうだそうだ!と支持されるのかもしれませんが、
ジャーナリズムの矜持を捨てたこうした報道を
してしまうほどの偏向報道には呆れます。
日本は貧しくなった、、、、、。
ナルホド、ワタシの様な年金生活者は、毎月毎月バンコクにシカ行けない程、貧しくなりました、とさ。棒
日本ディスリの経済専門家によると、日本は、近く内に、フィリピン、マレーシア、タイ、にもGDPを抜かれるらしいですよ。タイは、日本よりも、経済大国になるらしいです。「タイのバンコクに🦌鹿行けない」が、「タイのバンコクにも行けない」になるかもです。今の内に、タイ美人との逢瀬をお楽しみください。
>GDPを抜かれるらしい
→ 一人当たりGDP、のようです。
世界最強経済大国中国の力を全く反映しない一人当たりGDPという数字には欠陥がある、という声が経済専門家(中国を持ち上げるのが仕事の一部)からは聞いたことがなく、それどころかGDP関連数字の中でも特に金科玉条のごとく振りかざしていますね。見ないふりをしているとしかいえない
バンコクの陽炎2024 の続編
楽しみに待ってまあす (^^)/
世相マンボウ様。
今回の投稿は失敗でした。もっと、直に年金生活者でも海外旅行が出来る日本は素晴らしい。にスレバと反省していました。
さて、タニヤお酒を飲んでいました。明日も来てね、とウルサイから、明日、お客さん居なければ10時にナッタラ電話しといで、と云ったらホントに電話が有りました。ベトナム女性はジョ―ㇰが判りません、です。1週間に4回ほど電話が有りました。年金生活者には何度も行けません。
知人から聞いた話。500Bをチップを胸の谷間に入れた、と喜んて居ました。ワタシは口に出してはいませんが、アホちゃうか、と思いました。私やったら1000Bを目の前で両替して、100Bずつ胸の谷間に入れます。わ〜、1000Bも、、、?もらえる、と期待させといて、500Bにすんねん。
蛇足です。
後半部分はワタシの体験では有りません。あくまでも、ワタシが知人から聞いた事の感想です。再度、カサネテ弁解シマスが、ワタシの耳学問です。ホントですよ。
ドルベースGDPが下がることは、良い事だ。
国連負担金など国際機関の負担金は、確かGDPに応じているはず。
日本は、常任理事国にもなれないのに、第2位の負担金を長らく出して来たのに、敵国条項も削除されなかった。
日本人は、海外旅行も行かないし、円高のメリットは余り無い。唯一マイナス要素は、エネルギー資源が高くなることだが、それは、省エネや原子力発電などで、カバーできる。
個人的な考えでは、ドルベースGDPをもっと下げて、国際機関の負担金を下げて、その分を自衛隊員の装備の充実に回した方がいい。
しかし、こんな記事載せる新聞って、一般国民大衆は日本経済やドイツ経済の現状なんてことには、赤子ほどの知識も持ってないと、舐めてかかってるんだろうか?
「こんな記事そのまま載せたら、恥かきますよ」と、誰一人声をあげないままに、日々、新聞が発行されてるとしたら、それこそ企業ガバナンスなんてなきに等しいことを、自白してるようなものなんですがねぇ(笑)。
普通に考えたら、政権や施策や国力や幸福度のバロメーターは、GDPなんかより
「雇用と物価の安定」
だと思いますけどね。
GDPなんてのは、結果的に算出される従属要素。
金利や為替は、目的にたどり着くための制御手段。
憶測ですが、どこからなにをどう評価しても、アベノミクスをディスる表現を思い付かないから、ようやく見つけた
「GDPという切り口で悪口を言う」
ことに、パヨクさんたちは夢中なんじゃなかろうか。
「なぜ新聞も雑誌もドル建てのGDP変動でこうギャースカ騒ぐのか」を考えてみたら、
理由は予想以上にいっぱいありました。
①GDPが使いやすい数字である事。治安だの宗教的自由だのは数値化しにくい
②GDP至上主義じゃないと中国の評価が地に落ちてしまうから
③政府、特に自民党を叩く事が当たり前であり、今更それを変える訳にはいかない
④頭の良い人向けに記事を書くと、頭の悪い人には買ってもらえなくなる
⑤そもそも頭の良い人向けに記事を書ける人材が足りなさすぎる
⑥「日本は今日も平和です」より「日本は大ピンチ!危ない!」の方が売れる
ざっと大まかに考えただけでもこんなに沢山理由があれば、
そりゃあオールドメディアは変革なんかできる訳ありませんね。
公共報道メディアの一件は「統計で嘘をつく法」という本を読んだ人には、幼稚というか、視聴者を小馬鹿にしていると感じられるでしょう。
この公共報道メディアはこの「専門家」に対する反論を紹介したのかな?
③~⑥はオールドメディア共通ですね。
そして、頭の悪い記事やトンデモ悲観論にますます先鋭化していくのかと。
タイムリーにはコメントできずにすみません。
昭和の終わりから平成になってすぐぐらいだったと思いますが、為替を考量したGDPと言うのを出していたメディアがあったような覚えがあります。
手法としてはどのようなものかわからないのですが、単なるドルベースでなく為替を考慮するとこう変わるでした。筑紫哲也が元気なころですね。言い始めたのが、新聞報道なのかテレビのニュースだったかわかりません。単純に1ドル=100円に合わせこんだのかもしれません。いつの間にか消えました。
35年ほど前は単なるドル換算でなく実態を見ようとしていたのにいつの間にか考えずに報道するようになったのだと思います。メディアの劣化は年季が入っているようですね。
いつも勉強させていただいております。
>NHK自体がそもそも「公共放送」を騙るにふさわしいメディアであるかどうか
当該記事は、まさに、「公共放送を騙る」のにふさわしい記事だったのではないでしょうか。
「日本の去年のGDP ドイツに抜かれ世界4位になる見通しに」
>名目GDPは、物価などが反映されるため、実感に近い数値とも言える。物価と為替の影響で順位が入れ代わるというのは、日本の経済成長の伸び悩みを示している
今更、恥ずかしいのだけど・・・
名目GDPって額面だから、それが上がってても物価上昇に追いついていないと「貧しくなっちゃった」って感じるから、実感に近いのは物価変動の調整をかけた実質GDPの方じゃなかったのかな?