「外食で人手不足倒産」?現実の外食産業では増収続く

人手不足倒産という怪しい用語が増えているなかですが、現実の統計データを見ると、たとえば外食産業などでは売上が非常に増えている様子が確認できます。値上げで増収・増益となったマクド社もそうですが、それだけではありません。日本フードサービス協会(JF)が25日に発表した調査では、11月も外食意欲が継続回復し、加えてインバウンド需要も好調で、外食全体の売上は前年比、19年比ともに109%を上回ったことが明らかになりました。

「人手不足倒産」…はて、本当に?

先日の『「人手不足倒産」は宅配ピザ店にも及んできた…のか?』では、「今年に入ってからの宅配ピザ店の倒産件数が前年同期と比べて倍増した」とする話題を紹介しました。

「宅配ピザ店」の倒産が倍増で過去最多  原材料費の高騰や深刻な人手不足が影響

―――2023/12/22 12:03付 Yahoo!ニュースより【東京商工リサーチ配信】

記事を配信した東京商工リサーチ(TSR)はこの記事に限らず、最近、「人手不足での倒産が相次いでいる」、などとする記事を多く配信しています。

たとえば次の記事では、「11月の『人手不足』関連倒産16件発生」、「累計144件、年間最多更新のペース持続」などと、おどろおどろしく、この「人手不足倒産」がいかに深刻であるかについて力説している状況です。

2023年(1-11月)「人手不足」関連倒産の状況

―――2023/12/07付 東京商工リサーチより

もっとも、かなり以前から当ウェブサイトにて指摘してきたとおり、そもそもこの「人手不足倒産」という概念は、じつに胡散臭いものでもあります。

この「人手不足倒産」、べつに公的な団体などが集計しているものTSRや帝国データバンク(TDB)といった信用情報業者などが勝手に提唱して集計し、それに新聞、テレビを中心とするマスメディアが乗っかって、「日本では人手不足倒産が深刻化している!」、などと述べているだけのことです。

単純に価格転嫁に失敗しているだけでは?

だいたい、この「人手不足倒産」に明確な定義自体が存在しません。

いちおう、この「人手不足倒産」は▼求人難、▼人件費高騰、▼従業員退職――などを主要因とする倒産などを集計したものだそうですが、そのわりに集計基準についてもよくわかりません。

TSRによるとこの「人手不足関連倒産」とやらは、2023年11月までにサービス業(飲食等)で48件(前年同期比+24件)、運輸業で35件(前年同期比+29件)、建設業で27件(前年同期比+13件)など、「労働集約型産業を中心に顕著」なのだそうです。

ただ、非常にみもふたもない言い方ですが、この「人手不足倒産」とやらについては正直、「言い方も方便」であって、その真相は経営者が製品・サービスへの人件費上昇の価格転嫁に失敗しているために生じている、という可能性が濃厚です。

というのも、『マクド値上げで客足減少?マクドの値上げは良い値上げ』などでも紹介したとおり、製品価格を値上げした結果、業績が顕著に向上しているという事例もあるからです。

マクド社の業績は増収増益

マクド・ナルド社の事例でいえば、たしかにここ最近、主力商品の値上げが相次いでいますが(『今回のマクド値上げ詳細情報と「賢い購入方法」の考察』等参照)、マクド社の値上げを恨みがましく批判する記事はよく見かけるのですが、肝心のマクド社の業績が極めて好調だという事実は無視してはなりません。

というのも、値上げの影響もあってか、2021年3月に769億円だったマクド社の四半期売上高は、直近の2023年9月期には999.7億円、すなわちほぼ1000億円台に達しており、営業利益も140億円を超えているからです(図表)。

図表 マクド 四半期ごとの業績(連結ベース、JP-GAAPベース)

(【出所】マクドIR情報をもとに作成)

しかも、そのマクド社は11月10日付で通年業績見通しの上方修正を行っており(『2023年12月期 業績予想の修正に関するお知らせ』等参照)、通年での連結売上高3790億円、営業利益400億円を見込んでいます。

この点、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が配信した次の記事では、あたかもマクドから客離れが進んでいるかのような記載があります。

止まらぬ、マクドナルドの客離れ…「値上げ」のウラにある真意

―――2023.12.20付 現代ビジネスより

しかし、現実にマクド社の決算は増収増益と、非常に好調です。

そして、たしかに値上げでさまざまな商品がお高くなったことについては、消費者としては寂しいところではありますが、それと同時に同社としては十分な人員を確保し、従業員に十分な給与を支払い、株主還元もしっかりと実施するという意味では、この値上げにはきちんとした意味があるのです。

外食産業全体で売上高がプラスに!

こうしたなかで、一般社団法人日本フードサービス協会(JF)が25日、興味深い統計を発表しました。

日本フードサービス協会加盟会員社による外食産業市場動向調査 2023年11月度 結果報告【※PDF】

―――2023/12/25付 一般社団法人日本フードサービス協会より

JFによると、外食産業は非常に堅調で、とりわけ忘年会シーズンに向けて宴会需要が増加するのに加え、インバウンド需要も好調で、外食産業全体での売上高は前年比・2019年比ともに109%を上回ったとしています。

また、物価高のなかで消費者の節約志向が強まり、一部では値下げをアピールする事例もあったようですが、それでもファーストフード業界(FF)、ファミレス(FR)、パブ・居酒屋、ディナーレストラン、喫茶などすべての業態で前年を超過。

このうちパブ・居酒屋業態では、コロナ前の大規模な宴会需要が戻っていないためか、2019年対比で売上高は66.5%にとどまっているものの、それ以外の業態ではいずれもコロナ前の2019年の売上高を上回っているのです。

ただし、店舗数については全体で前年比99.2%、2019年比92.0%となっているため、想像するに、廃業により店舗数が減る一方、残った店に客が押し寄せるかたちで、外食需要が強く伸びているのではないでしょうか。

このあたり、「人手不足倒産」と言いながら、現実には、たとえば外食産業において需要が強く回復していることから、よほど味付けに問題があるなどの事情でもなければ、一般論としては価格転嫁(値上げ)が容易な状況にあることは間違いありません。

おりしも有効求人倍率が全国的に1倍を優に超えていて、失業率も低位安定するなかで、従業員を安くこき使おうとしているような経営者にとっての経営環境は今後ますます厳しいものになっていくのではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 雪だんご より:

    「人手不足倒産!人手不足倒産!」と騒ぎまくる理由……

    もしかして、移民、難民、技能実習生に対する心理的ハードルを下げる事が狙いでしょうか?

    いや、ふと思っただけなんですけどね。

    1. 引っ掛かったオタク@悲観的年末進行中 より:

      たぶんソレっすわ
      なし崩しに半島から大陸から”移民”と称する人員を国内流入させたいンでせう
      ま~一世代経つまでもなく前者は「労働人口維持の為に騙されて連れてこられた/強制連行された」後者は南西諸島侵攻へ向けた伏兵(実力行使/諜報/世論操作要員)と明らかになるンかシレンすケド

  2. 世相マンボウ_ より:

    全国チェーンの大手でなくても
    せっかく街に賑わいが戻った少し前から
    閉店するお店が地方でも散見されます。

    もちろん
    人手不足倒産材料高騰倒産もあるのでしょうが
    流行りお店も流行らないお店もほぼ一律の
    コロナ補助金が終了したので店終いをしただけでは?
    とのお店も乱立した焼肉焼き鳥店などに
    あるやに感じます。

    『人で不足閉店』といったほうが
    『流行らないけど補助金あるまでは』閉店より
    人聞きがいいでしょうから

  3. 伊江太 より:

    ファストフード、外食チェーン店の接客はマニュアル化されていますが、客の方はロボットじゃなし、必ずしも店側の想定通りに振る舞ってくれるわけじゃありません。客側に悪意はなくとも、店側からすれば想定外の行為だったとき、店員はそれにどう対応するか。ときに笑顔も交えながら、客にいやな思いをさせずに、スムースに事を運んでくれる。そんな体験をすれば、「あの店、感じのエエ店や。また行こか」になります。

    そうしたチェーン店のフロアではたらく店員は、大抵はパート、アルバイト従業員だと思いますが、それでも質の良い店員を確保できている店は、それなりの給料で人を集めているんでしょうし、それあってこそ客も呼び込める。町に出て、わたしが食事に寄る店と言ったら、ほぼそうした「感じの良い」店限定ですが、食事時ともなればいつも満席に近く、順番待ちの用紙に記名しなければならないこともしばしばですが、それなら近くの他の店にという気にはなりません。

    まあ、店側にとって有り難い従業員を雇いたいと思ったら、やはりそれなりも給料を払わなくっちゃね。

    1. 新宿会計士 より:

      FS業態などにおいては、とくに経営学において数式が利用されていると聞きます。経営学的には立地(人流)や坪単価などの関数を最適化して価格を決定するのは正しいとされていますが、実際、大手チェーン店だと完全に数学の世界になるみたいですね。

    2. さより より:

      近所のファミレス、パートの主婦は長く勤めていていつも殆ど同じ顔ぶれ、学生アルバイトは学生期間はずっと働くらしい。話を訊くと、時給も良いし働き易いという。ここは、メニューも変わらず、全てのオペレーションが最適化されているらしい。どうして、こんな安い価格でやって行けるものなのか?と疑問に思う位に安い。どうやら、仕入れから全ての工程と行程が、計算され尽くしているような印象がある。
      もう一つのファミレス、どういう訳か、パートの主婦はいつも不機嫌そうなので、余り行かないが、いつからかお運びロボットが運んで来るようになった。不機嫌な人間よりロボットの方が良い。しかし、ここも
      この同じ場所で長く営業している。実際、他に競合店が無いから、パートが不機嫌でもそこに行く事になる。ただ、食べ終わったら、直ぐに帰りたくなる雰囲気ではある。不機嫌は、回転率を上げる為の作戦か?

  4. さより より:

    人手不足倒産、という言葉を聞く度に、何故、人手不足「廃業」ではないのか?と疑問に思う。ある日、突然に人手不足になる訳では無く、この先も人手が不足する状況は改善されないだろうと予測が付くだろうと思われるので、そういう予測がたった時は廃業すればいいのにと思うので。実際、1000円の壁を越えられないと判断したラーメン屋は、廃業したという報道がされている。倒産ではなくて。
    これは、初期投資固定費用の多寡の問題なのか?ピザ屋は、窯などが高額で初期固定費投資が高いのか?ラーメン屋は余り設備が要らずに固定費が少ないので、倒産という事態に陥らずに、廃業という選択がし易いのか?

    1. 転勤族 より:

      都心部のラーメンは高価、かたや地方部はまだまだ安価な印象でした。
      ラーメンYouTuber「SUSURU」の動画を見ても、都心部のラーメン店は軒並み1000円を超えている様子でした。

      なので、
      巷で言われる「1000円の壁」は東京都心部は容易に超えたのではと思いながらも、都道府県別のラーメン単価比較ってあるのかなと検索してみると・・・
      ありました。

      2023年11月 日本地図でみる都道府県別の中華そば(外食)の値段・価格(参考グラフ)

      https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050006070101255/1

      データは小売物価統計調査(総務省)を基に作成しているとのことです。
      こちらのデータでは
      1位長崎県 797円
      2位大分県 780円
      3位山形県 773円

      意外な感じです。
      長崎県はちゃんぽんもラーメン(中華そば)に入れているからかなと想像するのですが、東京都は700円、大阪府699円で中心値より高め、愛知県は648円で中心値より低めです。
      また千葉県622円、神奈川県597円、埼玉県559円と意外に安価で、首都圏は東京のみ高い感じです。

      こちらは都道府県別単価を日本地図に色分けして表示してくれています。
      「ラーメン単価は西高東低」
      こんな結論になりそうです。

      1. さより より:

        レスありがとうございます。
        個人的には、ラーメンは殆ど食べないので、1000円がどうのはどうでもいいのですが。
        しかし、本当にラーメン好きなら、1000円の壁は軽く超える価格弾力性は持っているでしょうから、そういう人達を相手にする「良い値上げ」をした方がいいですね。
        いつまでも、見知らぬ不特定多数を相手を気にする商売から、自分の商品領域を好む客をターゲットにした商売にシフトチェンジしたらいい頃ですね。マクドナルドに習って。
        そう言えば、オタク商売(方法)は不滅ですって言える位に、人間はオタクになり易いのではないでしょうか?それを、白日の下にしたのは、AKB商法ですね。このサイトにも、オタク気質の強い方もチラホラ。

  5. CRUSH より:

    普通に考えれば、フィリップス曲線に合わせて
    好景気で求人倍率上げ
    倍率上で賃金上
    相対的に安い時給には人が集まらない
    (個別の例外は除いて)

    つべこべ言わずに今居る従業員の給料を予防的に上げればよいのにね。
    (と今居る従業員の立場から言ってみる)

    年末なので挨拶に来る業者さんとお話する機会が増えてきましたが、いまの若い人たちは転職サイトの1つや2つに登録しながら本業してるのが殆どなのだとか。
    中間管理職に求められるのは、
    「もっとエンゲージメントを改善しろ!」
    なんだそれ。(笑)

    それにつけても、本来はこういうときに吠えて吠えて吠えまくるのが組合の仕事なのに、なんにもアクションが聞こえてこない。
    ほんまに役立たず。

    大手メディアも、政権批判したいならスキャンダルなんかより賃上げキャンペーンすればいいのに無視。

    野党や大手メディアは、
    「うちは派遣ではなく全員が正規社員です!」
    「全員が業界平均より10%高です!」
    とかね。

    自分達は安い外注や派遣を使い倒してるから、絶対にそんなことには触れてこない(と思う)。
    ほんまに役立たず。

    1. さより より:

      >転職サイトの1つや2つに登録しながら本業してる

      中途採用した若い社員に訊くと、登録した途端に、50件は、紹介案件が送られて来ると言ってました。
      エンゲージメントよりも、給料ですね。どういう訳か、給料が高い会社は、エンゲージメントも良い傾向にあるような感じです。それは当たり前のような感じもします。給料が良ければ、良い人材が集まり、良い人材とは、基本的にエンゲージメントいう=他人との親和性を持つ能力がある人です。
      会社も、中韓管理職者にエンゲージメントなんて、エンゲージメントが湧かない横文字を使う前に、さっさと給料上げればいいだけのことなんですが、ね。

      1. さより より:

        手取り足取り育てた若い社員、漸く形ができて来ていよいよこれからばりばりリーダーとしてやって貰うぞ、と思ってたら、転職しますって。勿論、給料が高い会社へ。彼にも、扶養家族がいるので事情は分かる。家族には少しでもいい生活をさせてやりたい、という気持ち。残るのは、進歩はするけどやる気がイマイチなので、進歩速度が遅い社員。
        日本企業は、給料も横並びなので、社員のやる気と能力に応じた機敏な給与政策が取れない。そして、給与の全体源資は、薄く広くばら撒かれるので、有能な社員の退職を引き留める手段がない。エンゲージメントじゃ家族は、養えないから、エンゲージメントを感じていても、有能な社員は去り行く。風が無くても、一人で去って行きます。

        1. CRUSH より:

          システムエンジニア職種なら、今だと
          「5倍の年収」
          で即採用なのだそうな。

          (現地で働くのが条件ですが)

          35才くらいなら、あと五年だけしっかり死ぬほど働いて25年分の年収を得て、さっさとセミリタイヤするのも勝ち目あり、なんでしょうね。

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