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尹錫悦政権崩壊なら約束は再び反故にされる=鈴置論考

差し当たって岸田首相には、韓国観察者である鈴置高史氏を対韓外交の顧問として、三顧の礼を持って迎え入れることを強くお勧めしたいと思います。何の話かといえば、韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の先行きが怪しくなってきたなかで、自称元徴用工問題を巡る例の「岸田ディール」なども、すべて反故にされる可能性が出てきたからです。

岸田首相の功罪

政治家の評価は是々非々で

当ウェブサイトではこれまでも強調してきた、そしてこれからも強調するであろう論点のひとつが、「政治家を評価する際には、一面的に評価してはならない」、「政治家の功罪は是々非々で判断しなければならない」、などとする大原則です。

世の中に100%完璧な政治家というものはいませんし、逆に世の中に「本当に救いようがない」という政治家もほとんどいません(※皆無とは言っていません)。

こんなことを申し上げると、ごく稀に、「もう民主主義なんて、やめてしまうべき」、「私は次の選挙では棄権する(白票を投じる)」などと、したり顔で述べる人が出てきますが、端的にいえば、それは「愚かな行動」というヒトコトに尽きます。

私たち有権者の責務は、政治家も政党も決して完璧ではないという点を理解しながら、それでも「一番マシな候補者」を当選させる、あるいは「一番酷い候補者」を落選させることを通じて、この日本という国を少しずつ良くしていくことにほかならないからです。

もちろん、当ウェブサイトでは具体的に、次の選挙でどの候補者、どの政党、どの候補者にあなたの1票を投じるべきかについて指南したことはないと思いますし、今後も指南するつもりはありません(今のところは、ですが)。それを考える責任があるのは、あなた自身だからです。

しかし、大原則ならば述べることはできます。それは、こんな具合です。

選挙というものは、たった1回や2回で国を大きく変えることは難しい。けれどももしあなたが選挙に参加しなければ、棄権された1票分、この社会は間違いなく悪くなる」。

是非、これを忘れないでいただきたいと思います。

岸田首相をどう評価するか

さて、「この怪しい自称会計士め、今日も冒頭から何を偉そうに」、と呆れた方もいらっしゃるかもしれませんが、この「政治家というのは多角的な視点で評価すべきである」とする原理原則については、これからも折に触れて強調していくつもりです。

そして、この原則については、現在の岸田文雄首相についても、まったく同じように当てはまります。

ちょっとしたお叱りを覚悟で申し上げるなら、著者自身は岸田首相について、「平均的な戦後首相のなかではマシな方かもしれないが、故・安倍晋三総理大臣と比べると雲泥の差だ」、と考えています。

その理由はいくつかあるのですが、やはり具体的な政策を指摘していくのが手っ取り早いでしょう。

現在の日本経済は円安に直面しています。円安自体は岸田首相に功罪はなく、どちらかといえば黒田東彦・前日銀総裁が始めた異次元金融緩和が継続するなか、ジェローム・パウエル米FRB議長が主導する米国の利上げにより、円の需要が低下しているという要因が最も大きいと考えられます。

ただ、現在の日本経済が置かれた諸条件に照らすなら、円安は日本経済に対し、悪い影響よりも良い影響をより多くもたらしますが(『「日本は輸入大国でもある」は数字で見て正しいのか?』等参照)、せっかくの円安にも関わらず、原発の再稼働が進まなければ、その恩恵を完全に享受することは難しいでしょう。

その原発の再稼働や新増設にゴーサインを出したのが、岸田首相その人です。

安倍、菅両総理もできなかった防衛費増額も達成

それだけではありません。

岸田政権下では、たとえば小林鷹之・前経済安保担当相の活躍などにより、経済安保法制が成立し、同じく現在の経済安保担当相である高市早苗氏、安倍派の重鎮でもある西村康稔経産相らがこれをさらに深化させるべく、精力的に動いています。

また、岸田首相は防衛費増額を打ち出すとともに、いわゆる安保3文書を制改定しましたし、台湾海峡で存在感を強めつつある中国に対しては、一歩も引かず、主張すべきことをしっかりと主張しています(『是々非々で見る政治家:中国に一歩も譲らない岸田首相』等参照)。

さらには日米同盟の深化の裏側で、ステルス的に、日英連携、日豪連携も進んでいます。

米国、英国、豪州という、いわゆる「AUKUS」諸国との連携が進めば、将来の「JAUKUS」(日豪英米)4ヵ国連携に発展する可能性もありますし、こうした連携が成立すれば、中国の台湾への侵攻を断念させるうえで、大変に大きな抑止力となることも期待できるでしょう。

岸田政権の、こうした成果の数々については、正当に評価しなければなりません。とくに安全保障分野に関しては、下手をすると安倍総理、あるいは菅義偉総理大臣の時代だと円滑に進んでいなかった可能性がありますが、岸田政権下でこれらが大きく前進したことは間違いないからです。

いずれにせよ、「やらない方がマシ」な減税など、経済・財政政策面では失態が目立ちますが、少なくとも対中・対露外交などでは、やるべきことをしっかりとやっていると評して良さそうです(そのスピード感は別として)。

岸田首相の対韓外交

対照的にあまりに稚拙すぎる対韓外交

ただ、こうした岸田首相の「成果」の数々については素直に認めるべきではあるにせよ、やはり、岸田首相のこれまでの仕事のなかには、日本の国益にとっての「致命傷」といえる分野がいくつか存在することは間違いありません。

その典型例が、対韓外交です。

岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』などを含め、これまでに何度も述べてきたとおり、岸田首相は韓国との外交では、日本が大事にすべき原理原則をかなぐり捨て、韓国との極めて安易な妥協に走ったからです。

そもそも、菅義偉総理が辞任した時点で、あるいは文在寅(ぶん・ざいいん)前大統領が退任し、尹錫悦(いん・しゃくえつ)現大統領が就任した直後の時点で、日韓間には非常に多くの懸案が積み重なっていました。それを列挙したものが、図表です。

図表 日韓諸懸案(2022年6月頃までの状況)

©新宿会計士の政治経済評論

日韓間には竹島不法占拠問題、自称元慰安婦問題、自称元徴用工問題という、大きく3つの問題に加え、たとえば李明博(り・めいはく)政権時代から朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代に発生した諸懸案、文在寅政権時代の諸懸案などが多数まとわりついているという状況でした。

このうち、最近になっていちおうの「解決」を見た問題もあります。それが対馬の仏像窃盗問題です。先日、韓国の最高裁にあたる「大法院」が、仏像の所有権は日本の観音寺にあるとする判決を下したからです(『韓国最高裁「仏像の所有権は日本に」→日韓関係改善?』等参照)。

しかし、この問題にしても、韓国人窃盗団が観音寺から盗み出した「金銅観音菩薩坐像」の所有権が韓国の国内法で確定したというだけの話に過ぎず、盗み出された文化財を長らく日本に返還しなかったという罪が消えるわけではありません。

もっといえば、2012年の時点で、韓国人窃盗団は観音寺だけでなく、対馬の海神神社からは国指定の重要文化財「銅造如来立像」を、多久頭魂神社からは長崎県の指定有形文化財である「大蔵経」を、それぞれ盗みだしていたことを忘れてはなりません。

「銅造如来立像」は2015年に日本に返還された際、右手中指に破損が生じていましたし、「大蔵経」についてはついぞ行方が知れません。

正直、仏像返還判決が下りたくらいで、韓国の罪がすべて消え、日韓友好に向けて再び歩み出せると考えるのだとしたら、それは日本の世論を舐め過ぎでしょう。

自称元徴用工問題巡る不用意な妥協

ただ、こうしたなかで、岸田首相の「罪」といえば、日韓関係の一丁目一番地である自称元徴用工問題で、極めて安易かつ不用意な妥協をしたことにあります。

そもそも、2018年10月と11月、日本企業に対し、自称元徴用工やその遺族ら原告側に損害賠償を命じた大法院判決自体が、国際法に違反するものです。

わかりやすくいえば、日本の裁判所が「1945年のポツダム宣言は無効だ」とする判決を下したとして、日本国憲法が破棄されて大日本帝国憲法に戻るわけなどないのと同じく、国際法に反する判決を外国企業に強制しようとすること自体が、極めて非常識だったのです。

ちなみにこの自称元徴用工判決に代表されるとおり、韓国の日本に対する不法行為は、例を挙げればキリがありませんが、それらの多くは「二重の不法行為」という特徴があります。この「二重の不法行為」とは、韓国が日本に対して①ウソ・捏造・でっち上げに基づき、②法的根拠を欠いた内容を要求する、というものです。

日韓諸懸案に関する韓国の「二重の不法行為」とは?
  • ①韓国側が主張する「被害」の多くが韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • ②韓国側が日本に対して要求している謝罪や賠償の多くは法的根拠がないか、何らかの国際法違反・条約違反・合意違反などを伴っている

(【出所】当ウェブサイト『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)

自称元徴用工問題も、これとまったく同じ構図をとっています。

そもそも自称元徴用工らの多くに関していえば、日本によって「強制徴用」(?)されたという事実は証明されていません。そこにあるのはあくまでも「強制徴用された」と自称する者たちの「証言」であり、「物的証拠」はほとんどありません。

ちなみに余談ですが、こうした構図、自称元慰安婦問題とも、非常によく似ています。

自称元慰安婦問題の場合も、「戦時中、朝鮮人少女20万人が日本軍によって性的奴隷にされた」などとする与太話ですが、これに関しては岸田首相の「直前」の宏池会首相だった宮澤喜一のもとで、日本政府が「事実」と認めてしまったことが、現在に至る問題の根源となっているのです。

「仮定の御質問にはお答えいたしません」

さて、何度も繰り返すのは正直気が滅入るのですが、大事なことなので、岸田首相の過ちを指摘しておきましょう。

そもそも、自称元徴用工問題は「ありもしない問題」であり、純粋な韓国の国内問題です。なぜなら、違法判決を下したのは韓国の司法なのであり、その韓国司法は紛れもなく韓国の国家権力(三権)の一端を担っているわけですから、韓国の主権により、これを解決しなければならないからです。

これを「日韓問題」に位置付けること自体が、本来は誤りでした。安倍総理がそうしたように、あるいは菅総理がそうしたように、この自称元徴用工問題は、100%、韓国の国内問題であるとして、日本は突き放した態度を貫くべきだったのです。

ところが、今年3月、尹錫悦政権が「財団方式による解決案」を打ち出したところ、岸田首相が愚かにも、これを「日韓関係を健全な関係に戻すためのものと評価する」と述べてしまいました。

会見の様子については、首相官邸のウェブサイトの3月6日付『旧朝鮮半島出身労働者問題についての会見』に全文が掲載されていますが、看過できないのは、「不可逆性」(平たく言えば「韓国が約束を破らないかどうか、ちゃぶ台返しをしないかどうか」)に関する記者からの説明に対する、こんな回答です。

仮定に基づいた御質問にはお答えいたしません。先ほど申し上げました、こうした措置を評価するとともに、日韓関係が前に進んでいくことを期待する、そのために意思疎通を引き続き続けていく、それに尽きると思っています」。

国民の圧倒的反対を押し切った「ホワイト国戻し」

岸田首相自身が外相時代に当事者としてかかわった日韓慰安婦合意を筆頭に、韓国がこれまでに何度も何度も日韓間の約束を破ってきたことを踏まえると、岸田首相のこの発言はあまりに無責任であり、私たち有権者である日本国民を舐め腐っています。

おそらく筋書きを描いたのは「ウソツキ」で有名な外務省の小役人なのでしょうが、ちょっとあまりにも杜撰すぎます。

ちなみにその後もマスメディアなどが「日韓関係が改善された!」などとヨイショしてくれているのに気を良くしたのか、岸田政権下では信じられない対韓譲歩がその後も続いています。

たとえば、韓国を輸出管理上の(旧)ホワイト国に戻す輸出貿易管理令の改悪については、7000件を超す国民の意見(サンプル調査によればそのおよそ95%は反対意見)を押し切り、強引に決定されてしまいました(『ホワイト国復帰パブコメ賛成23個・反対78個の転載』等参照)。

(※なお、もしこの決定について、納得がいかない、あるいは意見がある、などの方は、経済産業省・貿易経済協力局・貿易管理課の黒田課長、担当の平山氏・稲葉氏らに対し、できれば業務時間中にでも直接連絡してあげてください。電話番号は03-3501-1511・内線 3295だそうです。)

また、韓国軍によるなかば犯罪的な不法行為である火器管制レーダー照射事件に関しても、岸田政権はこれを不問に付してしまいましたし(『FCレーダー照射は不問?自民岩盤支持層失う岸田政権』等参照)、日韓通貨スワップだって推進しようとしているほどです。

岸田首相のこうした対韓外交は、後世に重大な禍根を残したことは間違いありません。

尹錫悦政権の危機を説く鈴置論考

尹錫悦大統領は「政治が下手」

ただ、この不可解ともいえる岸田首相の対韓外交、もしかすると、外務省に加え、新聞、テレビなどのオールドメディアが褒めそやしているのを見て、岸田首相自身は何が悪いのか、本当にまったく理解できていない可能性が出てきました。

そのヒントとなり得る、そして可能ならば、できるだけ多くの日本人に今すぐ読んでいただきたい論考が、これです。

日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する「尹錫悦政権」の現在

尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が分解し始めた。来年4月の総選挙で大敗し、一気にレームダック化すると見る向きが増える。「大統領弾劾の可能性さえ出てきた」と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。というのに、岸田文雄政権は尹錫悦頼みの「日韓友好」にしがみついたままだ。<<…続きを読む>>
―――2023年11月20日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

韓国観察者の鈴置高史氏が20日、尹錫悦政権が「空中分解の危機にある」と指摘しました。

記事の分量は7000文字近くに達し、ウェブページに換算したら5ページという長大な論考ですが、ざっくりいえば、前半で現在の尹錫悦政権が立たされている苦境について丁寧に解説されており、後半では岸田首相の「危うさ」、そして我が国のネット上での岸田首相らに対する冷ややかな反応が紹介されています。

タイトルの「岸田首相は気付いていない」、リード文の「尹錫悦頼みの日韓友好にしがみつく岸田首相」、言い得て妙です。こう申し上げては失礼かもしれませんが、少なくとも対韓外交に関していえば、岸田首相は何も考えていないように見えてならないからです。

ただ、長文ですが、いつものように豊富な実例付きで丁寧に説明されているため、長文の負担を感じずに、流れるようにあっという間に文章を読めてしまうことは間違いありません。丸ごと全文引用したい衝動に駆られてしまいますが、本稿では敢えてこの論考の後半部分を重点的に紹介したいと思います。

といっても、前半部分にも魅力的な記述が多々あるので、余談的に1箇所だけ、こんな記述を紹介しておきたいと思います。

――なぜ、『政治が下手』なのでしょう。
鈴置:大統領選挙に出馬するまで、政治経験が全くなかったからでしょう。検事のノリで物事を『正邪』で判断する。清濁併せ呑んで多数派を形成し、政策を実現するという現実策がとれない
」。

このくだり、鈴置氏がどういうつもりでこう書いたのかはわかりませんが、当ウェブサイトなりに解釈するならば、「韓国云々」とは無関係に、さまざまな場面で成り立つ原則ではないかと思います。

財務省という必要悪(?)を麻生太郎総理に抑えさせておき、自身は外務省を抑え、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を引っ提げて世界中で外交を繰り広げた安倍総理、公明党や二階俊博氏、「小石河連合」などと良好な関係を保つ菅総理あたりは、この「清濁併せ呑む」というイメージにマッチします。

(※なお、麻生総理や菅総理が現実に自民党内で多数派を形成しているかどうかに関しては、まったくの別問題です。)

尹錫悦政権の危機が意味するもの

余談はこのくらいにして、本論に入っていきましょう。

鈴置氏は現在、尹錫悦政権が危機を迎えていると指摘します。

その理由はいくつかあるのですが、もし来年の総選挙で与党「国民の力」を中心とする保守が敗北すると、韓国の政治システム上、大統領の権限が急速に弱まる、という点が大きいでしょう。

  • 野党は憲法を変えられるようになります。大統領の拒否権も事実上、消滅します。何よりも注目すべきは大統領弾劾ができるようになることです」。
  • 「<大統領弾劾は>朴槿恵(パク・クネ)大統領への弾劾が成功して以降、韓国では異例な政治手法ではなくなった。日本で言えば『内閣不信任案』くらいの軽い感じになりました」。
  • 仮に韓国が通貨危機に陥れば即、弾劾ということになるでしょう」。

尹錫悦政権がそんな不安定な状態にあるという話を、果たして外務省は岸田首相に対し、適切に説明していたのでしょうか?あるいは外務省がそういう情報を首相に隠していたとして、岸田首相は外務省のアドバイスなしにそういう状況に気付けるほどのインテリジェンスを持っているのでしょうか?

答えは指摘するまでもないでしょう。「尹錫悦政権の弱体化に岸田氏は気付かないのでしょうか」という問いに対し、鈴置氏はこう説きます。

全く気付いていないと思います。11月17日、岸田首相は尹錫悦大統領と共に米スタンフォード大学で開かれた討論会に出席し、日韓共同で水素など脱炭素燃料の供給網を構築すると表明。さらに量子技術の分野で共同研究体制を作るとも発表しました」。

つくづく、愚かなことです。

大法院長人事が決まらない

ちょっと順番は前後しますが、記事では「もし尹錫悦政権が倒れたら、岸田政権との約束も反古になる」との視点から、こんな指摘がなされています。

  • 左派政権に戻れば、韓国は再び米国離れし安保危機に直面する。というのに、保守は内部抗争に明け暮れ、左派に政権を奪われそうになっている。『今が国運の分かれ道』と、元老記者がまなじりを決した観があります」。
  • いわゆる徴用工問題で、尹錫悦大統領は日本企業に勝訴した韓国人とその遺族に対し、韓国政府傘下の財団が賠償金相当の金額を支払う、という『肩代わり案』を提示し、岸田首相もこれを呑みました。<中略>ところが韓国の裁判所は供託手続きを認めず『解決案』は完全に宙に浮きました」。

これは気になる記述です。

鈴置氏によると、じつは2023年9月で任期満了となった、左派の大法院長の後任に、保守系の候補者を指名したところ、国会で多数を占める野党「ともに民主党」がその候補の就任を拒否したというのです。結果、現在に至るまで、あらたな大法院長が就任するメドは立っていないのです。

すると、自称元徴用工問題を巡る「肩代わり案」は、どうなるのでしょうか。

  • 総選挙で『共に民主党』が力を増して左派の大法院長が誕生すれば『肩代わり案』は司法の場で完全に葬り去られるでしょう。<中略>日本はまたも食い逃げされることになりそうです」。
  • 岸田政権は『肩代わり案』の見返りに、この要求<※注:安倍、菅両政権が要求していた韓国の国際法違反状態の是正>を降ろしてしまった。韓国に左翼政権が誕生すれば『キシダは判決の正当性を認めたではないか。日本企業に賠償金を払わせろ』と言ってくる可能性が大です」。
  • 岸田氏は外相時代に続き、首相になっても韓国に騙され続けているのです」。

これがホワイト国戻し、通貨スワップ締結の約束、FCレーダー照射不問の3点セットに加え、最近出てきた「科学技術分野での日韓連携」です。

国民はよく理解している

そして、この岸田首相の不可解な動きを、最近の支持率の急落と関連付けているのが、今回の鈴置論考に対し、著者自身が最も深く感銘を受けた点です。

岸田政権のもう1つ救い難いところは『日韓友好』を演出すれば、支持率が上がると思い込んでいることです。11月11日、日経は討論会に先駆け、朝刊1面トップでこの先端技術協力を報じました。政権は『韓国との協力を進める』と宣伝すれば国民から好感を持って迎えられると計算し、日経にリークしたのでしょう」。

では、現実に支持率は上がったのでしょうか。

日韓友好を演じようがどうしようが、残念ながら、『岸田首相への解散封じと財務省「倒閣運動」仮説の関係』でも指摘したとおり、現実にはたとえば読売新聞の調査で、支持率は24%と「発足以来最低」を更新しています。

ちなみに鈴置氏もこう指摘します。

ネット上には『日本が勝負どころとして選び、研究を進めてきた量子技術を韓国に渡すのか』といった反発が目立ちます。尹錫悦政権が空中分解する前から、多くの日本人が『韓国は信用できない国』と見切っているのです」。

減税を掲げて支持率を落としたのと同根の失敗です。岸田政権を仕切っている人たちは、よほど政治的なセンスに乏しいのでしょう」。

じつは、この指摘は、当ウェブサイトでも長らく追いかけている、「日本国民の意識の高さ」と「日本の政治家と官僚のレベルの低さ」という論点とも密接に関わってきます。

この点、非常に残念なことではありますが、岸田首相が今すぐ退陣したとして、岸田首相よりも優れた政治家が後継者となるという保証は、どこにもありません。

岸田首相、いっそ腹を括っては?

ただ、それでも希望は捨てるな、です。

ここから先は完全に当ウェブサイトのオリジナルですが、冒頭にも申し上げたとおり、選挙というものはたった数回で日本を劇的に良くするための手続ではありません。むしろ三歩進んで二歩下がるくらいの、非常に遅い歩みでしか、良くならないのです。

しかし、決して希望を捨てないで良い確たる根拠もあります。

それは、「私たち日本国民自身が非常に賢明である」、という事実です。

対韓外交に関していえば、ウソツキ外務省の小役人どもがどんな筋書きを書こうが、圧倒的多数の日本国民は、「韓国ではどうせ政権が変わったら約束など反故にされる」と見抜いています。

対財務省に関しても同様で、一時的な減税で国民の目を欺こうとしても、その後になんだかんだで屁理屈を捏ね、増税に持ち込もうとしているという点を、私たち日本国民は見抜いているのです。

ここまでくれば、岸田首相もそろそろ腹を括るべきでしょう。外務省や財務省、あるいは自民党・宏池会の主流派を敵に回してでも、本気で日本のために頑張るより方法はありません。

今からでも遅くはありません。

対韓外交では、まず尹錫悦大統領に対し、「2015年の慰安婦合意を直ちに履行せよ」と問いただすべきです。対財務省外交では、財務官僚らに対し、「税収弾性値を頑なに1.1に置いているのは間違いだ。3か4に置いて再計算せよ」、と迫るべきです。

もし官庁が抵抗するようなら、たとえば官庁の利権をぶっ壊すために、「消費税法廃止」「NHK廃止」などを公約に掲げて戦ってみてはいかがでしょうか。逆にそれらの公約を掲げて自民党が圧勝しようものなら、有権者の圧倒的な支持を前に、官僚どもは抵抗できなくなってしまうでしょう。

小泉純一郎元首相が郵政解散で民意を問い、圧勝した事例を、岸田首相は忘れてしまっているのでしょうか。

記憶媒体の価格が年々下がっていることを思い出すまでもなく、記憶力は大事ですし、優秀なブレーンも必要です。差し当たって岸田首相には、鈴置高史氏を対韓外交の顧問として、三顧の礼を持って迎え入れることを強くお勧めしたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 岸田文雄が括るとしたら、腹ではなく首の方がまだ括れそうな気が。

    優柔不断、右往左往って人物評を覆す覚悟をするタイプじゃないと観てます。

    聞く力を謳いますが、色々な人の意見を聞いて自分の中でこなして自分の意見を持つタイプというより、人の意見が自分の意見になるタイプに見受けられるのがネックですかね。

    • 良く言えば素直。
      悪く言えば単純。

      他人の話しを「そうなんかなぁ…」と一旦置く感じじゃ無いですね。

  • 岸田くらい「看板に偽りあり」を地でいく政治家いや「詐欺師」はいないのではないかな。そして国会議員がこの危機にどう対処すれば、、しているのかが見えない。このサイトがどれだげ有益かは知らない。ただ議論のなかには国民の声がギッシリつまってはいると思う。岸田がここを訪れたらちったぁ違うだろうに。あの鈴置氏が注目するくらいだからね。

  • 米国は中共に対し最先端の半導体製造装置の提供を規制しました。
    これに使われる材料の多くは日本が製造しています。
    日本にも規制を要請して来る可能性がある。
    中共は慌ててキシダに命じて韓国をホワイト国復帰させました。
    迂回輸出が上手く行くとは限りませんが、手は打っておく。
    日本の業者も「少しでも多く輸出できれば」との目論見。

  • 素朴な疑問ですけど、韓国の尹大統領政権の寿命と、岸田内閣の余命、どちらが先に尽きるのでしょうか。

  • (韓国世論も食逃げ)
    喉元過ぎれば熱さ忘れるのが、韓国世論の特徴なのかと。
    安保危機の回避を見て、尹政権は用済みなのかもですね。

    (日韓間での食逃げ)
    お品書きを打ち合わせるのは勝手なのですが、代金は先払いでどうぞ・・。

    岸田メガネは、その場しのぎの「近視眼」。
    求められるのは「未来を見とおす双眼鏡」。

    *日米韓ではなく、日米間での連携こそが肝要ですね。

  • >安倍、菅両総理もできなかった防衛費増額も達成

    様々なパラメータを考慮した(であろう)上で増額を行わなかった(行えなかった)前者と,
    後先考えず(もしかしたらただただアメリカに言われるがまま)増額を行った後者。
    これをもって岸田の功とは言いたくないですね。

    ※すべて個人の感想です

    • アメリカからの武器購入が中心なるのではないでしょうか?
      日本の防衛力強化に役に立つかどうか分かりませんが。

    • 良いです
      >後先考えず(もしかしたらただただアメリカに言われるがまま)増額を行った後者。

       これで良いです。兎に角我が国の軍備が増強されれば、それで良い。

  • 反日? 必ずやるね。
    政権の支持率が落ちてきたとき。バイデン政権が終わるとさらにやりやすい。

  •  韓国の次期大統領に左派がなれば、またぞろ「徴用工合意」がちゃぶ台返しされるかもしれないことは、ある意味想定の範囲内なので、それが岸田政権の致命傷になるとは、思いません。
     というより、韓国の次期大統領(2027年5月)まで、岸田政権が続く可能性は、限りなくゼロに近いのではないでしょうか。
     支持率回復を狙ってぶち上げた所得税減税が、国民に「人気取り」と見透かされたダメージは大きい。望み薄は承知で、国民の方を向いて一生懸命政治に取り組んでください。6月まで頑張って、駄目なら潔く後進に道を譲って欲しい。それ以外は、もはや期待しておりません。

  • >ここまでくれば、岸田首相もそろそろ腹を括るべきでしょう。外務省や財務省、

    外務省相手なら多少やれるかもしれませんが、財務省を向こうに回すと速攻で潰されそうな気がします。
    それ以前に、本人がそこに問題があることに気づくことが先ですね。
    何光年先だろう。

    「悪いことしてないのに…」漏らした首相 最低支持率が与えた衝撃
    https://www.asahi.com/articles/ASRCN6H18RCNUTFK00P.html

    • 岸田氏は増税を口にしてみては世論の反応をみて取り下げる、を続けていて、結果的には大きな増税を決めていません。

      「使えない操り人形」を演じる、岸田氏なりの対財務省対策の深謀遠慮である可能性も・・・
      あるかもしれない、ないかもしれない。

  • この閉塞感はなんなんだ?与党でも中国ブイに即時撤去の強硬論を述べたのは高市早苗のみだし中国の海産物輸入禁止措置に異議を申し立てたのも同氏しかいない。野党もたらしがない。原則論に終始し具体案に乏しい。硬骨の政治家が欲しい。

    • そして その高市氏いじめに奔走する自民党古参議員連中。池田大作氏死去に伴い 自公連立が破綻すれば なにかが変わるかもしれない。吉と出るか凶と出るか。この閉塞感には耐えられない。

      • 失礼します。高市氏がこの閉塞感を打破するとしたら、保守党合流、国民民主党、日本維新の会と一つの政党になれば、大きなうねりになるかも知れない。ここにクリーンな政党に成れれば参政党も合流する、、という夢を夢想する。高市氏は自民党では総理、総裁は無理ではないか。でもなぁ、、保守党は全貌がわからないし、参政党は小さいし海の物とも山の物ともわからないしなぁ。茂木敏充か上川陽子とみるが。

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