入国管理上もロシア船舶の入港は特定港湾に限定すべき

観光などの目的で日本に入国したロシア人が、2023年9月には4,300人と、9月としては2016年と並ぶ水準に達しました。この情勢下で日本に観光にやってくるロシア人がいるというのも驚きですが、それとともに少し気になる話題も出てきました。税関、入国管理などの体制が十分とはいえない石川県七尾港に、34年ぶりに外国船舶が入港したというのです。

入国外国人の急増

先日の『9月も訪日外国人は過去最多ペース:観光公害対策急務』でも取り上げたとおり、日本政府観光局(JNTO)が公表した『訪日外客統計』によると、今年9月における訪日外国人数は2,184,300人(※速報値)となりました。

訪日客が200万人を超えるのは4ヵ月連続のことであり、また、9月の訪日者数としては、2017年、2019年に次ぎ、過去3番目に多い水準です(図表1)。

図表1 日本を訪問した外国人合計(月次)

(【出所】JNTOデータをもとに著者作成)

例年だとハイシーズンは7月頃までなのですが、今年に関しては訪日客数がじわじわと伸び続けており、また、漏れ伝わるところによると、10月も中国の国慶節にあわせ、日中間を結ぶ航空便は満席が続いていたのだそうです(※ただし、10月分のJNTOデータが公表されるのは11月を待つ必要があります)。

訪日外国人が増えていることについて、当ウェブサイトとしては「手放しで喜ぶべき話ではない」、とするスタンスではあるにせよ、現在の日本が「インバウンド大国」となりつつあることは間違いありません。

ロシア人の入国者も増えて来ている

ただ、日本を訪れる国は、やはり近隣の4ヵ国・地域(中国、韓国、香港、台湾)や米国などに偏っており、欧州が少ないなどの特徴もあるのですが、それだけではありません。

「隣国」であるはずのロシア、北朝鮮の2ヵ国・地域からの訪日者数については、JNTOデータの「訪日者数上位」にはあがってきません。

北朝鮮の場合はそもそも統計区分が設けられていませんので、北朝鮮からの入国者数を把握することは困難ですが、日本政府は制裁の一環として北朝鮮国民の日本への入国を原則として禁止しているため、現実問題として、ほぼゼロに近いというのが実情なのでしょう。

その一方で、もうひとつ興味深いのが、ロシア人です。

JNTOデータをもとにロシア人の入国者数をグラフ化してみると、ここ数年で最も低調であることが伺えるのですが、それと同時にこの9月に関しては、ロシア人の訪日者数が2016年の水準にほぼ並んでいることがわかります(図表2)。

図表2 日本を訪問したロシア人

(【出所】JNTOデータをもとに著者作成)

具体的には、2023年9月の入国者数は4,300人(速報値)で、これは2016年9月の4,485人と並ぶ水準ですが、いずれにせよロシア人の日本への入国は続いている、ということです。

いったい、何が生じているのでしょうか。

日本はロシア人の入国を禁止していない

じつは、西側諸国のいくつかはロシア人に対し、観光ビザでの入国を禁止するなどの措置を講じているのですが(たとえば次のBBCの報道にある、フィンランドの事例がその典型例でしょう)、調べたところ、少なくとも日本政府がロシア国民全般を入国禁止にしているという事実はありません。

フィンランド、ロシア人の観光ビザでの入国を禁止 EU最後の陸路が閉鎖

―――2022年9月30日付 BBC NEWS JAPANより

もちろん、ロシア国籍保持者には日本に入国する際の「ビザ免除プログラム」が適用されませんが、それでも外務省『ロシア国籍の方が短期滞在を目的として日本へ渡航する場合』などによれば、ビザを申請すれば、日本に入国できます(ビザには1回きりの「1次ビザ」に加え、複数回使用可能な「数次ビザ」があります)。

現在、ロシア人の通貨・ルーブルは外貨への両替が難しく、また、ロシア人が持っているクレジットカードも国際ブランドのサービスの提供が中止されているため、ロシア人が海外旅行をするためには外貨(米ドルやユーロ、日本円など)の現金を持ってくるしかないなど、結構大変そうです。

しかし、9月だけで4,000人を超えるロシア人が日本に入国しているという事実は、細々とではあるにせよ、日露の人的交流が続いている、ということかもしれません。

なお、外務省のデータ『海外在留邦人数調査統計』によると、ロシアに在住する日本人は2022年10月時点で1,321人に過ぎず、おそらくこの人数は今後も減っていくことでしょう。

しかし、法務省のデータ『在留外国人統計』によれば、2022年12月時点で日本に在住するロシア人は10,681人に達しているそうですので、もしかしたらこの4,300人という人たちのなかには、親族訪問などでやって来ている人もいるのかもしれません。

七尾港に34年ぶり外国旅客船

こうしたなかで、「歓迎されざるロシア客船」、という話題がありました。

なぜ来たロシア客船 地元は困惑、乗客喜ぶ

―――2023/10/25 08:01付 Yahoo!ニュースより【北國新聞配信】

記事を配信したのは北國新聞ですが、これによると、石川県の七尾港に24日、ロシアから旅客船が入港。七尾港に外国旅客船が入港するのは34年ぶりということもあり、「関係者や市民に驚きと困惑が広がった」のだそうです。

また、この船舶は「観光を目的に週1回往復する計画」とされ、「北陸に住むロシア人らが歓迎する」一方、ロシア情勢に詳しい筑波大の中村逸郎名誉教授は「スパイ行為に注意すべきと警鐘を鳴らした」、などとしています。

ちなみに北國新聞の記事にもあるとおり、じつは、新潟や伏木富山などは、伝統的にロシアのウラジオストクに向けた航路があります。したがって、本来ならば外国船も、こうした港湾に入港するのが自然です。

ところが、七尾港の場合はCIQ(税関・出入国管理・検疫)の体制が充実しているとは言い難いようであり、北國新聞はこう述べます。

金沢港にもCIQの専用施設があるが、七尾港の入国管理は港内にある七尾海陸運送などが入る施設『ポートサイド七尾』の一室を間借りしている」。

中村名誉教授が「スパイ行為に注意せよ」と指摘したゆえんも、「管理体制が比較的緩い港として七尾を選んだのではないか」との指摘にあるのだとか。

しかも、北國新聞の取材によれば、第1便の乗客は往来で計8人のみであり、入国者のうちの40代男性と30代女性の行き先はわかっていないといいます。このことから中村名誉教授は、今回の入国者も「観光ではなく、兵器の生産に必要な電子部品の入手を目的にしている可能性も捨てきれない」などとしているそうです。

ついでに申し上げるなら、電子部品を入手したとしても、それをロシア本国に持ち帰るという作業が必要なのですが、たしかに税関の検査能力が弱い港を突くことで、日本からロシアへの禁輸品目をコッソリ持ち出せる可能性は上がるかもしれません。

ロシア船舶が入港可能な港湾を限定すべきでは?

このあたり、ロシア国民はビザ要件さえ満たしていれば日本への入国が可能なのでしょうが、西側諸国が一致団結してロシアのウクライナ侵略の試みを失敗に終わらせようと努力しているなか、たしかに日本が「抜け道」になるということは懸念点でしょう。

このように考えていくと、経済制裁の対象国との往来手段を制限することも検討すべきでしょう。

そういえば、かつて北朝鮮の万景峰(まんけいほう)号が新潟港に出入りしていた時は、同号が日本産の嗜好品や電子部品などを満載していたという話もあります。航空便と比べ、船便だと荷物を大量に運ぶことができるため、禁制品の輸出も容易になる、という事情もあるのかもしれません。

よって、たとえば、ロシア向けの輸出品目については新潟港に集約し、ロシア行きの船便についてはとくに検査を厳格化することで出入国管理を強化する、といったことも、検討すべき課題でしょう(もっとも、わが国の法制上、特定国の船舶の入港を特定港湾に限定することを命じることができるかどうかは微妙ですが…)。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク@悲観的 より:

    タイミング臭いし普段貨物しか来てない港にわざわざも臭い
    密輸等イリーガルアクトもモチロンだけれども意外と亡命ルート拡大整備の一環だったりしたら…イヤだな

  2. サムライアベンジャー(「匿名」というHNは、在日コリアンの通名と同じ恥ずべき行為) より:

     この情勢でロシア人を入国させている日本政府もなんだか、ですね。

     人には、確かにそれぞれの理由があると思いますがロシア人個人には何の関係はないといえるものの、入国制限はすべきかと思います。

     専門家があまりいないので把握しにくいですが、密輸やロシア人スパイもやられているでしょう。

     北朝鮮からは直接入ってきませんが、脱北者の北朝鮮人が韓国経由で年間1000人くらい日本に入国しているといわれています。北朝鮮政府に問題があるだけで北朝鮮国民には罪はないと思いますが、この辺も制限してもらいたいですね。

     (コメント入力フォーム上にカーソルを置こうとすると、カーソルがなぜか消えてしまいます。使いにくいのでご確認いただければ幸いです。消すように設定しても何も意味がないと思うので))

    1. サムライアベンジャー より:

      ※上記、自分のブラウザの問題のようです。失礼しました。

  3. 福岡在住者 より:

    七尾ってのに笑が止まらない。 和倉温泉・加賀屋に泊まる(実際そうかも)富裕層の演出か? パスポート調査とかも当然やるのでしょうが、相手がロシアですからね・・・。 その後、EIZOとか石川製作所とかコマツに行くのでしょうか? 

    富山県新湊港に行かないのは、貨物港(ロシア発木材・帰路日本中古車)だからですか? 富山県以上の大自然ロシア人は、ここの自然に魅力を感じないのかもしれません。 シランケド。

    その後、岐阜・愛知を経由して関東・新潟経由で帰るのでしょうかね。 スパイ大作戦なんてそんなに簡単ではない。

  4. クロワッサン より:

    覚醒剤約113キロ密輸か ウクライナ人とロシア人3人逮捕 富山
    2023年10月26日 14時25分
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231026/k10014238201000.html

    金の為ならロシアとウクライナは仲良くなれますね。

    金がつなぐロシアとウクライナの友好(*´∇`*)

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