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出国台湾人にとってコロナ後の「最大の渡航先」は日本

今年の外交青書(P51)によると、日本にとって台湾は、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」です。そんな台湾から見て、渡航先のトップが日本であることが判明しました。距離的な近さに加え、最近だと半導体大手のTSMCが熊本に工場を設けるなど、ヒト、モノ、カネの往来が盛んになり始めています。

インバウンドvsアウトバウンド

いわゆるインバウンド需要――すなわち「日本を訪問する外国人の人数」などに関する話題については、先日の『月間訪日外国人200万人突破も…観光振興の落とし穴』などを含め、これまでに当ウェブサイトでしばしば紹介してきたとおりです。

ただ、これらの話題を巡って、おそらくこんな疑問を抱く人もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本にさまざまな国からさまざまな人が訪れていることはわかったが、では、日本人はどこの国に何人出かけているのか」。

残念ながら、これに関し、信頼し得る、網羅的な公的統計データというものは、存在しません。たとえば日本政府観光局(JNTO)は、入国した外国人の国籍別統計については公表しているものの、外国に渡航した日本人の行き先別統計などは作成されていないのです。

これについてはJTB総研が公表する『アウトバウンド 日本人海外旅行動向』などのページで、おそらくはJTB総研が主要国の統計をひとつずつ調べ、エクセルにまとめてくれているものが、日本で手に入るなかで、最も網羅的なデータでしょう。

ただ、このデータにしたって、「中国を訪れた日本人の人数」を知ることはできません。中国政府が自国を訪問した外国人に関するデータの公表を2016年3月以降取りやめてしまったようだからです。

また、日本以外に特定国の観光統計を深く分析している事例を探してみると、少し怪しいサイトで恐縮ですが、『新宿会計士の政治経済評論』というものがあるようです(たとえば『韓国は「コバンザメ観光開発」に活路を見出すのも一手』等参照)。

本稿は、ちょっとした「感想」です。もしもあなたが韓国観光公社の担当者で、「訪韓外国人を増やす」ことだけを目的とするならば、自国を「日本の一地方である」と誤認させることで、米国や欧州などの旅行会社に「コリア・イン・ジャパン」(おっと…)といったツアーを売り込む戦略は、決して間違っていません。一種の「コバンザメ戦略」、というわけです。韓国政府が現実にそれをやっているフシがあるのは気になるところですが…。訪韓外国人は月間100万人直前先日の『ノージャパン忘却の韓国…「殴られた日本」は忘れない』でも指摘し...
韓国は「コバンザメ観光開発」に活路を見出すのも一手 - 新宿会計士の政治経済評論

台湾を訪れる「外国人」トップは香港・マカオ、日本は2番目

さて、それはともかくとして、日本人がよく行く相手国のひとつに、台湾があります。

これに関して色々調べていくと、台湾政府交通部観光局が公表する「観光統計」のなかに、台湾を訪問した外国人の居住地だけでなく、出国した台湾人の渡航先に関するのもの含まれているのを発見しました。

データのダウンロードが月単位でしかできないなど使い勝手が悪いのですが、これについて2023年1月~6月の累計データを確認すると、なかなかに興味深い事実が判明するのです。

まずは、台湾を訪問した外国人の累計を集計すると、図表1のとおり、香港・台湾がトップを占め、これに日本、韓国が続き、4位に米国がランクインしていることがわかります。

図表1 訪台外国人(2023年1月~6月)
出身地 入国者数 構成比
1位:香港・マカオ 443,580 16.50%
2位:日本 324,420 12.07%
3位:韓国 313,000 11.64%
4位:米国 231,182 8.60%
5位:マレーシア 202,784 7.54%
6位:シンガポール 198,749 7.39%
7位:ベトナム 193,869 7.21%
8位:タイ 190,195 7.07%
9位:フィリピン 149,604 5.56%
10位:インドネシア 95,820 3.56%
その他 345,725 12.86%
合計 2,688,928 100.00%

(【出所】台湾交通部観光局『來臺旅客居住地分析』データをもとに著者作成)

台湾訪問者数は基本的にアジア近隣諸国が多いのですが、米国からの入国者が231,182人で全体の10%弱を占めているのは、日本や韓国と事情はよく似ています(※なお、原文では「外国人」などの用語は使われていません。中国、香港、マカオが台湾と同じ「中華民国」であるとの前提があるからでしょうか?)。

中国人観光客は戻らず

コロナ前の2019年1月~6月と比較しておくと、中国人(データでは「大陸」)からの入国者が全体の3割近くを占めていたのですが(図表2)、中国人観光客が戻っていないという事情は、日本も台湾も似たようなものかもしれません。

図表2 訪台外国人(2023年1月~6月)
出身地 入国者数 構成比
1位:大陸 1,677,009 28.06%
2位:日本 978,974 16.38%
3位:香港・マカオ 821,012 13.74%
4位:韓国 555,565 9.29%
5位:米国 295,672 4.95%
6位:マレーシア 265,142 4.44%
7位:フィリピン 258,380 4.32%
8位:シンガポール 209,704 3.51%
9位:ベトナム 205,468 3.44%
10位:タイ 205,462 3.44%
その他 504,871 8.45%
合計 5,977,259 100.00%

(【出所】台湾交通部観光局『來臺旅客居住地分析』データをもとに著者作成)

台湾人の渡航先のトップは日本

さて、その一方で、興味深いのが、台湾人の渡航先です。

これについて調べてみると、2023年1月~6月の期間、出国した台湾人は4,924,951人だったそうですが、その渡航先のトップは日本で、合計人数は1,793,250人、出国者全体に占める割合は3分の1を大きく上回る36.41%でした(図表3)。

図表3 台湾人の渡航先ランキング(2023年1月~6月)
渡航先 人数 構成割合
1位:日本 1,793,250 36.41%
2位:中国 599,837 12.18%
3位:韓国 409,174 8.31%
4位:ベトナム 347,040 7.05%
5位:タイ 344,031 6.99%
6位:香港 315,303 6.40%
7位:米国 224,637 4.56%
8位:シンガポール 153,933 3.13%
9位:マレーシア 105,190 2.14%
10位:フィリピン 95,133 1.93%
その他 537,423 10.91%
合計 4,924,951 100.00%

(【出所】台湾交通部観光局『中華民國國民出國_按目的地分析』データをもとに著者作成)

この統計自体、たとえば「同じ人が複数の国を訪問する場合にはどうなるのか」、「最終的な目的地が日本でも、乗り継ぎで韓国を訪れた場合は、日本が1人、韓国が2人とカウントされるのか」、など、データの読み方に関する疑問点がないわけではありません。

ただ、とりあえずこの統計を信頼するならば、台湾人にとっての圧倒的な人気の渡航先が日本であることは間違いありません。

台湾から見て、たとえば沖縄県那覇市は台北から直行便で1時間半程度でたどり着けるなど、最も近い外国のひとつです(※ただし台北から東京だと3時間程度かかるようですが…)。こうした事情も、台湾人から見て、日本が人気の渡航先である理由なのかもしれません。

コロナ前と比べ中国への渡航者数が激減した

比較のために、2019年1月~6月のものも掲載しておきましょう(図表4)。

図表4 台湾人の渡航先ランキング(2019年1月~6月)
渡航先 人数 構成割合
1位:日本 2,498,903 29.01%
2位:中国 2,003,023 23.25%
3位:香港 958,863 11.13%
4位:韓国 589,384 6.84%
5位:タイ 406,624 4.72%
6位:ベトナム 401,595 4.66%
7位:マカオ 298,693 3.47%
8位:米国 282,836 3.28%
9位:シンガポール 192,092 2.23%
10位:フィリピン 160,117 1.86%
その他 822,074 9.54%
合計 8,614,204 100.00%

(【出所】台湾交通部観光局『中華民國國民出國_按目的地分析』データをもとに著者作成)

図表3と図表4の比較に基づけば、コロナ前の2019年1月~6月と比べ、台湾人の出国者数自体はおよそ6割弱にまで落ち込んでいるのですが、とくに渡航先で2位である中国への渡航者数が3分の1弱へと激減しています。

想像するに、台湾人の中国への渡航動機はビジネス需要というものも多かったのではないかと思いますが、これがまだ本格的に回復していないようなのです。

台湾は基本的価値共有する大切な友人

いずれにせよ、ひそかに日台両国間の「ヒト、モノ、カネ」の流れが徐々に増え始めているように見えるのは、興味深いところです。台湾の半導体大手のTSMCが熊本に進出し、工場やオフィスなどを稼働させつつあるなかで、日台間の結びつきは徐々に深まっているのだとしたら、新たな時代の変化といえるかもしれません。

この点、外務省は外交青書のなかで、台湾について、次のように述べています。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(令和5年版外交青書P51)。

中国、ロシア、北朝鮮などの4つの無法国家に近接している日本にとって、日本の近隣にある法治国家である台湾との関係は、極めて重要です。今回の台湾の統計からも、日台両国が関係を深めていることをうかがい知ることができるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 文創(文化創意)というものがあります。現代台湾人の心の深層を知る重要な手がかりです。
    かの国に暮らす大半は中国人です。大陸と台湾とでこうまで違ってしまったのはなぜかを解きほぐすにあたって、その違いの本質は半世紀50年にわたった日本統治日本文明の恩恵であったことは否定しようがありません。文創活動は清代や日本統治時代への文明文化回帰と新世紀独自社会の構築を同時に目指していることにはわれわれ日本人は大いに注意を払っておくべきでしょう。

  • 新宿会計士様
    非常に面白い統計データを紹介いただきありがとうございました。
    中国へのフライトは日本もそうですが、本数がコロナ前レベルにまで回復してないので、各国から中国への渡航者自体が減ってます。台湾から中国への渡航者が減っているのも納得でした。
    面白いなと思ったのは、少し怪しいサイトの「コバンザメ観光開発」の記事によると、米国から日本への渡航者よりも、米国から台湾への渡航者の方が多いことでした。そこにどういう理由があるのかよく分かりませんが、米国と台湾との結びつきが民間レベルでもかなり強いのを実感しました。

  • 台湾を考える時、民主党と国民党、本省人と外省人、の勢力均衡はいつも気になります。

    • Edward Yan という映画監督がいます。彼の作品に注目すべきと気が付いたのは、Youtube アルゴリズムが映画クリップを紹介して来たからです。
      彼自身は、今となっては完全に過去世代の人ですが、日本人がまるで目を向けていなかったころの台湾島人の心理背景をカメラで切り取っているようです。喪失感の理由は彼が外省人だからと当方は理解しました。今の台湾はちょっとキラキラ過ぎる感があります。映画館で見てみたいもののひとつです。青梅竹馬 / Taipei Story 1985

      • はにわファクトリー様

        ありがとうございます。台湾映画は、未だGYAOがあった時に幾つか見ましたが、テイストが日本映画と同じ感覚でした。まあ、これは、潜入主によるものなのかも知れませんが。台湾映画は、日本の映画のように「心の襞」を描くような趣向があるように思えました。これは、韓中映画には先ず無い事です。韓中映画は、即物的・実利的・損得的・権利的・権力追求的・覇権的(相手に勝って勝ち誇り復讐する)テーマが殆どのように感じました。これらは、ゲーム的に見ると面白いのですが、その内、彼らは、こんな精神世界で一生を終えるのかと思うと、我々とは相容れないなと思いましたね。
        ご紹介頂いた映画、ネットで検索して粗筋を見ましたが、何か日本的な心情表現のように感じました。

      • 問いかけに直接答えず別な話をしているように受け取られるかも知れませんが、それは意図的です。元朝日新聞の池上某じゃあるまいし、通俗教養でものが分かったような気になるのは危険だと言いたいのです。彼らには彼らの悩みがあるのです。
        Taipei Story が映像化しているのは、人生において成功するには渡米するしか選択肢のなかった時代の現代台湾人(当時)の心情です。台湾は国連に棄てられて日本は知らないふりを押し通しました。社会発展は南韓に後れを取っていまし、第一 1985 年はまだ解厳に辿り着けてもいない。渡米を逡巡する主人公(蔡琴が秀逸)は監督自身の投影かも知れないのです。
        なお Edward Yan の映像には、はっきり小津安二郎の影響があると複数が指摘しており、画面構成は絵画的であって事実構図を借用していることが分かっています。
        台湾人の自分探しはいまだ結論に至っていません。口は出せませんので見守るほかないですな。

        • 自分探しは、誰にでもあります。別に国情や歴史がどうのだけが、自分探しの出発点になる訳ではありません。現在の日本でも、自分探しをしている人は沢山います。
          むしろ逆に、自分探しという普遍的?テーマを語りたいときに、その当時の台湾の国情という舞台設定を持ってきたのでしょう。
          「存在の耐えられない軽さ」という小説・映画がありますが、これは、チェコのプラハの春が偶々舞台設定になっていたため、プラハの春の中で生きる男女を描いたもののように語る人がいますが、読んでみれば、何時の時代のどこで生きる人、つまり、現代の日本に生きている我々の生きる様を描いていることで「も」あるのだと気が付きます。実際、つい先日、7月11日に亡くなった原作者のミラン・クンデラも、この小説はプラハの春と描いたものではなく、普通の人の人生を描いたもので、偶々舞台設定がプラハの春であったと言っています。
          あと、「武器よさらば」というヘミングウェイの小説も、第一次大戦がが舞台設定になっていますが、テーマは、男女の心情物語です。
          恋人が死に、雨の石畳の路を主人公が一人立ち去ってゆくの最後のシーン、これは誰でも経験し味わう人生の中の一コマを象徴しているような、誰でも共感するシーンです。
          小説を読んだり、映画を観たりするときに、舞台設定にのみ目が行き、作品の普遍的な主題・テーマを「限定的に」理解するのは勿体ないことです。

          池上彰氏がここまでの解説をできる人かどうかは、彼に興味も関心も無いので分かりません。が、彼は論説委員になれないと上司に言われてNHKを辞めた人ですから。論説委員の仕事はどういうことかを考えてみれば、後は想像ができるかもしれません。

          1980年代の台湾のような複雑な国情の中でなければ、自分探しの情念が湧き起こらないと思われているのなら、幸せな人生過程を通ってこられたのだな、と思います。
          現代の日本には、正規雇用にも在り付けず、40・50になっても自分探しを続けている人は沢山います。
          その心情を理解するのに、わざわざ、1980年代の台湾にタイムスリップする必要も無いでしょう。

  • 昔は日本でもごく普通だったんですが、台湾で商店が並んだ通りを歩くと、店ごとに店名や扱っている商品を書いた看板が、盛大に通りに突き出して掲げられていて、その風情がなんとなく好ましく感じます、表記はすべて繁体字。ちゃんと読めます。日本にはない品物だって、まあ字義から、こんなもの扱ってる店かなと、おおよその見当くらいは付くことも多い。

    傑作なのが、漢字ばかりの中に、ひらがなの「の」が入っている店名を、ときどき見かけること。だいたいは、情緒的雰囲気を醸し出そうと、狙ってるのが多いように思いましたが、きっと、日本統治時代に日本語教育を受け、助詞「の」の便利さに気付いて、母国語にまで拡張して取り入れたんでしょうね。ともかく、漢字看板だらけの台湾の街並みを歩くと、なにか一昔前の日本に帰ったような、ちょっと不思議な気分が味わえます。

    行ったことがないのに、こんなことを言うのも何ですが、あれが大陸チャイナの簡字体だったり、ハングルだったりしたら、あの心やすさは、まず感じないだろうなぁ。というか、そればっかりが眼に入ってくると、そのうちゲンナリしてきそう。

    旅行で欧米の街を歩くときなんかには、まったく意識することすらない感覚で、妙と言えば妙なんですが。どこやらの政府高官が言った、「髪染めても,欧米人にはなれない」って、こういうことでもあるんですかねぇ(笑)。

    • >漢字ばかりの中に、ひらがなの「の」が入っている店名を、ときどき見かけること。

      大陸の商店でも、同じですよ。

      >だいたいは、情緒的雰囲気を醸し出そうと、

      同じ理由です。ちゃんと意味を理解して使ってます。

    • 昨今の「の」の字の浸透は、意味が通じるだろう!と、「午後の紅茶」をそのままの商標で販売したことにあるみたいですね。

    • 伊江太様
      中国語の「的」は、日本語の「の」と同じような意味で同じような使い方をするので、中国語の「的」を「の」に置き換えるだけで簡単に使えて、日本の情緒が出せることがよく見かける理由と思います。
      台湾人の友人は「の」は何だか形がかわいいから使われてると言ってました。

  • 初出です。
    文中、図表2のタイトルは、「…(2019年1~6月)」ては。