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大手新聞社説「日韓スワップは関係回復象徴する協定」

なかなかに、印象的な論説が出てきました。当ウェブサイトでは以前、「日韓通貨スワップは日韓の信頼醸成のために寄与する」とする「インチキ論説」を掲載ししたのですが、そのインチキぶりのさらに斜め下を行く社説です。これが大手新聞社の出す社説だという点にも驚きますが、それ以上に驚くのは、短い記述のなかに、事実誤認が数多く出て来ることでしょう。

日韓関係を無理やり正当化する人たち

先日の『日韓関係「改善」を無理やり「正当化」する必要はない』でも指摘したとおり、日韓関係は「改善している」とする言説が、政府関係者に加えて、おもに新聞、テレビなどのオールドメディアから流れて来ています。

自称元徴用工問題が「解決」し、FCレーダー照射事件を不問にしたうえで韓国を「ホワイト国」に戻し、日韓通貨スワップも復活する――。国民を置いてけぼりにした、じつに急激な展開です。これを日韓関係の「改善」と呼ぶメディアも多いのですが、これを無理やりに正当化しようとすると、やはりおかしな記事が出てきてしまうようです。やはりおかしいことは「おかしい」と素直に表明するのが正解ではないでしょうか?実務家にとっての法規制実務家にとっては、現実の法規制に対応するという仕事は、大変に重要です。たとえばこの10月以...
日韓関係「改善」を無理やり「正当化」する必要はない - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、冷静に考えていただきたいのですが、日韓関係が「改善」されるきっかけが、なにか具体的にあったのでしょうか。

一般には、韓国政府が3月6日に発表した自称元徴用工問題の解決策と、それに続く韓国を「(旧)ホワイト国」に戻す動き、火器管制(FC)レーダー照射事件を不問にする動き、そして日韓通貨スワップの復活が、その「日韓関係『改善』」の具体的な象徴とされます。

しかし、そもそも論として、自称元徴用工問題を巡って韓国政府が打ち出した「解決策」自体、解決策になっていません。日本政府はこれまで、2018年10月と11月の大法院判決によって作り出された「国際法違反状態」を解消するように要求してきたはずですが、それがまったく図られていないからです。

それどころか、自称元徴用工(やその遺族)のなかには、財団からの賠償金を頑なに受け取らないとする姿勢を崩していない者もおり、つい先日は財団の供託金が受理されないという「事件」もありました(『自称元徴用工問題でさっそく綻び…「供託不受理」続く』等参照)。

自称元徴用工問題を巡る「解決策」が、さっそく、暗礁に乗り上げる可能性が出てきました。韓国の地裁が「日帝強制動員被害者支援財団」なる財団の供託申請を受理しないとする決定を、相次いで下しているからです。その理由はさまざまですが、なかでも問題になりそうなのが、韓国民法第469条第1項の「当事者が第三者弁済を許可しないとき」の解釈で、この問題次第では、自称元徴用工問題自体があらたな展開を迎えるかもしれません。キシダの不誠実さ、実務能力の低さの証拠韓国政府が今年3月に打ち出した自称元徴用工問題の「解決策」...
自称元徴用工問題でさっそく綻び…「供託不受理」続く - 新宿会計士の政治経済評論

米国の圧力?そんなの関係ない、岸田の責任だ

つまり、スタート地点からまったくうまく行っていないなかで、それに続く日韓関係の「改善」は、岸田文雄首相という稀代の愚か者による一人芝居、という可能性が、極めて高いのです。

一部では一連の対韓譲歩はジョー・バイデン米大統領に要求されたものだったとの分析などもあるようですが、譲歩をすると決めたのは岸田首相や政権関係者であり、これについては残念ながら、「米国のせい」にすることなどできません。

つまり、対韓外交を巡っては、岸田首相は国益をどんどんとドブに捨てたようなものだ、と断言して良いでしょう。

ただ、それでも一部のメディアは日韓関係が「改善」されていることにしたいようです。

大手新聞社から出て来た社説

こうしたなか、とくにこのうちの日韓通貨スワップに限定し、「スワップの締結は日本にとってもメリットがある」と主張する者たちをおちょくる目的で、以前、『【インチキ論説】日韓は通貨スワップ通じ信頼醸成図れ』という記事を掲載したことがあります。

やっぱりというか、日韓通貨スワップの復活を受け、例の「旧宿会計士」なる者が、当ウェブサイトにインチキ論説を奇行してきたようです。「論考」と呼ぶにもおこがましい、明らかなインチキというレベルの駄文ですが、ただ、これを読んでいただくと、現実に日本の外務省関係者や財務省関係者がなにを主張してきたのか、ざっと振り返ることで、頭を整理することくらいはできるかもしれません。またしてもあの奇行当ウェブサイトにときどき、インチキ論説を奇行する「旧宿会計士」なる者が存在するようです。昨日は日本のポンコツ財相が...
【インチキ論説】日韓は通貨スワップ通じ信頼醸成図れ - 新宿会計士の政治経済評論

ところが、この「インチキ論説」のさらに斜め下を突っ走る社説が出てきました。

【社説】日韓の経済関係 改善の好循環を広げたい

―――2023/07/19 09:00付 Yahoo!ニュースより【西日本新聞配信】

記事を読んでいただければ、「なるほど、日本の新聞が廃れるわけだ」と納得していただけるかもしれません。

この社説では、通貨スワップを8年ぶりに再開することで日韓双方が合意したことなど、「日韓の経済関係が急速に正常化へ向かっている」という一連の動きを「歓迎したい」、などと述べるものですが、短い記述に誤りがたくさんあります。

そもそも通貨スワップに関する説明からして、こうです。

通貨交換協定は、どちらかの国が金融危機に見舞われた場合、その国の通貨と引き換えにもう一方が外貨で100億ドル(約1兆4千億円)を上限に融通する仕組みだ。1997年のアジア通貨危機に韓国が巻き込まれた教訓を踏まえ、2001年に締結された」。

細かいようですが、この説明に出て来る「金融危機」のくだりは、「通貨危機」の間違いでしょう(金融危機と通貨危機の違いについては、『「日韓スワップは中長期的に日本にメリット」=ラジオ』などをご参照ください)。

「日韓通貨スワップは中・長期的、見て、日本にもメリットをもたらす」。こんな珍説が出てきました。外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦氏が出演したラジオ番組で、こんなことを述べたのだそうです。ただ、該当する記事をいくら読んでみても、「中・長期的に見た日本にとってのメリット」に関する具体的な説明はほとんどありません。日韓通貨スワップは韓国にのみメリットをもたらすこれまでに当ウェブサイトでは何度となくお伝えしてきたとおり、日韓通貨スワップは、韓国に対してのみ、一方的な利益をもたらします。日本の場合はそ...
「日韓スワップは中長期的に日本にメリット」=ラジオ - 新宿会計士の政治経済評論

通貨スワップは「象徴的な協定」

ですが、それ以上に問題なのは、この通貨スワップが韓国を一方的に支援するものであるとする部分の説明が欠落しているばかりか、こんな記述もあります。

通貨危機の頃と異なり、現在の韓国の外貨準備高は世界9位の約4200億ドル(約60兆円)に上る。通貨危機に陥る可能性は小さい。今回の協定再開合意は為替を安定させる効果よりも、日韓経済の関係回復を象徴する意味合いが大きい」。

そもそも論として、韓国の通貨・ウォンが国際的にほとんど通用しない「ソフト・カレンシー」である(『G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド』等参照)、などの点を無視した暴論です。

韓国は常時、外貨を必要としている国です。そんな韓国が国際的な信用不安に際し、通貨危機を防げるかどうかは、外貨準備の規模だけでなく、その国の外貨建ての債務の規模、流動性の状況などについても併せて検討する必要があるからです。

国際決済銀行(BIS)の統計などに基づけば、韓国が現在、外国の金融危機から借りているおカネは、2022年12月末時点で3830億ドルです(※最終リスクベース、ただしこれにはウォン建ての資金なども含まれます。詳しくは『世界最大債権国・日本の「アジアとのつながりの薄さ」』等参照)。

また、100億ドルくらいで韓国の為替を安定させる効果はないといわれますが、いったん通貨スワップが締結されれば、それを危機の際に増額するのはよくやるテクニックであり、韓国が通貨危機に巻き込まれたときには、このスワップの規模が一気に1000億ドル程度にまで拡大される可能性は十分にあります。

輸出規制じゃありませんよ!

この記事の問題点は、それだけではありません。

日本は輸出手続きを優遇する『グループA(旧ホワイト国)』から韓国を除外していた措置を取りやめ、今月21日付で対象国に再指定する。韓国も日本を最優遇国に復活させた。日本は韓国に対し、半導体材料の輸出規制を強化する措置も解除した」。

ここでも平気で「輸出『規制』」などの表現が出てきますが、日本政府が2019年7月に講じた措置は対韓輸出「規制」ではありません。輸出管理の適正化措置です。

さらに驚くのは、こんな記述です。

日韓関係の正常化は人の交流も活発にしている」。

昨日の『韓国人も日本を目指す:韓国は魅力ある観光地なのか?』でも指摘しましたが、回復しているのは「相互往来」ではありません。韓国人の訪日需要が一方的に回復しているだけの話です。

日韓相互往来比較(2023年1~5月累計)
  • 訪日韓国人…2,583,383人(月平均516,677人)
  • 訪韓日本人…**665,611人(月平均133,122人)

(【出所】JNTO、韓国観光公社データ)

いずれにせよ、こうした記事を読んでいくと、日本の新聞が読者の支持を失い、廃れていくのは、単に「紙媒体が嫌われているから」だけではない、もっと根源的ななにかがあるように思えてならないのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 国民を激怒させ
    尿瓶党の支持率を下げることが目的なら
    なかなか優秀な記事だと思います

  • 今日も猛暑です。

    大手新聞紙社説とつい読んでしまいました。

    新聞紙やめて10年以上たちます。たまに、新聞紙が欲しいと思うことがあります。ただ、amazonで買うほど料理は必要ないし? 

  • 朝鮮半島出身者が編集デスク? 或いは執筆者?
    それぐらい強い認知バイアスを感じる。
    西日本の新聞だから?
    不思議です。

    • 共同系列では上の方ですが他にも沖縄勢とか北海道新聞とか神奈川新聞とか酷い所があります。

      • 先日、京都の祇園祭を見に行きました。山鉾巡行で、観客の前をウロチョロ視界を遮る報道関係が顰蹙をかっており、よく見ると神奈川新聞でした。京都は居心地良い様子。

  • >日本の新聞が読者の支持を失い、廃れていくのは、単に「紙媒体が嫌われているから」だけではない、もっと根源的ななにかがあるように思えてならない

    「事実を正しく報じる能力」以前に『事実を正しく理解する能力』の欠如によるものではないのか?とも思っています。
    紙面が、記者クラブやスポンサー(中韓?)から渡された原稿をそのままに張り付ける「掲示板」と化しているからです。

    入手したソースの内容を「そうっスね!」と疑いもしない記者たち・・。
    情報の出どころがやってるのは、「”記者魂を無くした記者”騙し」・・。

  • 何度目かのネタですがあえてもう一度、
    「バカメと言ってやれ‼️」。

  • 西日本新聞社と言えば北海道新聞社、中日新聞社と仲良しこよしの「ブロック紙3社連合」の一角ですからね。
    西日本新聞社は福岡が本社で、「韓国と地理的に近いからこんな社説を書いているのだ」と思う人もいると思いますが、この「ブロック紙3社連合」は思想的に左巻きである事を忘れてはいけません。
    ブロック紙に限らず、地方紙は基本的に「左巻き」と認知しておくべきでしょう。

  • <新聞について>
    まともな記者が一人もいないというわけでもないんでしょうが、そういう人は居づらくなるんでしょうか。少なくとも社説を執筆するような上層部は、しぶとく長く新聞社に居座ったアホばかりなんでしょうね。

    「日韓は隣国だから、お互いに友好的でなければならない」という前提を金科玉条にしていて崩せないから、こんなおかしな社説が書けるんでしょう(本来友好関係を損ねるようなことをしでかしてきたのは専ら韓国の方ですけどね)。中高生の小論文より拙い内容です。

    韓国との友好を進めるのが、本当に国益に適うのかを、よく考えるべきです。このままでは、北朝鮮やロシアや中国のような国にも同様に配慮しろなどと言い出しそうで怖いです(笑)。

    韓国が繰り広げてきた多くの背信行為や反日を思い起こすべきです。どれ一つとして根本的には解決していません。

    <岸田政権について>
    韓国とは適切な距離をとり、関係を管理するという態度が肝要です。その管理ツールをやすやすと手放したのが岸田政権です。韓国の実情を知りもしないで(というか、国民一人ひとりのレベルでは、散々思い知らされてきたのですが)、前のめりにズブズブと足を踏み入れる岸田政権は危なかしくて仕方ありません。朝鮮半島出身労働者問題も、供託金問題が長引き、韓国がユン政権であるうちには解決できない見通しが強まりつつあります。そしてユン政権の後、どんな頭のオカシイ政権が誕生するかわからないのが韓国です。ユン政権の何に対して、岸田政権はグループA復活や通貨スワップ再開等のご褒美をくれてやったのでしょうか。

    彼は、岸田カラーを打ち出すために国益をドブに捨てたのです。これは国民に対する背信行為だと思います。

    • 安保闘争の時代
      サヨク活動で就職先を閉ざされた 当時の左巻き大学生が
      当時人気が無かった新聞社に大量入社した結果
      新聞社が左傾化したと聞いたことがあります
      その時代のアカ大学生はもう80近いはずなので
      さすがに もう定年退職して影響力は無いと思うのですが,未だにマスコミは左傾化したまま…
      一体何が原因なのでしょう

  • 今回の西日本新聞に限らず、基本的に「最後の最後まで無責任で不正確な記事を書き続け、
    どうにもならなくなったら逃げる様に廃刊する」しか選択肢はないでしょうからね。

    「今更自首しても減刑してもらえない罪人は逃げ続けるのが最も合理的な選択。
    その罪人が金持ちであり、かつ自分の正義を信じている場合はなおさら」

    新聞とテレビの闘争ならぬ逃走は本当に廃刊するその日まで続くのでしょう。

  • 日韓の関係なんて他国は関心あるわけないでしょうし
    友好ムードという、どこに向けてのアピールか分からない
    外華のためにいつもこちら側が負担をするなんて
    意味が分かりません。

    大体、スワップ結んだくらいですぐ友好がどうの
    言い出すのが既に異常な関係性を
    証明しているんじゃないですかね。

    これが仮に足踏み揃える為の米国からの要請だとすれば
    あまりに日本を舐めていますし
    意味のない要請として抗議して欲しいです。
    というかもしそうなら日本に押し付けずに
    米国が責任持って全部面倒見なさいよと。

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