「人民元が米ドルを駆逐して世界の基軸通貨になる」と主張する人に欠落しているのは、「自身の全財産を人民元で持ちたいと思うかどうか」、という視点ではないでしょうか。要するに、自由主義国でもない国の通貨が信頼できるか、という話です。結論的にいえば、中国共産党が存続する限り、人民元が国際化する可能性は極めて低く、また、「BRICS共通通貨」も実現可能性が極めて低いものです。こうしたなかで、それでも「ドル覇権の亀裂が始まった」、などと報じるメディアが存在するようです。
「脱ドル化」は金融の素人の思い付き
最近、当ウェブサイトでは、「中国やロシアなどを中心に、米ドルの使用を何とかして減らそうとしている動きが生じている」、などとする話題を連続的に取り上げています。
たとえば『ロシアが戦費調達で外債発行なら当該国に二次的制裁も』で取り上げたとおり、英国防衛省は『インテリジェンス・アップデート』のなかで、ロシアが「友好国」を対象にソブリン債を発行し、おカネを集めようとしている、などとする話題が出て来ています。
果たしてロシア政府は「パンダ債」を発行するのでしょうか?これに関して、当ウェブサイトとしては、「その可能性は高くない」と申し上げておきたいと思います。その理由は、もしもその通貨の発行国がロシア政府による外貨建ての債券発行を認めた場合、西側先進国はそのことを名目として、当該通貨の発行国に対するセカンダリー・サンクションを発動する可能性が高いからです。英国とは十数年後には再び同盟関係成立か?私たち日本人が目指すべき方向性を知るうえで、参考になる国がひとつあるとすれば、それは間違いなく英国だと思い... ロシアが戦費調達で外債発行なら当該国に二次的制裁も - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、週末の『BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性』でも紹介したとおり、「BRICS」――ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ――を中心に、「共通通貨」を創設しようとする動きも生じているようなのです。
今度はBRICS諸国による「デ・ドラリゼーション」、すなわち「米ドルやユーロを捨てて共通通貨を採用する」という与太話が出てきたようです。当たり前の話ですが、ある通貨が国際的に信頼され、通用するためには、通貨の使い勝手が良いことと、通貨制度をきちんと運用してきた実績が必要です。信頼は一朝一夕に生まれません。BRICS共通通貨は「やる前から失敗することがわかっている」という代物ですが、果たして、どうなることでしょうか。G20という謎の存在G20参加国は経済規模も発展段階もてんでバラバラ当ウェブサ... BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性 - 新宿会計士の政治経済評論 |
端的にいえば、どちらも「金融の素人」が思い付きで主張しているだけの与太話にしか見えません(ちなみにここでいう「金融の素人」には、BRICSの通貨当局者・政策当局者が含まれていることは間違いありません)。
BRICS共通通貨って…
そもそも論として「BRICS」という、言語、宗教、政治体制などにおいてほとんど共通点もなく、地理的にも近いとはいえない諸国が、よりにもよって「通貨」という、最も信頼が求められる分野で共同体を作れるはずがないということくらい、自然に考えたらだれにでもわかりそうなものです。
また、万が一その「信頼」とやらがBRICS諸国間に存在していたとしても、現にBRICSのうち、中国と南アフリカを除く3ヵ国の通貨が国際的な市場で大して通用していないことを踏まえるならば、それらの通貨をいくつ集めたところで、それに国際的な通用力が生じるわけがありません。
ある通貨が国際的に広く取引されるためには、なによりもまずその通貨が「安定している」ことと、人々から「信頼されていること」が必要です。そのうえで、その通貨によるさまざまな金融商品(株式だけでなくオフショア債券、金利スワップ、CDS、先物、オプションなど)が充実すれば、やっと世界的に取引されるのです。
「脱ドル化」には「石油決済通貨」というキーワードが伴っているのですが、『通貨論と統計データで見る「ペトロ人民元の非現実性」』でも議論したとおり、そもそも人民元を含めたBRIC通貨には、オフショア債券市場もデリバティブ市場もろくに育ってもいません。
またぞろ、「ペトロ人民元」、「ペトロルーブル」に関する報道が目に付くようになりました。ロイターによると対ロシア経済制裁を逃れるためにロシアのエネルギー企業が価格上限を超えた部分を米ドルではなく「その他の通貨で」決済するように求めている、などとする「金融筋」の情報がその根拠のひとつであるようですが、米ドル以外の通貨での取引が増えるにしても、その通貨として人民元やルーブルが選ばれるとも思えません。そもそもの通貨の使い勝手自体が悪すぎるからです。人民元のSDR入りから早くも7年だが…当ウェブサイトの... 通貨論と統計データで見る「ペトロ人民元の非現実性」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
西側諸国通貨は圧倒的な強さを誇っている
そのうえ、「現在、ロシア制裁に参加しているのはたった48ヵ国だ」、「それ以外の世界の大部分の国はロシア制裁には参加していない」、などとする主張も見かけるのですが、こうしたことを主張する人は、たいていの場合、その48ヵ国の通貨には絶大な支配力を持っているものが含まれている、という事実を無視しています。
『ロシア制裁参加国は48ヵ国だが金融面の影響力は絶大』でも指摘したとおり、SWIFTの国際送金ランキング、IMFの外貨準備構成通貨データ、BISのオフショア債券市場データなどで見ると、いずれも9割を超える圧倒的支配力を持っています。
ロシアにとっての「非友好国」通貨の実情
世界の外貨準備に占めるシェア…最低でも93.86%
オフショア債券市場に占めるシェア…最低でも97.40%
国際送金市場に占めるシェア…最低でも93.45%
(上記の計算根拠は『ロシア制裁参加国は48ヵ国だが金融面の影響力は絶大』参照)
ロシア制裁に参加している国はたった48ヵ国に過ぎませんが、この48ヵ国を「通貨」という観点から見ると、その支配力は90%を優に超えていることがわかります。とくに世界の外貨準備の構成通貨、オフショア債券市場の通貨別市場規模、国際送金シェアなどの「数字」で見ると、これら「たった48ヵ国」の国々が持つ力が絶大です。少なくとも国際的な送金市場などにおいて、ロシアが除外された措置は、ロシア経済を着実に苦しめます。ロシア制裁参加国は「たった48ヵ国」英国防衛省による「ロシアが外債で戦費調達」指摘昨日の『ロシアが戦... ロシア制裁参加国は48ヵ国だが金融面の影響力は絶大 - 新宿会計士の政治経済評論 |
もちろん、たとえばIMFの外貨準備構成通貨という点では、米ドルの地位は近年、徐々に低落傾向にありますが、だからといって人民元のシェアが米ドルを上回るような勢いで伸びているという事実などありませんし、米ドルの落ち込みはユーロ、日本円、英ポンドなどでカバーしているのが実情です。
その意味で、「米ドル離れ」がロシア、中国といった全体主義国家の通貨を利するという単純なものでもないのです。
韓国紙にも似たような議論が…!
さて、こうした「脱ドル化」という視点で、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に週末、こんな記事が掲載されていました。
ロシア・中国に加えサウジまで…「ドル覇権」亀裂の始まり
―――2023-04-08 11:52付 ハンギョレ新聞日本語版より
記事の要約部分には、こんな記述があります。
- 加速する「脱ドル」
- ウクライナ戦争後、米国が「ドル武器化」
- 各国で貿易・外貨保有のドル割合を縮小
- ブラジル、アルゼンチン、インドも「脱ドル」を模索
- 「デジタル決済」も「覇権移動」に一役買い
…。
これについては最初からツッコミどころ満載です。
そもそも統計データ上、現時点において「脱ドル」が「加速」している証拠はありませんし、米国がドルを「武器」として使用しているのは昔からのことであり、べつにウクライナ戦争がきっかけではありません。
さらに、各国で貿易・外貨保有のドル割合が減っていることは事実ですが、その分が人民元などの全体主義国家に振り向けられているわけではありませんし、ブラジル、アルゼンチン、インドなどが「脱ドルを模索している」からといって、それが直ちに実現するというものでもないでしょう。
なお、最後の「デジタル決済」云々については、拙稿で恐縮ですが、オピニオン誌『月刊Hanada』2022年3月号に掲載された『デジタル人民元 脅威論者たちの罠』という稿にて議論したとおり、決済がデジタル化されたらそれで通貨が国際化するという主張は「明確な間違い」です。
保守系のオピニオン誌『月刊Hanada』に、「デジタル人民元が登場したところで人民元が基軸通貨になることはない」とする論考が掲載されました。これは、当ウェブサイトで以前から申し上げてきた論点を、改めて雑誌という形式に落とし込んだものです。『月刊Hanada』様、大変ありがとうございました。また、「新宿会計士」名義の寄稿は、『月刊正論』、『月刊WiLL』に続き3冊目です。デジタル人民元を巡る一連の論考昨年から今年はじめにかけて、当ウェブサイトでは相次いで、「デジタル人民元」をテーマにした小稿を掲載しました。た... 月刊Hanada「デジタル人民元脅威論者たちの罠」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
そもそも論が欠落している!
この点、韓国メディアが「米ドル覇権の崩壊」や「人民元の新たな挑戦」をテーマとして積極的に取り上げている理由は、よくわかりません。言外に、「そうなることが韓国の利益だ」といったニュアンスでもあるのでしょうか?
しかし、そもそも論として、「人民元が米ドルを駆逐して世界の基軸通貨になる」という主張をする人が根本から勘違いしているのは、人々が全財産をその通貨で持ちたいと思うかどうか、という点でしょう。
先ほども少し触れたとおり、ある通貨が投資家の目から見て魅力的に移るかどうかは、その通貨で買える資産の種類や量、流動性などにも依存します。人民元のように、現状、金融商品の種類が豊富とはいえず、資本移動に強い制約が存在する通貨が、米ドルを駆逐するはずがないのです。
なお、人民元が将来的に米ドルを駆逐するだけの国際通貨に発展する可能性も皆無ではありませんが、その場合、中国当局は中国本土にあらゆる機関投資家が人民元建てで自由に投資できるよう、法制を整備する必要があります。
そして、それをやってしまった瞬間、中国は「あっという間に資本が国外に流出する」、「国外から莫大な資本が流入する」など、資本フローが不安定になってしまい、為替相場の安定か金融政策の独立どちらかを放棄せざるを得なくなります。
共産主義国家である中国に、果たしてその状態が耐えられるものなのでしょうか。
このように考えていくと、「ペトロ人民元」が実現するためには、それは中国で共産党一党独裁政権が崩壊し、社会が自由化され、政治が民主化するくらいのことがなければ不可能でしょう。
いずれにせよ、個人的にはこのハンギョレ新聞の記事のように、「ドル覇権が終了する」と主張する記事には大変に興味を惹かれるのですが、誠に残念なことに、このハンギョレ新聞の記事を含め、「国際収支のトリレンマ」といった基本的な経済理論に言及もなく、基礎的なデータすら参照していなかったりするのです。
いずれにせよ、「ドル覇権」に「亀裂」が入ったとして、人民元が国際化するわけではありませんし、ましてや「BRICS共通通貨」など、非現実的ですし、実現したとしてもそれが国際通貨になるというものではないことだけは間違いないでしょう。
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人民元持ってたとして
買いたいもの
買えるものって
何かな
中国が世界征服完了して経済統制した後ならばまぁ?同時にヘンな病気が増えそうですが、きちんと資金洗浄(物理)してからにして頂きたいものです。
国際化してなくても海外に資産持って人民元流出してますよねえ今でも・・・。何でも、今や西側で一番中国人優遇してるのが日本なので不動産とか持っておくとか
人民元では、メシとエネルギーが買えません。
これだけでもダメですが、最大の問題は人民元をいつでもどんだけでも自由に外貨と交換出来ない事です。
なんで、わざわざそんな不自由な通貨を持つ必要があるのか?
今のままじゃ、絶対に基軸通貨など不可能です。
では、自由に外貨と交換出来たら基軸通貨になれるかといえば、そうではありません。
もし、自由に交換出来るようになれば 中国からの大量の資金フライトで通貨危機になるでしょう。
今の中国はゲーセンのコインと同じで、どんなに儲けても、ゲーセン内の景品としか交換できません。
それが外貨と交換出来るのであれば、それはすぐにでも交換するでしょう。
それは中国政府もわかってます。
不可能な基軸通貨論が出る理由、それは騙された馬鹿どもが中国に資金注入するのを狙ってるのでは。
それぐらい、中国国内の外貨資金が枯渇してるのかも知れません。
いや、中国のというか、習近平氏の野望としては、人民元を「外貨」じゃないようにしてしまえば万事OKということなのかも。つまり、域内で人民元を唯一の流通通貨としてしまえば、為替リスクもないし、発行量含め、すべてを共産党がコントロールできるようになります。そこではそもそも「外貨」という概念が存在しません。
問題は「域内」をどうやって拡張するかですが、中国から見れば、韓国はすでに取り込み済み、ロシアも取り込みつつある、そして一帯一路を通して中央アジアを取り込みめば、没落しつつあるヨーロッパは中国への依存を高めつつあることから、いずれ中国の膝下に屈するに違いないというわけです。一帯一路のルートからやや外れた中東については、習近平氏自らが訪問するなど、現在、盛んに接近と関係強化を目論んでいる最中です。そして、ユーラシア全体を人民元流通圏にしてしまえば、アフリカや中南米などは、放っておいても向こうから頭を下げてくるでしょう。「域内」拡大に障害となるのは、日米とインドくらいですが、まあ、いざとなれば武力に訴えてでも。
もちろん、上記はあまりに荒唐無稽な、妄想とでもいうしかない「構想」なんですが、習近平氏ならば秘かに考えていそうなあたりがちょっと怖いです。
中国の金持ちは元なんかまったく信用してないから財産のほとんどをドルに換えているとか
いつ国家に召し上げられるかと不安だから財産を米国に移しているだとか聞いたことがあるけど
どうなんだろうな
最近は米国が厳しくなったので日本やカナダに移しているらしいですよ。マクロンが台湾有事でEUは中国に付く発言したから、ヨーロッパの不動産がまた増えそうです。
やだー、ハンギョレの経済記事なんて日経新聞のそれ並の信憑性しかないじゃないですか、やだー!
まだ赤旗の経済記事のほうがよっぽどまともそう。
まーでも、かの国にとっては元が強くなってくれたら安心なんやろうねぇ。
スワップお願いにいっても日本やアメリカみたいに頭はたかれんで済むんやし。いざという時に使わせてくれるのかは知らんけど。
元記事のバリー・アイケングリーン教授ですが、デジタル決済イコールデジタル人民元って訳では無い気がします。
先日の新宿会計士さんの記事で、韓国内での日本円の現金不足による需給バランスの偏りってお話しがありました。
デジタル決済が広まれば、こういった偏りに左右されずに経済活動が行われるようになり、ジャンク通貨間のやり取りの容易化や省力化になるのかなーと。
まぁ、今でも「現金じゃなくクレジット支払いすれば良いんじゃね?」って事なんでしょうけどね。。。
米ドルに牛耳られて、
自分勝手ができないのが面白くないのはわかるけど、
「BRICS共通通貨」は無理やろなぁ。
それぞれの国が、それぞれをどれくらい信用しているかを考えるとね。