X
    Categories: RMB金融

ロシアが戦費調達で外債発行なら当該国に二次的制裁も

果たしてロシア政府は「パンダ債」を発行するのでしょうか?これに関して、当ウェブサイトとしては、「その可能性は高くない」と申し上げておきたいと思います。その理由は、もしもその通貨の発行国がロシア政府による外貨建ての債券発行を認めた場合、西側先進国はそのことを名目として、当該通貨の発行国に対するセカンダリー・サンクションを発動する可能性が高いからです。

英国とは十数年後には再び同盟関係成立か?

私たち日本人が目指すべき方向性を知るうえで、参考になる国がひとつあるとすれば、それは間違いなく英国だと思います。

英国はかつて「大英帝国」として、全世界に植民地を持ち、「日の沈まない帝国」とも称されたほどですが、第二次世界大戦の初戦で日本軍に駆逐され、香港やシンガポールなどの拠点を追い出されたことなどにより、すっかり没落してしまった感があります。

ただ、それでも第二次世界大戦後も「戦勝国」側につき、国連安保理の常任理事国であるとともに核武装もしており、また、金融という分野においては、ロンドン市場は現在でもそれなりの地位を保っていますし、英ポンドもそこそこの存在感を維持しています。

もちろん、かつての「大国」ぶりは見る影もありませんが、それと同時に英国の言語「イギリス語」も、(いちおうは)世界の準・共通語であり続けています(なお、本当の意味での世界共通語は、イギリス語ではなく「アメリカ語」だ、というのが著者自身の持論です)。

いずれにせよ、現在の7000万人弱という人口規模なども踏まえると、英国は十分に世界に存在感を示していますし、賢明な英国社会のことですから、これからも活力を維持し続けるのでしょうし、その英国が環太平洋パートナーシップに参加を決めたことは、日本にとっても僥倖そのものです。

日英両国は文明も言語も宗教も全く異なりますが、それでもユーラシア大陸の東端と西端の歴史ある島国という共通点を持ち、さらには自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有しているため、将来的に非常に深い関係になれる素地があります。

おそらく数年、あるいは十数年という単位で見ていけば、CPTPPという「経済同盟」のみならず、日英同盟という「軍事同盟」にまで両国関係は発展するのではないでしょうか。そして、そのことは、日英両国が共通の軍事同盟を結んでいる米国との関係を強化するうえでも有益でもあるのです。

外交上手の英国支える「インテリジェンス」

さて、著者自身の持論ですが、英国は「外交上手」です(※良い意味とは限りませんが…)。

米国の場合だと、圧倒的な軍事力と経済力を持ち、ときとして大国主義をゴリ押しにするきらいがありますが、英国は歴史の深みが違うためでしょうか、やはり「老獪さ」という意味では、米国よりも何枚も上手ではないかと思います。

そんな英国の外交力を支えているのは、やはりインテリジェンスではないでしょうか。

そして、このインテリジェンスこそ、日本の役所が最も欠いている部分です。

国民生活を破壊してまで増税に勤しむ財務省、国益を無視し、ときとしてウソの報告を首相に上げる外務省、ときの総理や大臣などを騙して虚偽の報告書を作る総務省――。みな、インテリジェンスが致命的に欠如しているのです。

英国流のインテリジェンスが100%正しいとは思いませんが、少なくとも現在の英国が国際社会においてうまく立ち回っている事実を見れば、私たち日本人は英国をもっと学習すべきではないかと思うのです。

そんな英国において、ひとつ参考になる情報源があるとすれば、英国防衛省の「インテリジェンス・アップデート」です。誰でも簡単に参考にすることができるうえ、無料です。ツイッターで英国防衛省をフォローすれば、それで完了です。

そして、このインテリジェンス・アップデート、著者自身もウクライナ戦争勃発後にその存在に気付き、フォローし続けているのですが、結果的には「その数週間~数ヵ月後」の出来事を読む上で、大変に役に立ちます。

唯一の難点はツイートがすべてイギリス語で出て来る点ですが(※余談ですが、英国人こそ、将来の同盟国となる可能性が高い国の言語・日本語を学ぶべきでしょう)、幸いながら最近だとツイッター上に翻訳機能もありますし、PCなどで操作する際にはDeepLなどの翻訳エンジンも使用可能です。

英国防衛省の気になるツイート

そんな英国防衛省が日本時間の5日夕方に発信したのが、こんなツイートです。

  • On the 28th March 2023, Russian Prime Minister Mikhail Mishustin said that a move to issuing some of Russia’s sovereign debt in foreign currencies was ‘under development’.
    2023年3月28日、ロシアのミハイル・ミシュスチン首相は、ロシアのソブリン債の一部を外貨で発行することを「検討中である」と述べた。
  • The move is almost certainly an indication that Russia anticipates external financial support from foreign states it deems ‘friendly’.
    この動きは、ほぼ間違いなく、ロシアが「友好国」に位置付ける外国からの対外的な金融支援を期待していることを示している。
  • Once the development is completed, investors from other countries will be able to purchase Russia’s sovereign debt and therefore finance some of Russia’s future budget shortfalls. Such investors would be indirectly financing Russia’s invasion of Ukraine.
    手法が確定すれば、外国の投資家がロシアのソブリン債を購入することができるようになる。言い換えれば、ロシアの歳入不足の一部を賄うことで、間接的にはロシアによるウクライナへの侵略活動をファイナンスしていることになる。
  • In recent months, Russia’s own banks have been the main entities purchasing Russian state debt. However, they are unlikely to have the capacity to fully fund anticipated future budget deficits.
    ここ数ヵ月におけるロシア国債のおもな買い手は、ロシア国内の金融機関だった。しかし、これらの銀行には将来予想される財政赤字に十分な資金を供給する能力が不足している。
  • Russian officials likely see external debt issuance as one way to plug gaps in Russia’s finances as they plan for a long war in Ukraine. However, it remains unclear whether Russia will succeed in implementing the measures.
    ロシア政府当局者は、対外債務の発行はウクライナ戦争が長期化すると見込まれるなか、ロシアの財政のギャップを埋めるための方法のひとつだと捉えているようだ。しかし、ロシアがそれを実行に移すことができるかどうかは、まだ不明である。

…。

G20通貨で発行する「外貨建ソブリン債」

このあたりの読み方は、優れていると言わざるを得ません。

ちなみにロシアが外貨建てで国債などを発行しようとしても、少なくとも米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、加ドル、豪ドルといった「国際的に通用するハード・カレンシー」を使うことは非常に困難です。いずれの通貨当局もロシアのソブリン債の発行を制限しているからです。

そうなってくると、ひとつの可能性が浮上するとしたら、やはり中国などの第三国でしょう。

実際、西側諸国による対ロシア制裁には、中国やインド、ブラジルやアルゼンチン、サウジアラビアといった地域大国は参加していません。とりわけ、G20のなかでも、対ロシア制裁に参加しているのはG7と欧州連合(EU)、豪州などに限られます。

G20構成国
  • G7(日米英独仏伊加)
  • 欧州連合(EU)
  • 豪州
  • BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)
  • その他の発展途上国(サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン、インド、韓国、インドネシア)

逆に言えば、G20諸国のなかでもタイロシア制裁に参加していない国の通貨で、ロシアが外貨建国債を発行する可能性がある、ということです。

では、実際にそのような国々の通貨でロシア国債が発行される可能性はあるのでしょうか。

発行する通貨は限られてくる

これについては先月の『G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド』でも取り上げた、国際決済銀行(BIS)のデータに基づく「通貨別オフショア債券市場」の規模を見ていると、なんとなく想像がつきます。

アルゼンチンや韓国、インドなどが「金融面で」G20構成国にふさわしいのかどうか。著者自身、いわゆる「G20」はすでに枠組として形骸化していると判断している人間のひとりですが、もともとG20自体が「金融・財政に関する協議体」からスタートしていたという事情を踏まえると、国際送金市場やオフショア債券市場などであまりにも存在感がない国がG20に存在していて良いのかどうか、疑問です。なぜペトロ人民元は非現実的なのか「通貨の使い勝手」を判断するヒントのひとつが、オフショア債券市場の規模にある、とする話題...
G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド - 新宿会計士の政治経済評論

具体的には、G20諸国通貨のオフショア債券の発行額とその世界シェアのランキングです(図表1)。

図表1 G20諸国通貨のオフショア債券発行額とシェアのランキング(2022年12月末時点)
通貨 金額 シェア
1位:米ドル 13兆1065億ドル 47.83%
2位:ユーロ 10兆4912億ドル 38.29%
3位:英ポンド 2兆0334億ドル 7.42%
4位:日本円 3587億ドル 1.31%
5位:豪ドル 2546億ドル 0.93%
7位:人民元 1733億ドル 0.63%
8位:加ドル 1369億ドル 0.50%
15位:南アフリカランド 268億ドル 0.10%
16位:ブラジルレアル 191億ドル 0.07%
18位:ロシアルーブル 160億ドル 0.06%
19位:サウジアラビアリヤル 123億ドル 0.04%
20位:トルコリラ 109億ドル 0.04%
21位:インドネシアルピア 101億ドル 0.04%
23位:インドルピー 84億ドル 0.03%
34位:韓国ウォン 21億ドル 0.01%
44位:アルゼンチンペソ 1.3億ドル 0.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Debt securities statistics データを参考に著者作成)

じつは、ロシアにとって、西側諸国を除くG20通貨は、決して使い勝手が良いものではなく、また、選択肢も限られてきます。

敢えてこのなかで可能性があるとしたら、7位の人民元、15位の南アフリカランド、16位のブラジルレアル、19位のサウジアラビアリヤル、あとは20位のトルコリラ、といったところでしょうか。といっても、通貨市場の流動性を考えるなら、現実的には人民元か南アフリカランドくらいが関の山でしょう。

また、外貨建ての債券は、発行するだけでなく、それにより調達した通貨で何ができるか、という論点も重要です。人民元を調達したところで、現状、中国以外の国との貿易決済に使うのは現実的ではありませんし、結局のところ中国からの財貨・サービスの購入くらいにしか使えない可能性が高いでしょう。

さらには、仮に英国防衛省が指摘する通り、ロシアがこれらの国々の通貨で外貨建ての債務を調達した場合、日本、米国、英国、EU、カナダ、スイス、豪州、ニュージーランドなどの「先進国連合」が、その通貨の発行国に対して一種の「セカンダリー制裁」を加える、という可能性も出て来ます。

BRICS諸国などのように、対露経済制裁に参加していない国は多いのですが、それらの国の通貨はいずれも非常に脆弱であり、西側諸国からのセカンダリー・サンクションに直面すれば、経済はひとたまりもなく干上がってしまいかねません。

その意味では、たとえば「人民元建てロシア国債」(いわゆるパンダ債)などを発行するのは現実的には難しいのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • 日露戦争でも戦費は8割が借金(公債)で、さらにイギリスにもに引き受けてもらわなければ
    戦争を続けれれなかった。高橋是清がポンドで調達できたからですね!
    ロシアは戦費を引き受けてくれるとしたら、通貨は人民元しかありませんね。
    沿海州を担保にパンダ債発行するのではないでしょうか・・・・。

  •  ロシア自体は「特別軍事作戦の長期化を懸念し行動すると粛清される」というほどは狂気に駆り立てられておらず、プーチンは(認識の是非はともかく)現実を見ながらこの状況を見ている、ともとれます。
     出口がますます見えなくなってきました。出口さえあるならロシアの勝利でも良いというような理屈は言語道断ですが。