報道の自由を謳歌するテレビ:玉川氏が番組に本格復帰

番組内で事実に基づかない発言を行ったとして批判された玉川徹氏が3日、問題の番組に「本格復帰」したそうです。これなど「報道の自由」に政治権力が介入していない証拠そのものでしょう。それに、テレビ局の社会的影響力は、かつてとくらべ低下したとはいえ依然として大きく、「第四の権力」と称されることもあるほどです。そんなテレビ業界自身はその自由を謳歌しているようです。

病院の待合室で…

最初にちょっとだけ余談です。

著者自身、先日、さる理由で近所の病院に行く用事が出来ました。

その際、診察券を提出し、名前が呼ばれるまで待合室に座っていたのですが、今どき珍しく、地上波のテレビ番組(朝の情報番組)を流していました。最近だと、病院に設置されている「テレビ」では、オリジナル番組が流されていることもあるからです。

ただ、個人的に興味深いと思ったのは、その番組の内容ではありません。待合室に座っていた人たちの行動です。

見ていると、そのときに待合室には著者ら以外にも14人の患者さんが待っていましたが、テレビ番組を見ている人は2人ほどで、それ以外はいずれもスマートフォンなどの電子デバイスを食い入るように見つめている人ばかりだったのです。

この病院では昔から待合室でテレビを点けっぱなしにしているのですが、その一方で新聞ラック、女性週刊誌等を置いたマガジンラックなどは撤去されてしまいました。コロナ禍という要因もあったのかもしれませんが、それ以上にスマートフォンが急速に普及している影響は大きいのではないかと思います。

ネットの普及とともに新聞、雑誌が病院の待合室から姿を消すとともに、点けっぱなしになっているテレビに関心を示す人も減っているというのは、時代の流れなのかもしれません。

(※もっとも、子連れの人などにとってはアンパンマンなどの絵本があると大変助かると思う人も多いでしょうし、せっかくテレビを点けるなら『トムとジェリー』あたりを流してほしいと思う人もいるかもしれません。)

小西文書と高市氏の説明

さて、立憲民主党の小西洋之・参議院議員は先月上旬、礒崎陽輔・首相補佐官(※当時)が総務省に対し、放送法の解釈を問い質すなどしたやり取りが記録されているとされる、合計78ページからなる「総務省の行政文書」を公表しました。これがいわゆる「小西文書」です。

この「小西文書」の主眼を著者自身の言葉で要約するならば、当時の安倍晋三政権が放送法の解釈変更を政治主導で決定し、報道の自由を歪めた、とするものであり、とりわけ国会論戦の追及の舌鋒は、当時総務相だった高市早苗・経済安保担当相に向けられました。

もっとも、高市氏は自身について触れられた4枚――とくに、故・安倍晋三総理大臣との通話内容など――に関しては「捏造である」と当初から断定し、また、総務省自身が公表した精査結果でも、これらの4枚のうち3枚は作成者不明である、などと結論付けられ、残り1枚の正確性にも疑念が残っています。

結局、『勝負あり:高市氏が小西文書「捏造」を説明してしまう』などでも説明したとおり、放送法に関する問題の「小西文書」に関しては、内容の不正確さなどにおいて、もう「結論」は出てしまっていると考えて良いでしょう。

テレビ局は現実に放送法を守っていないじゃないか

もっとも、万が一、これらの文書に記載されている内容が事実だったとして、いったい何が問題なのか、と思う人も多いでしょう。実際の報道番組などを見ると、テレビ局の多くは放送法第4条第1項に定める義務を、ほとんど守っていないからです。

放送法第4条第1項とは、放送事業者に対し、番組内容が公安、善良な風俗を害しないことに加え、政治的公平性を確保するとともに、報道では事実を曲げないことと、意見が対立している問題に関してはできるだけ多くの確度から論点を明らかにすること――などを義務付けた条項のことです。

放送法第4条第1項

放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

このあたり、『椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』などでも指摘してきたとおり、テレビ業界はときとして自らの社会的影響力を悪用し、公正な報道を行わず、情報を歪めることで選挙結果に影響力を行使してきたのです。

報道の自由を悪用してきたという意味では新聞業界も同じかもしれませんが、やはり近年、新聞がその社会的影響力を縮小させているのと比べると、テレビ業界の社会的な影響力は依然として非常に大きいという言い方ができるでしょう。

玉川事件後、玉川徹氏が番組に本格復帰

こうしたなかで発生した「玉川事件」は、テレビ局がいかに報道の自由を謳歌しているかという証拠そのものでもありました。

これは、テレビ朝日の従業員である玉川徹氏がテレビ朝日の番組『羽鳥慎一モーニングショー』に出演した際、故・安倍晋三総理大臣の国葬儀に関連し、菅義偉総理大臣が読み上げた弔辞の作成などに「電通が関わっている」などとする虚偽の発言を行った問題です。

玉川氏は結局、その後はしばらく番組への出演を控えていたのだそうですが、こうしたなかで『スポニチ』によると、玉川氏は4月3日以降、番組に「本格復帰」したというのです。

テレ朝・玉川徹氏「羽鳥慎一モーニングショー」本格復帰を発表「ひるまず、怠らず、努めて参りたい」

―――2023/04/03 08:46付 Yahoo!ニュースより【スポニチAnnex配信】

記事によると玉川氏は番組冒頭で「この半年間、原点に立ち返り取材を続けてまいりました」と切り出し、「ひるまず、怠らず努めて参りたいと思います」、「みなさんよろしくお願いします」と「決意表明」したのだそうです。

なんとも驚く話です。

玉川発言を受け、番組自体がなくなってしまうどころか、玉川氏がたった半年の謹慎でこの番組に本格復帰したという事実自体、テレビ局という組織がいかに自由を謳歌しているかという証拠そのものでしょう。

報道の自由以上に大切なものは「批判の自由」

当たり前ですが、日本には「表現の自由」がありますので、何を表明するにおいても「ひるむ」必要はありません。しかし、それと同時にこの半年間の「謹慎」の原因を作ったのは、ご自身の「事実に基づかない発言」だったことを忘れてはなりません。

もちろん、民主主義社会のことですから、政治に対する批判が自由にできることは大切です。しかし、その批判が事実に基づかないものであったならば、そのような行動は訂正されなければなりません。それは「表現の自由」の範囲から大幅に逸脱するものだからです。

それに、テレビ局が「権力批判」の自由を持っているというのなら、私たち一般国民も同様に「テレビ批判」の自由を持っていなければなりません。テレビ局は依然として「第四の権力」と揶揄されるほど社会的影響力が大きいのですから、その「第四の権力」に対する批判の自由も保障されていなければならないのです。

いずれにせよ、今回の玉川氏の番組復帰は、「安倍政権下で放送法の解釈が変更され、報道の自由に対して干渉が行われた」とする主張が正しくないことを証明する事例のひとつであることだけは間違いないでしょう。

もっとも、社会のインターネット化が進んでいけば、人々の関心事も多様化するでしょうし、現に全国各地の病院や銀行などの待合室からは、すでに新聞、雑誌の撤去も進んでいるようです。テレビもごく近い将来において、インターネット上のウェブサイトなどと並ぶ「選択肢のひとつ」に成り下がるのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. わんわん より:

    <テレビ朝日>開局以来初の快挙、2022年度世帯視聴率で3冠 個人全体では2冠(MANTANWEB)
    https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/0afb3c90912d2a869a95016693fb45548894b8d9&preview=auto
     テレビ朝日 図に乗り過ぎ(WBCの地上波放送が明暗をわけた)

  2. 匿名 より:

    本件と無関係ですけど故坂本龍一氏の訃報を伝えるニュースでNHKがYMOの曲だからってんで「ライディーン」をBGMに流していたところネット上で呆れられていたそうです。よく知らないのなら戦メリでも流しておけばよかったものを・・・テレ朝は大丈夫だったんですかね?こういうのを聞くと本当にテレビ(の作ってる側)ってテキトーな連中だなって感じます。

  3. クロワッサン より:

    >いずれにせよ、今回の玉川氏の番組復帰は、「安倍政権下で放送法の解釈が変更され、報道の自由に対して干渉が行われた」とする主張が正しくないことを証明する事例のひとつであることだけは間違いないでしょう。

    うーん、証明する事例とするには、自称報道番組で虚偽の事実を流布した出演者への謹慎期間が通常は半年より短い事などが求められるのではないでしょうか?

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