日韓正常化を阻む慰安婦合意問題

安倍総理の「罠」が8年越しで作動

日韓両国政府が2015年12月に取り交わした慰安婦合意を巡り、韓国国内で(勝手に)大騒ぎになり始めているようです。韓国政府内では「第2財団」構想が「最も現実的」などとも取りざたされているようですが、これを巡っては自称元徴用工問題を巡る韓国国内での混乱の余波もあり、すぐに議論するのが難しい状況でもあるようです。安倍晋三総理大臣、菅義偉総理大臣らが仕込んだ「罠」が8年越しで発動したのだとすれば、興味深いと言わざるを得ません。

岸田ディールが示す岸田首相の無能さ

自称元徴用工問題を巡る「岸田ディール」(具体的内容については『岸田ディールで垣間見える「キシダの実務能力」の低さ』等参照)の最大の問題点は、韓国が作り出した問題点のうち、とくに2018年10月と11月の大法院(※最高裁に相当)の判決を無効にする措置が、なんら講じられていない点にあります。

その意味では、自称元徴用工問題を巡る「解決策」は、未来に向け禍根を残した格好です。なぜなら、遅くとも尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権は2027年5月までに終わり、その後に発足する政権がこのディールを覆すことは目に見えているからです(場合によっては尹錫悦政権が合意を反故にするかもしれません)。

ちなみに岸田首相自身、韓国による「約束破り」のリスクを巡っては、「仮定のご質問にはお答えしません」と言い放ちましたが(首相官邸HP『旧朝鮮半島出身労働者問題についての会見』参照)、「どうせ韓国が約束破りするときには俺の任期も終わっているに違いない」とでも思ったのでしょうか?

慰安婦合意破り問題が絶賛炸裂中…!?

ただ、この雑な「岸田ディール」、「韓国が日本を体よく騙した成功事例である」とは単純には言えないのかもしれません。

というのも、16日の日韓首脳会談では、岸田首相の側から尹錫悦大統領に対し、2015年の日韓慰安婦合意に関して「着実な履行を求めた」との話題が韓国国内でどうも大騒ぎになっているようだからです。

これに関連し、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には慰安婦合意に関連する記事がいくつか出ています。最初に取り上げるのは、これです。

「慰安婦合意の履行要求」論議に···第2の和解・癒やし財団の推進も停滞

―――2023.03.22 06:50付 中央日報日本語版より

中央日報によるとこの岸田首相発言を巡り、「韓国政府の苦心が深まっている」のだそうです。

韓国政府は紆余曲折の末に『これは岸田首相の発言に過ぎず、これについて話し合ったことがない』という立場を明らかにし、日本メディアの歪曲報道に遺憾を表明したが、否定的世論が収まっていないためだ」。

「自分たちに都合が悪い報道が出たら、すぐに『歪曲』だと大騒ぎするあたり、どこかの政党とソックリではないか」、という感想を持つ人もいるかもしれませんが、その点についてはとりあえず脇に置きましょう。自分の国が反故にした日韓慰安婦合意を巡り、勝手に苦心している、というのです。

中央日報によると韓国外交部の趙賢東(ちょう・けんとう)第1次官は20日、メディアとのインタビューに応じ、「第2の和解・癒し財団を発足させ、慰安婦被害者らの名誉と尊厳を讃える事業を推進する」という案を巡り、「アイデアのひとつ」としつつも「具体的検討が行われているわけではない」と述べたのだそうです。

合意履行が中断…(勝手に)ジレンマに陥る韓国政府

これに関連し、もう少し詳しい記事が、次の2本です。

悩み深まる「慰安婦合意」…和解財団「残金56億ウォン」どうすれば(1)

―――2023.03.22 08:07付 中央日報日本語版より

悩み深まる「慰安婦合意」…和解財団「残金56億ウォン」どうすれば(2)

―――2023.03.22 08:08付 中央日報日本語版より

記事タイトルに「1」「2」とあるとおり、同じ記事を2分割したものですが、「記事を細かく分割する」というのはページビュー(PV)を稼ぐためでしょうか?

それはともかく、こちらの記事では「徴用問題解決策と韓日首脳会談の波紋が広がる状況」で、「慰安婦合意を履行することも、合意の履行に背を向けることもできないジレンマ」に韓国政府が直面している、などと記載されています。

ちなみにこの慰安婦合意について、中央日報は次のように述べています。

韓日両国は2015年12月、『慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決』を盛り込んだ慰安婦合意を導出した。しかし2018年11月、文在寅(ムン・ジェイン)政権で合意の核心結果である和解・癒やし財団の解散を決定し、4年以上も合意の履行が中断した状態だ」。

どうしてもっと正確に、「文在寅(ウェン・ツァイイン)政権が合意を破った」と表現できないのでしょうか?

改めて指摘しておくなら、この慰安婦合意は朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代に韓国が日本と自称元慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」で合意したにも関わらず、文在寅(ぶん・ざいいん)政権があっけなく約束を破ったという代物であり、韓国が「約束破りのウソツキ」であることの象徴です。

そんな慰安婦合意で韓国が「勝手に」ジレンマに陥っているというのにも驚きます。

ちなみに中央日報によると、慰安婦財団自体は現在、「法的には解散は完了しているが、清算手続はまだ終わっていない」そうです。財団の業務が「曖昧に残っている状態」で、2018年11月の解散発表、19年1月の設立許可取消し、19年6月の解散登記完了という順序を経て「空中分解」したからだそうです。

韓国はまだ慰安婦像問題を履行していない

その結果、日本政府が拠出した10億円のうち、残金56億ウォンの処理が問題となっており、「財団は過去4年間、清算手続きを終えることができなかった」としています。

先ほども出てきた「第2の和解・癒やし財団」とは、こうした文脈で出て来るものです。

結局、日本の出捐金を使用するためには和解・癒やし財団と似た性格の別の財団をまた設立し、日本との協議を経た後、慰安婦記念事業を推進する手続きになると予想される」。

この場合、文在寅政権で慰安婦合意を認めながらも財団を解散して事実上合意が無力化した状況も解消される可能性がある」。

いったい何を都合の良いことを言っているのでしょうか。

そもそも自称元慰安婦問題を巡る岸田合意は、次の4点を柱としたものです。

【参考】いわゆる「日韓慰安婦合意」(2015年12月28日)のポイント
  • ①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感し、安倍晋三総理大臣は日本国を代表して心からおわびと反省の気持ちを表明する。
  • ②韓国政府は元慰安婦の支援を目的とした財団を設立し、日本政府はその財団に対し、政府予算から10億円を一括で拠出する。
  • ③韓国政府は在韓国日本大使館前に慰安婦像が設置されている問題を巡って、適切に解決されるように努力する。
  • ④上記②の措置が実施されるとの前提で、日韓両国政府は、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されたことを確認し、あわせて本問題について、国連等国際社会において互いに非難・批判することを控える。

(【出所】外務省HP『日韓外相会談』より著者作成)

つまり、この慰安婦合意をもって安倍晋三総理大臣自身が韓国に謝罪を終えており、しかも日本政府は政府予算から10億円という大金を韓国側に送金済みです。これをもって、自称元慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決しました。

そして、現在、韓国に残っているのは上記③の義務不履行の問題です。

韓国の首都にある日本大使館(跡地)前の公道上には慰安婦像が鎮座したままですし、同じような慰安婦像は釜山にある日本総領事館前の公道上にも鎮座しています。これらの構造物は外国公館の尊厳侵害を禁じた外交に関するウィーン条約(第22条第2項)に違反しています。

韓国政府がカネと謝罪だけ受け取って、自分たちに課せられた義務を一切果たしていないことは、日韓関係が健全化・正常化することを阻んでいるのであり、たとえ自称元徴用工問題が「解決(?)」したとしても、この問題が片付くことはありません。

岸田政権も「時間切れ」?

ちなみに中央日報によると、「政府筋」は次のように述べたのだそうです。

日本の出捐金を使用するための最も現実的な代案は第2の和解・癒やし財団を設立し、日本の出捐金を基に慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復する事業を推進することだが、徴用問題の波紋が続く状況では今すぐ動くのは難しい」。

正直、この自称元慰安婦問題を巡る騒動がこのまま続けば、日韓関係の正常化・健全化はさらに遅れることになりますし、そうこうしている間に岸田文雄首相自身の任期が切れれば、日韓諸懸案を「包括的に解決する」という、岸田「宏池会」政権と外務省の浅知恵も「時間切れ」で破綻するかもしれません。

そうなると、またしても「ウソツキ外務省」あたりが暗躍し、自称元慰安婦問題を巡る日韓の「再交渉」という愚かな行動に出て来る可能性もありますが、これに関しては、自民党外交部会の皆さんには、今度こそ絶対に阻止していただきたいところです(わかってますね、口だけの某隊長さん?)。

当たり前の話ですが、韓国の国内問題を解決する義務があるのは、韓国政府であって日本政府ではありません。日韓両政府間では自称元慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決済みですので、日本政府はこれ以上、この問題で「交渉」してはなりません。

同じく韓国政府が発生させた問題である火器管制レーダー照射事件についても、韓国側の説明や謝罪、関係者の処罰といった措置が、まだ講じられていません。これらが完了しない限り、たとえ自称元徴用工問題が見せかけの解決をしたとしても、日韓関係が正常化することは難しいでしょう。

いずれにせよ、同じ人物が韓国に3度も騙されるというのも興味深いところですが、それ以上に興味深いのは、故・安倍晋三総理大臣、あるいは安倍総理の下で官房長官として実務を取り仕切っていた菅義偉総理大臣らが仕組んだ「罠」が、8年越しで発動しつつあることです。

安倍総理は亡くなりましたが、安倍総理の遺産は現在でも宏池会政権や外務省の浅知恵を封殺しているのだとしたら、本当に凄いことではないかと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 農民 より:

     死せる孔明生ける仲達を走らす。……なんて言ったら司馬懿に祟られるな。

     安倍総理が逝くのは(おそらくご自身からしても)早すぎでしたが、慰安婦合意の毒は「韓国とはこういう国」というものを固定化しましたから、長く効くことでしょう。
     自分が勤めている間だけ会社が保てば良い、自分が生きている間は年金は安泰だからどうでも良い、などという人達が”あべまさはるをゆるさない”とかやっていたなら、やりきれん話です。

    1. 引っ掛かったオタク@??? より:

      “団塊”は逃げ切り
      “団塊Jr.”は…ワリ喰う世代??

      1. 団塊 より:

         GPIF
        累積運用益 100兆円くらいで
        運用資産額 200兆円くらいですよね
         これって世界一の大金持ち年金運用機関なんじゃないですか

  2. 匿名 より:

    不可逆的に解決、つまり、合意自体を無かったことにするのも無理というわけだ。

  3. はにわファクトリー より:

    捏造新聞社への指弾もお忘れなく。Japanese newspaper is suck. Here is why. こう語り掛けれ続ければ、劣後新聞記者の不正行為がいずれ世界に広まるでしょう。

  4. JJ朝日 より:

    正に、「罠の戦争」じゃないですか・・・。

  5. sey g より:

    第二の慰安婦財団をつくると言ってるが、問題はそこじゃない。

    つくろうにも、お金がないかも知れません。
    確かに帳簿上には残金はありますが、きちんと調べたら実物がなかったりして。

    彼等の考え方を想像するに
    「財団が解散するんだって。残金はどうしよう?どうせ、復活しないから 俺達で処理しても いいんじゃない。」
    となってる可能性大。

    もし、慰安婦以外にお金を使ったのがバレたら、、、。

    と、あくまでソーゾーです。
    そんなバカなハナシがある訳ありません。

  6. taku より:

    慰安婦合意の実質的破棄(=同財団の解散)問題は、「韓国が国家間の約束を守らない」代表的事例として、永く語り継がれるでしょうから、あわてて解決する必要はありません。
    合意の履行を迫ること(岸田首相も日韓首脳会議で言及したようですが)は大事ですが、日本がそれに協力してはいけません。仮に第二財団を作り、そこへ流用したい、というのであれば、世界中の慰安婦像の撤去を求めるくらいの高いハードルを条件出し、しましょう。
     私としては、前回の日韓首脳会談では、本件よりも、レーダー照射事件に、岸田首相は言及して欲しかった、と考えております。日米韓の軍事・安保協力がうまくいかない障害が、韓国側にあるということを、米国にしっかり理解させる必要があると判断するからです。「事実をきちんと認めることと、再発防止策の公表」がない限り、真の友軍にはなりえない、そう主張して欲しかったな。

  7. どみそ より:

    合意違反に対し 高級事務レベルでの各種協議を拒絶したはずなのに シャトル外交 検討ですって。韓国がおこした暴虐が何一つ解決していないのに 甘い態度を示すから カモにされ続けるんだよ。
    話しても無駄な相手は 無視拒絶懲罰が正解。
    「未来志向」「協調」「地域発展」で騙され 集られ続ける。
    大丈夫?キシダさん。

  8. クロワッサン より:

    韓国が望む“正常な日韓関係”とは、永世戦犯国の日本が永世被害国の韓国に謝罪と賠償をし続ける、という関係なので、そそれを妨げる安倍晋三氏の遺産は宝ですね。

    ま、旧統一教会は「永世加害者の原罪を背負う日本人が、永世被害者たる韓国人に謝罪と賠償と奉仕をし続ける」という関係を信者間で完成させていましたが、安倍晋三氏が暗殺された事でそれも出来なくなりそうで、それも遺産のひとつとなれば良いですね。

    1. クロワッサン より:

      >わかってますね、口だけの某隊長さん?

      ヒゲだけの口先隊長ですね、分かります(*^_^)b

  9. ななっしー より:

    いやまずいですよ。これはキッシーを4度ダマすための仕込みですよ。

    合意不履行で問題なのはカネの使い道じゃないぞ、中央日報さんよお。
    財団解散(2018)したって別に日本は制裁してないでしょ。
    それで「悪化」したわけじゃないでしょ。
    悪化したのは火器管制レーダー事件とか旭日旗騒動でしょ。
    制裁したのは慰安婦像関係(2017)でしょ。

    3匹目のドジョウ:
    日韓関係改善できないのはチョウヨウコウ問題があるからだ!
    →解決「案」発表!(担保無し)
    →(協定三条違反不問)、歴史認識確認、包括許可、未来青年基金(仮称)、シャトル外交、日韓安保対話再開、日韓経済安保対話新設ゲットだぜ!

    4匹目のドジョウ:
    日韓関係改善できないのは慰安婦合意資金が残ってるからだ!
    →適当に56億ウォン「処分」する(慰安婦像や「市民」活動はそのまま)
    →日韓通貨スワップ協議と日韓ハイレベル経済協議ゲットだぜ!

    財団解散(2018)と慰安婦像制裁(2017)は関係無いって?
    チョウヨウコウと貿易管理も関係無かったじゃん。
    56億ウォン処分しただけで慰安婦合意「履行」として、すべきことをしただけで「呼応措置」として通貨スワップ協議を要求するための中央日報による仕込み記事ですな。
    とっても危険な兆候です。

    なお、日韓経済安保対話と日韓ハイレベル経済協議はどちらもトップが「次官級」マターなので、もう韓国にとって後者はどうでもいいかもしれない。
    こりゃホントに一連の岸田ディールは安倍さん菅さんの努力を無に帰すかもしれない。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告