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「徴用工解決で安保協力が進む」という松川議員の詭弁

「あの議員」の詭弁が再び出てきました。「朝鮮半島生命線説」とでも言えば良いのか、自称元徴用工問題を「解決」することが、日韓・日米韓の安全保障連携にも寄与する、といった主張です。端的にいえばお粗末と言わざるを得ません。「日本が韓国に譲歩したら日韓・日米韓連携が円滑になる」という主張自体が、そもそも理論的に間違っているからです。

国益こそ重要

著者自身がここ10年ほど取り組み、いまや一種の「ライフワーク」と化しているのは、「日本にとって円滑な日韓関係が国益である」とする主張の誤りを理論的に証明する作業です。

日本にとって日韓関係は重要」――。

いちおう、念のために申し上げておくならば、古今東西、いかなる国と国との関係においても、それが「重要であるか、重要ではないか」を決めるうえでは、さまざまな関係を考慮する必要があります。

「地理的に近いかどうか」、「歴史的に関係が深いかどうか」という点もさることながら、やはり重要なのは、「その国との経済的な関係の深さ」、「その国の安全保障上の位置づけ」です。

そもそも国家の目的とは、経済的繁栄と安全保障の確保――もう少し平たい言葉でいえば、「国民が平和で豊かに暮らせること」にあります。これを「国益」と言い換えても良いでしょう。そして、国家のあらゆる行為は、この「経済的繁栄と安全保障の確保」(国益)を最大化することに向けられねばなりません。

ということは、ある国との関係を「改善」することが国益のために必要ならば、国民感情云々は無視して、その国との関係を全力で「改善」しなければなりませんし、極端な話、国際法で認められるわが国の権利を多少相手国に譲ってでも、その国との関係を良好に維持しなければならないのです。

「韓国が日本の国益」論の間違い

日韓諸懸案の正体は「二重の不法行為」

日韓諸懸案を巡っても、同じことが言えます。

自称元徴用工問題、火器管制(FC)レーダー照射問題、仏像窃盗問題、大統領や国会議長らによる天皇陛下侮辱問題、自称元慰安婦問題、慰安婦合意破り、竹島不法占拠問題などの日韓諸懸案については、基本的には「韓国の日本に対する一方的な『二重の不法行為』」です。

ここで「二重の不法行為」とは、「①韓国がウソ、捏造に基づき」、「②法的な根拠もなしに日本に対し不当な要求をしている」という問題のことを意味しています。

日韓諸懸案に関する韓国の「二重の不法行為」とは?
  • ①韓国側が主張する「被害」の多くが韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • ②韓国側が日本に対して要求している謝罪や賠償の多くは法的根拠がないか、何らかの国際法違反・条約違反・合意違反などを伴っている

(【出所】『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)

世間では少し勘違いしている人が多いようですが、日韓諸懸案とは韓国の日本に対する「二重の不法行為」の問題です。解決する全責任は、韓国側にあります。そして、日本が議論しなければならないことは、「どうやって韓国に譲歩して折り合いをつけるか」、ではありません。「約束を守らない韓国を、どうやって罰するか」、です。本稿では「総論」として、これまでに当ウェブサイトで触れてきた「韓国の対日不法行為」の数々を、大ざっぱに振り返っておきます。韓国の対日不法行為、尹錫悦政権発足後に「風化」していないか?2022年5月1...
【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任 - 新宿会計士の政治経済評論

したがって、本来ならば日本が韓国に対し、国際法の原理・原則を捻じ曲げて譲歩するようなことはあってはなりませんし、また、ルールに基づく国際法秩序を重視する日本国にとって、国際法のルールを自ら破ることは、やってはならないのです。

ただし、外交の世界においては、ときとして相手国に譲歩することも必要です。きれいごとだけで国家の生存は保証できないからです。

もしも韓国が日本の「生殺与奪の権」を握っているのだとしたら、「国際法秩序」だ、「ルール」だといったきれいごとを述べている余裕などありません。全力で土下座してでも、韓国との関係を「改善」し、日韓関係を良好に維持しなければならないこともあるでしょう。

日本が韓国に「土下座」しなければならない条件

では、日本が韓国に「土下座」でもしなければならない条件とは、いったい何でしょうか。

著者自身が2年前に『韓国がなくても日本経済はまったく心配はない』という書籍を刊行した狙いは、この「国益と相手国への譲歩」の関係を、社会的に深く議論する一助とすることにありました。

著者自身が見たところ、日本社会にはまざまな詭弁を駆使し、何とかして韓国との関係を「好転」(?)させようと画策する者たちがいるのですが、そのような者たちが使うロジックは、だいたいいくつかのパターンに集約できるのです。

2年前の著書では「①一衣帯水論」、「②経済関係論」、「③朝鮮半島生命線説」という3つを紹介しましたが、これに加え、最近だと「④邦人退避論」、「⑤日本の誠意ある呼応論」のようなものも出現しています。

①一衣帯水論

韓国は同じアジアの国として、地理的にも近く、歴史的にも文化的にも深い関係を持っている。日韓両国は一衣帯水の関係にあり、切っても切れない関係にある。また、過去に日本は韓国を「植民地支配」したという加害者としての歴史もあり、贖罪意識を持つことも必要だ。

②経済関係論

日本企業の多くが韓国に進出する一方、韓国の産業も日本製の製造装置や部品、素材などに強く依存しており、経済的側面から、日韓両国は切っても切り離せないほど、相互に重要な関係にある。

③朝鮮半島生命線説

韓国は地理的に見て日本に非常に近く、この地域が日本の敵対勢力に入れば、日本の安全保障に深刻な脅威をもたらす。だからこそ、日本はあらゆるコストを払ってでも、朝鮮半島を日本の友好国に引きとどめておかなければならない。

④邦人退避論

いま日韓関係を改善しておかなければ、半島有事の際に邦人避難に支障を来す。半島有事に備えて日本が韓国に譲歩し、日韓関係を改善することが必要だ。

⑤日本の誠意ある呼応論

保守派である尹錫悦(イン・シーユエ)政権の間に日韓関係を改善しておかなければ、関係改善の機会は失われる。また、日本が韓国に誠意ある呼応をすることで、尹錫悦政権の韓国国内の立場も強くなる。

正直、上記のうち①については主張としてはあまりにもお粗末で論外ですが、②、③については一見するともっともらしいものです。さしずめ②は「経済的側面から日韓関係は重要」、③は「軍事的側面から日韓関係は重要」と主張するものです。

また、最近になって④、⑤のような主張が出てきたことでもわかるとおり、この手の「韓国重要」論は、手を変え品を変え出現しています(あまりにも低レベルな⑤はともかくとして、④の主張については③と同様、一見するともっともらしいのが厄介なところです)。

結論:日本は韓国に譲歩する必要がまったくない

この点、あまりまどろっこしいことをしたくないので、結論から先に述べておきますが、少なくとも上記②、③に関しては「日本が国際法の原理原則を捻じ曲げてでも韓国に譲歩すべき理由」にはなりませんし、④、⑤に関しても同様です。

②に関しては2年前の拙著でも「ヒト、モノ、カネ」の側面から詳しく議論したうえ、今月の『数字で見る「韓国は経済的に重要な相手国」の間違い①』でも「カネ」の流れの面から「韓国が日本にとって重要ではない」ことを最新データで再確認しています。

意外と知られていない統計的事実は、「日本の金融機関の韓国に対する国際与信の額は、2022年9月末時点において500億ドルに満たず、日本の金融機関の対外与信全体の1%少々に過ぎない」ということです。金融面における日韓間の結びつきは隣国同士とは思えないほど弱い、という言い方をしても良いかもしれません。これでも「日本にとって韓国との関係は大事だから諸懸案で日本が韓国に譲歩すべき」といえるのでしょうか。韓国政府の姑息な努力日本に非を認めさせる努力しかしていない韓国政府「韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権は...
数字で見る「韓国は経済的に重要な相手国」の間違い① - 新宿会計士の政治経済評論

(※ちなみにこの『数字で見る「韓国は経済的に重要な相手国」の間違い①』に「①」と付した理由は、「ヒト」、「モノ」について②、③などと付し、シリーズ化しようともくろんだからなのですが、著者自身の怠惰と多忙により、まだ②、③については執筆できそうにありません。どうか気長にお待ちください。)

その一方で③に関しては2年前の拙著で十分に議論できたとまでは言い難いものの、最近になってさまざまな情報が出て来ています。そのなかでも最も手っ取り早いのは、日本で最も信頼のおける韓国観察者のガイダンスを読むことではないでしょうか。

鈴置氏は日韓諸懸案を巡って、韓国への譲歩が無意味であるだけでなく、有害ですらあるという点について、かなり以前から日本人に対し、懇切丁寧に解説し続けています(『韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する』等参照)。

年末に韓国観察者・鈴置高史氏が、「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の総集編」ともいうべき記事を公表しています。これがまた大変に面白いのです。鈴置氏といえば、過去に「日本が韓国に譲歩したところで意味がない」という点をわかりやすく説き明かした人物でもありますが、今回の論考もそれとまったく同じ文脈に位置付けることができそうです。課題は解決しなくても良いこともある「課題山積」なら「解決法」は――?「新年から、内外ともに課題は山積している」――。こんなことを述べると、必ず帰ってくる反応のひとつが、「では、そ...
韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する - 新宿会計士の政治経済評論

この鈴置論考を当ウェブサイトなりに勝手に解釈すると、「自称元徴用工問題などの日韓諸懸案で日本が韓国に譲歩すること」が「安全保障面での日韓協力の円滑化」に寄与するとは論理的にはつながらない、ということです。

「日本が譲歩したら問題解決」論の大間違い

これにはおもに韓国側の事情を考えておく必要があります。

「朝鮮半島生命線説」でも触れている通り、たしかに韓国は日本から見て地理的に非常に近い場所にあり、日本の対馬から韓国の釜山まで、直線距離にして約50㎞ほどしか離れていません。そんな対馬では携帯電話が韓国のキャリアの電波を拾ってしまうこともあるそうです。

その釜山に中国人民解放軍の基地ができれば、あるいはロシア軍の基地ができれば、対馬の安全がただちに脅かされるし、日本の国家の存亡事態にもつながるかもしれない」――。

おそらく明治期の日本人は、朝鮮がロシアの版図に入ることを極度に恐れたのだと思いますし、現代においても朝鮮半島に短距離ミサイルが配備されれば、日本の防衛が非常に困難になる、といった恐れがあることは否定できません。

ただ、それと同時に、「日韓諸懸案で日本が韓国に譲歩すれば、こうした脅威が一切消える」、などと単純に考えるのならば、それはそれで政治家失格です。もし日本が韓国に譲歩したとしても、それで日韓協力関係が円滑化するという保証はまったく存在しないからです。

いや、むしろ「日韓軍事協力」と「日韓諸懸案を巡る日本の対韓譲歩」は、論理的につながりません。

韓国は歴史的に「中国恐怖症」に支配されてきた国ですし、これに最近は「米国恐怖症」が加わっています。その結果、「中国からの圧力」があれば中国に、「米国からの圧力」があれば米国に、それぞれ簡単に靡(なび)いてしまうのです。

したがって、日本が韓国に対して譲歩したとしても、結局は「食い逃げ」されるのが関の山でしょう。

先ほど挙げた「④邦人退避論」に関しても、結局のところ、「日韓関係を円滑化しておけば半島有事の際に韓国政府が邦人退避に協力してくれる」という話にはなりません。日韓関係が円滑であろうがなかろうが、半島有事の際の韓国政府の協力は期待できないのです。

いや、朝鮮戦争初期に当時の大統領だった李承晩(り・しょうばん)が真っ先にスタコラサッサと首都を捨てて逃げ出した故事にならうまでもなく、もし現代において半島有事があれば、韓国政府自体が真っ先に機能を停止する可能性は濃厚です。

そのときに邦人保護をしてくれるのは、韓国政府・韓国軍ではなく、米軍でしょう。半島有事を想定して韓国に譲歩したとしても、まったく意味がない理由です。

円滑な日韓関係を必要としているのは、むしろ韓国の側では…?

それに『鈴置論考で読む「台湾を見捨てず韓国を見捨てる日本」』などでも考察しましたが、正直、現在の安全保障環境に照らすなら、台湾有事から半島有事に発展する可能性が最も高く、そのときに備えて円滑な日韓関係を必要としているのは、日本ではなくむしろ韓国の側です。

隠れたテーマは「キシダは騙せても国民は騙せない」「キシダは騙せても世論は騙せない」。抑制の効いた筆致ながら、本質をえぐる優れた論考が出てきました。日本でも最も信頼すべき韓国観察者である鈴置高史氏が、台湾有事と半島有事を関連付け、そのときに日本がいかなる態度をとるか、現在の韓国が日本にとって助けるにふさわしい国なのかを議論する、極めて深いテーマの論考です。しかも、転載先の『Yahoo!ニュース』の読者コメント欄のレベルの高さが、「世論は騙せない」という鈴置論考の正しさを実証しているというオチまで付い...
鈴置論考で読む「台湾を見捨てず韓国を見捨てる日本」 - 新宿会計士の政治経済評論

尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権発足以来、韓国政府がやってきたことといえば「日本に非を認めさせる努力」に尽きるのですが、本来、彼らがやらなければならないのは、「国際法の原理・原則に従い、日本国民を納得させることができる落としどころを探るための努力」だったはずです。

結局のところ、現在韓国政府が策を弄している「財団方式による自称元徴用工問題の解決策」も、一般の日本国民を激怒させる代物に過ぎませんし、このままの状態だと、半島有事に際して一般の日本国民は韓国支援を支持することはないでしょう。

いずれにせよ、韓国の「日本に非を認めさせる努力」自体、自国が置かれたそんな立場をまったく理解していない愚かな行動と断じざるを得ません。

  • ①一衣帯水論→論外
  • ②経済関係論→数字で見ると正しくない
  • ③朝鮮半島生命線説→理論的に正しくない
  • ④邦人退避論→理論的に正しくない
  • ⑤日本の誠意ある呼応論→論外

松川議員のブログ・エントリー

これは酷い!

さて、本稿ではもうひとつ紹介しておきたいのが、こんなブログ記事です。

日韓関係:「徴用工」判決問題解決の意義

―――2023年02月15日 18時36分付 アメブロ『松川るいが行く!自民党参議院議員松川るいオフィシャルブログ』より

著者自身、実名を挙げて他人を批判するのはあまり好きではないのですが、松川るい氏に関しては残念ながら「実名を挙げずに批判する」ということはできません。なぜなら松川氏は参議院議員という「政治的な権力者」であり、しかも与党・自民党に所属していて、政策にも大きな影響を与え得る立場にあるからです。

もちろん、相手が政治家などの公人であったとしても、極力人格批判を控えるなど、節度を守らなければならないことは当然ですが、それでも敢えて言わせていただくならば、正直、このブログ・エントリーの内容は「これは酷い!」のヒトコトに尽きます。

全部で8000文字を超える長文で、自称元徴用工問題(松川氏は「『徴用工』判決」などと呼称しています)を「解決」することが「日本の国益」などと主張するものですが、まさに上で示した「朝鮮半島生命線説」的な発想に見事に染まっています。

詭弁の塊:外務省関係者の主張とおぼ同じ

ちなみに松川氏自身のウェブサイトで公表しているプロフィールによると、松川氏自身は1971年の生まれで、外務省勤務を経て2016年に大阪選挙区で当選したという経歴を持っていますが、今回のブログ・エントリーも、松川氏が外務省の立場を代弁していると仮定しながら読むと、大変わかりやすいかもしれません。

というよりも、松川氏の主張、詭弁の塊であるとともに、その内容は外務省関係者のそれとほぼ同じだからです。

たとえば、韓国政府が現在打ち出してきている自称元徴用工問題を巡る「財団方式」による解決を巡って、松川氏は「将来にわたり『徴用工』対日訴訟を封じる第三者弁済」などと絶賛します。

原告は、この『財団』の『基金』からお金をもらうことができるようになることにより判決履行が済むこととなるので、その結果、日本企業に対する現金化は法的に阻止されるのです」。

それだけでなく、韓国政府は、『財団基金』の定款も変更し、今後生じうる将来の対日本企業賠償請求についても『財団基金』が支出して法的に解決できることとしています。無論、日本政府が今後追加で支払うということもありません」。

これらの記述、本気でそう信じて書いているのならば救い様がありませんし、「わかってやっている」ならなおさら悪質です。この「財団方式」、2018年10月と11月の自称元徴用工判決が法的に有効である、という前提で出て来ている時点で、まともに取り合ってはならないものだからです。

というよりも、そもそも論として、自称元徴用工問題を巡る最大の争点は、「日本企業に対する現金化が阻止できるかどうか」、ではありません。「韓国の司法システムが国際法を正面から否定している」ことにあります。

しかも、この問題を巡って日本政府はすでに2019年、日韓請求権協定に基づく外交的協議、国際仲裁手続のステップを踏みました。それを無視したのは韓国政府の側です。

重要な前提条件をいくつも無視する松川氏

それに、自称元徴用工問題自体、この「判決自体が違法である」という問題に加え、「ありもしない問題を韓国が捏造している」という、まったく別次元の大きな問題を抱えています。

松川氏の議論は「大法院判決自体が国際法違反である」という点だけでなく、「そもそも自称元徴用工問題が韓国側の完全な捏造である」という事実をも無視し、国民を騙そうとしている点においても、卑劣と言わざるを得ないのです。

また、松川氏は2015年の慰安婦合意が文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で「事実上瓦解してしまった」と述べていますが、「事実上瓦解してしまったわけです」で終わらせるのはいかがなものかと思います。

松川氏自身が日本国の国会議員という立場にある以上、国と国との約束を破った「加害者」である韓国政府の側を、それこそ舌鋒鋭く批判する義務があるはずでしょう。

それに、慰安婦合意でもわかるとおり、韓国というのは政権が代われば平気で約束をひっくり返す国ですから、そもそも「韓国と約束を取り交わすこと」を前提とした「解決案」など、解決になっていないことに、いい加減、松川氏自身が気付くべきでしょう。

こうした重要な前提条件をいくつも無視している点で、松川氏の論考はメチャクチャです。

なんで日本が韓国の世論に配慮しなければならないのでしょうか?

松川氏の主張の詭弁は、それだけではありません。

松川氏は「韓国が日本に求めているもの」と題した節で、韓国側が「被告企業からの謝罪も賠償も難しい」との認識を持っているとしつつも、日本があまりにも原則に拘り過ぎれば解決案自体が成り立たなくなるとして、次のように述べます。

ただ、その解決策を貫徹するためには、原告が過激な行動に出たり韓国世論が反対するといった事態となっては政治的にもたなくなり、結局解決できなくなってしまうので、日本に何とか『誠意ある呼応』をしてもらって、上手く納めたいということであろうと思います」。

意訳すると、「尹錫悦政権のうちに問題を解決しなければならない」のだから、「尹錫悦政権が韓国国民を説得しやすくなるよう、日本がある程度『誠意』を見せて譲歩しなければならない」、といったところでしょうか。

そのうえで松川氏の詭弁は、どんどんと加速していきます。

松川氏は、自称元徴用工問題を巡り、いったんは「解決済みの問題」、「これを極左の文在寅政権下で韓国国内裁判が勝手にリオープンしたもの」、などと述べます。

まず、『徴用工』問題自体は、65年協定で解決済の問題です。にも拘わらず、極左のムンジェイン政権の下で、韓国国内裁判が勝手にリオープンしたのです。ですから、韓国が国内で解決すべき問題であり、日本政府は安倍政権時代から、一貫して韓国政府が韓国国内で解決せよ、と要求してきました」。

しかし、こうした認識に続き、こんなことを言い出します。

そして、まさにそれを、現在、ユン・ソニョル政権がやろうとしているのです。韓国と言う国は、左派だろうが保守派だろうが、程度の差がありますが『反日』というか何等かの日本に対するわだかまりを持っているのが多数派です。その中で、一貫して対日関係改善にコミットし、過去より未来に目を向けたいと思う指導者(ユン・ソニョル大統領)の存在がどれだけ稀有なことか、かるからこそ、モメンタムを失うべきでないと考えています」。

これも、「見え透いた罠」です。

尹錫悦政権を選んだのは韓国国民であり、尹錫悦氏は韓国国民から大韓民国大統領としての負託を受けたのですから、最大5年の任期でやらなければならないことは、自らの判断と責任において韓国の課題を解決することです。

これについて松川氏は、こうも述べます。

韓国にも世論があります(多分日本以上に強硬な)」。

これに対する感想は、「知らんがな」、です。

そもそも自称元徴用工問題を巡る「解決策」において、韓国国民を納得させるのは尹錫悦氏の仕事であって、日本政府の仕事ではありません。というよりも、「相手国の世論に配慮せよ」とは、韓国を一人前の国と認めていないようなものであり、むしろ韓国に対して無礼でしょう。

なにより、違法行為をしているのは韓国です。

その「違法行為」をしている「加害者」の側である韓国の世論に対し、なぜ私たちの国が配慮してやらなければならないのでしょうか。松川氏の言い分は、ムチャクチャです。

自称元徴用工問題と安全保障問題は無関係

そんな松川氏の詭弁の中核は、次の記述ではないでしょうか。

本件『徴用工』判決問題を韓国が解決して日韓関係が正常化されれば、日米韓連携をより信頼できる有意義なものとすることが可能となります。ムンジェイン政権と異なり、ユン政権は、対北朝鮮、対中国についての安全保障上の脅威認識を日米と共有しているからです」。

GSOMIAも正常化するといったことも含め意味のある連携とすることも可能でしょう。韓国は、60万人の軍隊(自衛隊は25万人)を要する軍事力を持ち、在韓米軍のある米国の同盟国です。現時点では日本より防衛予算も多い。韓国が向こうではなく日米側にいた方が日本にとって有益であることは明白です」。

すでに鈴置氏によって完璧に論破されている「日韓関係正常化→日米韓の円滑な連携」説を、何の説明もなしにいきなり持ち出してくるあたり、本当に驚きます。

くどいようですが、「日本が韓国に譲歩する」ことで、「60万人の軍隊が日米側につく」という話にはなりません。また、極論を言えば、その「60万人の軍隊」が日本に向かって攻めてきたら、それはむしろ日本にとっての脅威になり得る話でもあるでしょう。

いずれにせよ、松川氏には、「無能な味方は有能な敵に勝る脅威である」、という言葉をお贈りしたいと思います。

むしろ困るのは韓国の側:日本は韓国より台湾を選ぶ

さて、一種の「経済問題」である自称元徴用工問題が、「安全保障問題」である日米韓連携とつながると考えるのは、ずいぶんと議論が飛躍しています。そして、もしも本気でそれを主張するならば、「本当に不利益を受けるのは日本と韓国のどちらの側なのか」という視点を持つべきです。

先ほど鈴置氏の議論を紹介したくだりで、「半島有事に際して円滑な日米韓連携を必要としているのは、日本ではなくむしろ韓国の側だ」、とする指摘が出てきました。自称元徴用工問題が円滑な日米韓連携を妨げる可能性があるとしたら、その要因は韓国ではなく、むしろ日本の側にある、ということです。

現状で考えるなら、半島有事は台湾有事と同時に発生する可能性が高いのですが、もしも台湾と韓国のいずれかを支援し、どちらかを見捨てなければならなくなった場合、現在の日本にとって「台湾を見捨てる」という選択肢はありません。

その理由は、半導体産業で日台連携が進み始めていることもさることながら、台湾海峡の安全が損なわれれば、日本のシーレーンにも直結し、「存立危機事態」に陥る可能性が高いからです。

半島有事が生じたとしても、もちろん日本の安全保障には大きな脅威ですが、海洋国家である日本にとり、やはり台湾有事の方がはるかに深刻です。朝鮮半島が封鎖されたとしても「日本にモノが入ってこない」という事態は生じないからです。

韓国から避難民が日本に押し寄せるリスクを別とすれば、極端な話、対馬海峡さえ守れれば、韓国が陥落しても日本にとっての存立危機事態は生じません。しかし、台湾が中国に攻め落とされることがあれば、日本の物流にも深刻な影響が生じます。

だからこそ、日本は米国と連携し、全力で台湾を防衛しなければならないのであり、実際、菅義偉総理が在任中の訪米で経済問題と並び、ジョー・バイデン大統領との間で真っ先にコミットした項目のひとつでもあります(『台湾防衛にコミットした日本:日米同盟は経済同盟に!』等参照)。

日米首脳会談が英米メディアでも大きく取り上げられる時代に日本時間の土曜日早朝に実施された日米首脳会談の最大の成果は、とにかく「中国を名指しした」ことと「台湾海峡」を明示したことでしょう。しかし、それだけではありません。日米同盟はいまや「軍事同盟」であるだけでなく、「経済・産業同盟」に発展しつつあるのです。日米豪印、日米ASEANといった「多国間連携」への道も見えてきました。日米首脳会談概要ホワイトハウストップページに大きく掲載米国時間の4月16日(金)夕方、つまり日本時間の17日(土)早朝に実施...
台湾防衛にコミットした日本:日米同盟は経済同盟に! - 新宿会計士の政治経済評論

韓国がなくても大丈夫な国づくりを急げ

このように考えていくと、日本は自称元徴用工問題に関し、尹錫悦政権の間は事実上の「棚上げ」を図り、(表面的にでも良いので)「日韓・日米韓連携」を推進するという「ツートラック外交」を進めるべきです。要するに、「それはそれ、これはこれ」、というわけです。

そして、日本としては時間を稼ぎ、日韓・日米韓連携を(表面上は)進めつつも、外為法改正などを通じて対韓経済制裁の発動を容易にする法制度を整えつつ、日本企業も「脱・韓国」を含め、数年がかりで「韓国がなくても大丈夫な国造り」を推進することが必要です。

むしろ現在の日本に必要なのは、日韓諸懸案を「日韓二国間の問題」ではなく、「日本の国益」と関わらせて広い視野から見据えた議論であり、安易な「対韓譲歩論」に振り回されるのは国益を阻害するものであることについては、断固として主張しておきたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (68)

  • 雑談掲示板の元一般市民様のコメントに感想書いたけど、追加でひとことだけ

    >一貫して対日関係改善にコミットし、過去より未来に目を向けたいと思う指導者(ユン・ソニョル大統領)の存在がどれだけ稀有なことか、

    韓国が、独裁国家なら都合の良い指導者への支援に意味があるかもなのです♪
    でも、ここしばらくの韓国は世論の流れに従って政権交代が行われてるのです♪
    そんな韓国で「稀有な存在」に肩入れすることは意味がないと思うのです♪
    やるなら北朝鮮みたく長期的な世論誘導だと思うけど、それって日本にとって苦手分野な気がするのです♪
    というかそういうのをちゃんとしてたら、今みたいな反日無罪な韓国はないですよね♪
    ( ゚∀゚)アハハハハハ

    • ひとことと言いながら長くなったついでにもう一言なのです♪

      日韓関係で日本の国益といったとき、安全保障面では北朝鮮への備え。特に台湾有事での動きだと思うのです♪ただ、それは、韓国から直接得られるものじゃなくて在韓米軍を通じて得られるものだと思うのです♪

      経済的にも、松川議員は、企業が訴訟に巻き込まれたり、財産を巻き上げられたりしない、ってことを国益だと思ってるみたいだけど、それは単に「損をしない」ってことに過ぎないと思うのです♪

      他国の企業にはなくて日本企業だけに課せられてる不平等な状況だから、改善はさせなきゃとは思うのです♪
      でも、単に損をしたくないなら、韓国に進出しなければいいだけだと思うのです♪

  • 新宿会計士様の、たとえ駄文でもきちんと読み通した後に理論的に論評するという忍耐力、すばらしいです。一般人の私は、マツカワの長文原文を一瞥し、腹が立って腹が立ってきちんと読み通すことができませんでした。なので各題目と最後の文だけ拾い読みしました。
    以下は「外交とは」とのえらそうな題目に書いていたえらそうな最後の文章です。
    -----「そして、日本は本年4月に統一地方選挙、5月にサミットがあります。こうした政治スケジュールを考えれば、この2,3月、またはせいぜいが夏までのどこかが有望だろうと思うところです。」-----
    知らんがな!!

  • 「知らんがな」
    新宿さんの文章で赤文字なんて初めて見たかも。
    (笑)
    ほんまそれ。

    松川はほんとにこのところダメダメですねえ。

    松川も日本国政府の一員なのだから、今の立場は
    「韓国に食い逃げされて、不良債権を積み上げた経営陣」
    なのだから、今ある裁量権は、
    「韓国から前回の代金を払わせる」
    こと以外にありませんよ。
    泥棒に更に追い銭するとはアホかと。

    レジで893に絡まれた雇われ店長が、売上を渡して帰らせようとしてるみたいなもんで、松川はラクになるのかもしれませんが、それは背任ですからね。

    きっちり取り立てしてきやがれ!

  • とりあえず痴民に入れとけば安心という
    安直な考えに警鐘を鳴らすよい例と言えましょう
    候補者の主義主張に厳しい目をもって
    日本の国益に沿った人物が選ばれるよう
    情報を広く共有していく必要がありますね

  • 松川議員は韓国の放った陽動部隊か?それか外務省の意を受けた親韓派議員だろう。日本の国益を損なうことばかり言う。とんでもない議員だ。韓国に謝罪などする必要も無いし、どうせまた蒸し返して来る。完全解決なんて、韓国は望んで無い。韓国は要らないから、台湾防衛にシフトしよう。南西諸島、東シナ海の対中防衛。台湾が陥落したら日本は本当に危ない。

  • 泣く子に飴を与えて黙らせてきたのが原因です。
    彼らをそんな風に育てたのは、あなたたちです。
    ・・・・・
    韓国は、諸事情の進展に関係なく「共通の利害(受益の方が多いから)」では合意で応じる国です。 だから、名実ともに歴史問題での対韓譲歩は無意味です。

    *損得勘定の国に忖度感情で応じるなんて愚かです・・。

  • そもそも論ですが、いつ、後ろから撃ってくるか分からない相手を、安全保障協力の相手と選んで大丈夫なのでしょうか。(自衛隊機への射撃レーザー照射が不安要素にならないのでしょうか)

  • >自称元徴用工問題を「解決」することが、日韓・日米韓の安全保障連携にも寄与する?
    私は、レーダ照射問題で韓国が事案の経緯を徹底的に調査し、命令・実行した関係者を法的に処罰し、日本の海上自衛隊に対して真摯に謝罪し、再発防止対策を徹底してこそ初めて日韓・日米韓の安全保障連携に寄与するものだと思いますけれども。戦時出稼ぎ労働者詐欺問題が日米韓の安全保障問題とどう関わるのか?私には理解できません。そもそも日本が譲歩しないと保てないような安全保障連携に何の意味があるのでしょうかね。日本の行末を左右する国会議員であるならば、何時後ろから味方を撃ちかねかねない相手を取り込むことのリスクを真剣に考えるべきではありませんか?もっと真面目に国民の生命と財産と名誉を守ることを考えてほしいものです。

  • 自民党はどう対応するのでしょうか。
    ことと次第によっては、責任政党の立場が危うくなると考えます。かん口令でも敷きますか。それとも見なかったふりでも。

  • 松川氏のブログを読んだけど、前半部分は間違ってないんじゃないかな。
    韓国自身が蒸し返した問題なのだから韓国自身で解決をということ。
    韓国が求める「相応の呼応」とやらへの是非は論じていないが、これをやってはいけない。
    文がマッチで火をつけ、ユンが今ポンプを持ち出してるところだから日本は放っておけばいい。
    「外交にはしたたかさ、老獪さが必要」と書いているが、これが必要のない分野はあるのか?
    こういう発言が日本人特有の落としどころを決めた妥協ありきと見透かされるんだと思う。
    「65年合意で解決済み、ピリオド。」の方がしたたかで老獪かもしれない。
    韓国に譲歩して自民党が選挙に負ける。それを見た野党は韓国に融和的な態度をとることは票を減らすことに気づき与野党そろって「嫌韓」これが一番ありうる姿かな。

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