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ロシア部隊がヘルソン近郊のドニプロ川西岸から撤退へ

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はヘルソン市近郊のドニプロ川西岸から部隊を撤収させると発表しました。これについてはセルゲイ・スロビキン司令官が「ヘルソンへの補給はもはや不可能」と述べたうえ、「ウクライナ側が貯水池を攻撃すれば大規模水害が生じて危険」であるため、ドニプロ川東岸に防衛線を張る戦略に転じるべきと提案した、などとも報じられています。いま話題の「転進」、でしょうか?

ロシアがドニプロ川西岸から部隊を撤収へ

かなり大きな戦況の転換が、またも生じたようです。複数のメディアが報じているとおり、ロシアがウクライナ南部のヘルソン近郊から軍を撤退させると発表したというのです。

ここではロイターの記事を紹介しましょう。

Russia says troops leaving strategic Kherson, Ukraine doubts full pullout

―――2022/11/10 9:09 GMT+9付 ロイターより

ロイターによると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は水曜日、ウクライナ南部の都市・ヘルソンに近いドニプロ川西岸から軍を撤退させるように命じた、と報じました。

また、戦争の総指揮官であるセルゲイ・スロビキン司令官は出演したテレビで、ショイグ国防相に対し、ヘルソンへの補給がもはや不可能であるとしたうえで、ドニプロ川東岸に防衛線を張ることを提案したことを明らかにしたのだとか。

ヘルソン州は戦略的要衝

ちなみにヘルソン州はロシアのウラジミル・プーチン大統領が今年9月、ロシアが「永遠に併合する」と宣言した4州のひとつです。ヘルソン州の州都・ヘルソンはロシアから見てドニプロ川の対岸にあり、また、ヘルソン州全体も、クリミア半島に陸路で向かううえでの重要な州であるなど、戦略的要衝でもあります。

その意味で、ロシアの今回の発表は、戦況の大きな変化でもあります。ウラジミル・プーチンにとっては大いなる失敗ともいえますが、これについてロシア側のメディアの発表内容がまた強烈です。

Russian defense chief orders troop withdrawal behind Dnieper

It is reported that if the Kiev regime resorts to a larger water discharge from reservoirs or a more powerful rocket attack on the Kakhovka dam, this will create a flow of water flooding vast areas and causing civilian casualties<<…続きを読む>>
―――2022/11/10 01:14付 タス通信英語版より

ロシアのメディア『タス通信』(英語版)によると、ショイグ国防相は「ドニエプル」川の背後から部隊を撤収するように命令。スロビキン司令官に対し、「部隊の撤退を開始し、人員、軍備、ハードウェアをドニエプル川周辺に安全に移転させるためのあらゆる手段を講じるように」と述べた、としています。

また、タス通信によれば、スロビキン氏は「特別軍事作戦」地帯において、「ドニエプル」川の上流で「キエフ政権」が貯水池からの放水量を増やしたり、ダムをロケット弾で攻撃したりすれば、広大な地域の民間人に犠牲が出ることになると述べたそうです。

わかりやすくいえば、「ウクライナ側が卑劣な攻撃を仕掛けてくる可能性があるから、ドニプロ川東岸に軍事資源を集中させよう」、ということでしょう。なんだかいつもの「転進」そのものですね。

すでに戦略的に敗北したロシアの迷走は?

いずれにせよ、プーチンの戦争は局地的には勝利を収めている部分もあるかにも見えますが、やはり9月に4州の「併合」を宣言してしまったあたりから、むしろプーチンが自分で自分を追い込んでいるかの様相を呈してきたように思えてなりません。

もちろん、今回の報道等を総合すれば、まだロシアがヘルソン全体から撤退したわけではなく、このままロシアが敗北に至ると楽観視するのはまだ少し早いのですが、いずれにせよかなり重要な進展であることは間違いありません。

そういえば、今年6月に英軍の制服組トップが、「ロシアはすでに戦略的に敗北している」と述べたことを思い出します(『英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」』等参照)。

ロシアのラブロフ外相はBBCのインタビューに対し、「我々はウクライナに侵攻していない」と述べたそうです。なかなかに驚く認識ですし、「ウソにウソを積み重ねるとウソに呑み込まれる」という実例そのものでもあります。その一方で英軍制服組トップのラダキン参謀総長は「ロシアはすでに戦略的に敗北した」とする認識を示したのだとか。ロシアが払った犠牲が大きすぎるロシアによるウクライナ侵略の開始から、もうすぐ4ヵ月が経過します。非常に残念なことに、ロシアによる違法な侵略行為はいまだに続いており、ウクライナで多く...
英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」 - 新宿会計士の政治経済評論

また、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は先月26日、ロシアがウクライナ各地で敗北しているなかで、ウクライナ軍は強力になりつつある、などとする認識を示しています。

ロシアは戦場でウクライナに敗北している NATO事務総長

―――2022.10.27 10:19 JST付 CNN.jpより

ストルテンベルグ氏はウクライナ軍が「週ごとに強力になり、装備も強化されている」とも述べたそうですが、西側諸国による支援のためという要因もありますが、おそらくはそれだけではありません。戦車を含めたロシア軍の兵器などの鹵獲(ろかく)も続き、ロシアによる戦い方の癖にも習熟している、とみるべきでしょう。

くどいようですが、現時点で楽観的に「今回の戦争はウクライナの全面的な勝利に終わる」とみるべきではないのかもしれませんが、いずれにせよ、事態の推移については引き続き見守る価値はありそうです。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • 能力がより高い部隊を撤退させるために、動員兵を弾除けとして張り付けるなど聞きます。最近のロシア軍の惨状を示す動画はちょっと堪えるので最近は避け気味になってます。

    今さらですけど、帝国時代からやることが全く変わらないこの国を国連常任理事国にしておくなど、冗談もほどほどにして欲しいもんです。
    ところで、極東共和国は中国の属国になるのかしら。

    • わざわざ発表することに裏があるような、

      「同志少尉、お前行って見てこい」
      「同志中尉、おとり役はごめんだ」
      「俺は頼んでるんじゃない、命令してるんだ‼️」、
      「ゴロドクめ、
      魔女の婆さんに食われろ‼️」

      ドキュメントで
      小林源文先生に描いていただきたい。

      •  ゲンブン閣下は、間違いなく執筆を準備しているでしょう。
         ゴロドクやシュワクやオスキンが、日本人義勇兵佐藤大輔(+赤貧の従者・中村正憲)にどつき回されるのです。
        「中村、前へ」
        「?」
        「志願ご苦労。一番槍はお前のものだ、行け!」
        「ヒデェ、これだよ!」
         多分、オメガの面々も、情報収集のため、身分を隠して義勇兵に成りすましているでしょう。

  • 今後の注目のひつつは、プーチン大統領が「アメリカの中間選挙の結果、アメリカのウクライナへの関与が、どう変化する」と考えるかではないでしょうか。そして、日本のメディアが、プーチン大統領の考えを推測します。(そして、複数のサイトがそれをネタにします)

  • ロシア軍のドニプロ川西岸からの部隊撤収発表を受けて、ウクライナ側は、偽装工作の疑いがあるとして、警戒する構えを崩していないようです。

    自分も、ウクライナ側の姿勢は納得できるものと思っています。

    ロシアの総司令官が「ドニプロ川西岸で部隊が孤立する可能性がある」などとロシア国防相に報告したうえで西岸エリアからの撤退を具申したところ、国防相が「兵士の命は優先事項で、住民への脅威にも留意せねばならない」として、撤退に同意したとする経緯を、ロシア国防省が公開したようですが、ろくに軍務の経験もない民間人まで動員して、十分な訓練も装備もなしに前線に放り込んだり、民間施設だろうがお構いなしに無差別ミサイル攻撃を仕掛けるロシア軍が、兵士の命や住民への脅威を気にするのだろうかと、疑念を感じます。

    また、撤退決定の経緯をロシア国防省が映像付きで公開するやり方についても、いかにもという感じのわざとらしさを感じてしまいます。自分には、ロシア軍が「さあ、ウクライナはヘルソン市に進軍して来い」と誘いをかけているようにしか見えません。

    ロシア軍は、ウクライナ側の偽情報に乗せられて、南部地域に部隊を進軍させたところを、手薄になった東部地域にウクライナ軍に攻め込まれる大反攻を受けた苦い経験を持っています。ロシア軍がこれへの意趣返しとして、ヘルソン市に進軍したウクライナ軍を相手に市街戦に持ち込んだり、ドニエプル川上流のダムを決壊させたりするなどの罠を仕掛けているとしても、有り得ない話ではないように思います。(ロシア軍が撤退理由の一つに「ウクライナ軍によるドニエプル川上流のダム攻撃の可能性」を掲げたのは、むしろロシア軍がダム攻撃を実行する予告なのではないかとすら邪推してしまいます。)

    自分が語っているのは、根拠に乏しい憶測ではありますが、いずれにせよ、ウクライナには、十分に用心して自軍の損耗を可能な限り抑えつつ、着実に侵略勢力を排除し、戦況を開いていっていただきたいと切に願います。

  • 最近、プーチン大統領をテレビで見ないけど、生きてる?

  • https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-usa-pentagon-idJPKBN2S006O

    ロシア軍、ウクライナ軍ともに死傷者10万人以上。
    ウクライナはこれに民間人の犠牲が加わりインフラが破壊されている。

    ロウ戦争は総力戦、消耗戦から殲滅戦の様相を呈してきた。

    ロウ戦争で明らかになったようにロシアの軍事ドクトリンはソ連とまったく同じ。

    ・兵士は畑から採れる
    ・量は質を凌駕する

    プーチンのメンタルはスターリンのそれと同じ。
    2500万人の予備兵力を総動員してウクライナに殲滅戦を仕掛ける。
    これもかつての独ソ戦の再現だ。

    ウ軍は迫りくるロ兵を殺し続けるのがもっとも効果的。
    領土奪還と併せてロ兵を減らしロシアの継戦能力を奪うのが良い。
    さすがのプーチンも現代でソ連と同等のことはできないはずである。

    それにしてもヘルソン攻防戦は凄惨な戦いだった。

    無防備で丸腰のロ兵が十数人単位で「ウラーーッ!」と叫びながらウ軍陣地に突撃。
    これを銃撃し続けるウ軍兵士は精神を病んで次々と戦線離脱となる。
    これを砲撃する砲兵はロ軍陣地からの砲撃を受ける。

    これが東部戦線で再現されれば文字通りの殲滅戦となる。

    まだ落としどころが見えないし、この先の推移も目が離せない。