韓国債券市場発の「ドル債コールスキップ」騒動の衝撃
混乱する韓国債券市場、通貨危機と金融危機のジレンマ
米FRBが4回連続して0.75%ポイントの利上げという「ジャイアントステップ」を踏むなかで、またしても韓国の債券市場からきな臭い話が聞こえてきました。今度は韓国の生保会社が資本性証券の「コールのスキップ」を決断した、というのです。コールのスキップ自体はデフォルトではありませんが、金融市場に与えるマイナスのインパクトはなかなかに強烈です。
目次
米「ジャイアントステップ」は4回連続:日本への影響は乏しい
日本時間の昨日、米国の中央銀行に相当する連邦準備制度理事会(FRB)がFF金利を4回連続で0.75%ポイント引き上げるという「ジャイアントステップ」を踏みました。この利上げ自体、ある程度予想されていたものでもありますが、これによりいっそうドル資金の調達が難しくなります。
このあたり、「ドル資金の流出に直面している」という事情は、世界各国に大きな影響を及ぼしますが、その影響をあまり受けていない国のひとつが、日本です。なぜなら、日本企業(とくにメーカー)の多くは、べつに米ドルで資金を借りているわけではないからです。
米金利が引き上げられたとしても、現在の日本のように、そうした事情と無関係に低金利政策を続けている国もありますが、それはある意味、「日本だからこそできる政策」でもあります。
もちろん、円安が進めば、短期的には輸入品物価(とくにLNG、石炭、石油などの化石燃料の価格)が上昇し、日本全体としてコスト負担が増えてしまうという側面はあります(※この点こそが当ウェブサイトで原発再稼働・新増設の必要性を強調する理由でもあります)。
しかし、それ以上に、輸出競争力が上昇する効果や、輸入代替(輸入品よりも国産品の方が安くなる現象)などの効果が効いてくるため、この円安は日本経済が力強く復活を遂げるうえでの大きなチャンスでもあるのです(原発の再稼働と新増設が急務ではありますが…)。
バブル状態の韓国、弱り目に祟り目
ただ、こうした事情は日本だからこそ成り立つのであって、日本以外の国において同じように成り立つとは限りません。
その意味で、状況が極めて深刻な国のひとつは、韓国でしょう。というのも、もともと韓国では資産バブル(とくに不動産バブルや暗号資産バブル)などが深刻化していた、という事情があるからです。こうした状況が、すでに債券市場にあらわれています。
実際、先日の『ABCPショックが韓国で金融危機リスクを高める理由』などを含め、最近、当ウェブサイトで頻繁に取り上げる話題のひとつが、「韓国における債券市場の機能不全」です。
)なぜ米金利上昇が韓国の債券市場を機能不全に陥れているのかといえば、韓国が米国に追随して利上げをせざるを得ない状況に追い込まれているからです。まさに弱り目に祟り目、といったところでしょうか。
そもそも韓国は、自国通貨の為替変動の許容レンジが極端に狭く、自国通貨の価値が上がり過ぎても下がり過ぎても困る、という国です。ウォン高になり過ぎれば輸出競争力が損なわれ、ウォン安になり過ぎれば韓国企業が外貨でおカネを借りるのが難しくなるからです。
現在、韓国ウォンは1ドル=1400ウォン台で何とか踏み留まっていますが、これ以上ウォン安が進むと、ドル資金を調達することができなくなった企業が経営破綻する、という事例が頻発する可能性があります。
したがって、韓国銀行としては外貨流出を防ぐために金利を引き上げざるを得ないのですが、すでに前回のFOMCで米韓金利差は逆転してしまっており、今回のFOMCでもその差はさらに拡大した格好です。
おそらく韓国銀行は今月も利上げを決断するのではないかと思いますが、それでも市場コンセンサスに基づく利上げ幅は0.5%ポイントとされています。0.5%ポイントでも利上げしなければ通貨安が進んでしまい、そのまま通貨危機に突入しかねません。
ただ、この0.5%ポイントの利上げであっても、韓国の企業や個人にとっては、おカネを借りる負担がさらに増えるということであり、貸出金の焦げ付き(いわゆる貸倒)が増えてくれば、金融機関経営の健全性も損なわれ、そのまま金融危機に突入する可能性もあります。
つまり、韓国は利上げをすれば金融危機、利上げを渋れば通貨危機、という苦渋の選択を強いられている格好です。
韓国債券市場、今度は外貨建資本調達手段のコールスキップ問題
しかも、問題はそれだけではありません。
すでに韓国企業のドル資金調達が難しくなり始めているのではないか、という兆候も出てきました。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載されたこんな記事がそれです。
韓国債券、世界市場からそっぽ? 興国生命5億ドルのコールオプション行使見合わせ
―――2022.11.03 08:42付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国の生保会社は2日、今月9日に予定していた5億ドルの外貨建ハイブリッド証券を巡り、「早期中途償還コールオプションを行使しない」ことを決定したのだそうです。
「早期中途償還コールオプションを行使しないことにする」、とは、金融関係者からすれば非常に奇妙な用語ですが、文脈から判断する限り、これは金融業界でいうところの「コールのスキップ」という論点です。
さて、「コールのスキップ」とはいったい何でしょうか。
これは、金融機関や保険会社などが発行している「期限付劣後債」「永久劣後債」などの社債について、「期限前に償還することができる」とする条項を発動せず、償還しないことを意味します。先ほどの『【総論】金融機関劣後債「コールのスキップ」の深刻さ』で取り上げた論点が、まさにこの「コールのスキップ」です。
そして、これは危機的状況が別の局面を迎えたことを意味します。なぜなら、発行体がこれらの社債の「コールをスキップする」ときは、たいていの場合、「償還したくてもできない」という事情が生じているからです。中央日報はこれについて、こう述べます。
「韓国の金融機関が発行したハイブリッド証券の早期償還が見合わせられたのは2009年のウリィ銀行の劣後債から13年ぶりだ」。
逆に13年前にも韓国の銀行がコールのスキップを行っていた事例があったという点を知り、これはこれで個人的には驚きです。コールのスキップ自体、ほとんどあり得ないからです。
ちなみに余談ですが、中央日報の記事にはこんな記述もあります。
「ハイブリッド証券は金融機関が自己資本比率(BIS)を高めるための手段として活用してきた。永久債に分類され会計上は資本と認められる」。
これはおそらく事実誤認でしょうが、一般紙の記者が執筆しているものであるため、仕方がありません。なにがどう間違っているかについては、『【総論】金融機関劣後債「コールのスキップ」の深刻さ』でも詳述しているため、ここでは割愛したいと思います。
韓国銀行にとって、ハンドリングはますます困難に
それはさておき、中央日報は今回のコールのスキップを巡って、「世界市場で韓国債券に対する『信頼の危機』に続きかねないとの分析が出ている」と指摘します。実際、韓国に限らず、金融機関や保険会社などがコールのスキップをすること自体、ある種の「異常事態」ともみなされるからです。
もちろん、コールのスキップ自体はデフォルトでもなんでもありませんが、それと同時に、発行体がコールをスキップせざるを得ない状況に追い込まれたという事態は、通常、「発行体がリファイナンスに苦慮している」というメッセージを債券市場全体に与えかねなません。
それに、すでに先月末頃から、韓国では例の「レゴランドABCP騒動」に加え、不動産PFなど、債券市場では各所で火を噴き始めています。著者自身が把握している限り、ABL市場、不動産PF市場に加え、ハイブリッド債市場などでも資金調達が目詰まりを起こしているのです。
韓国銀行や企画財政部などがハンドリングを間違えば、案外、さほど遠くない将来(下手をすると年内)にも、韓国発の「通貨危機プラス金融危機」という複合危機が発生するのかもしれません。
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なお、これとは別に、昨日は韓国銀行が公表した10月における同国の外貨準備高に関する話題も出てきているのですが、これについては余裕があれば、一両日中にも別稿にて取り上げたいと考えています。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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「ドル債コールスキップ」という聞き慣れない単語だったので,中央日報の記事で中身を確認しました。ただし,中央日報の解説も少し怪しいです。
興国生命が過去に発行したハイブリッド証券に設定されていた早期償還できる権利を行使しなかったのですが,これは前例が少なく異例だ,という解説です。でも,過去に発行された証券なら,現在の金利より低金利なはずで,それを償還して高金利で借り換えるバカはいません。記者の理解能力が低かっただけのように思われます。
それから,韓国は外貨建債券は発行しないで,ウオン建債券を中央銀行が買い取れるように制度改正したほうが経済が上向くと想像できます。
ハナ銀行と新韓銀行が豪ドル建ての劣後債?のブックビルディングに際して投資家集めに苦労したり、韓国投資証券の外貨債発行延期だったりも起きてるみたいですね
ハイブリッド証券、永久債、perpetual notes 同じこと言ってんのかな?
コールオプションを行使しないと次の5年の利率が跳ね上がる契約なのだろう。
それでも償還しないという事は、相当の高利でないと償還のためのドルを入手できなくなっているのかもしれない。
ドル建債だと,償還して借り換えた場合,過去のウオン高の時のレートではなく,現在のウオン安レートで借り換えることになるので,金利上昇分+為替損分で,もっと負担が大きくなりますね。5年経過後の高い金利のほうが,上記のコストよりずっと安いのでしょう。
>5年経過後の高い金利のほうが,上記のコストよりずっと安い
まあその程度の事なんでしょうね。
資金調達が出来ないほどでは無いと思います。知らんけど。
「コールのスキップ」の意味するところやその影響、そしてそれが相当な異常事態であるということがよくわかりました。ありがとうございます。
ここでちょっと疑問に思うのは、他のOECD諸国では発生してないような異常事態がなぜ韓国でだけ発生しているのかという点です。先日の江原レゴランドの一件によって、韓国債券市場が一種のパニックに陥ったというのはありましたが、その影響がここまで広く深く厳しいものだったのか、それとも元々脆弱だった韓国の金融システムが江原レゴランドの件を契機にいよいよ破綻しつつあるのか、あるいはそもそも韓国の経済構造にある根本的な歪みが噴出しつつあるのか。レゴランドの件だけが原因であるならば、いかにもタイミングが悪すぎたという側面はあるにせよ、(年単位を要するかもしれないけど)ある意味一過性の危機と言えそうですが、そうでなかった場合、立て直しようもないままにこのまま金融危機にまで至ってしまいそうです。また、仮に現象としては「一過性」であったとしても、傷が大きすぎてそのまま失血死という事態も考えられるかもしれません。
まあ、この先の展開はわかりませんが、相当「ゆるくなさそう」な感じに見受けられます。隣国としては、せめて「声援」くらいは送ってあげても良いのかもしれません。
昔日本でもタテホショックというのがあったね。
一気に債券相場が暴落した事件。
「サムスン·ロッテ系列会社も金利年7%台で調達、厳しい資金確保」
11/3(木) 13:57配信 韓国経済新聞(Yahoo!NEWS)
https://news.yahoo.co.jp/articles/da8f073f0ca7b8002975e7b2a1b7e4170673cecc
この記事を読む限り、韓国の大企業の多くは自国通貨(韓国ウォン)での資金調達にも苦労(高金利)している模様。いわんや外貨(主に米ドル)資金調達をや。
ブログ主様が常々ご指摘のとおり、韓国はいずれは金融危機、通貨危機、のいずれもが発生する可能性が日に日に高まっている。間違っても「日韓通貨スワップ」復活などないように願いたい。
「北朝鮮の脅威が高まるなかで、韓国との友好関係は日本の安全にも資する」などと世迷い言をいう輩がうごめきだしているが、韓国経済の甚大な危機(通貨危機、金融危機)に巻き込まれないようにすることも経済安保上、極めて重大なはず。君子危うきに近寄らず!
江原道が引金を引いて、撃った弾丸が興国生命に
当っちゃた~♡、という事ですね。
地方政府保証のヤツでさえ、不渡りになるなら
民間の資金調達にムリが出て来る事になりますよね。
しかも、韓国銀行の利上げ待った無しの状態だと
証券会社等が状況調査する間に金利が上昇し
社債発行が厳しくなるし、受け手も待てば待つほど
金利が高くなる事は解っている状態だと、よほど
義理(関係会社とか)が無いと受けたくもありません。
又、興国生命の影響により他国からの借金の
借換に支障が出る事は、素人でも解ります。
大きな会社も潰れそうだと「疑心暗鬼」に
なりますからね。銭の足りないは、会社の危機。
どうするんでしょう? やはり、いつもの手段
「日本が悪い」とローソク集会を開くのでしょうか?
○○をすると△△だと認識される、という言ってしまえば当たり前の論理ですが、腹の探り合いが生死を分かつような金融や会計では特にシビアなのでしょうが、あらゆる行動に際して考えるべきですね。
・スワップがほしいほしいと騒ぎ立てると、外貨準備がヤバいのではと認識される。
・親善や結束を確かめ合う国際観艦式などを欠席すると、敵寄りだと認識される。
・漁船のGPS義務付けを拒否すると、密漁する気満々だと認識される。
・等距離曖昧性外交だとかわざわざ公言すると、蝙蝠野郎だと認識される。
…等々。いくらでも出てくるなぁ、せめて隠して交渉したり行動すれば良いのに。
農民さま
彼らは水面下交渉やロビー活動といった隠しての交渉もやってますよねぇ。
告げ口外交も酷かった….。
弱みや本音を隠して交渉をすれば良いのに、弱みや本音がダダ漏れなのに交渉・工作をしている事の方を隠すとか、何がしたいんでしょうね。こんな意味で「手段と目的が入れ替わる」人達って珍しい。
金利が暴騰しているときに債券を借り換えるなんて馬鹿のすることニダ。
このタイプの債券はたぶん相対での取引で、市場に出回ることはないのだろう。
出資者は欧米の銀行、投資銀行か。
「悪事千里を走る」の諺どうり、今ウォールストリートでは大騒ぎになっているのでは?
償還されることを前提に予算組んでるはずだから、それが償還されないとどこか別のところで資金を見つけなくてはならない。 次はないね。