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    Categories: 外交

20万超:ロシアからの逃亡手段は小舟か陸路か水泳か

ウラジミル・プーチンによる「部分動員令」からの約10日間で、少なく見積もっても20万人がロシアを逃れたとの報道があります。こうしたなか、少し変わった話題がありました。ロシア人男性2人が、ベーリング海に浮かぶアラスカ州の離島・セントローレンス島に「亡命」目的で渡航したというのです。そういえば、開戦前の昨年は国後島から北海道までロシア人が泳いできたとする話題もありましたが、ただ、ロシア人の逃亡先を眺めていると、やはり陸路というケースが多いようです。

「部分的な」動員令

早いもので、ロシアによる違法な戦争が始まってから、すでに225日が経過してしまいました。

ロシアは当初、早期決戦を目指していたフシもあるのですが、首都・キーウは陥落しておらず、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も健在です。それどころか昨日の『ウクライナ軍、今度は南部でも攻勢:ロシアのジレンマ』などでも触れたとおり、ロシアの占領地も続々とウクライナ側によって奪還されている状況にあります。

今度は南部です。いくつかの報道などによると、ウクライナは東部だけでなく、同国南部でもロシアに奪われた領土を取り返しつつあるようであり、とくに南部・ヘルソン州ではドニプロ川を渡り、対岸の拠点を奪回したとの情報もあります。ただ、政治的にドニプロ川北部に取り残されているであろうロシア軍が撤退するのは難しいのが実情です。なぜならロシア自身が先週金曜日、ウクライナの4州の併合を高らかに宣言してしまったからです。これがロシアのジレンマです。ウクライナが南部・ヘルソンでも攻勢強めるウクライナ軍がロシアによ...
ウクライナ軍、今度は南部でも攻勢:ロシアのジレンマ - 新宿会計士の政治経済評論

もちろん、戦況は必ずしもウクライナにとって有利なものであるとは限らず、どうしても一進一退とならざるを得ないのは仕方がない点ではありますが、それにしても、もしも戦争が長期化したとしても、ロシアの獲得領土がこれ以上増えるとも限らず、それどころか国際社会の対露制裁はますます厳しくなるだけでしょう。

こうしたなか、ロシアのウラジミル・プーチン大統領が先月署名したのが「部分的な動員令」ですが(『事実上の「総動員」?ロシアが「部分的な動員」を発表』等参照)、この動員令を受けて、ロシア国民の間で「動員逃れ」が相次いでいる、といった情報もあります。

ウソツキ国家は「タテ検証」に極端に弱いロシアというのは面白い国で、「ウクライナにおける特殊軍事作戦は順調だ」とこれまで自分で豪語していたという設定を忘れ、「西側諸国のせいで国家存亡に危機にある」、などと言ってしまう国です。そのロシアでは、ウラジミル・プーチン大統領が「今後は部分的な動員」を行うと発表しました。どうして素直に「国家総動員」と言えないのかは謎ですが、こうしたロシア側の支離滅裂な言い分も、インターネット社会の「タテヨコ検証」で白日の下に晒すことができるというのは、非常に良い時代にな...
事実上の「総動員」?ロシアが「部分的な動員」を発表 - 新宿会計士の政治経済評論

「ロシアの検索エンジンで『腕を折る方法』がトレンド上位に入った」、「ロシアからドバイ経由の行の航空運賃が数倍に跳ね上がった」、「陸路で国境を接する国に脱出する車列が数キロにも及んだ」、といった情報が、それです。

また、「徴兵逃れで体よく国外に脱出する航空便に乗り込めたものの、航空機が離陸する直前に当局に拘束された」、「デモに参加していたところ、警察に連行され、そのまま徴兵された」、といった情報も見かけます(※もっとも、これらに関しての真偽は正直不明ですが…)。

船で渡ってきたロシア人

とくに以前の『英国防衛省「富裕層や頭脳層がロシアから逃げている」』でも取り上げたとおり、ロシアを逃れたのは「富裕層や頭脳が中心」なのだ、とする情報も気になるところです。

「ロシア社会から富裕層や頭脳が流出し始めた」――。信頼性では定評がある英国の『インテリジェンス・アップデート』によれば、ロシアのウラジミル・プーチン大統領が署名した「部分的な動員令」の影響が、ロシアの社会に大きな影響を及ぼし始めた可能性が指摘されています。そのうえで英国防衛省は、ロシアから脱出した「正確な人数は不明」としつつも、「2月のウクライナ侵攻時に展開された侵攻軍の人数を上回る可能性が高い」と指摘しています。ロシアが国際法に違反して開始したウクライナへの軍事侵攻から7ヵ月以上が経過しまし...
英国防衛省「富裕層や頭脳層がロシアから逃げている」 - 新宿会計士の政治経済評論

こうしたなか、時事通信に今朝、ちょっと興味深い記事が掲載されていました。

ロシア人2人、米離島に 徴兵逃れか―アラスカ州

―――2022年10月07日08時34分付 時事通信より

時事通信によると、米メディアが6日、アラスカ州の離島・セントローレンス島にロシア人の男性2人が小型船で漂着したと報じたのだそうです。これについては「ウクライナ侵攻をめぐる徴兵逃れの可能性がある」、などとしています(この2人は米本土に移送され、入国手続を進めているそうです)。

ちなみにインターネットで調べてみると、このセントローレンス島はロシア本土からは最短距離で70㎞少々の距離ですが、シベリアの大地にはろくに道路網も存在しないなかで、米国との最短距離を狙って船を出すというのもなかなかに大変です。

ちなみにナショナル・ジオグラフィックの次の記事によれば、ベーリング海は「地球上でもっとも過酷な海域のひとつ」であり、とくに冬場は「強風と極寒、そして氷のように冷たい水」にさらされ、「世にも猛烈な波が押し寄せ、普通の日でも10メートル近い高さの波に揺られる」のだそうです。

漁師兼写真家が撮った、冬の過酷なベーリング海での漁業10点

―――2017.04.05付 ナショナル・ジオグラフィックより

日本だとまだ10月で場所によっては暑いこともありますが、北極圏ではすでに冬でしょうから、なかなかに過酷な条件のなかを渡ってきたのでしょう。

泳いで渡ってきたロシア人も!

こうしたなか、プーチンの部分動員令の以前からも、ロシアから人々が逃げるという「事件」は、散発的に生じてきました。

たとえば共同通信に4月9日付で掲載された次の記事によれば、国後島から昨年8月に39歳の男性が「亡命のために泳いできた」というエピソードが取り上げられています。

ロシア去る判断「正しかった」 国後島から泳ぎ渡航の男性

―――2022/04/09付 共同通信より

国後島から北海道・野付半島まで、直線距離だと最短で20㎞もありませんが、真夏であっても涼しい北海道のこと、この海域を泳ぐのは危険が伴います。

まさに「命がけ」の渡航ですね。

やはり陸路の亡命が多い

ちなみにCNNの次の記事によれば、例の「部分動員令」以来の約10日間でロシアを離れた国民は20万人以上に達するのだそうですが、記事を読んでいると、さすがに脱出先は「陸続き」、というケースが圧倒的に多いようです。

プーチン氏の動員令後、ロシア離れた国民は20万人以上

―――2022.10.01 16:30 JST付 CNNより

CNNは「ロシアの隣接国を含むさまざまな国のデータ集計」の結果、プーチン大統領が動員令を発した先月21日以降、29日までの時点でジョージア、カザフスタン、欧州連合(EU)圏内などに出国したロシア人が20万人以上に達した、としています。

なかでも最も多いのがカザフスタンで、同国内務省幹部はカザフスタンへ越境してきたロシア人が9月第4週で10万人を記録した一方、ジョージア内務省のデータによれば、9月21日から26日の期間における入国ロシア人が少なくとも5万3136人だったのだそうです。

これに加えて欧州国境沿岸警備機関(FRONTEX)によれば、9月19日から25日の期間にEU加盟国に渡航したロシア人は約6.6万人で、このデータにはモンゴルとアルメニアの分が含まれていないため、出国したロシア人は、もしかしたら20万人を大きく超えるかもしれません。

ちなみにCNNによると、ロシアのメディア『ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』が最近、大統領府筋の情報を引用し、ロシア連邦保安局(FSB)が「合計26.1万人と報告した」と報じたのだそうですが、いずれにせよ、大規模な人口流出が生じていることは間違いありません。

また、文脈から判断して、おそらく脱出しているのは若い男性、あるいは中高年男性が中心でしょう。

ロシア連邦の人口は2020年時点で約1.4億人だったそうであり、そのうちの26万人といえば、全人口に対して0.2%弱ではありますが、徴兵対象の男性が人口に占める割合が25%程度だったと仮定すれば3500万人であり、そのうちの26%といえば1%弱、という計算です。

さすがにこれだけの人口が1~2週間で一気に流出したとすれば、ロシアの社会にも相当の混乱が生じている可能性は高いと思われるのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • 「徴兵を、逃がるる手段、少なくて、小舟・陸路か、それとも泳ぎ」 (ロシアの若者)
    「暴君の、逃るる道も、少なくて、核の使用か、半と(半島)に亡命」(プーチン)

  • >すでに225日が経過してしまいました。
    はじまったときは、さっさとロシアを追い出して、ロシアから何をふんだくれるかって皮算用してたけど・・・・・
    こんなに長引くとは、思わなかったのです♪

    まだ先は見えないのかな?年内には終わって欲しいけど、どうなるのでしょう??

    • 5月くらいには、武器弾薬が双方尽きて停戦と思っていましたが、流石にロシアの備蓄はすごかった。
      噂では、劣悪な装備・軍服で予備役などを消耗品としてウクライナに投入している一方で、対NATO戦向けに最新兵器(特に航空戦力)は温存しているという話もあります。

      この冬をロシア、EU(その結果としてウクライナ)どちらも越えられるかがポイントで
      希望は同じく年内プーチン失脚ですが、やはり、核使用も含めて来年の春位にやっと方が付くか、数年先まで続くかのどちらかではないでしょうか。

  • 今、ロシア人が国外に出るのは、クレジットカード利用制限をはじめ諸々で制限があるはず。かなりの困難を伴うことと推察します。
    にも関わらず相当数が国外脱出を実際に試みているということは、計画更には計画以前でも願望がある人は、その10倍或はそれ以上いても不思議はありません。
    それらの人達には「倒幕」のマグマがどんどん溜まってきているはず。
    いづれは警察など当局が抑制できなくなる日が来る気がします。鍵を握るのは女性の抗議活動の予感。女性相手に当局が暴力を働いたら臨界点を超えるのでは?

    • クレジットカードにつては,富裕層や海外勤務の多い人達の多くは,ロシア国外にも銀行口座を持っていて,それにひも付いたロシア国外発行のクレジットカードを持っていると思います。ロシアは1990年代にハイパーインフレを経験しているので,庶民でもそういう対策を取っている人は結構いるかもしれません。日本人でもそれなりにいますよ。

  • ロシアの戦後処理には、日本の戦後処理が参考になると思います。
    ロシア人をウラル以西に閉じ込める。
    それ以外は独立と返還。
    プーチンだけ残して、それ以外を国際裁判。

    弱国は負けても取るものは少ないが、強国は取るものが大きいだけに、トコトン搾られる。
    そして、強国は復讐が怖いので、絶対に立ち上がれないまで分割されると予測します。

    • サハリン、千島列島に共産中国や南北朝鮮人が現れない様にするにはどうすれば良いか。
      外務省は考えて居るだろうか?

      今からでは憲法改正は間に合わないだろうし。

  • ロシア国民が、徴兵や圧政を恐れて国を捨てて逃げ出す、というのは、まったくわからない、というつもりはないのですが・・・。
    やはり、国にとどまって、国を変える努力をしてほしいな、と思うのは無理な願いなのでしょうか。国民が自分たちで国を変えることができれば、それが一番その国にとってもいいことだと思うのです。
    もっとも、自国民に銃を向ける軍隊を持つ国、国民を暗殺する国に住むと、そんな簡単なことではないのでしょうかね。
    似たようなことをする国がもうひとつあったような・・・。

    • 私も随分虫が良いなと思ってました。

      クリミアを一方的に併合宣言した当時に、
      ”偉大なロシア”と万歳してた人も多いと思います。
      今回旗色が悪くなって、動員かけられる恐れがあるからといって
      ”メッキがはがれたロシア”から逃げ出すのは、随分身勝手な気がします。

      国内でデモに加わったり、ウクライナ侵攻の虐殺などを洗脳された人達に
      伝える(目を覚まさせる)等やることやればいいのに。

    • プーチンは「在外ロシア人達を保護」する名目で侵略戦争を始めました
      ロシア人が海外で生活するだけで、
      侵略の口実になりかねない状況なのです

      逃亡ロシア人は難民を受け入れるヨーロッパの国でも
      敬遠されると思います

  • 参ったな。ロシアにあるオフィスの従業員の家族(息子)も徴兵の対象になったようです。彼の知人も徴兵されたとか。コロナ以降、戦争もあいまって彼と会うときは専らリモートでの会議などでしたが、彼はもう仕事どころではない感じです。つい先日まで、彼と話すときの印象は「ホントにロシアは戦争してんのかな?」と思うくらい通常な感じで、戦争は遠い世界・・・の印象でした。雑談しても普段はウクライナとの戦争のことなど何も言わないのですが、たまにぽろっと「ロシア軍にはがんばってほしい」なんて言っていましたが、動員がかかってからはもう本人は言うに及ばず彼の周囲も全然違う雰囲気のようです。

    • それは都市部の人か周辺部の人かどちらでしょう。モスクワだったら,かなり政権が危険でしょう。

  • サハリン州の住民に、独立か日本との統合を呼び掛けてもいいのではないかと思います。
    戦争をしなくても北方領土を取り戻せる可能性が出てきました。
    少なくともロシアを揺さぶる良い機会だと思います。
    ヘタレで事勿れ主義の岸田さんには無理な注文かもしれませんが。

    • どうして、こういう時に、ヘタレさんが、トップなんでしょうね?
      何か、歴史の巡り合わせですかね。

      • 北朝鮮のミサイル発射の度に「(最も)強い言葉で非難する」という反撃を繰り返すのを飽きる程聞かされると,北方領土奪還は無理だと感じますよね。

  • 砲弾の餌食になりたくない若くて才能のあるロシア人は逃げるしかないですね。
    今頃、会計士資格を持ったロシア人もたくさん軍に拉致られて会計課に配属させられていることでしょう。

    資格持ちは重宝されます。しかし一番需要がある資格は若さと健康のようです。
    軍はご飯の食べに行くところなのに、砲弾の弾を喰わされては敵いません、36計逃げるに如かずです。人生には全力で逃げる決断をしなければいけない時があることをロシア人は教えてくれています。

  •  帝政ロシアからソ連になって、またロシアになっても、このロシア人国家は特異ですね。
    かつて参謀本部ロシア課長を歴任した土居中将の伝記を読んだことがあります。
     ソ連との交換留学で、氏がソ連赤軍の隊付将校としてソ連に行き、ウクライナを視察したとき(S8年頃)、飢餓地獄の異様な光景をあちこっちで見て、思わず〝同じ人間として放っておけない” ここの政治部長に会わせてくれとかけあったらしい。それが叶い、政治部長曰く、ソ連は今、第一次五か年計画の末期で経済建設を急いでいる。生活能力の弱いが倒れ死んでゆくのはやむ負えない。そのような者のために国家の計画が完遂されないことの方がよほど恐ろしいのだ。といったらしい。
     ウクライナはソ連の中でも特に圧政のターゲットになっていたので特にひどかったとは思うが、ソ連の当時の見聞録の類はこんなのばかりです。まるで人が人として扱われない。こういう冷血非道な考えを常識のように持つ指導者と、その圧政に耐える・・というか、それをあたりまえに受け止める民衆から構成されるマッドな国家。そんな民族DNAを今も受け継いでいる国家国民を甘く見てはいけないような気がするし、一方、SNSの時代、もうそんな国家運営はできない。という気もします。まあ、国家脱出の様相を見てると、後者の方が強いような気がしますが。

    • 昭和8年というとホロドモールですね。
      教科書では五か年計画だコルホーズだと称賛されてたけど(*)、ソ連の(スターリンによる)工業化は農村からの搾取なんですよねえ
      (アメリカの歴史のほうは綿花と黒人を結びつけて教えるのに)。

      (*)今の教科書は知りませんが^^

      • 因みに、その五か年計画、ひいては社会主義計画経済の手法を密かに熱心に研究したのが日本の革新官僚だったらしく、日本の戦後の復興・躍進を見て、ソ連は、社会主義計画経済が最も成功したのは日本だと賞賛?したらしいです。

        • なんと!
          いや、これも「和魂洋才」とか「論語と算盤」とかの理念の結実か。
          官僚も「お家(省)のため」でなく「お国のため」に働いてくれるとありがたいんだけどなー。
          もっとも、「お国のため」は危険! ダサい! 日本○ね! とか吹聴する自称リベラルの侵略もあるんだろうけど。

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