英国防衛省の『インテリジェンス・アップデート』によると、ロシアでは「部分的な動員」に基づく召集がすでに開始されているらしく、また、彼らの多くは適切な訓練を受けることなく前線に実戦投入される可能性が高いのだそうです。戦力の逐次投入と戦力喪失の結果として国家総動員がかけられ、適切な軍事訓練も受けていない人たちが前線に投入されるのだとしたら、これはまさに80年前のどこかの国の事例とソックリです。
ロシアが絶賛苦戦中:ロシアフレンズの皆さんのご見解は?
ロシアによる違法なウクライナへの侵略戦争が始まって7ヵ月が経過しますが、物量でウクライナを圧倒しているはずのロシアが、7ヵ月かかってもウクライナ全土を制圧するどころか、むしろ逆に、当初の占領地を徐々に奪還され、押され始めています。
このあたり、戦争開始直後には、「西側諸国のメディアが報じる内容は誤りだ」、「実際にはウクライナ全土での戦闘はウクライナ側の自作自演だ」、といったことを真顔で主張する人たちもいたものです(当ウェブサイトにも少数、その手のコメントが涌いていました)。
また、酷いものになると、「ウクライナは抵抗せず、ロシアに対してさっさと無条件降伏せよ」、などと主張している人たちもいましたし、あくまでも著者自身の主観ですが、参院選で日本維新の会が(議席を伸ばしたにせよ)中途半端な結果に留まったのも、一部の人たちの言動にあったのではないかと考えている次第です。
ロシアフレンズの皆さまのご見解を、是非とも知りたいと思う次第です。
正確な情報を出してきた英国
こうしたなか、当ウェブサイトではかなり早いうちから注目してきた情報源のひとつが、英国です。
一部の「英米メディア否定論者」の方々が目の敵にするのが英国の情報ですが、あとから振り返ると、結果論的にはかなり正確な予測ができていたのです。
たとえば今年6月には英軍の制服組トップが「ロシアは戦略面で敗北した」と述べましたが(『英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」』等参照)、これについては西側諸国の金融・経済制裁やウクライナにおける対ロシア感情などを踏まえると、正確な認識だと言わざるを得ません。
ロシアのラブロフ外相はBBCのインタビューに対し、「我々はウクライナに侵攻していない」と述べたそうです。なかなかに驚く認識ですし、「ウソにウソを積み重ねるとウソに呑み込まれる」という実例そのものでもあります。その一方で英軍制服組トップのラダキン参謀総長は「ロシアはすでに戦略的に敗北した」とする認識を示したのだとか。ロシアが払った犠牲が大きすぎるロシアによるウクライナ侵略の開始から、もうすぐ4ヵ月が経過します。非常に残念なことに、ロシアによる違法な侵略行為はいまだに続いており、ウクライナで多く... 英軍制服組トップ「ロシアはすでに戦略的に敗北した」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、英国の情報機関「MI6」の長官が7月、「ロシア側が今後、侵略の勢いを喪失するであろう」とする予測を提示しましたが(『英MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速も」』等参照)、この予測は9月になってウクライナの反攻というかたちで部分的に実現しています。
「ロシアは人的リソースの欠乏から今後数週間以内に失速するかもしれない」――。こんな分析が出てきました。英国の情報機関「MI6」のリチャード・ムーア長官は現地時間21日に開催されたフォーラムで、欧州では外交官を装ったロシア人のスパイが400人以上追放され、諜報能力が激減しているなどとする分析を示し、あわせてウクライナ側の士気の高さや新たな武器による反撃の可能性に言及しました。この5ヵ月でロシアが払った犠牲早いもので、ロシアによるウクライナ侵略戦争の開始から、明日で5ヵ月が経過します。ロシア側はこの戦争... 英MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速も」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
結果的にロシアは「部分的な動員」(と称した事実上の国家総動員)の発動を余儀なくされていますが(『事実上の「総動員」?ロシアが「部分的な動員」を発表』等参照)、これもロシアが公式発表とは裏腹に、ウクライナ侵略戦争で大変に苦労している証拠でしょう。
ウソツキ国家は「タテ検証」に極端に弱いロシアというのは面白い国で、「ウクライナにおける特殊軍事作戦は順調だ」とこれまで自分で豪語していたという設定を忘れ、「西側諸国のせいで国家存亡に危機にある」、などと言ってしまう国です。そのロシアでは、ウラジミル・プーチン大統領が「今後は部分的な動員」を行うと発表しました。どうして素直に「国家総動員」と言えないのかは謎ですが、こうしたロシア側の支離滅裂な言い分も、インターネット社会の「タテヨコ検証」で白日の下に晒すことができるというのは、非常に良い時代にな... 事実上の「総動員」?ロシアが「部分的な動員」を発表 - 新宿会計士の政治経済評論 |
こうした状況を踏まえるならば、やはり英国の情報は、少なくともロシア政府の公式発表と比べれば、はるかに信頼度が高いものだと考えて差し支えないでしょう。
インテリジェンス・アップデート「徴兵された軍隊に高い消耗率」
そして、昨日は英国防衛省が公表する『インテリジェンス・アップデート』の内容に、興味深いものがありました。
意訳すると、こんな具合です。
- ロシア政府による「部分的な動員」によって召集された兵士の最初の一団が、軍事基地に到着し始めた。すでに何万枚もの召集令状が発行されている
- しかし、ロシアは今後、部隊を訓練するうえで、管理面や物流面での課題に直面することになるだろう
- 西側諸国の軍隊の多くとは異なり、ロシア軍には専用の訓練施設はなく、低レベルの初期訓練は指定された作戦部隊の中で行われる
- 通常であれば、各旅団内の1個大隊は、他の2個大隊が展開しても駐屯地に残り、新兵や増員兵を訓練する教官を提供することができる。しかし、ロシアはこの第3大隊の多くをウクライナに派遣してしまっている
- 徴兵された部隊の多くは、軍隊としての経験年数が不足している
- 軍事訓練の担い手が不足しているにもかかわらず、ロシアが動員を急いだことから、徴兵された部隊の多くは関連する準備をほとんどしないまま前線に投入されることになる
- よって、徴兵された兵士は高い消耗率に見舞われる可能性が高い
…。
つまり、「とりあえず徴兵して人数だけは確保したけれども、専用の軍事訓練施設もなく、現場でトレーナーが不足しているという状況にある」、ということです。適切な軍事訓練を受けていない人たちがいきなり前線に実戦投入されれば、どういう状況になるかは火を見るより明らかでしょう。
「戦力の逐次投入」、「戦力の消耗」、「国家総動員」。なんだか、非常に言い辛いのですが、今から80年前のどこかの国の事例を見ている気がするのは、決して気のせいではないでしょう。
View Comments (20)
ロシアはモスクワとペテルブルクを残して空中分解して、あたかも都市国家のようになるのかも知れません。ロシア国土の富をサイフォンのように吸い集めて来た国家体制・社会構造が壊れてしまったそのあとをぼちぼち構想しないといけないタイミング、かもと愚考します。
囚人を兵隊にするなどの施策をみると 一石二鳥を悪巧みしているのではないかと思えてしまう。一つは兵士不足対策。もう一つは囚人に要する費用にも困っている。
未熟な兵士というのは味方の足を引っ張る危険な存在。
アパム、弾もってこい!
パープルハート いっぱい送ってあげればいいんですかね。
カネはないがケンカは強い不良のイメージだったロシアたがウクライナとの戦争で「たいして強くないね」という評価になりつつある。
新兵器で戦争のやり方が変わった。大砲がコンスタンチノープルを陥落させ東ローマ帝国が滅亡したようにロシアも滅びる運命か。
囚人徴兵はその3000人が既に全滅している、という話も真偽はともかく聞こえてきていますね。
近代戦闘、特に相手側が兵器の質/量で優越している場合、肉壁程度を逐次投入しても損耗が増えるだけなのですよね。
しかも、ロシアは今のところ本国まで攻め入られて領土を削られているわけでもない。
初期の電撃戦が失敗した段階で侵略を諦め、クリミア保全のみを外交で確定した方がよほど利益があったと思いますよ。
このままだと、圧政による停滞と西側の経済制裁で、旧ソ連末期レベルの状態まで後退するのではないですか。
そうなると、プー帝もその周辺も安穏とはしていられないでしょう、国土の広い北朝鮮になるかも知れませんね
国土の広い北朝鮮は最悪。
中米の蚕食や混乱を避けるために、初期は独裁や共産主義(改革開放の中共)もや無得ないが
・占守島以南の千島列島と樺太の日本返還
・南北朝鮮との断交
を条件に貿易立国をを目指す東の民主ウクライナをどうすれば樹立でるか。
CPTPPへの勧誘。日・東ウ自由貿易協定など(併せて安全保障体制も)
そこに至るストーリーを外務省(岸田-林ラインは無理!)、経産省、防衛省には考えて居て欲しい。
ロシア人の国外脱出が続いている様だが、北方四島へ移住した方が賢いんじゃないの。
住民投票で、日本への帰属を決めれば、招集どころか、徴兵もなくなる。
プーチンが「住民投票による帰属変更は認められない。」と言えば、ウクライナ戦争が終わり、招集もなくなる。
ナイスアイデアと思います。ww
ロシアのウラル山脈以東が住民投票で米国になる、
中国のウイグル自治区とチベット自治区が住民投票で米国になる、
台湾が住民投票で米国若しくは日本になる、
など色々なオプションが楽しめそうですね、、、
墺を見倣え様
大変よろしい案と思います。
鈴木宗男氏が露に認定させた「露の少数民族である
アイヌ」も現在の日本領土内では思う存分
民族としての儀式・暮らし等が実践できないと
申しております。
この機会に丸ごと千島・樺太に引っ越して
頂くのは、彼等の主張にかなうものであり
強力に賛成したいと思います。
日本には、そういう人達が居たという記念館が
既にできておりますしね。
劣勢な状況下の無慈悲なオンザジョブトレーニングですね。ブラックなことです。
陰気なことが好きなのでしょう。たぶん
命を掛けたOJTとの見方は本当に出ています。すなわち
・前線投入後2週間生き残った招集兵には戦闘要員としてポテンシャルがある
ウクライナ軍精鋭は英軍やペンタゴンが教練しています。ですので NATO 化は事実として現在進行形。
単純に戦力を補う動員でも、泥縄式に訓練や装備を欠いた戦地への投入を見ると、副次的に損害による世論の沸騰、つまりプーチン大統領が特別軍事作戦の演説で述べた西欧対ロシアの図式への嵌め込みを狙ってでもいるのでしょうか。
元々戦争でない特別軍事作戦と銘打ったのは世論への斟酌なら、動員に踏み切った段階で戦争と認めるものと思っていましたが、今のところそこまで至らず動員も限定的という言い訳で混乱を巻き起こしながら政権を維持しつつ戦争を継続する術を行方を伺っているように見えます。
いずれにせよ特別軍事作戦の目標、非ナチ化はキエフ侵攻の失敗で潰え、非軍事化もウクライナの抵抗で動員に追い込まれ、両目標の名目としたドネツク・ルガンスク両共和国は反撃の前に消滅しかねない状況にあります。
つまりロシアの敗色濃厚ですが、動員で粘るのは敗北で政権の転覆を逃れるためとしか思えません。
初戦の失敗を見たプーチン大統領は軍上層部を通さず直接戦争指導しているとの観測もありますが、その場合は軍事的な負け、政治的な動員の両面に直接責任を負って政治生命を擦り減らしながら延命を図っているということになるのでしょう。
ウクライナの備えと必死の抵抗がロシアの横暴を挫いた主因として、副次的に欧米の合従を見るとき、残る独裁国に接した日本でFOIPを提唱した安倍総理大臣の先見に改めて早世を惜しまずにいられません。
以前、刑務所に逃げても囚人兵にされるのがロシアの伝統、と半分冗談半分本気で書きましたが、現実になってしまったかもしれませんね。
しかも囚人兵の訓練をかのワグナーグループが請けているとかいう話も。勿論あちらの内部の話なので確証はなんともですが。訓練1週間で出してかなりの損害が出ているとのことなので、訓練はただの事前講習、実戦が"篩にかける場"であり、そこを生き残ってやっと「見込みがあるな」となるのかも。