BPO、NHKに「重大な放送倫理違反」とする意見書

NHKに「重大な放送倫理違反がある」とする「意見書」が、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」出てきたようです。ただ、このBPOの意見書に何か意味があるというのでしょうか。BPO自体、放送業界で放送法第4条第1項違反が繰り返されていることをごまかすために放送業界の内輪で作られた「自主規制機関」のようなものですが、腐敗した業界が「自主規制します」などと言っても説得力は皆無です。テレビ業界が腐敗に塗れているあいだに、業界にはジワリと変革の波も押し寄せているようです。

NHKに重大な放送倫理違反

産経ニュースの本日の報道によると、NHKが昨年末、BSで放送した『河瀬直美が見つめた東京五輪』という番組を巡り、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が「重大な放送倫理違反がある」とする「意見書」を公表したのだそうです。

NHKに「重大放送倫理違反」 五輪番組の不適切字幕でBPO

―――2022/9/9 15:19付 産経ニュースより

問題のコンテンツは、取材で出会った男性の映像で「五輪反対デモに参加しているという男性」、「じつはお金をもらって動員されていると打ち明けた」、などとする字幕が付けられたものの、実際には番組制作者がデモへの参加、金銭授受などの事実確認をしていなかったとして、NHKがその後の放送で謝罪していたものです。

ただ、「意見書が出た」から、いったい何だというのでしょうか。BPOがNHKに対して出したこの意見書は、NHKに対して何か実効性があるというのでしょうか?

実際、BPOのウェブサイトでは、こんな趣旨のQ&Aが掲載されています。

BPOの委員会について 13

Q 「勧告」「見解」の違いは?

A 勧告は放送倫理検証委員会と放送人権委員会が出すことができます。「勧告」は検証の結果、委員会が強く放送局に改善を促すもの、「見解」は、勧告までにはいたらないが、委員会が何らかの考え方をしめしたものといえます。これらのほかに、内容、伝える相手などにより、委員会は、単独または合同で「提言」や「意見」などを出すことがあります。

BPOの委員会について 14

Q 放送局に対して、「勧告」よりも強い強制力のある指導を行うことはできるのですか?

A できません。放送局に自主的に改善をすることを促し、助言することがBPOの役割です。

…。

つまり、BPOは放送局に対し、強制力のある指導、行政処分などを行うことはできません。

BPOと放送法第4条第1項

というよりも、BPO自身が民間団体です。そもそも論として、BPOはべつに法律に定められた組織でもなんでもなく、事実上、放送業界が単なる業界の内輪で作っている任意の団体に過ぎませんので、ので、「行政」処分などできっこないのです。

ではどうしてこんな組織が存在しているのでしょうか?

そのヒントはおそらく、放送法第4条第1項の規定にあります。

放送法第4条第1項

放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

…。

いかがでしょうか。

深夜番組などを含め、公序良俗を害する番組はいくらでも垂れ流されていますし、2009年の政権交代時を含め、テレビ局が「政治的に公平」だったことはありません。また、「もりかけ」「さくら」「統一教会」問題に見るとおり、テレビ局は事実を歪曲しまくっていますし、意見対立している問題も、基本的には政権批判一色です。

電波法第76条第1項の適用は困難

というよりも、この放送法第4条第1項の規定に違反したとしても、テレビ業界には事実上、まったくといって良いほど罰則が存在しません。

もちろん、電波法第76条第1項には、放送局が放送法違反を行ったときには停波処分を下すことができる旨が定められているため、「罰則がまったく存在しない」というわけではありません。

電波法第76条第1項

総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、三月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。

ただ、この条文の適用は、事実上、難しいでしょう。

実際、高市早苗総務相(当時)が2016年2月8日の衆院予算委員会で放送法第4条第1項違反を理由に電波法第76条第1項が適用される可能性に言及した際には、「民放労連」などが激しく反発し、「発言を撤回せよ」と要求しました。

【民放労連声明】高市総務相の「停波発言」に抗議し、その撤回を求める

―――2016/02/10付 民放労連HPより

こうした声明文が出てくること自体、民放労連など業界関係者自身が、自分たちが放送法を順守していないことを自覚している証拠でしょう。罰則がないのを良いことに、今後も自分たちが好き勝手に番組を作って垂れ流すという利権を守ることが、テレビ業界にとっての最大の関心事なのです。

こうした文脈でBPOを位置づけるなら、BPOとは要するに、テレビ業界が「自主規制」と称し、一種のアリバイ工作として、「BPOでちゃんと放送の客観性を担保していますよ」、とアピールするために作っている組織なのでしょう。

したがって、今回のNHK問題についても、「意見書が出ておしまい」、です。そもそも腐敗し切っている業界に「自主規制」で倫理向上を期待すること自体が無理筋、というものです。

テレビ業界とBPOという利権

ただ、腐敗した業界に更生が期待できないからといって、べつに嘆く必要性はありません。業界そのものが衰亡しつつあるからです。

当ウェブサイトではしばしば、利権には3つの特徴がある、と申し上げてきました。

利権の3つの特徴
  • ①利権とは、得てして理不尽なものである。
  • ②利権はいったん確立すると、外から壊すのが難しい。
  • ③利権は怠惰や強欲で自壊することもある。

(【出所】著者作成)

考えてみれば、これも当然といえるかもしれません。利権というのは、さしたる努力もなしに大きな成果が得られる仕組みのことだと定義できますが、一般に利権を持っている者は、その利権がウマければウマいほど、自分が持つ利権に安住し、努力や研鑽を怠るものだからです。

冒頭に挙げたNHKなど、「理不尽な利権」の最たるものでしょう。どんなにつまらない番組しか作っていなくても、放送法の規定を盾に、一般家庭から事実上、半強制的に受信料をかき集め、1万人前後の職員に対し民間企業の水準を遥かに凌駕する異常な高給を支払っているわけですから。

ただ、それらの利権はたいていの場合、経済合理性や社会正義に反する理不尽な仕組みでもありますし、時代も常に変化しています。理不尽な利権で不当な利益を得てきた者は、その仕組みを永続させようとしてさまざまな屁理屈を捏ね上げるのですが、こうした屁理屈は外から見ると明らかにおかしなものであったりします。

テレビ業界自体が衰亡ないし崩壊に向かう

このため、明らかに不合理な仕組みは、社会が健全であれば、やがて利権を持っている者たちの怠惰や強欲のすえに、音を立てて崩壊したりするものです。しかも、その矛盾が大きければ大きいほど、利権には「ハード・ランディング」が待っています。「崩壊」というかたちでしか、矛盾を解消できなくなるからです。

これをテレビ業界に当てはめると、「テレビよりも面白いもの」が出現したときに、テレビ業界自体が自己変革に失敗し、衰亡ないし崩壊に向かう、という言い方ができるかもしれません。

こうしたなか、先月末、総務省のウェブサイトの『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』というページに、2022年版の『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』というレポートが掲載されていました。

じつは、この内容自体、当ウェブサイトではすでに先月の『利用時間数でネットに敗北しつつあるオールドメディア』でも取り上げた『令和4年度版情報通信白書』でも収録されている論点と話題と重なるので、詳細については割愛します。

ただ、ここで興味深いデータがあるとしたら、40代以下の世代において、いまやネットの利用時間がテレビの視聴時間(リアルタイム視聴+録画視聴)を上回ってしまっているという事実です。

2021年における最新データによると、平日のテレビの視聴時間は全世代において163.8分(うちリアルタイム視聴が146.0分、録画視聴が17.8分)であるのに対し、ネット利用時間は176.8分で、この調査が開始されて以来、初めてネットがテレビを上回りました(図表)。

図表 おもなメディアの平均利用時間(平日、年代別)
年代テレビネット
全世代163.8分176.8分
10代69.4分191.5分
20代86.3分275.0分
30代126.3分188.2分
40代146.4分176.8分
50代206.4分153.6分
60代280.4分107.4分

(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』を参考に著者作成。なお、「テレビ」は「リアルタイム視聴」と「録画視聴」の合計)

しかも、「ネット>テレビ」となる分水嶺は年々切りあがっており、2021年には初めて40代でネットとテレビの逆転が生じました。50代や60代においては、依然として「テレビ>ネット」ですが、若年層ほどネット利用時間が長く、10代や20代に至っては、テレビ視聴時間はネットの3分の1前後に過ぎません。

これも著者自身に言わせれば、「ごく少数のテレビ局が情報発信を独占し、やりたい放題やってきた」というテレビ業界の積弊の結果に過ぎいません。この傾向は今後も拡大こそすれ、縮まることはないでしょう。

(※なお、同調査によれば、新聞業界に関してはさらに悲惨なことになっているのですが、これについてはまたどこかでまとめて取り上げたいと思います。)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    民放が次に問題起こしたら経団連あたりでコマーシャルの出稿停止を計画すればいい。
    民放は一発でおとなしくなる。
    以前トヨタ奥田会長の「コマーシャル止めたろか」の一言で民放の派遣社員に関する報道が腰砕けになったことあったよね。

  2. 通りすがり より:

    要は左翼に不利なことを言われたからムキになっているだけ、ってことだよね。BPOが。
    審査員の面々を見れば一目瞭然、業界の自浄作用を促すどころかただ反日陣営の不利な要素をもみ消すための組織なんだから。

    1. 農民 より:

       これでは放送を審査するBPOを審査する組織が必要ですね。
       そしたら放送を審査するBPOを審査する組織を審査する組織が必要になって、次は放送を審査するBPOを審査する組織を審査する組織を審査する組織が……

       よし全部やめよう。

  3. 新聞を読まない高齢者 より:

    >おもなメディアの平均利用時間(平日、年代別)
    この調査には70代は無いんですね。

    私はテレビのドキュメンタリー系の番組を録画してみるくらいです。
    リアルの番組を意識して見ません。
    殆どの世間の様子はネット中心で収得してます。

    因みに私は誕生日が来たら後期高齢者の仲間入りです。

  4. 一之介 より:

    ネットオークションで新規参入を促さない限り腐りきった放送業界の浄化は進まないと思いますね。国民の財産である電波を一部の利権屋の利益に使われていることに我々国民がもっと真剣に怒るべきだと思いますね。

  5. 匿名 より:

    >電波法第76条第1項
    規則か何かで運用基準を定めることはできないんですかね。
    乱用防止等の名目で運用基準を定めた上で、それに則って処分を行うのはおかしなことじゃないはずですが。

    そして、運用基準の中で
    「表現の自由などのお題目を掲げても、犯罪行為や法令違反の免罪符とはならない」
    「表現の自由をもってしても、他者の権利を侵害する免罪符とはならない」
    といった指標を明示するとか。

    1. KN より:

      その運用をしているのが、悪徳組織と癒着している省庁(ここでは総務省)なので。。
      特定の組織に制限をかけることも難しそうなので、オールドメディアを、魅力のないものに加速度的に誘導していくことでしょうね。

  6. nanashi より:

    矢張り放送法と電波法は改正した法が良さそうですね。
    行政処分、刑事処分の明文化させるべきでしょう。
    あと、電波オークションを導入すべきでしょう。
    しかし、メディアというのはテレビ局、ラジオ局ばかりではありません。
    新聞社、出版社も含みます。
    此れ等を統制する為に、新聞紙法の復活改正と出版法の復活改正も行うべきでしょう。
    今までがゆるゆるだったのですから、ある程度の法の厳格化は許容の範囲だと思います。

  7. WindKnight.jp より:

    この件に関しては、BPO もアレなので、
    そこも合わせて取り上げるべきじゃないかな。

    なかなか、自浄機能って難しいものです。

  8. 攻撃型原潜#$%〇X より:

    電波法というけれど、都市部の多くの世帯はケーブルTV経由で一般の放送も視聴してるのと違いますか。昔は各家の屋根にテレビアンテナが立っていましたが、最近はあまり見かけません。新しいマンションやアパートは共同受信が普通ですし、その場合アンテナや分波器等の設置・メンテナンスは結構大変なので、BS放送も含めてケーブルTV会社と契約する方が安くなります。
    電波を受信してテレビを見ている世帯ってどのくらいの割合なんでしょう。放送法も電波法も時代にそぐわなくなっていると感じます。

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