ウォン安の韓国:イエレン氏はスワップにノーコメント

「せっかくのウォン安にもかかわらず、それを上回る円安のため、韓国の輸出競争力が必ずしも伸びていない」とする趣旨の記事が、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に掲載されていました。興味深い指摘です。そして、韓国で通貨スワップへの待望論が強まるなか、訪韓中のジャネット・イエレン氏が米韓「通貨」(?)スワップの可能性について尋ねられ、ノーコメントを貫いたのだとか。

ウォン安を上回る円安に苦しむ韓国

韓国の通貨・ウォンがこのところ、13年ぶりに1ドル=1300ウォンの水準を突破するなど、弱踏みで推移しています。

ただし、これはウォンだけが独歩安、という話ではなく、むしろ米FRBの金融引き締め観測などを受けたドルの独歩高、という側面が強いでしょう。実際、日本円にしてもドルに対しては24年ぶりの円安水準にありますし、ユーロも「パリティ」(1ユーロ=1ドル)の水準を割り込んだほどだからです。

このあたり、為替相場が金融市場を通じて決まってくるという特徴がある以上、ある意味では当然のことでもありますし、先進国を中心とする多くの国では、政策や条約で為替ペッグを採用しているなどの特殊事例を除けば、為替相場が安定しないのは仕方がない話です。

もっとも、一般に通貨安になったらなったで、輸出競争力が高まるというメリットが生じるものですが、現在の韓国の場合は、単純にそうとは言い切れない事情があります。円安が同時に生じているからです。

これに関しては韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。

1300ウォン台のドル高、韓国輸出企業に好材料?…「円安、為替ヘッジ考慮すべき」

―――2022-07-19 08:29付 ハンギョレ新聞日本語版より

ハンギョレ新聞は、輸出企業を中心にウォン安・ドル高減少が企業業績に良い影響を与えるとの観測がある反面、「『円安』現象や各企業の為替ヘッジ比率などはこれを制限する変数として作用するとみられる」と指摘。

とくに「日本のように韓国との輸出競合度の高い国の通貨価値が下がれば、韓国企業は価格競争で不利になりうる」、「主な生産基地がある新興国の通貨の流れも影響を及ぼす。それらの生産基地から輸入する原材料や部品の価格も共に動くなどの効果がある」、などと議論しています。

米韓通貨スワップの可能性は極めて低い

このあたり、韓国の国を挙げたビジネスモデルは、日本から「素材・部品・装備」を輸入して加工することにありますので、「日本に近い」という地の利を生かしつつ、為替操作も使いながら日本に対する価格競争力を維持するという韓国の基本的な国家戦略が破綻するのは、韓国にとっても困りものなのでしょう。

したがって、韓国ではこのウォン安を受け、米国や日本と「通貨スワップ」を求める動きが強まっていることもまた事実であり、とくに本日、ジャネット・イエレン米財務長官が訪韓することを受け、「通貨スワップも協議される」、といった観測報道が出ているほどです。

では、米韓通貨スワップは実際のところ、可能性としてあり得るのか――。

この点、当ウェブサイトでは『為替スワップはイエレン財務長官にとっては「管轄外」』でも議論しましたが、そもそも論として米国が外国と「通貨」スワップを結ぶことはほとんどなく、また、為替スワップについても米国と何らかのメリットがある場合しか締結していないという実情があります。

しかも、そもそも為替スワップは米国ではFRBの管轄であり、米財務省にとっては管轄外です。したがって、イエレン氏が韓国で通貨スワップや為替スワップについて議論する可能性は非常に低い、というのが実情でしょう。

いや、もっといえば、今年5月にジョー・バイデン米大統領が訪韓した際、米韓が発表した共同声明に、こんな表現が含まれていたことも思い出しておく必要があります。

“To promote sustainable growth and financial stability, including orderly and well-functioning foreign exchange markets, the two Presidents recognize the need to consult closely on foreign exchange market developments. The two Presidents share common values and an essential interest in fair, market-based competition and commit to work together to address market distorting practices”.

この声明では、「市場を歪める慣行(market distorting practices)」が何を意味するかについては明記されていませんが、米財務省が以前から韓国の為替介入を継続的に問題してきていることを踏まえると、韓国銀行による為替介入を意味することは明らかです。

そして、通貨スワップは一般に、通貨当局が通貨防衛などに使用する目的で、相手国から通貨を引き出すことを可能にする協定です。「為替監視レポート」を作成している米財務省が、為替操作国に認定されるリスクのある韓国とそのような協定を締結する可能性は極めて低いです。議会に対し説明がつかないからです。

こうした点を踏まえれば、「イエレン氏と通貨スワップで合意する」という韓国の政治家・メディアなどの主張自体が、極めて怪しいものであると言わざるを得ないでしょう。

中央日報「イエレン氏がスワップにノーコメント」

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には本日、こんな記事が掲載されていました。

訪韓したイエレン米財務長官、韓米通貨スワップ締結の質問に「回答なし」

―――2022.07.19 11:09付 中央日報日本語版より

これによるとイエレン氏は19日、韓国に到着して最初の訪問先で記者団から米韓「通貨」スワップについて尋ねられ、これに答えなかった、とするものです。

おそらく今回のイエレン氏の訪韓目的はサプライチェーン構築に関する議論にあり、韓国の為替相場がどうなるかについては議論の対象外でしょう。

いや、正確にいえば、もし為替相場に言及するならば、バイデン氏が訪韓したときの「秩序ある、そして機能的な外国為替市場を含めた持続的な成長と金融の安定を促進する」というコミットメントを再確認し、改めて韓国に対して不透明な為替介入をやめるように要求する、と考えるのが自然でしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. お世話になります より:

    そりゃそうだ、としか言いようがないですね。
    イエレンさんも大変だ。

    昨日の日韓外相会談についても詳しい報道が出てきていて、韓国側のマスコミは「GSOMIA正常化と引き換えに輸出管理を変更するよう求めたが
    、日本にスルーされた」とか、例によって騒いでいます。

  2. カズ より:

    (一方的な利得提案。希望的韓測が過ぎますね)

    >イエレン氏と通貨スワップで合意する
    「イエメンの師と通貨スワップで合意」くらいの無理筋なのに。
    ・・。

  3. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国:「イエレン氏のノーコメントは、「米韓通貨スワップを結ぶ」という意味に解釈できる」
    これは、2022年7月19日時点では、笑い話である。

  4. クロワッサン より:

    >イエレン長官は韓米が信頼できる国とサプライチェーンを構築する「フレンド・ショアリング」(friendshoring)に出るように呼びかける計画だ。これに先立って、韓国へ向かう軍用機内でイエレン長官はロイター通信とインタビューを行って「レアアースや太陽光パネルなど核心製品を中国に依存しないために韓国をはじめとする信頼性のある同盟との交易関係およびサプライチェーンの強化を推進している」と明らかにしたことがある。

    米韓同盟に信頼性が残ってるそうですが、どんな信頼が残ってるんでしょうね?

    安全保障を対米対日外交カードに使う馬鹿なんですが。

    1. 匿名 より:

      まだアメリカは韓国を損切りしないのかしら?

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