海外への純資産が史上最大の412兆円に!=資金循環
本日の「速報」です。日銀が本日公表した資金循環統計によると、家計資産は引き続き2000兆円を超えているのに加え、円安のためでしょうか、海外部門の資産負債差額(対外純資産)は412兆円と史上最高水準に達しました。円安が日本経済の危機だと称していたメディアの皆さんは、この状況をどう見るのでしょうか?
資金循環速報値
日銀は本日、「資金循環統計(速報値)」を公表しています。
この「資金循環統計」、英語では “Flow of Funds” と呼ばれ、どの国でも作成されているものですが、わかりやすくいえばその国における資金の流れを示したものです。
どんな国でも経済主体としては「政府」「企業」「家計」があり、それらをつなぐ「金融仲介機能」(銀行等の金融機関、生損保等の保険・年金基金、中央銀行など)が存在し、さらにその国と海外とのつながりを示す「海外部門」があります。
そして、これらの経済主体の資金の貸借(収支尻)は、(誤差脱漏を別とすれば)必ずゼロになります。金融商品の世界では、「誰かにとっての資産は、ほかのだれかにとっての負債」だからです。
たとえば、銀行があなたという個人に住宅ローンを1000万円貸してくれたとしましょう。あなたは銀行から1000万円の借金、つまり「借入金」という「金融負債」を負っているわけですが、これを銀行から見たら「貸出金」という金融資産が1000万円存在していることになります。
あなたにとっての1000万円の金融負債と、銀行にとっての1000万円の金融資産は、足せばゼロです。
ということは、「閉鎖経済」だった場合、一国のなかでは必ず金融資産の総額と金融負債の総額が一致するはずですし、「開放経済」だった場合には、一国のなかで金融資産の総額と金融負債の総額のズレは、海外部門との資金収支とプラスマイナス逆で一致しています。
日本経済のバランス・最新図
これを踏まえたうえで、さっそくですが、日銀が本日公表した2022年3月末時点の金融資産・負債残高を、おもな経済主体ごとにまとめたものを紹介しましょう。これが図表1です。
図表1 日本全体の金融資産・負債の残高(2022年3月末時点)【※クリックで拡大・大容量注意】
(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)
ざっとレビューしておきましょう。
日本ではまず、家計部門が2000兆円を超える金融資産を保有しており、その内訳は現金預金が1088兆円、保険・年金等資産が540兆円です。これらは家計から見たら「資産」ですが、金融機関、保険・年金基金などから見たら「負債」です。
これに対し、家計が銀行等から借り入れている負債は373兆円に過ぎず、家計が保有している金融資産からこの金融負債を差し引いた金融資産・負債差額(つまり純資産)も1648兆円という巨額に達しています。GDPのざっと3倍超、といったところでしょうか。
次に、金融機関や保険・年金基金のバランスを眺めると、これも大変に巨額です。
金融機関の負債総額は2253兆円ですが、これらの資金については本来、企業などに対して貸し出されることで金融機関にとっての利益が確保されるはずです。しかし、現実に金融機関の貸出金勘定はトータルで884兆円に過ぎず、残りは貸出金以外の資産で運用しなければなりません。
だからこそ、従来であれば、金融機関は国債などをドカッと購入することで運用していたのですが、残念ながら国債は日銀が量的緩和の一環として市中から買い占めてしまっているため、ほとんど流通していません。金融機関が保有している国債・財投債残高は、たかだか131兆円です。
そして、金融機関のバランスシートのなかでも貸出金の次に突出しているのが「日銀預け金」であり、その金額はじつに530兆円にも達しています。
一方の日銀の金融負債は729兆円、金融資産は759兆円ですが、このうちの国債等(国債・財投債・国庫短期証券)の残高はじつに516兆円にも達しています。経済的には、銀行等金融機関が保有していた国債等がそのまま日本銀行に移転したようなものです。
ただ、金融機関や保険・年金基金にとっては、運用する資産がありません。だからこそ、金融機関にとっては仕方がなく「対外証券投資」(外債、外株など)や「株式・投信」(エクイティ、オルタナティブ投資など)に投資せざるを得ない、というわけです。
中央政府の金融資産はたしかに膨大だが…
その一方、中央政府のバランスを眺めてみると、たしかに国庫短期証券が155兆円、国債が961兆円と、あわせて1000兆円を大きく超える負債を抱えています(※これ以外にも、広義の「国債」としては、公的金融機関が発行している100兆円ほどの財投債があります)。
しかし、正直わが国の金融資産・負債バランスを考えると、この国債の発行量だと少なすぎます。本来ならば資金調達主体となるはずの「非金融法人企業」部門を見てみると、銀行等の「貸出金」が537兆円に過ぎず、金融機関にとっての資金運用先不足という悩みは解消していないからです。
ちなみに「海外」部門に関していえば、金融負債が1268兆円、金融資産が850兆円であり、トータルで資産負債差額のマイナス(赤字)が412兆円に達しています。すなわち、「海外が412兆円の赤字」ということは、「日本国が全体として412兆円の黒字」、という意味です。
この「海外部門の資産負債差額」について、プラスマイナスを逆転させてグラフ化したものが、次の図表2です。
図表2 海外部門の資産負債差額(プラスマイナス逆転表示)
(【出所】資金循環統計)
とくに巨額なのは「対外証券投資」700兆円、あるいは内訳としての外貨準備165兆円です。
やはり、米国など海外の金利上昇で日本の機関投資家が保有している米国債などの外債に評価損が生じているものと考えられる一方、円安が進み始めた影響で、とくに米ドル建ての貸出金や債券には巨額の含み益も生じているため、トータルとしては大幅なプラスとなったと考えて良いでしょう。このように考えていくと、日銀の金融緩和が効いているうちに、政府は債務の規模をさらに増やす大きなチャンスが到来しているのです。
ちなみに「円安は日本経済の危機だ」、などと大騒ぎしている皆さんは、この状態をどう説明するつもりなのでしょうか?大いなる謎です。
円安の好機生かす原発再稼働
これに加え、資金循環統計から離れて考えると、せっかくの円安なのですから、製造業の国内回帰等を進めるうえでもかなりの好機でもあります。こうした好機でありながら、電力不足が生じていることは、製造業の国内シフトを阻む要因です。
『「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働が必要』を含め、当ウェブサイトでは以前から何度も報告しているとおり、現在の日本経済にとっての最大のボトルネックである「電力不安」については、政府の責任において早急に解消する必要があります。
いずれにせよ、現在の資金循環バランスから見る限り、少なくとも日本政府が財政再建を必要としているという状況にはありません。このことは、何度強調してもし過ぎではないと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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せっかくの円安なのですから、保有外貨の円安差益を物価対策・景気発揚に使って欲しいですね。
その気さえあれば、外貨はいつだって(通貨発行で)入手できるんですから・・。
円安のかげで,円換算の資産額は増えますが,ドルベースでの資産が増えるわけではないです。投資家は為替変動を利用して利益を上げられますが,その分一般の人がインフレで損をするので,マクロ的に見ると,投資をしない一般の人達の資産が少しずつ,投資家のほうに移動していくわけです。こういう動乱期は儲けるチャンスなので,個人的には歓迎ですが,少し損をする人のほうが圧倒的に多いかな。
日本の財政赤字もドル換算では減少しますが,日本人の給与がドルに連動して上がらないと,返済が楽になるわけではないです。
なるほど新宿会計士様のおかげで円安が日本にとって危機ではなくチャンスであるとよくわかりました。
ただTVなどで円安で危機といっています。ネットでは中韓がTV局を浸食して―という意見が散見しています。これももちろん或ると思います。円安は中韓にとっては好ましくないですから。
でもそれだけではなく、TVの中心視聴者の年金生活者(4000万人)には当面、生活にじわっと不安が広がると思います。
実際には円安で輸出企業が儲かり→生活に余裕が出た消費者の購買意欲が高まり輸入企業も儲かり→法人税が増えて年金生活者にも多少還元となるんだと思いますが時間がかかるでしょう。