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    Categories: 金融

IMF「人民元での外貨準備の保有は広まっていない」

IMFから「答え合わせ」が出てきました。世界の外貨準備に占める通貨別構成を見ると、最近、人民元の金額、割合が増えているのですが、その原因を作ったのはやっぱりロシアだったのです。IMFによると人民元建てで外貨準備を保有している国は基本的にロシアであり、多くの国は人民元ではなく、豪ドル、加ドル、スウェーデンクローナ、韓国ウォンなどに外貨準備を分散している、などと指摘されているのです。

外貨準備に占める人民元の金額・割合は上昇しているが…

今年4月の『外貨準備で人民元の存在感高まる一方で「落とし穴」も』では、国際通貨基金(IMF)が公表している統計をもとに、世界の外貨準備の内訳分析を実施しました。

人民元は意外と外貨準備の構成通貨として適している?人民元が最近、ひそかに外貨準備の構成通貨としての重要性を高めつつあります。米ドルに対して価値が安定していること、ロシアに対する西側諸国の制裁に同調しなかったことなどが評価され、今後、独裁国家を中心に人民元建ての資産の割合が急増していく可能性はありますが、それと同時に、こうした動きは中国自身のクビを絞めかねないものでもあります。人民元と国際通貨人民元は「国際基軸通貨」になるのか?当ウェブサイトを2016年7月に立ち上げて以来の大きなテーマのひとつは...
外貨準備で人民元の存在感高まる一方で「落とし穴」も - 新宿会計士の政治経済評論

その暫定的な結論を申し上げると、次のとおりです。

  • 世界の外貨準備に占める米ドルの割合は、徐々に低下してきている
  • 外貨準備に占める人民元の割合は徐々に上昇している
  • ただし広い意味での「西側諸国通貨」の割合が顕著に低下しているとはいえない

具体的に、人民元建ての外貨準備の金額、そして世界の外貨準備に占める割合をグラフ化したものが、次の図表1です。

図表1 世界の外貨準備に占める人民元の金額・割合

(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserve データより著者作成)

グラフで見ても明らかなとおり、とくにこの1~2年で、人民元の金額や割合がさらに増えていることが確認できます。ちなみに実際の数値で見れば、2020年12月時点で2716億ドル・2.3%でしたが、2021年12月時点では3361億ドル・2.8%にまで増えています。

ロシア中央銀行のデータから判明

この増加要因について、上記記事執筆時点では「なんだかよくわからない」けれども、「なんとなくロシアの動向と何らかの関係でもあるのかな?」といったくらいの仮説しか提示できていませんでした。

しかし、『開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた』でも触れたとおり、その後にロシア中央銀行が公表した2022年1月時点のデータでは、ロシアは1年間で外貨準備に占める人民元建て資産の金額・割合を大幅に増やしていることが判明しました。

中露は金融の世界で「一蓮托生」の関係になってしまったロシア中央銀行がつい先日公表したレポートを読んでいくと、中露両国が金融面で一蓮托生になってしまった可能性が浮かび上がりました。つまり、中国はロシアに対し、最大で1250億ドルを支援しなければならない可能性があるのです。また、ロシアはとくにこの1年間で米ドルの資産を571億ドル分減らしていたことも判明しましたが、これはロシアがウクライナ侵攻の事前準備をしていたという間接的証拠でもあります。外貨準備で増える人民元外貨準備で米ドルの割合は徐々に低下以前の...
開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた - 新宿会計士の政治経済評論

詳しい計算プロセスは上記記事を確認していただくとして、ここでは結論として、当ウェブサイトにて試算した外貨準備の通貨別内訳の結果だけを再掲しておくと、次の図表2のとおりです。

図表2 ロシアの外貨準備の通貨別内訳
通貨 2022年1月末 1年間の変化
ユーロ 2037億ドル +349億ドル
金(マネタリー・ゴールド) 1292億ドル ▲55億ドル
米ドル 655億ドル ▲571億ドル
人民元 1028億ドル +287億ドル
英ポンド 373億ドル +8億ドル
その他 625億ドル +209億ドル
合計 6009億ドル +227億ドル

(【出所】ロシア中央銀行議会向けレポート、IMFデータをもとに著者試算)

すなわち、世界の外貨準備に占める人民元の割合が上昇していることは事実ですが、何のことはなく、結局ロシアが人民元建ての資産の割合を大幅に積み増していたことがその原因だった、というわけです。

IMFのブログ:人民元資産を増やしている国は限定的

こうした当ウェブサイトの試算が正しかった証拠が出てきました。驚くことに、それを公表したのは国際通貨基金(IMF)自身です。

Dollar Dominance and the Rise of Nontraditional Reserve Currencies

―――2022/06/01付 IMFblogより

これには人民元を外貨準備として保有している国と各国の比率が掲載されているのですが、内訳が判明する国はロシアが圧倒的に多いことがわかります(図表3

図表3 人民元建ての外貨準備

(【出所】IMFblog)

ちなみにこのIMFブログの記載内容は、「外貨準備を米ドルから分散させる動きが続いている」が、「そのメインの行き先は人民元であるとは限らない」、「豪ドル、加ドル、スウェーデンクローナ、韓国ウォンなどの小国通貨に分散している」、などとするものです(なにかひとつ、よくわからない通貨が混ざっているようですが…)。

いずれにせよ、人民元建てで資産を保有する国が非常に限られているという事実に加え、今後、ロシアが西側諸国の金融市場から完全に排除される動きが続くなかで、結果的に中露の「一蓮托生」状態はさらに強まることでしょう。

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さて、IMFのブログサイトにはほかにも通貨スワップなどを巡って面白そうな記事も発見したのですが、これについてはちょっと読み込むのに時間がかかりそうです。興味深い話題があれば、どこかで取り上げたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (1)

  • 自分がその方面に疎いため経済、通貨の話はコメント付けられないのですが何時も勉強させていただいています。
    今後ともよろしくお願いいたします。