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「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」=韓国紙

今度は「米露二股外交」、でしょうか。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、私たち日本人の多くにとっては理解し辛いであろう記事が掲載されていました。「韓国は米国だけでなく、ロシアとも関係を深めねばならない」、と主張する記事です。のっけからボタンの掛け違いも目立つ記事ですが、これを読めば、日本が基本的価値を共有しない国との関係を深めるリスクの一端が見えるかもしれません。

リセットコリアシリーズは「日本人必読」

以前から韓国メディア『中央日報』を眺めていると、『リセットコリア』、あるいは『危機の韓日関係・連続診断』などと称したシリーズ物の記事を見かけることがあります。

とりわけ、以前の『韓国弁護士「過去の問題は法的手段では解決できない」』などでも取り上げたとおり、中央日報社が主催しているらしい「韓日フォーラム」などの議事録を読めば、韓国の考え方が大変よくわかるため、個人的には「日本人必読」だと考えている次第です。

なぜ正論を指摘する論者が、たった1人もいないのか――。「韓日ビジョンフォーラム」には多くの論者が参加しているようですが、「韓日諸懸案は本来、すべて法的に解決済みであるのに、これを蒸し返すわが国の側に問題がある」と指摘する論者は見られません。それどころか、「韓日問題は法律で解決することができない」などと言ってのける弁護士の方もいらっしゃるようです。「台頭で未来志向の関係」否定しているのはどちらかとても当たり前の話ですが、外交関係においては、基本的に「対等で未来志向の関係」を目指さなければなりませ...
韓国弁護士「過去の問題は法的手段では解決できない」 - 新宿会計士の政治経済評論

もっとも、多くの日本国民が「韓国の思考方法」を理解したとして、それが日韓関係の「改善」につながるかは、別問題です。むしろ、地理的に近いはずの日韓両国が、現実にはまったく異なる考え方を持っているという事実を踏まえて、私たち日本人がどういう行動をとるべきかを決定することにこそ、意味があります。

リセットコリア委員が「米露両国と関係増進すべき」

そのことを痛感する記事が本日、中央日報の日本語版ウェブサイトに掲載されていました。

【コラム】沿岸国の呪いを解くには…韓国、米露両国と関係増進すべき(1)

―――2022.05.30 13:50付 中央日報日本語版より

【コラム】沿岸国の呪いを解くには…韓国、米露両国と関係増進すべき(2)

―――2022.05.30 13:50付 中央日報日本語版より

寄稿したのは「リセットコリア」運営委員でソウル大産業工学科の名誉教授の方です。全部で3500文字ほどの、中央日報としては長文の部類に入る記事ですが、わかりやすくいえば「韓国は米国とばかり仲良くせず、ロシアとも関係を増進すべき」とする主張でしょう。

この記事ではロシアによるウクライナ侵略について、のっけから、こう述べます。

世論はウクライナに同情的で、ロシアに批判的だ。<中略>しかし実際、我々が感じる加害者に対する怒りと被害者に対する憐憫は、過去に韓国が中国と日本に侵略された痛恨の記憶が脳裏に刻まれた結果であることを否めない」。

この時点で、大変に見当違いであると断言せざるを得ません。なぜなら、国際社会(とくに西側諸国)がロシアに対し批判的である理由は、「被害国」「加害国」のフレームワークに基づくものではなく、第一義的に、「ロシアが国際法を踏みにじっているから」です。

たとえば、5月9日付のG7共同声明【※PDF】にも、2014年以降のロシアによるウクライナへの侵攻については「第二次世界大戦後に将来の世代が戦争の惨禍を免れるよう考え出された、国際的なルールに基づく秩序、特に国連憲章を侵害してきている」、と批判されています。

主要国が対露制裁で一致しているわけではない点はそのとおり

ただ、ここで「この議論に価値はない」と断言するのではなく、辛抱して、もう少し読んでみましょう。この著者の方は、「ウクライナ戦争を巡り、西側諸国も一枚岩ではない」、とでも言いたいのか、次のように主張します。

  • 米国など西側国家のロシア制裁が特別に強いわけではく、石油・天然ガスなどの対ロシア依存度が50%を超えるドイツなどEU国家のロシア制裁とエネルギー導入の中断は長くは続かないとみられる」。
  • 米国の同盟国イスラエルは対ロシア経済制裁に参加せず、ミサイル防衛用のアイアンドームと情報用ペガサスに対するウクライナの輸出要請も拒否した」。
  • インドは対ロシア制裁どころか、ロシア産石油の輸入を倍に増やした。インドネシアは米国の反対にもかかわらず、ロシアのプーチン大統領をG20首脳会議に招請した。日本は対ロシア経済制裁に積極的に参加するが、石油・天然ガス開発事業のサハリン1・2プロジェクトなど自国のエネルギー安全保障関連事業は放棄しない点を明確にした」。

このあたり、米国を含めた西側諸国の対露制裁に、全世界が一致しているわけではないという点については、この方のご指摘通りでしょう。ただ、ここで忘れてはならないのは、「方向性」の議論です。この論考では「欧州連合(EU)諸国のロシア制裁は長く続かない」などと決めつけていますが、はたしてそれは正しいのでしょうか。

少なくとも、現状において、EU諸国などがロシア産のエネルギーに深く依存していることは事実ですが、それと同時に、現状、欧州各国でロシア産のエネルギーへの依存度を減らす議論がなされている事実を、あまりにも軽視し過ぎています。

エネルギー依存構造は短期的にガラッと変えることが難しく、また、ロシア自身が国連常任理事国であり、かつ、核保有国であるなどの事情もあるため、現状、対ロシア制裁では打つ手が限られているのは、ある意味では当たり前の話です。資源がない北朝鮮とは事情が違うのです。

つまり、この記事を読んでいて抱く違和感とは、「短期的にはロシアに対して打つ手が限られている」、「全世界がロシア制裁で合致しているわけではない」という2つの事実をもとに、「西側諸国は一枚岩ではない」、「国際法の原理原則よりも自国の国益を最優先にして構わない」という議論に持って行こうとしている点にあります。

李朝外交の惨憺たる失敗

では、どうしてこんな思考が出てくるのでしょうか。

そのヒントのひとつは、この記事で議論されている、李氏朝鮮時代の「親明反清」という「惨憺たる外交の失敗」にあるのかもしれません。

『小さな国が大きな国に逆らうのは正しくない』(以小逆大)という『四不可論』の開始から事大で綴られた朝鮮に外交というものはなく、ただどちら側に立つかというものしかなかった」。

そのうえで、論者の方は、「北東アジアで朝鮮は自国より大きい島国の日本と数十倍にのぼる内陸国の中国の間に位置した沿岸国だ」、「したがって朝鮮が日本と中国の侵略に苦しんだのは朝鮮の過ちだけではなく、それほど恥じることでもない」と指摘。

現在の韓国が「地政学的に南方海洋国の米国と北方大陸国のロシアまで4強の間に位置する『強小国』」であるとして、「今の韓国は外交的な選択によって沿岸国の運命をいくらでも抜け出すことができる」、などと結論付けているのです。

「強小国」なんて表現、おそらく多くの方が「初めて見た」という感想を抱くのではないかと思いますし、現在の韓国が「強国」とも思えないというツッコミも来そうですが、何のことはありません。

要するに、米国の同盟国のまま、ロシアともお付き合いを深めましょう、という考え方です。先ほど紹介した、「米国が友邦に対し、対ロシア制裁の例外を黙認している」とする趣旨の記述も、こうした文脈で出てきたもの、というわけです。

「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」

そのうえで著者の方は、驚くべきことを提案します。それは、「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」、です。

成熟した親ならテレビを見てシカを攻撃するオオカミを嫌う純真な子どもに、オオカミも生態系の重要な一部だという自然の法則を教えなければいけない。そして成熟した指導者なら、現在のウクライナ戦争で再編されるかもしれない国際秩序がいつか北東アジアの地政学的生態系の復元に決定的な障害にならないよう世論を喚起し、賢明な対外政策を進めていく必要がある。こうした均衡外交だけが、沿岸国の韓国の古い地政学的な呪いを新千年の地政学的な祝福に生まれ変わらせる転換点になるだろう」。

やたらと抽象的な言い方ですが、正直、米国の同盟国でありながら、無法国家であるロシアとも「均衡外交を目指そう」というのは、あまり感心する話とはいえません。

こうした考え方が韓国を代表する「保守メディア」のひとつである中央日報に掲載されたという事実は、現在の韓国国内の「保守層」の思考が、現在の日本とはあまりにもかけ離れているという証拠でもあります。

この点、日本国内では大手新聞・テレビを中心に、「隣国同士仲良くしなければならない」、などとする前提を置いた議論をよく見かけるのですが、この「隣国同士なら仲良くしなければならない」という前提条件自体が正しいのかどうか、疑ってみることも必要でしょう。

もちろん、日本の隣国のなかには、日本と基本的価値を共有する台湾のような国もありますが、むしろ地球上には「自由、民主主義、法の支配、人権」といった基本的価値や、「ウソをつかない」「約束を守る」といった基本的態度をないがしろにする国も多く存在することを、私たちは見抜かねばならないのです。

そして、日本の隣に、私たちの国とここまで価値観を異にする国が存在しているという事実を認識すれば、「どんな国とも等しく仲良くする」ということが不可能であることに気付くはずです。

「人の振り見て我が振り直せ」は、昔からよく指摘される格言のひとつです。

韓国観察者である鈴置高史氏も常々指摘するとおり、韓国が朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代から米中二股外交を激化させたことは、コリア・ウォッチャー界隈では有名な話です。

韓国は米国の同盟国として、また日本の友好国として、「自由・民主主義国」陣営に属することにより最大限の恩恵を受けてきた国です。その国が、あろうことか目先の利益を追求する目的で、「恩人」である日米をないがしろにし、基本的価値を共有しない中国やロシアとの関係を深めようとすること自体、理解に苦しみます。

いずれにせよ、今度は「米露二股外交」にも要注意、といったところでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • 19世紀の英国首相パーマストンは言った。「英国は永遠の友人も持たないし、永遠の敵も持たない。英国が持つのは永遠の国益である」

    「均衡外交だけが韓国の新しい千年を開く」つまり均衡外交が国益に最も資すると考えているようだ。
    信じているならそれで行けばいいのでは? 「おまえ、どっちの味方なんだ?」ということに必ずなる。

  • 中央日報の記事を読んでも何を言いたいのか、良くわかんなかったのですm(_ _)m

    >朝鮮に与えられた選択肢は二者択一だったが、韓国に与えられた選択肢は4強とのすべての組み合わせが可能な24通りにのぼる。

    かつては日中間でどちらにつくのか2択だったのが、今は日米中露との関係を友好度順(とかなんかで並べて)24通り(=4×3×2×1)の付き合い方がある。
    って意味だとは思うけど・・・・あんまし自信無いのです♪
    これまでは米中間でふらふらしてたけど、日露を加えて4ヶ国の間でフラフラするんだ!!
    って雰囲気は感じるけど、いまひとつ、何を言いたいのか良くわかんないのですm(_ _)m

    このコラムから作者の意図を推察して、記事にした新宿会計士様はスゴイと思うのです♪

  • 事象の一面だけを取出して例える記述が続き、しかも話が朝鮮半島だけでなく英仏の歴史やらイエローストーンにまで飛びまくるので、「知っていることを全部書きました。どうだ、俺様の知識はすごいだろ。恐れ入ったか」的で、てんで頭に入りませんでした。その意味では恐れ入りました。
    文章末尾のロシアをイエローストーンの狼にたとえて、「狼も自然の食物連鎖の一環をなしているから絶滅させてよいものではないのと同様に、ロシアとも友好を保つ均衡外交をせねばならない」が結論のようです。
    ロシアは狼でなくヒグマでないんかい、とかツッコミは置いておくにしても、イエローストーンの食物連鎖と極東の政治的構図が同じであるとの前提に立っているが、本当ですか。相当な飛躍があるように思えます。

  • 独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (韓国がらみだと、自分が冷静になるために言い聞かせる必要があるからです)
    均衡外交をするためには、「世界各国の情報を詳細に集めて」、「その情報を感情を入れずの分析して」、「その結果を国家政策に反映されて」、「それを1000年、続ける」ことが求められます。もしそんなことが出来れば、(韓国に限らず)どの国でも(均衡外交でなくても)新しい1000年を開くことが出来るでしょう。
    駄文にて失礼しました。

  • 韓国の事はどうでもいいが、日本がどうするかが重要だ。

    RPGのパーティーに例えると、日本は完全にタンクだ。前線で専守防衛。
    コウモリくらいなら多少痛いくらいで済むが、クマや龍が出て来るとアタッカーが居ないと確実に詰む。

    第二次大戦で日本はタフファイターだと知れ渡ったが、剣を無くしてからコウモリにも集られる始末。

    厳選した有志国とNATOのようなパーティーを組むべきだ。米国だけでは心もとない。
    チラチラと余所見する人は入れてはダメ、絶対。

  • 会計士どの

    今回の切れ味は普段に増してすばらしかったと思います。

    違和感とは
    ・「短期的にはロシアに対して打つ手が限られている」
    ・「全世界がロシア制裁で合致しているわけではない」という2つの事実をもとに
    ・「西側諸国は一枚岩ではない」
    ・「国際法の原理原則よりも自国の国益を最優先にして構わない」という議論に持って行こうとしている点にある

    「ろくでなしの自己弁護論理」の典型をここにみる気がします。ほかにもいるよな、こんな手合いが。

  • まあ客観的に見れば「韓国の新しい千年」は「ロシア連邦朝鮮族児治区」かも知れませんがね。

  • もうご指摘のとおり
    笑うしかない記事ですなあ。

    環境の認識を誤り、
    思い上がりで自分達を過大評価し
    願望ありきの展開での
    現実離れした夢と感じます。

    『均衡外交?』なる
    コウモリ外交は、
    新たにさらに千年の
    中国の属国としての
    韓国の行く末をもたらす
    だけのことでしょう。

  • 私が子供のとき、近所の大人が用水路の流れにネズミ捕りのカゴを沈めているところに出くわしたことがあった。カゴの中では溺れかけた1匹のネズミが必死に出口を探してもがいていた。見るに絶えずにその場を離れた。
    半世紀も昔の光景なのに、なぜ突然に思い出してしまったのだろう。

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