「韓国ウォンが値下がりしたから今のうちにウォンに両替しておこう」と考える日本人はほとんど耳にしませんが、逆ならばあるようです。韓国メディアの報道によれば、韓国の5大銀行における日本円預金の残高が3月だけで579億円も増えたのだとか。このあたり、日本円自体が国際的に通用するハード・カレンシーであるということの、間接的な証拠でもあります。
通貨の3大機能
著者自身の考察に基づけば、世界には165~175程度の通貨が存在するものと考えていますが(『詳説・オフショア債券市場統計で「通貨の実力」を読む』等参照)、これらの通貨の実力は同じではありません。ハード・カレンシーとソフト・カレンシーで、その実力は大きく異なります。
世界中にはたくさんの通貨が存在していますが、それらの通貨の通用度は同じではありません。本稿では前半で「通貨の数」について議論し、後半では「オフショア債券市場」に関する統計をもとに、通貨の実力について眺めていきたいと思います。とくに「基軸通貨論」が唱えられた「あの通貨」は、オフショア債券市場においてどれだけの実力があるのでしょうか?地球上に通貨はいくつあるか?通貨の数はよくわからない世界にはたくさんの通貨が存在しています。現在、世界中で使用されている通貨の正確な数については、じつはよくわかりま... 詳説・オフショア債券市場統計で「通貨の実力」を読む - 新宿会計士の政治経済評論 |
この点、当ウェブサイトでしばしば言及する「ハード・カレンシー」とは、いわば、「国際的に広く通用する通貨」のことをさします。この「ハード・カレンシー」という用語にきちんとした定義があるわけではないのですが、著者自身はこの「ハード・カレンシー」については、いくつかの特徴を満たしている通貨である、と考えています。
そもそも通貨には、「価値の尺度」、「決済手段」、「貯蓄手段」という3つの機能があります。
このうち「価値の尺度」とは、世の中のすべての財貨・サービスの価値を、貨幣という統一的な尺度で測定するという機能のことであり、基本的にこの機能は地球上に存在するあらゆる通貨に備わっています(北朝鮮ウォンですら、「ガソリン1リットル12,100ウォン」、という具合です)。
一方の「決済手段」とは、「欲しい物を手に入れる機能」のことです。スーパーの店頭で「ダイコン1本200円」と値札が付いていれば、そのスーパーに200円を支払えばダイコン1本を購入することができますし、市場で「トヨタ自動車1株2,230円」の値段がついていれば、223,000円+手数料でトヨタ株が手に入ります。
ただ、この「決済手段」に関しては、世の中のありとあらゆる通貨に備わっているわけではありません。
経済・金融制裁を喰らっている現在のロシアの場合だと、何万ルーブルを積もうが、基本的にマクドの店頭でビッグ・マクド、マクドフライポテト、ナックマゲット、コカコーラなどを購入することはできません。このあたりの事情は北朝鮮ウォンやイラン・リヤルでも似たようなものかもしれません。
欲しいものが買えるかどうか、そして価値が保存できるかどうか
そして、著者自身が「最も重要だ」と考えるのが「価値の貯蔵機能」です。これは、貨幣的価値を未来に向けて保存・増殖する機能のことで、運用商品が豊富な通貨、資本市場が高度に発達している通貨ほど有利であり、そうでない通貨には強みがありません。
貨幣の3大機能
- ①価値の尺度…財貨・サービスの価値を貨幣により統一的に測定する機能
- ②価値の交換機能…欲しいものを手に入れる機能
- ③価値の保存機能…貨幣的価値を未来に向けて保存・増殖する機能
(【出所】著者作成)
ハード・カレンシーの場合、この3大機能のうち、とくに②と③の機能が強いといえます。
この点、『SWIFT決済データで突如ランク外に消えたルーブル』でも触れましたが、国際的な資金決済の世界でも、やはり米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドは非常に強い存在感を示していますが、近年、人民元の存在感が目立ち始めています。
それまで0.2~0.3%程度だったロシアの通貨・ルーブルの国際送金におけるシェアが、2022年3月に入り、いきなり0.14%以下に急落しました。厳密にどこまで減ったのかについてはよくわかりませんが、少なくとも半減以下になった、ということです。これはおそらく、ロシアの主要銀行がSWIFTNetから除外された措置と無関係ではなく、西側諸国の金融制裁がてきめんに効いいている間接的証拠と見るべきでしょう。SWIFTと人民元昨日の『人民元の国際送金シェア急落:ロシア制裁との関係は?』では、久々に、SWIFTが公表する『RM... SWIFT決済データで突如ランク外に消えたルーブル - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、オフショア債券市場での債券発行額などの統計を見れば、米ドルを筆頭にユーロ、日本円、英ポンドなどが通貨市場で存在感を示しています(ほかにも加ドル、豪ドルや、北欧通貨などもそれなりの存在感があります)が、人民元の存在感は、まだそこまで強くありません。
むしろ、人民元自体、通貨の国際化が2015年で止まってしまったフシもあるのですが、著者自身の予想では、人民元のハード・カレンシー化がこれ以上進む可能性は高くないと見ています(※詳しくは『月刊Hanada2022年3月号』の『デジタル人民元脅威論者たちの罠』などもご参照ください)。
円安で円預金が急増=韓国
こうしたなか、最近の通貨市場の話題といえば、円安でしょう。
日本円は米ドルに対し、現時点で1ドル=130円台で取引されているようですが、一部メディアでは「円安で日本経済がお終いだ」、といった具合に、喜々として「円安の弊害」を報じています。
ただ、『1270ウォン目前の韓国:「通貨安」がもたらす課題』あたりでも触れましたが、日本の場合は対外債権国であり、東日本大震災以前は経常的な貿易黒字国でもありました。そのうえ日本円自体が国際的なハード・カレンシーであり、「通貨安で国家破綻する」というのは、基本的にはかなり無理がある言説です。
ついに1ドル=1270ウォン目前です。対外債権国・高付加価値貿易国である日本と異なり、外国から多額のカネを借り入れ、低付加価値国でもある韓国にとって、行き過ぎた自国通貨安は韓国経済に打撃を与えます。こうしたなか、コロナ禍以降の外貨準備の蓄積がなくなってくれば、またぞろ、日韓通貨スワップ待望論が韓国側から出てくる可能性があるでしょう。金融市場の大荒れ最近、金融市場が何かと荒れています。日本の場合でいえば、長期金利(とくに20年債、30年債など)が上昇し始めていますし、株価に関しても3月中旬に日経225が25... 1270ウォン目前の韓国:「通貨安」がもたらす課題 - 新宿会計士の政治経済評論 |
そして、日本円が安くなれば、必ず「買いたい」と思う人が出てくるものです。その証拠が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された、こんな記事でしょう。
「安い時に買っておこう」…価値下がった円預金、今年に入り22%増=韓国
―――2022.05.02 06:51付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国の銀行で「円預金が急増している」のだそうです。
具体的には、国民銀行、新韓銀行、ハナ銀行、ウリィ銀行、農協銀行の5大銀行において、4月28日基準で円預金残高が6044億円と昨年末と比べ22%(1078億円)も増加し、このうち半分の579億円は3月の増分だ、などとしています。
ではなぜ、韓国で円預金が増えるのか。
中央日報によると、「日本旅行・留学生などの実需要」に加え、「底値と考えて円の反騰を期待して投資に出る需要」などもあるのだそうです。
2019年7月に日本政府が対韓輸出管理適正化措置を発表した際、韓国で猛烈な「ノージャパン運動」が発生していたのを記憶している身からすれば、日本円に対しても「ノージャパン」運動で拒絶すれば良いのに、などと思ってしまうのはここだけの話です。
それはともかく、日本で「ウォン安になったから今のうちに韓国ウォンを買っておこう」という話をほとんど耳にしませんが、このあたりも日韓の通貨の地位に大きな違いがあるという証拠でしょう。
いずれにせよ、皮肉なことに、今回の円安局面は日本円の「実需」の強さを示したものである、という言い方もできるのではないかと思う次第です。
View Comments (14)
額面だけで言えば、今手持ちの余剰ウォンを円に替えとけば、将来値上がり確実、お得感半端ナイってことになるのかも知れませんが、今後のインフレ率の予測なんかまで考慮したら、ホントに得することになるんでしょうか?
今こそ外貨資産を日本円に替え、差益を社会還元すればいいのに・・。
政府でも企業でも。
今回の韓国の円預金急増から思い出したのが過日のプライムニュースでの鈴置さんのコメント。(直接関係ない投稿ですが)
・ウォン通貨危機はヘッジファンド等の外国資本がウォン売りするのはきっかけに過ぎない。
・韓国人がウォン暴落を見て「こりゃ大変」とウォン売り海外通貨買いに走るため雪崩れを打つように暴落が暴落を呼び通貨危機に陥る。
・海外資本のウォン売りなど韓国人の本格的なウォン売りに比べたら少なく暴落のきっかけに過ぎない。
・日本は円安になっても狼狽売りはまずしない世界的に見て稀有な国民性(だから韓国のようなメカニズムの通貨危機などまず起きない)。
当方金融には疎いため鈴置さんの仰ることが正鵠を射ているのかどうかはわかりませんが、何度も通貨危機を招いているウォンは韓国人が雪崩を打ってウォン売りに走っているのならそりゃ通貨危機にもなるよなと納得した覚えがあります。…身から出た錆、蜘蛛の糸のカンダタ 駄文ご容赦
知的好奇心を刺激するビッグ・マクドなる新たな概念を提供していただきありがとうございます。
ナックマゲットとか、全然気づいてませんでした。
とりあえずお約束で言っときます。
「マックでいいじゃん」w
ビッグマックはマクドで売ってるが、ビッグマクドは存在しないな。
中国かロシアならビッグマクドだかビッグワーニャはあるかも知れないが。
今回のテーマとはあまり関係ありませんが、数日前現在の円安を嬉々として取り上げていた記事がありました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3a913c251a3af77e04402292427e2dbccea29eb8
記事の中に「何をやってもうまくいかず、韓国がうらやましい、みたいな状態」とか「ここを切り抜けるには、もはや金利を上げざるを得ない」などという部分が見つかると思いますが、この人、頭のネジが緩みすぎてて、あの~日本と韓国を混同しちゃってませんか?と思わず尋ねたくなりました。
まぁこんな阿呆な記事は、日刊ゲンダイぐらいしか掲載しないでしょうね。
それよりもなによりもこの人、かつてご自身が1ドル50円時代を予測してなかったですか、たしか。
https://webronza.asahi.com/business/articles/2011081900007.html
大学に潜り込めて良かったですね。競馬や競艇の予想屋だったら、とっくの昔に食い詰めていたでしょう。
愛知県東部在住様
紫の浜先生がおっしゃるのなら日本はまったく安心極まりないと鉄板のお墨付きをいただいたようなものですね。
全ての経済予測が正反対になる御仁ですから。
なんだかソウル在住の元朝日新聞記者と必ず肩書きに入れる方も暗躍し始めておりまして、日本の世論操作を露骨に開始していますが、今時そんなレギュラー執筆陣に騙される方いるのかなぁ…一定数いるから困るんですが…
いとーさんは知らないうちに元ロイター通信記者になってるし嫌だ嫌だ…
安い時に買う。普通の消費では当たり前の行動ですが、こと投資の世界では「逆張り」と時に蔑んだ見方をされるものです。
まあ、円安の原因とか深く考えないんでしょうね。単純にドルは高くて買えないだけなのでしょう。
同じように日本人がウォンを買おうにも、そもそもウォンの外貨預金やFXって日本では珍しいでしょう。単純に通貨の国際性の差です。
もし、大々的にウォンドルFXとかあれば思いっきりレバ掛けて(少量)やってみたいですけどね。多分韓国側の規制の問題なのかなと思ったり。国際通貨じゃないですから
ウォンドルFXがあったら嫌韓投資家が思いっきりウォン売り浴びせますもんね。
>2019年7月に日本政府が対韓輸出管理適正化措置を発表した際、韓国で猛烈な「ノージャパン運動」が発生していたのを記憶している身からすれば、
当時竹槍歌がありましたが、今必要なのは投げ槍歌でしょうねw
韓国人はこのまま円が上がらなかったら、と考えはしないのですかね?
私事ですが、私は趣味レベルでFXやってます。
損しても生活になんら影響しない程度のお金しかつぎ込んでいません。
で、2015年冬頃に1ドル120円台で買ったドルを最近ようやく為替損益をプラスにできました。
実は結構前からスワップが付いてトータルでプラスになっていたのですが、どうせなら買ったときより高くなってから売る、と円安をまちかまえていました。
(なお、FXのスワップはここでよく話題になる通貨スワップや為替スワップとは別物です。)
実に7年です。
韓国では借金してでも株を買う人とか居るそうですが、借金してまで日本円を買って、何年も上がらなくても我慢できるのでしょうか。
日本円を溜めてる人は、親日罪で捕まえていいと思うw
日本は今、円安でとても困っている!
円を買って価値を高めようとするやつは誰だ!ってねwww
逆に「円が安くなると韓国製品が売れないから、みんなで円高に持っていこう!」と言うような、崇高な精神の持ち主であれば素晴らしいと思いますが、、、まずないな。
溜める→貯める
m(__ __)m