「西側の制裁だけで、ロシア経済を崩壊させることは難しい」――。これはおそらく間違いないでしょう。なぜならロシアは資源国であり、「内に籠る」ことができる国だからです。ただ、戦争が思いのほか長引いていることは、ウラジミル・プーチン大統領にとっては思わぬコストとなって降りかかるかもしれません。むしろ今回の戦争を契機として、「独裁国家」としての弊害の側面がより強く出てきている可能性があるからです。
目次
ウクライナ侵攻から、もう2ヵ月
ロシアによるウクライナ侵攻の開始から、もうすぐ2ヵ月が経過します。
もちろん、現在進行中の戦争ということもあり、さまざまな情報が錯綜しており、とくに戦況に関する報道を巡っては現時点においてはロシア側から出て来る情報、ウクライナ側から出てくる情報のどちらが一方的に正しく、どちらが一方的に誤っているという断言をするのが難しい状況ではあります。
ただ、今回の戦争でひとつだけ明らかなことがあるとしたら、ロシアによるウクライナ侵攻の目的が、ロシアの公式発表である「ウクライナの非ナチ化とドンバス地域の解放」にあるのではなく、ウクライナをロシアに服従させることにあった、という点でしょう。
この点、開戦前後の時期こそ、日本国内でも「ロシア側に戦争の大義がある」だの、「ウクライナでナチス化が行われている」だのといった、ロシア側の主張をほぼそのまま垂れ流す人がいましたし、こうした意見を述べている人は、開戦後もしばらくはそれなりの支持を集めていたようです。
「ウクライナの自作自演」説があり得ない理由
実際、当ウェブサイトで3月上旬に『ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』を掲載した時点では、ロシア軍がウクライナの「解放」を目的に特殊軍事作戦を行っている、と信じている人はそれなりにいましたし、当ウェブサイトにもそのような趣旨のコメントが複数寄せられていました。
「プーチンは独裁者」=一般教書演説「ウクライナ戦争は自由主義国対独裁国家の戦いに」――。バイデン大統領の一般教書演説を眺めていると、米国側のそんな決意が見て取れます。その一方で、『クーリエ・ジャポン』によると、ロシアの国営メディアは誤って2月26日付で「勝利記事」を公表してしまい、あわてて削除したものの、その内容からは今回のウクライナ侵攻におけるロシアの「真の目的」が「キエフ公国の回復」にある、との指摘が出てきました。バイデン大統領の一般教書演説現地時間の3月1日(日本時間の本日)、ジョー・バイ... ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」? - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、「ブチャ事件」のあたりから、潮目は明らかに変わりました。ブチャを含め、ロシア軍が撤退した地域から、ロシア軍による蛮行の証拠が、これでもかというほど出てきたからです。
もちろん、この期に及んで「ウクライナによる自作自演」説を唱える人もいるようですが、ロシア軍がキーウ周辺を包囲していたことについては、客観的事実として間違いありませんし、「蛮行」の主犯がロシア軍であることは、状況証拠に照らして明白でしょう。
また、ロシアは過去にも、似たようなことをやっています。
当ウェブサイトではときどき、英国防衛省の『インテリジェンス・アップデート』を紹介していますが、ここでは4月18日付のこんなツイートを紹介しましょう。
- Russian commanders will be concerned by the time it is taking to subdue Mariupol. Concerted Ukrainian resistance has severely tested Russian forces and diverted men and materiel, slowing Russia’s advance elsewhere.
- The effort to capture Mariupol has come at significant cost to its residents. Large areas of infrastructure have been destroyed whilst the population has suffered significant casualties.
- The targeting of populated areas within Mariupol aligns with Russia’s approach to Chechnya in 1999 and Syria in 2016. This is despite the 24 February 2022 claims of Russia’s Defence Ministry that Russia would neither strike cities nor threaten the Ukrainian population.
ロシアは過去にも蛮行を繰り返してきた
これによると、箇条書きの3番目にあるとおり、ロシアが現在、マリウポルの人口密集地帯に攻撃を加えているという行動は、1999年のチェチェン、2016年のシリアでも見られた事例だ、というのです。
また、こうした無差別攻撃自体、ロシア側が公式に発表している、「ロシアはウクライナの都市を攻撃したり、人口密集地帯を脅かしたりしない」とする声明と矛盾しているではないか、というのが英国防衛省の指摘です。
ツイートを発信しているのが英国であるという時点で、この情報にも何らかのバイアスがかかっている可能性はもちろんありますが、少なくともチェチェン、シリア、あるいはそのさらに昔、ソ連時代のカチンの森事件やシベリア抑留事件を思い出すまでもなく、ロシアといえば蛮行の実績が多すぎるのです。
もっとも、こうした無差別攻撃は、ロシアが置かれている状況を却って悪くする可能性があります。
上記『インテリジェンス・アップデート』をそのまま信頼するならば、箇条書きの1番目にあるとおり、マリウポルでのウクライナ側の組織的な抵抗は、ロシア軍の進軍を遅らせる効果をもたらしているからです。
また、マリウポルを制圧するために、ロシアは同市に無差別攻撃を仕掛け、都市の住民に多大な被害をもたらしただけでなく、インフラの多くが破壊されたというのが英国防衛省の指摘です。
モスクワ撃沈、レンドリース法復活…ロシアにとっての悪材料
また、戦争が長引くわりに、ロシアにとっての「戦果」が乏しいことは、ロシアのウラジミル・プーチン大統領に対しても、それなりの政治的コストを要求します。
とりわけ『ウクライナ高官「モスクワ沈没前」と称する写真を投稿』でも取り上げたとおり、このところ、局所的にではありますが、ロシアにとっては好ましからざる話題もいくつか出てきています。
ロシアは「モスクワ」艦沈没の理由を「火災と嵐のため」などと述べていましたが、その説明がウソであるかもしれないという証拠が出て来ました。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内相顧問が現地時間18日、SNS『テレグラム』に投稿した写真によれば、「モスクワ」が炎上し、傾いている姿が映っています。また、少なくとも写真で見る限り、「嵐」ではないように見受けられます。ロシアの黒海艦隊に所属する旗艦「モスクワ」が沈没したとする話題については、『「沈没」という設定をうっかり忘れ「報復」叫ぶロシア』を含め、当ウ... ウクライナ高官「モスクワ沈没前」と称する写真を投稿 - 新宿会計士の政治経済評論 |
「モスクワ」艦の「沈没」については、ロシア軍の公式発表によれば、あくまでも「火災と嵐を原因としたもの」だそうですが、ウクライナ側の発表では、同国が開発した対艦ミサイル「ネプチューン」が2発命中したというものであり、実際、ウクライナ政府高官の投稿写真では、どう見ても「嵐」ではありません。
(※余談ですが、このあたり、外国の哨戒機に火器管制レーダーを照射しておきながら、「悪天候のなか漁船を捜索したらレーダーが当たった」というウソをつき、その相手国が証拠動画を公表したところ、「悪天候」ではないことがバレてしまい、逆ギレしたという事例とソックリです。)
さらには、このまま戦争が継続すれば、下手をしたらレンドリース法が米国で本当に復活してしまうかもしれません(『レンドリース法とNATO拡大がロシアを追い詰める?』等参照)。
新レンドリース法でクリミア半島に米軍基地の可能性も米国でレンド・リース法が復活したら、最悪の場合、クリミア半島に米軍基地ができるかもしれない――。「何を突拍子もないことを」、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。日本のメディアではまだそれほど取り上げられていないフシもありますが、ここ数日、欧米諸国では重要な話題が相次いで報じられています。ひとつがフィンランドなどのNATO参加、そしてもうひとつが「新レンド・リース法」です。「東に進む」NATOロシアはNATOの東進を恐れていたロシアにとって... レンドリース法とNATO拡大がロシアを追い詰める? - 新宿会計士の政治経済評論 |
リバース・レンドリースとして、ウクライナが米国に自国領土内の基地を提供することになれば、あるいは最悪の場合、米国製の武器を使いウクライナ側がクリミア半島を奪還するような事態が生じれば、ロシアの黒海艦隊の戦力が事実上無力化するという可能性だってあるでしょう。
クリミア半島に米軍基地ができるともなれば、ロシアにとっては最高の皮肉です。
ロシアの内部崩壊の可能性は?
もちろん、マリウポルやドンバスなどで激戦が続いているとの報道が相次いでいることは、本当に懸念される状況ですし、可能なことならば、すべてのウクライナの人々が無事でいてほしいと切に願うしかありません。
ただ、ウクライナの人たちが降伏せず、「大国」でもある無法国家・ロシアに敢然と立ち向かっていることは、本当に敬意を払うに値します。
現時点で確たることを申し上げることはできませんが、ロシアは局地戦で勝ったとしても、戦争自体に勝つことはできないのではないか、というのが現時点における率直な印象です。
そもそもキーウ近郊からロシア軍が撤退を余儀なくされた時点で、「キエフ公国の復活」「ゼレンスキー政権の除去」は不可能に近くなったと考えられますし、また、ロシアがドンバスヤマリウポルを制圧したとしても、それらを「戦果」とみなすのは難しいでしょう。
なぜなら、むしろ今回の戦争を契機に、少なくとも西側は「ロシア包囲網」というコンセンサスを形成したからです。
今回の戦争での占領地域、いや、もっといえば、2014年に「併合」したクリミア半島とセバストポリ市を含めてすべての領土をウクライナに返還しない限りは、ロシアに対する西側の制裁が解除されることはおそらくないでしょう。
いずれにせよ、プーチン大統領は長く在任し過ぎました。
独裁国の良いところは、まどろっこしいコンセンサスを国内で得る必要がないという点にあるのですが、それと同時に、独裁が長く続けば、国家は劣化し、ボロボロになってしまいます。独裁者を恐れ、独裁者の周りがイエスマンで固まってしまうからです。
現在のロシアなど、まさに「耳障りの良い情報」しかプーチン氏に上げられていないという可能性がありそうですし、そうだとしたら、これなど独裁国家の弊害そのものです。
西側の経済制裁「だけ」でロシア経済が破綻するという可能性は高くありませんが(『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』等参照)、今回の戦争がむしろロシアを内部から崩壊させる可能性は、意外と高いのかもしれない、と思う次第です。
北朝鮮を道連れでどうぞルーブルが、意外としぶといです。もちろん、国際社会が対露制裁をさらに強化すれば、ルーブルがさらに下落することはあるかもしれませんが、だからとって「紙屑化」するのかどうかに関しては、非常に気になるテーマです。ロシアは内に籠ることができる国でもありますし、北朝鮮のように長年にわたる経済制裁にしぶとく耐えているという事例もあるからです。金融制裁・現時点までの効果金融制裁発表から1週間ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、国際社会がロシアに対する厳格な金融制裁を発表してか... 意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える - 新宿会計士の政治経済評論 |
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ロシア人がアホ過ぎてというか、洗脳と悪い意味でのナショナリズムが行き過ぎて、
未だにプーチンの支持率が高水準に収まっているのが辛い所
しかし今後、物価高騰、輸入品の枯渇、ロシア国内でも多大の戦死者とその遺族が国民の目に触れる、
などの事が起これば、ロシアはVPNを通せばBBCでも何でも、西側の情報を取れるらしいですし、
北朝鮮はもちろん、中共よりはまだしも民主主義の雰囲気と近代の歴史がありますから、
プーチンの支持率は下がって行く筈です
そうなれば、エリツィンが戦車の上に上がって、政権を奪取した、という様な事の再来も、
夢では無いと思います
第二次世界大戦終了時前後の日本に対する蛮行も忘れてはなりません。
日本の政治家は日本の蛮行(大抵は嘘)を声高に問題にするがされたことには何も言わない。
被害者コスプレが好きな国があれば、日本は加害者コスプレが好きなのでしょうか。
若い世代の中には、ロシア人生を見切って国外へ脱出する動きが進行しているようです。
行先は、ジョージアなり、トルコ。
・インターネットを駆使して国外を相手に取引なり協業なりをして来た
・今般の経済制裁で仕事が立ち行かない
・反政府デモで目を付けられており投獄を覚悟もしている
・なれば、可能なうちにもっとマシな国に出国しこれまでどおりインターネットでビジネスを走らせる
理由はこうだそうです。野心と決意があるからこその行動、「頭脳流出」を受け止めるトルコはきっとこの先ばりばり伸びるでしょうね。
遼寧の弱点を知る人材をゲットするなら今、では。
今回の戦争がロシアを内部から崩壊させるとすれば、それは、ウクライナ軍の奮戦により、ウクライナが2014年に占拠された領土(クリミア半島+ドンバス地方)を全て奪回した時だと思います。
仮にそうなれば、プーチンは侵攻作戦失敗の責任を部下に押し付け、政権の座を維持しようとするでしょうが、最終的には「怪僧ラスプーチン」のように非業の死を遂げる気がします。
また、そうなった時には、もはやNATOがウクライナ加入を拒否する理由は無くなると思います。
プーチンがウクライナのNATO加入に強い拒否反応を示していたのは「ロシアとNATOの間に『緩衝地帯』が無くなってしまうこと」、「モスクワを5分でミサイル攻撃できるようになること」だったそうですが、既にバルト三国がNATOに加盟して『緩衝地帯』は無くなっており(近く『緩衝地帯』フィンランドも加入するでしょう)、ラトビアからモスクワへのミサイル攻撃所要時間は、ウクライナと五十歩百歩だからです。単独でロシアと戦って撃退した勇敢な国の加入をNATOは拒否しないと思います。
更には、中国の台湾侵攻計画に与える影響は極めて大きなものになると思います。
13世紀から200年以上蒙古襲来に悩まされ続けロシア人の心の奥深くに根付いてしまったトラウマ『タタールのくびき』。過剰なモスクワ防衛本能から緩衝地帯を広げ続け、不凍港を求めて南下、東進して一時はアラスカのみならず最先端はカリフォルニアからメキシコ付近までロシアの植民拠点が広がりました。緩衝地帯は肥大化し過ぎました。
1939年の冬戦争でフィンランドはソ連にサンクトペテルブルクに国境が近すぎるという理由で南端のカレリア地峡を緩衝地帯として奪われています。ロシアには忘れ去られそうになっている緩衝地帯がまだまだあるかもしれませんね。
世界のガンであるロシアを永遠に弱体化させる。
日米欧は経済、金融、産業をロシアから完全に切り離す。
日米欧は半導体、電子機器、精密機器などの核心部品の輸出停止。
ロシアにおける軍事産業、製造業、情報通信業を壊滅させる。
ロシアからの高度人材10数万人の国外脱出をさらに加速させる。
ロシアは石油、石炭、ガス、小麦を輸出するだけの貧しい国に落とす。
イメージとして「ユーラシアのアルゼンチン」がふさわしい。
ロシアの人口は約1億4千万で少子多死社会。
コロナ禍の昨年は100万人以上の人口減少で今後も毎年数十万が減少していく。
ロシアの国軍の定員は100万で現在は90万。
今後しばらくしてこの90万の維持も難しくなるとされている。
日米欧中はマンパワーの代わりに部隊、装備のハイテク化を進めている。
だが制裁を受けるロシアはハイテク化が不可能でマンパワーが不足していく。
このようにロシアの行く末は「巨大な北朝鮮」となる。
イヴァン雷帝、ピョートル大帝、エカチェリーナ女帝、レーニン、スターリン、プーチン…
ロシアはその歴史、気候、環境、民族、人種から民主化は不可能で独裁者が醸成される。
今後も暗君、凡君をはさみながら彼らのような烈君が登場してくる。
やはりロシアは永遠に弱体化させなければならない。
日米欧が一体となってロシアを「封じ込め」ることがなにより重要だ!
ですよね。多分、今後、中露と西側の乖離はだんだん進むでしょう。そもそも中露の技術力は西側技術のパクリが基本であり、国策の大きな柱の一つが泥棒(スパイ)なのです。それは公安や警察にも十分に認識されています。多分、西側はこれから結束して中露からの防諜を強化するでしょう。日本がまともな国であればそれに乗っかかつて、スパイ防止法とかをすぐに制定するでしょうが、どうでしょうかね。
中国はマネーパワーで政経がっちり日本に食い込んでるのがつらい。アメリカは政治的には色々出来るかもだけど、経済的には正直なかなか切り捨て困難な気がする。アメ株の雄テスラも売上の多くは中国だもんね。欧州はいわんやをや。
ロシアの内部崩壊の可能性ですが、
そうした自浄作用が、働くことが
世界のためでもありなにより
この先国際社会での未来のロシア国民の
ためだと考えます。
今のプーチンの思い上がりの狂気からの
ロシア軍の蛮行は、
この先強行すればするほど
目先ウクライナ南部は強奪できるかもしれませんが
負けん気出して意固地になればなるほど
国際社会からのイエローカードの積み増しで
もとよりGDPがあの韓国の半分でしかない
今は小国ロシア経済が
このさきアングラマーケットでしかありえず
ロシア国民の未来の国際社会での位置づけが
ますます低下してしまうのにと心配します。
加えて、軍事大国の呼び声高かったものが
民間人虐殺とKGB毒殺技術と核爆弾以外は
ロシアの兵器や艦船がポンコツだったと
次々露見する事例を晒してしまう
だけだろうとも思います。
もちろん、世界には、
一応国として数えてもらえるものの
プーチンロシアに追随しての
汚れた分け前狙いの
ベラルーシ、北朝鮮などしょもない国や
日本においても、
ならず者国家とは友愛結ぶ
ミスター民主党鳩ポッポさんみたいなものも
いるにはいるのですが
プーチンロシアの思い上がりの蛮行非道を目にして
そうした所詮山賊追い剥ぎ風情の人や国たちの
言葉を捻った加勢などは
平和を願う世界の人たちの合言葉
『くたばれ!プーチン』の前に
意味をなしてない
と鼻であしらわれるべきものだと
感じています。
ロシアの航空宇宙技術や核兵器関連のノウハウは高い値段を払ってでも手に入れたい国家や団体は少なくないと思います。 2011年以降のウクライナの不安定な状況と関連技術者の拡散は加速された北朝鮮のミサイルおよび核兵器の開発速度と無関係では無いと言う状況証拠があります。