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李朝末期と類似?鈴置論考「親米大統領でも離米従中」

韓国観察者の鈴置高史氏が今朝、尹錫悦氏が韓国大統領選を制したことに関連し、注目すべき論考を出しています。「親米大統領」が誕生したとしても、韓国の「離米従中」は止まらず、ウクライナ戦争で米国の「相場観」も変わったなかで、韓国が「現状維持」を選ぶことは、米国の目には「離米従中の度合いを深めた」と映るだろう――。そんな鈴置氏の指摘を、我々は非常に重く受け止める必要があります。

尹錫悦氏は「紙一重の勝利」

昨日実施された韓国の大統領選では、尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が李在明(り・ざいめい)氏を僅差で制し、当選しました。韓国『KBS』によると、両者の得票率は李在明氏が47.83%だったのに対し、尹錫悦氏が48.56%であり、本当に紙一重の勝利です。

このあたり、直前になって安哲秀氏が大統領選を降り、尹錫悦氏に候補を一本化した(『「野党候補一本化」?最後まで読めない韓国大統領選挙』等参照)にも関わらず、ここまでの僅差だったというのも興味深いところです。

韓国大統領選で、野党の候補が一本化される、との報道が出て来ました。安哲秀(あん・てつしゅう)氏が大統領選への出馬を無条件で辞退し、尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏に候補を一本化する、というものです。これが事実なら、最後の最後まで大接戦を続ける韓国大統領選における波乱ともなりかねません。さて、この一本化が大統領選にどのような影響を与えるものなのでしょうか。最後の最後まで大接戦韓国で来週、大統領選挙が実施されますが、各種世論調査によれば、李在明(り・ざいめい)、尹錫悦(いん・しゃくえつ)の両候補の接...
「野党候補一本化」?最後まで読めない韓国大統領選挙 - 新宿会計士の政治経済評論

また、韓国メディア『中央日報』(日本語版)の次の記事によると、開票率が90%を超えても当選者を確定することができないほどの「超接戦」が続いていたのだとか。

<韓国大統領選>尹錫悦氏当選…朴槿恵弾劾後危機の保守、5年ぶりに政権交代

―――2022.03.10 06:34付 中央日報日本語版より

李在明氏は「ともに民主党」の本部で会見を行い、尹錫悦氏に祝意を示すとともに「当選者が分裂と対立を超え、統合と和合の時代を開いてくれるようお願いする」と敗北宣言をしたことで、選挙戦も完全に終了した格好です。

もっとも、当選した尹錫悦氏にとって、「分裂と対立を超え、統合と和合の時代を開く」ことができるかどうかは微妙です。不動産価格の高騰、新型コロナウィルス感染症の蔓延といった社会的な諸課題に加え、文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代にガタガタになった外交・安全保障などの問題に直面するからです。

最新鈴置論考で「離米従中」

そして、そのこと自体、日韓関係、あるいは米韓関係にとって、決して楽観できる状況にはないことを意味しています。

おそらく本日以降、日本のオールドメディア界隈では、「保守派の大統領が誕生したのだから、日韓関係『改善』に向けて、日韓は双方歩み寄りを進めるべきだ」といった主張が出て来るのではないかと予想しているのですが、そもそも日韓関係は「保守政権」の時代においても良好ではなかったことを思い出すべきでしょう。

(※このあたりは『韓国大統領選:尹錫悦政権発足へ』などもご参照ください。)

韓国大統領選を、大接戦の末に尹錫悦氏が制したようです。これにより、おそらく日本のメディアは、「韓国側から日韓関係『改善』に推力が働くだろう」、などとする分析を掲載すると思います。しかし、あらかじめ申し上げておきますが、韓国が日本との約束を誠実に守る方向に舵を切るかどうかは微妙です。同氏が「保守派」なのかという点もさることながら、むしろ過去の事例に照らせば、「保守政権」下で日韓関係がギクシャクしていたという事実を思い出しておく必要もあるでしょう。尹錫悦氏が大統領選制する大接戦となった韓国の大統...
韓国大統領選:尹錫悦政権発足へ - 新宿会計士の政治経済評論

こうしたなか、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に今朝、大変うれしいことに、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が、最新論考を寄稿しています。

「親米大統領」誕生でも韓国は「離米従中」 李朝末期にどんどん似てきた

3月9日投開票の韓国大統領選で、野党第1党で保守「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前検事総長が当選した。焦点は親米路線に戻るかだ。韓国観察者の鈴置高史氏は「容易ではない」と見切ったうえ「韓国は李朝末の混乱期にどんどん似てきた」と言う。<<…続きを読む>>
―――2022年03月10日付 デリイー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

「離米従中」、すなわち韓国が「米国から離れ、中国につき従う」という方向にあるというのは、鈴置氏がかねてより指摘してきた重要なポイントですが、「保守派」である尹錫悦氏が大統領に当選したところで、こうした傾向を覆すことは容易ではない、というのが、今回の鈴置論考の要諦でしょう。

鈴置氏はまず、韓国が「米国側に戻るかどうか」を計るポイントが、日米豪印「クアッド」の枠組みに韓国が参加するかどうか、そして「核共有」を巡る韓国内の議論だ、と指摘します。前者は中国に対する包囲網に韓国が参加するかどうか、という論点であり、後者は北朝鮮の非核化とも密接に関わる論点です。

韓国の気分は反米

ただ、結論的には、このどちらにも、尹錫悦氏は乗り気ではないだろう、というのが鈴置氏の見立てです(※このあたり、いつものとおり、客観的な証拠のリンクが貼られているのは、さすがだと思わざるを得ません)。

その証拠のひとつとして提示されているのが、中央日報に3月2日付で「韓国が米国に従って対ロシア制裁に加われば国益を損ねる」と主張するコラムが掲載されたという事実です(※該当コラムについては当ウェブサイトでも『「ウクライナ戦争の原因は米国にある」=韓国紙コラム』で触れています)。

「ウクライナ戦争の原因は米国が作った」。これは、ロシア政府の主張ではありません。なんと、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載されたコラムに記載されていた主張です。しかも、2016年の在韓米軍へのTHAAD配備を巡り、「米軍が受益者、コストは韓国が負担した」、などと述べているようです。ロシアのウクライナ侵攻が私たちにもたらす教訓ロシアのウクライナ侵攻は、私たちの国・日本にとっても、大変に貴重な教訓をもたらしています。「ケンポーキュージョーにセンソーホーキと書き込めば戦争は起こらない」とい...
「ウクライナ戦争の原因は米国にある」=韓国紙コラム - 新宿会計士の政治経済評論

鈴置氏はこの中央日報のコラム記事について、次のように分析します。

この記事からは『米韓同盟によって安全保障が担保されている』との意識はみじんもうかがえない。噴出したのは『韓中関係も平気で壊す、はた迷惑な米国』への不満である」。

中央日報といえば、「朝鮮日報ほど鮮明ではないものの、保守系紙に分類される」メディアです。その新聞に、「米韓同盟が米国の言いなりになるばかりの同盟なら見直すべきだ」とする主張が掲載されたという事実自体、「韓国の今の気分は反米」、というわけです。

すなわち、政権交代が実現したとしても、韓国が単純に「米国の側」に戻るというものでもありません。

ウクライナ危機は米中二股外交を許さない

この点、鈴置氏は「米国では5年ぶりの保守政権への期待が高まっている」としたうえで、米議会調査局(CRS)が2月24日付で公表した米韓関係に関する報告書のなかで、新政権に対中・対北で米国と足並みをそろえるよう要求したという点を紹介しています。

裏を返せば、米国としてはこれ以上、韓国が米韓同盟の足並みを乱すことを容認し得ない、ということでもあります。とくに、ウクライナ戦争では当初、韓国が旗幟を鮮明にせず、対露制裁にも後ろ向きでした。

これについて鈴置氏は次のように指摘します。

堂々とウクライナを侵略したロシアを中国は陰で支える。その中国を抑え込むには今まで以上に同盟国の結束を固めて見せる必要がある。そんな時に『現状維持の韓国』は、同盟を揺らす存在となる。相場観は大きく変わったのである」。

まったくそのとおりでしょう。

では、こうした議論がなぜ重要なのでしょうか。

鈴置論考の凄いところは、相手の心理状態に踏み込み、本質的なところをえぐりだすという点にあるのではないかと思うのですが、その真骨頂が垣間見えるのが、次の記述です。

韓国が中国を敵とする覚悟を固めない間は、日韓関係も改善しないであろう。なぜなら保守であろうと左派であろうと韓国は、中国包囲網に参加できない言い訳として米国に『歴史問題で日本の謝罪が足りない』と訴える戦術をとってきたからだ」。

言い換えれば、「中国から睨まれないためには日本との関係を悪化させるしかない」、というわけです。

鈴置論考では触れられていませんが、日本の現在の首相が岸田文雄氏であるというのも、韓国にとっては「付け入る隙」でもあるかもしれません。今後の日韓関係は「改善」どころか、諸懸案は解決されず、再び日本が韓国に譲歩させられる可能性にはかなりの注意が必要でしょう。

(※結局のところ、日本政府が奇妙な譲歩をしないよう、私たち有権者が目を光らせるしかないのですが…。)

李朝末期の再現

こうしたなか、鈴置論考の後半では、さらに気になる記述がいくつか出て来ます。

たとえば、韓国の「報復政治」を巡っては、歴史的に、李氏朝鮮の末期に党争(指導層の激しい内部抗争)になぞらえていますし、また、社会の高齢化に伴い、韓国が経済的に衰退する兆候がある、といった指摘です。

大韓民国は経済的な衰退がはじまり、内政は混乱する。外交の針路も定まらない」。

まさに120年前の李朝末の再現でしょう。

このように考えていくならば、「保守派の大統領(※)だから日韓関係が好転する」、「北朝鮮核問題などもさらに進展する」、などと単純に期待すべきではないことは明白でしょう(※もっとも、尹錫悦氏が「保守派」なのかと問われれば、そこもまた微妙ですが…)。

新宿会計士:

View Comments (21)

  • 韓国は今年から日本と比較して経済成長率さえ下回りましたからね
    さらに韓国のGDP成長の阻害要因が大き過ぎる。
     1・少子化世界一。
     2・国籍離脱者3万人超「若者・資産家」。
     3・家計負債ダントツ世界一。
     4・基礎研究・試験研究費の極小。
     5・国民年金極少。
     6・国営企業の多額の負債額「韓国電力=約15兆円の累損 
      等」
     7・公務員増加とバラマキ政策で担税力不足。
         若者の将来は地獄絵図が待っています。益々国籍離脱 
       増加が予想される。

  • 李朝末期との類似もありますし、朴大統領就任の時との類似もありますね。
    結局は韓国にとってのモルヒネである反日で一時の安寧を求めることになるでしょう。
    よくてその反日を任期終盤まで我慢するといったところでしょうか。ただ議会は圧倒的な少数与党ですし、反日を我慢するなんて困難です。韓国で反日を我慢しても誰も評価してくれないですしね。

    実際、日本と交流再開する場合韓国がまず下手に出る必要がありますから、多分それに韓国自身が耐えられないですね。上から目線方向「いつでも話し合う用意ができている」とつぶやくだけ。日本も脇から聞こえる罵声に耐えながら完全無視すればいいのです。

  • >李在明氏は・・・尹錫悦氏に祝意を示すとともに「当選者が分裂と対立を超え、統合と和合の時代を開いてくれるようお願いする」と敗北宣言をした

    統合や和合をするのは「自分」ではなく「当選者」なんですね。
    統合や和合のために、自分は一切何もしないってか。
    どっかで見た論理です。

    • 元ジェネラリストさま
      牢屋に入れないようにしてくれっていう意味だと思います。

  • 早速、どこかの首相が「韓国と緊密に連絡を取り平和に貢献云々・・・」と演説をぶったが、またまた、だまされにいこうとしているのか?

  • ヨン大統領は、国会の状況から左派が弾劾する事が可能だと思います。
    ヨン大統領が、左派に報復する際のカードが有る事になりますので、報復合戦は意外とおとなしい可能性も有ります。
    その代わり、国会は機能しないでしょうから、何が出来るかは分かりません。
    個人的には、外交部の立て直しで、ズラの外交長官の復活が嫌ですね。
    WTO提訴の取り下げ位は、してもおかしくないと思います。

    • 意気消沈のだんな様。

      農家の三男坊が別人と危うく間違えそうになりました。
      モチロン、ワタシもです。

      蛇足です。
      いつもの『ニダ』『ニカ』を最後に入れてくれると、
      勘違いせずに済みます。
      座布団はナシです。

    • 「今は意気消沈のだんなさま」のだんなさま

      >ヨン大統領は、国会の状況から左派が弾劾する事が可能だと思います。

      だんなさまは弾劾する可能性が低いとみられているようですが、二年後ぐらいにはまたあのご自慢のローソク革命が起こるのではと、私はなんとなく想像(期待?)してます。おとなしく引き下がる「北」ではないでしょう。

  • もしどこぞの首相や外務省に日韓間で改善仕事をさせなければ、日本の対韓協力の上限が、今までと同じ「やることやってから出直せ」ということにできる。
    岸田さん、これは口だけでいいから、何もするな。と言いたい。

  • 前末期は党争でぐちゃぐちゃになりました(各国のシンパが作れなかった)が、
    現在は反日で国の意思は統一化・中共様に憑いて行く事が決まっているので、
    仲良く党争するだけで、国内がぐちゃぐちゃになる事は無いと思います。
    又、前末期は露人になりたいと王様が在何とか露大使館で生活していた時が
    ありましたが、次回はどこの国の大使館で生活するのでしょうか?
    やはり宗主国様?

    選挙結果です。 僅差で負けているので、負けている側が選挙は無効だと
    騒ぎを未だ起こしていない事が不思議です。 日本だと〇〇な弁護士なる者が
    自分とこの候補者が敗れたので、選挙無効だと裁判活動しているのですが、
    負けた候補者に何かあったのでしょうか? 不思議です。

    • 同感です。
      トランプ・バイデンの時もそうでしたが僅差だと絶対揉めると思ってたので、
      あっさり終了?なんで?と思いました。
      引いた方が得な理由があるのか

  • 韓国をクアッドに加えることは、韓国内の反対もあるでしょうが、対中国包囲網の永続性の観点からも、賛成できません。「同盟とは鎖のようなもので、弱い環を加えても強くはならない」(ウォルター・リップマン)。韓国が、米国側に付くのか、コウモリを続けるのかは、別の手段でもテストできると思います。たといユン・ソギョル氏が米国を選択しても、世論はコウモリだと思いますので、5年後にひっくり返る懸念もあります。それよりも、ユン・ソギョル氏は「未来志向で日韓関係を」と言い、岸田首相は「日本の一貫した立場に基づいて健全な関係を取り戻すべく、新大統領、新政権と緊密に意思疎通を図っていく」と述べています。まずは祝意を表す電話会談のようですが、なしくずしに首脳会談とならぬことを祈っています。

  • 紹介されている中央日報の記事を読んで
    韓国を苦しめているのは、経済な嫌がらせを駆使して韓国の内政に干渉している中国なのに
    中国へ怒りは向かずアメリカを逆恨みしているのが印象的ですね
    鈴置氏が言っていた「中国への恐怖が遺伝子レベルで刻まれている」を実感できます。

    対中包囲網に加わるのは経済的な問題が何とかなっても無理でしょうね。

  • 失業率や不動産価格の舵取り、コロナ下経済、対中サプライチェーン囲い込み、中国企業の技術力キャッチアップ、対露制裁での産業保護、牽引役である財閥への配慮、バラマキ予算の確保、文政権で激増した公的雇用の対応、漸減しかねない外資など、
    国内だけでもいくらでも課題はあるし、ロケットを打ちまくる北を抑え込まないといけない半島の課題も依然として残りますからね。
    まあシワ寄せへの対処だけで5年潰れるのも不思議じゃないかな。
    引きこもって大人しくしてれば御の字なんだが、「外交得点」の魔力はあの国では強いからなあ。面倒なことになるのはほぼ確定だな。日本外交は日本国民がしっかり監視するしかないな。

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