日露の貿易・金融関係は薄く、制裁の効果は限定的
ロシアのウクライナ侵攻を受け、岸田文雄首相は25日午前、追加制裁措置を発表しました。ただ、正直、経済制裁としての実効性はほとんどありません。やはり、ロシアに対し「本気で」制裁を加えるためには、金融決済網(たとえばSWIFTなど)からのロシアの排除などの措置が必要ですが、バイデン政権は現時点において、この措置を発表していないようです。
日本の追加制裁措置
岸田文雄首相は25日午前、記者会見を行い、ロシアに対する追加制裁などの措置を発表しました。
岸田内閣総理大臣記者会見
―――2022/02/25付 首相官邸HPより
具体的には、①資産凍結、ビザ発給停止によるロシアの個人・団体などへの制裁、②ロシアの軍事関連団体への輸出規制リスト品目、ロシアの金融機関を対象とする資産凍結といった金融分野での制裁、③半導体など汎用品のロシア向け輸出に関する制裁――、などだそうです。
日本政府はすでに23日時点で、先行していくつかの制裁措置(ドネツク・ルガンスク「共和国」関係者へのビザ発給停止、資産停止、輸出入禁止措置、ロシアのソブリン債の発行・流通の禁止)を発表していますが、正直、あまり影響はありません。
『ウクライナ巡る対ロシア経済制裁で見える外為法の限界』などでも述べたとおり、経済制裁の目的のひとつは「経済的手段を通じて相手国に打撃を与えること」にあります。したがって、相手国が日本に対し、経済的に依存していればいるほど、相手国に対しより実効性のある制裁手段を講じることが可能です。
実効性は期待できない、ロシアへの半導体等の輸出規制岸田首相は昨日、ウクライナ情勢に関連し、G7と連携して対露制裁を含む対応を調整すると明らかにしました。ただ、残念ながら、日本はロシアとの経済的関係が薄く、ロシアに対し、実効性のある制裁が発動できるのかどうかは微妙でしょう。もっとも、「金融評論家」としては、実際に日本政府がどのようなロジックを使って経済制裁を発動するのか、といった点に注目していることも事実です。岸田政権の経済安全保障と経済制裁岸田文雄政権が「経済安全保障」を政権の方針として掲げ... ウクライナ巡る対ロシア経済制裁で見える外為法の限界 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、『対ロシア制裁の本命は「ロシアのドル取引からの排除」』でも述べたとおり、正直、わが国がロシアに対し打撃を与えることは困難です。
岸田文雄首相が昨日打ち出した対ロシア制裁のパッケージは、ロシア政府の国債等を日本で発行することを禁止する、などの措置です。どれも金額的にはほとんど影響がないなど、一見すると、実効性に乏しいものばかりですが、それでも米国の対ロシア制裁と照らし合わせるならば、「米ドルから締め出されたロシアが制裁逃れとして日本円を使う」という措置を予防することにはつながるはずです。中途半端な経済制裁法制経済制裁とは?いわゆる経済制裁とは、生産活動の4要素である「ヒト、モノ、カネ、情報」の流れを制限することを通じ、... 対ロシア制裁の本命は「ロシアのドル取引からの排除」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
日露の貿易・金融関係は薄い
そもそも論ですが、日露両国の経済関係は非常に薄く、とくに貿易に関しては、「隣り合う国同士」とは考えられないくらいに少ないのが実情です。
日露貿易(2021年)
- 輸出高…8623億8983万円
- 輸入高…1兆5431億0578万円
- 貿易高…2兆4054億9561万円
(【出所】財務省『普通貿易統計』)
日露貿易額が少ない理由は、現在、日本の輸出品目は「モノを作るためのモノ」が中心であり、ロシアは「モノづくり大国」ではない、といった事情もあるでしょう。これに加え、ロシアからの輸入品目のうち、大部分(9463億0334万円分)を占めているのは「鉱物性燃料」(天然ガス、石油、石炭など)です。
さらにいえば、2021年における日本の輸出高は83.0兆円、輸入高は84.6兆円でしたので、ロシアとの貿易が日本全体の貿易に占めるシェアは微々たるもの、という言い方もできるでしょう。
また、日本の金融機関の対外与信は、2021年9月末時点において4兆8598億ドル(※最終リスクベース)ですが、このうちロシアに対する与信額は92億ドルで、対外与信全体に対しせいぜい0.20%弱に過ぎません。
正直、日本ができる対露経済制裁の余地は限られているのです。
ただし、仮に実効性はたいしてないにせよ、それでも日本がG7などと強調し、迅速に対露制裁を打ち出したこと自体は高く評価して良いと考えられます。
それに、今回の日本の経済制裁、ロシアに対しては大した効果を発揮しませんが、相手国によってはそれなりの効果を発揮するケースもあります。その意味では、「東アジア有事」に備えた一種のシミュレーションとしては有益といえるかもしれません。
バイデン政権は現時点でSWIFT排除を打ち出さず
一方で、ロシアに本当に打撃を与える可能性があるとしたら、ロシアを「ドル決済網」から完全に排除してしまうことでしょう。ただ、現時点において、米国はそこまでの制裁を講じていません。
これについて米国のジョー・バイデン大統領は24日、対露制裁を巡る記者会見では、ロシアの金融機関をSWIFTから排除することについては言及せず、また、記者会見でも「選択肢にある」ものの「欧州との調整が必要だ」、などと述べるにとどまっています。
Remarks by President Biden on Russia’s Unprovoked and Unjustified Attack on Ukraine
―――2022/02/24 13:43 EST付 ホワイトハウスHPより
ホワイトハウスによると、該当する質疑は次のとおりです。
Q Mr. President, you didn’t mention SWIFT in your sanctions that you announced. Is there a reason why the U.S. isn’t doing that? Is there disagreement among Allies regarding SWIFT and whether Russia should be allowed to be a part of it?
THE PRESIDENT: The sanctions that we have proposed on all their banks is of equal consequence — maybe more consequence than SWIFT — number one.
Number two, it is always an option. But right now, that’s not the position that the rest of Europe wishes to take.
Q Mr. President, if I can, you detailed some severe and swift new sanctions today and said the impact it will have over time, but given the full-scale invasion, given that you’re not pursuing disconnecting Russia from what’s called “SWIFT” — the international banking system — or other sanctions at your disposal, respectfully, sir, what more are you waiting for?
THE PRESIDENT: Specifically, the sanctions we’ve imposed exceed SWIFT. The sanctions we imposed exceed anything that’s ever been done. The sanctions we imposed have generated two thirds of the world joining us. They are profound sanctions. Let’s have a conversation in another month or so to see if they’re working.
欧州各国はSWIFT排除に否定的=ロイター
ところで、「ロシアをSWIFTから排除せよ」という要求に関しては、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが24日に出した声明にも含まれていたのだそうですが、次のロイターの記事によると、バルト三国以外のEU加盟国はこれに否定的だそうです。
SWIFTからのロシア排除、常に選択肢=米大統領
―――2022年2月25日10:16 付 ロイターより
ロイターは「(バルト三国以外の)他のEU加盟国は、欧州債権者が資金を取り戻すことが難しくなるとしてSWIFTからのロシア排除に消極的」、「ロシアは代替決済システムを構築しており、効果を疑問視する指摘もある」、などとしています。
いずれにせよ、ロシアに対する制裁はドル取引からの排除が「本命」ですが、このあたりについては今後も動向をチェックする価値はあるでしょう。
View Comments (32)
自分は北海道民なのでロシアが本当に恐ろしい。
最近はそうでもなくなってきていたがソ連時代の肌に感じる恐怖というものを思い出しました。
中国関連で尖閣や台湾、沖縄ばかり注目されて北海道がおろそかになっているような気がする。
北海道、本当にそう思います。
目の前がロシアが占領する北方領土。尖閣より危機だと言っていい!
今回の制裁を更に強力にして、なおかつ長引かせ、国力が弱り切った所で西側が「もういいか」と言い出した時がチャンス!
日本がゴネにゴネる!「ウクライナと北方四島は同じじゃん?今までさんざん協力したんだから制裁はおかわりでw」と解除に反対する、がいいでしょう!
千島樺太も漏れなくお願いします。
ドイツを筆頭にNATO加盟国も自国防衛すら危うい軍備状況みたいですし、例え~近世戦の如く「切り取り次第」であったとしてもロシア相手に致命的経済制裁はハナから埒外でしょうからなあ
しかしロシア国内短期的にはプーチンの得点になるかもしれませんがコレで権力基盤維持できんのかいな?
久しぶりにコメントさせていただきます。
ついに来るべき時が来たな、という感じです。
マスコミ、もしくは識者(匿名の自衛隊関係者含む)は「ロシアのポーズで侵攻は無い」との意見が多い気がしましたが、私自身は必ず侵略はあると考えていました。プーチン、習近平の最終目標は世界征服です。
マンガか映画かよwと笑う方も多いのは仕方ないと思いますが間違いないです。
生きてる内に狂人の独裁者、しかも二人も出会う事になるなんて…絶望しかありません。(もう1人金正恩がいましたかw)
しかし落ち込んでいても仕方ありません。行動あるのみ。
憲法を改正し、自衛隊を増強、防衛費はGDP5%を目標にまずは2.5%を達成、スパイ防止法を強力な内容で作り上げ、国内の敵性諜報員を一掃、何より国民は勉強しぬいて働きぬいて国力を高めなければなりません!
原発の増設も必要で、更には原油、鉱物を目的とした海底資源開発も急務でしょう。
このロシアの侵略を逆にチャンスと捉え、支那、南北朝鮮、ロシアに対抗、いやむしろ滅亡させる力を持つ必要があります。
無論最終目標は核武装です。
まずは「核兵器開発及び装備研究所」とかを立ち上げての牽制なんかが効くと思います。
日本人が平和を希求しつつ、いつでも戦う覚悟を持つチャンスだと思います。
露助によるウクライナ侵攻にどれだけの国民が我がこととして危機感をもてるのか。外務省的な上から目線で政権がもたないだの国際世論に袋叩きにあうだの後ろ向きな議論が湧き出すことを見越してより実現可能なロードマップに基づき着々と進めるべきでしょう。
矮小な国土という日本の国情からは英国型の戦略原潜が望ましいですが、原潜の取得は当面現実的ではないのであれば、通常動力の戦略ミサイル潜水艦4隻体制を目指す。員数外の練習潜水艦の改装を手始めにすることで。防衛予算の天井GNP比1%の呪縛は取れたものの核装備の維持には2%以上は必要でしょう。この選択を政権が取れるかは社会保障に窮してくる中での国民の危機感とのバランスになってきそうです。
個人的にはいきなりの核装備は無理筋だと思っているので、日本が持つかもしれないと中露に対して不安を抱かせる状況を作り出すだけでも当面はよいのではないかと思います。
コサックの東進に始まり日本はロシアに千島樺太を不当に奪われました。樺太真岡の電信局集団自決事件を招いたソ連軍ロシア兵の所業を日本人は忘れるべきでありません。フィンランド、グルジア、ウクライナといった膨張ロシアの被害を受けた国に対して共感を持ち、できる限りの連帯をしていくのが道理の様な気がします。
祖先の苦難の記憶を継承しながら我々の子孫が安全に繁栄していくために、核武装の議論は避けるべきではないでしょう。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返させませんから」
前にも書きましたが、露光に使うNeのほとんどがウクライナ産なんですが、ロシアは当然、把握してるでしょうな
>ロシアに対する制裁はドル取引からの排除が「本命」ですが、このあたりについては今後も動向をチェックする価値はあるでしょう。
上のコメントは端末の誤動作で書き込んじゃいました。
変換確定でエンターキー押したのに、勝手に書き込みしやがりました。
(操作ミスとも言います)
SWIFT排除があるかないか、私も注目しています。
ここは今までのような歌舞伎外交やってる場面じゃないと思うんですよね。
でもSWIFT排除はしない気がしています。
それはそれとして、日本は日本の安全を守るためにやれることをやるだけです。
NATO諸国がロシアとの全面的軍事衝突を覚悟できたならば、SWIFT排除もありうるかもしれませんね。なので、結局、排除は実行されない可能性が高いと思っています。
NATO側から手を出すなどという愚行さえなければ、衝突はウクライナ領内に限定されるだろうと思います。あとは、ウクライナ国民が冬戦争の時のフィンランド国民のような気概を示せるかどうかというだけでしょう。
歌舞伎外交なんてレベルじゃなく戦争の覚悟がなきゃSWIFT排除なんかできねーよ、とおっしゃりたいんですよね?(笑)
そうだと思います。
そもそも欧米にその覚悟もないのに中途半端にウクライナに手を出したので、今の状態に至ったと思います。合成の誤謬の面もあるとは思います。
この局面でSWIFT排除をやらず手加減するなら、これまで欧米がやっていた対露外交がプーチンの覚悟と比べればお遊びレベルだったことが確定してしまう、と思っています。
そして、そうなると思います。
フィンランドのように今回の戦闘を耐え凌げる可能性は低いと思いますが、その先、長期的にはロシアのいいようにはならないんじゃないかとは思います。
ウクライナにもケワタガモが居れば…
なになに?
と思ってケワタガモをググってもwikipediaでもさっぱりわかりませんでしたが・・・
アンサイクロペディアに書かれてるやつですか?w
なんつーかその~ウクライナにもケワタガモが居ればケワタガモ猟もまたあるだろうし…
ケワタガモWikipediaだと関連項目ですかね
>日本政府はロシアへの「半導体輸出などの制裁」を発表
今回、ロシアのウクライナ侵攻で、
半導体輸出などの制裁をやっておけば、
対 中国に対する、
半導体原材料 半導体製造装置の
禁輸制裁が、遣り易くなりますね
プーチンは大統領ではなく、ヒットラーに劣らぬ犯罪者の変わりつつあるのではないか。
利権のために、他国を侵略しているのを習近平は黙認したのか。
オリンピックの意味がなくなってしまいそうだ。今後中国を含む共産国はオリンピックに参加お断りですね。
プーチンロシア&周チャイナは現代版の悪の枢軸だと思いますね.
因みに発展著しかった大日本帝国は愚かなことに悪の枢軸側に参加してしまったのが運の尽き.
まあ今の悪の枢軸は莫大な量の核兵器を有しているので簡単には潰せませんが,世界経済から切り離してしまえばじり貧にならざるを得ない.たとえ共産チャイナが今まで貸している金をカタにして幾つかの開発途上国を引き連れて行けたとしても.
そのためにもロシアに対するSWIFT切断は実際に軍事侵攻をやったことへの制裁として最低限不可欠なことだと思うのですが,EU諸国はこの期に及んでも自分たちがロシアに貸した金に執着しているとはねえ.
ヨーロッパ諸国が如何に強欲でダメな連中なのか,何故に世界中を植民地化してその富を独占し最も豊かな国々だったのに二度も立て続けに大戦を引き起こして自分達で自分達の豊かな構造を破壊したのか,EU発足以来のヨーロッパ諸国の行動で非常に良く理解できました.
あと,ロシアにしても共産チャイナにしても内部は多民族で構成されているので,上手に刺激を与えれば内部から分裂・崩壊・解体させるように誘導するのが,外圧で潰そうとするよりも容易でしょうね.昔から大きな相手に対しては調略によって中から腐らせるのが常套手段ですから.
しかもプーチン氏にしても周氏にしても国民から敬愛され尊敬を一身に集めている訳でなく,逆らえば死や社会的抹殺という恐怖によって国民を押さえつけているタイプの指導者ですから.このタイプの指導者を戴く恐怖によって束ねられた国家はひとたび内部で遠心力が働き始めると一気に崩壊する危険性が高い.
周チャイナは我が国のマスゴミや左翼政党への資金援助などで彼らを扇動者として日本の国内世論を分裂させ遠心力を働かせて対日侵略のチャンスを作り出そうとしているのでしょうが,内部分裂の可能性は周チャイナ自身のほうが日本よりも遥かに高い.
日本はアメリカやイギリスなど周チャイナの危険性や解体の必要性を理解している国々と共同で,共産チャイナ版図にいるイスラムなどと連携して対中分裂解体工作を本気で行うべきです.
暴れ龍の衰退まで待てる猶予がなくなってきたのでしょうか。世界平和のために、万里の長城の内側まで漢民族はお帰り頂くとして、チャイナ諸民族が欧州の様な穏健な国民国家群としてどの様な形で存在し得るのか。そろそろ真剣に考えてもよい時期になってきたのかもしれませんね。
こう言う所で例のドイツの牧師マルチンニーメラーが言っていた「共産党がナチスに弾圧されたが私は共産主義者じゃないから沈黙していた〜最後に私が弾圧されたから反対したがもうダメだった」の言葉が当てはまります。 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/彼らが最初共産主義者を攻撃したとき
今回はバルト三国が結構頑張って居ますね。
困ったことに中国と違いロシアは籠城戦になっても最低限の食糧自給と燃料・エネルギーの自給が出来る。
だから歴代露出・旧ソ連は難攻略だったしウクライナを陥落させると更に穀倉地帯を手に入れられる。
なかなか経済封鎖の効果は出ないだろう。
ロシアのパイプライン閉鎖で欧州諸国の方がエネルギー枯渇するという逆構図だから難しい。
食べられてエネルギーに困らないなら金融制裁されてもかなり長期戦になる。
膠着状態が長引き時間経過次第では次は冬が来る前に翻意して露出に接近を謀る国が出かねない。
なかなか老獪である。
既に中国の行動は親露でもある。
兵器にしても西側諸国ほど半導体やハイテクに頼らないひたすら質実剛健で環境にも左右されないものを数量だけは大量に持っている。
唯一有効なのは旧来の電話や地上放送波も含む通信手段の遮断なのでは?
ネット回線や通信衛星・気象衛星も含め各種軍事衛星を破壊またはジャミングして「眼」と「耳」に相当するものを使用不能にするのが人的損害を最小にしてご旅行させロシアに考えさせる手段なんじゃないかな?
情報の途絶が一番効果的だと思う。
露出じゃなくてロシア〜
ご旅行ってなんだ〜
ここはどこ?私は誰?