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令和3年版「外交世論調査」で米中露韓への意識を読む

親近感がないのはロシア、関係が良好ではないのは中国、重要性が最も低いのは韓国――。こんな実態が浮かび上がってきました。内閣府が毎年実施している『外交に関する世論調査』からは、なかなか興味深い結果が見えてきます。そのうえで、やはり際立った特徴があるとすれば、米国に対する圧倒的な信頼感ではないでしょうか。

外交に関する世論調査

当ウェブサイトで以前から「定点観測」しているデータのひとつが、内閣府が実施し、発表している『外交に関する世論調査』というデータです。

これは、ほぼ毎年のように実施されている調査で、米国、ロシア、中国、韓国という4ヵ国に加え、年によって変わるいくつかの国を対象に、「親近感」(親しみを感じるかどうか)や「関係性」などについて尋ねたものです。

その最新版(令和3年9月版)が、1月21日時点で公表されていました。

外交に関する世論調査(令和3年9月調査)

―――2022/01/21付 内閣府HPより

これが、大変に興味深いものです。

さっそくですが、概要を紹介しましょう。

相手国に親しみを感じるかどうか

まずは、その国に対して親近感を抱いているかどうかという質問です(図表1)。

図表1 相手国に対する親近感(2021年9月時点)

(【出所】『外交に関する世論調査(令和3年9月調査)』より著者作成)

これで見ると、「親しみを感じる」、「どちらかというと親しみを感じる」と答えた比率が圧倒的に多いのは米国であり、最も少ないのはロシアです。また、「親しみを感じない」と答えた比率に限定すれば、最も多いのは中国ですが、「どちらかといえば親しみを感じない」とあわせれば、ロシアの方が多いようです。

また、韓国に関してはロシア、中国と比べ、肯定的な回答が多く、否定的な回答は少ないのですが、米国と比べると否定的な回答が圧倒的に多く、肯定的な回答が少ない、という特徴があります。

なお、この「相手国に親しみを感じるかどうか」については、のちほど、各年の推移をあわせて紹介したいと思います。

相手国との関係は良好かどうか

次に、その国との関係が良好かどうかという質問です(図表2)。

図表2 相手国との関係が良好かどうか(2021年9月時点)

(【出所】『外交に関する世論調査(令和3年9月調査)』より著者作成)

図表1と異なり、「良好だと思わない」と答えた割合が最も高い国が韓国であり、続いて中国で、意外なことに、ロシアに関しては「良好だと思わない」と答えた割合が韓国の半分強に留まっています。ただし、「あまり良好だと思わない」を足せば、これら3ヵ国とも、否定的な回答が8割前後に達しているという共通点があります。

これに対し、米国との関係については、肯定的な回答が全体の9割を占めており、中露韓3ヵ国との違いが際立っている格好です。

相手国が重要かどうか

さらに、その国が重要かどうか、という質問についても見ておきましょう(図表3)。

図表3 相手国が重要かどうか

(【出所】『外交に関する世論調査(令和3年9月調査)』より著者作成)

この質問、正確には「相手国との関係の発展は、両国や、アジア及び太平洋地域にとって重要だと思うか」というものであり、ちょっと質問にクセがありますので注意が必要です。

これについてはどの国も過半数が肯定的な回答をしているのですが、なかでも米国に関しては肯定的な回答が最も高く、全体の約98%が肯定的に答えています。また、中国、ロシア、韓国に行くにしたがい、肯定的な回答が減少し、否定的な回答が増えて行く、というのも興味深いところです。

相手国に対する親近感の推移

続いて、相手国に対して親しみを感じているかどうかに関する推移についてもグラフ化しておきましょう。

ただし、ここで注意点が2つあります。

ひとつ目は、グラフ化するにあたって肯定的な回答(「親しみを感じる」「どちらかというと親しみを感じる」)を「親しみを感じる」に、否定的な回答(「親しみを感じない」「どちらかというと親しみを感じない」)を「親しみを感じない」に一本化している、という点です。

グラフ化するにあたって単純化している、ということですが、これについては過去の調査(平成8年~12年調査)で設問が「親しみを感じるか、感じないか」と2択になっていたことがあるという点などもあるため、厳密には単純に時系列で比較するのには注意が必要です。

次に、ふたつ目は、2019年(=令和元年)10月分までは、調査が「調査員による個別面接聴取法」で行われているのに対し、コロナ禍の影響でしょうか、2020年(=令和2年)分、2021年(=令和3年)分については「郵送法」で行われている、という点です。

これについて調査の原文では、「令和元年10月調査まで」と「令和2年10月調査以降」では調査方法が異なるため、「単純比較は行わない」と明記されているのですが、本稿ではこれを無視し、単純比較を行っています。

このため、本稿にて表示しているグラフは、内閣府が作成したものではなく、純粋に当ウェブサイト側にて作成したものであるという点にはご注意ください。

最初は、米国に対する親近感です(図表4-1)。

図表4-1 米国に対する親近感

(【出所】過去の『外交に関する世論調査』より著者作成)

これに関しては、肯定的な回答の割合が過去から一貫して高かったのですが、直近の調査だと、肯定的な回答の割合は過去最多を更新し、否定的な回答の割合は過去最低を更新しています。

次に、中国に対する親近感を見ておきましょう(図表4-2)。

図表4-2 中国に対する親近感

(【出所】過去の『外交に関する世論調査』より著者作成)

中国に対する親近感は、1980年代を通じて肯定的な回答が否定的な回答を圧倒的に上回っていたのですが、「天安門事件」のせいでしょうか、1989年あたりから肯定的回答が激減し、否定的回答が急増。

その後は2004年ごろまで両者がほぼ等しい水準で推移していたのですが、中国全土で反日デモが発生した2005年あたりから、今度は否定的回答が肯定的回答を上回るようになり、近年では大差で否定的回答が肯定的回答を上回る現象が観測されています。

続いて、ロシアに対する親近感です(図表4-3)。

図表4-3 ロシアに対する親近感

(【出所】過去の『外交に関する世論調査』より著者作成)

ロシアに対しては、ほぼ一貫して否定的回答が肯定的回答を上回っているのですが、1991年のソ連崩壊時に肯定的回答が若干増えたものの、こうした回答は、すぐに元通りになってしまいました。今年の調査では、否定的回答の割合が過去最多水準です。

最後に、韓国に対する親近感を確認しておきます(図表4-4)。

図表4-4 韓国に対する親近感

(【出所】過去の『外交に関する世論調査』より著者作成)

韓国に対しては、過去10年単位で、否定的回答と肯定的回答が入れ替わってきたという経緯があります。軍事独裁政権時代だったためか、1980~90年代を通じ否定的回答が多かったという特徴があります(1988年は例外的に肯定的回答が多かったのですが、これはソウル五輪のためでしょうか)。

これが、2000年ごろから肯定的回答が否定的回答を上回るようになり、W杯日韓共催があった2002年頃から肯定的回答の割合が否定的回答の割合を圧倒するようになります。

しかし、2012年8月の李明博(り・めいはく)韓国大統領による竹島不法上陸事案、天皇陛下(現在の上皇陛下)への侮辱発言事案などが生じたためでしょうか、肯定的回答が激減し、否定的回答が急増した結果、否定的回答が肯定的回答を大差で上回るようになります。

否定的回答のピークは2019年で、その後は2020年、2021年と否定的回答が若干減り、肯定的回答が増えましたが、それでも依然として否定的回答が多数を占めている状況は続いています。

近隣国との関係よりも…

さて、昨年の『外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ』でも報告したとおり、日本の外交は昨年、「自由で開かれたインド太平洋」に、大きく舵を切りました。これについては英語の “Free and Open Indo-Pacific” を略して、「FOIP」と呼ぶこともあります。

FOIPを最優先にした日本外交が迎えた大きな転換点昨日の『日本政府、外交青書でFOIPから中韓を明らかに除外』で「速報」的に取り上げたとおり、今年の外交青書における最大のポイントは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の優先順位が中韓よりも上位に来たことではないかと思います。まさに、日本外交にとっての転換点でしょう。外交青書から判明する「日本外交の転機」外務省が27日、『外交青書一覧』のページにおいて、『外交青書・令和3年版(※PDF版/大容量注意)』を公表したとする話題は、昨日の『日本政...
外交青書:基本的価値の共有相手は韓国ではなく台湾だ - 新宿会計士の政治経済評論

このFOIP、とてもわかりやすくいえば、「地理的な近さ」ではなく、「相手国が日本と同じような価値を大切にしているかどうか」によって、相手国との関係を決めましょう、という考え方のことです。

いうまでもなく、日本は自由主義、民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった価値を大切にし、それを実践している国です。また、日本人は「ウソをつかない」、「約束を守る」といった態度をとても重視します(もちろん、それによって日本が裏切られる、ということもありますが…)。

そして、じつはこの変化、極めて重要です。

地理的に近いというだけの理由で、共産党一党独裁国家との関係を深めてきたという点を、今さらながらに反省したということでもあるからです。

この点、大変残念ながら、産業・経済面でのサプライチェーンの関係を今すぐ整理することはできません。依然として、貿易面では中国との関係が最も重要という状況が続かざるを得ないでしょう。しかし、こうした関係が将来的にどうなるかについては、やはり、日本国民の意識が重要です。

この点、日本政府が「基本的価値を共有しない国」と規定している相手国に対し、日本国民が親近感を抱いていないというのは、日本政府の「FOIPシフト」は、日本国民の外交的なセンスと整合した動きでもあるといえるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • 中国人だろうと韓国人だろうと良い人悪い人居る訳ですが、中国人は政変が起きれば対日ヘイトが消えると思え、韓国人はどんな政変が起きても対日ヘイトは消えないと思えて、遠い将来の友好的な関係を期待出来るのは中国人ですね。

    ロシア人は…そもそも疎遠というか、あんまり活発に交流する事になりそうに感じないのですが、どうなんでしょうね?

    • 一昔前には「韓国は指導者が変われば反日は消える」と思われていたが
      そうでなかった
      中国も同じと思われる

  • 「親しみを感じるか?」、「関係が良好だと思うか?」等を、税金を使って調べることの意義が分かりません。どのような国策に影響があるのでしょうか?

    「親しみ」とは異なりますが、歴史的に見れば、日本は大陸に深入りしている時期は、国としておかしくなっていることが多いと思っています。典型的には、満州事変、日華事変(「日中アヘン戦争」を参照のこと)、シベリア出兵などですね。最近では、日本の企業がこぞって中国に工場を建設し、技術を盗られて衰退しました。某製鉄会社は、韓国にやられています。

    日本は、大陸国とは適度に距離を置くスタンスの方が、国として良好な場合が多いと思いますね。なので、このアンケートについて言うのであれば、「どちらでもない」(選択肢にはないようですが)が最多である状態が望ましいのでしょう。

    もちろん、「親しみがある」が、「何も考えずに国策を委ねる」ということであってはなりません。アメリカに親しみがあることに文句はありませんが、対米従属ではなく、日本としての利害で動くことが必要なのは当然です。