1997年と比べて「3分の1」に落ち込んだ雑誌売上
ずいぶん前から、「出版不況」という言葉を目にするようになりました。紙媒体のメディアが不遇の時代を迎えていると指摘されているなか、総務省が作成・公表する『日本統計年鑑』に興味深い資料がありました。雑誌の刊行点数については、2000年代前半にピークを付け、その後は減少し続けているようなのです。そして、休刊に追い込まれている雑誌は、幅広い分野に及んでいます。
目次
衰退に向かう新聞業界
新聞部数の減少
昨年の『データで読む:歯止めがかからない新聞の発行部数減少』では、一般社団法人日本新聞協会が公表する『新聞の発行部数と世帯数の推移』というデータをもとに、2000年から2021年までの22年間における新聞の発行部数について、いくつかの視点から議論しました。
これは、新聞の発行部数がこの20年あまりで(カウント方法にもよりますが)40%前後減少した、とする話題です。
日本新聞協会のデータは「合計部数」と、種類別には「一般紙」「スポーツ紙」、発行形態別には「セット部数」、「朝刊単独部数」、「夕刊単独部数」、という区分で集計されています。種類別で見て2000年と対比させたものが図表1、発行形態別で2000年と対比させたものが図表2です。
図表1 種類別発行部数(2021年と2000年の対比)
区分 | 2021年 | 2000年対比 |
---|---|---|
合計 | 3303万部 | ▲2068万部(▲38.51%) |
うち一般紙 | 3066万部 | ▲1674万部(▲35.32%) |
うちスポーツ紙 | 237万部 | ▲394万部(▲62.42%) |
(【出所】日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』より著者作成)
図表2 発行形態別発行部数(2021年と2000年の対比)
区分 | 2021年 | 2000年対比 |
---|---|---|
合計 | 3303万部 | ▲2068万部(▲38.51%) |
うちセット部数 | 648万部 | ▲1170万部(▲64.34%) |
うち朝刊単独部数 | 2591万部 | ▲779万部(▲23.11%) |
うち夕刊単独部数 | 63万部 | ▲119万部(▲65.46%) |
(【出所】日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』より著者作成)
「セット部数」を分解すると、部数減はさらに深刻
どちらの区分で見ても、新聞の総部数は40%ほど減少し、うち「スポーツ紙」、「セット部数」、「夕刊単独部数」はいずれも60%以上(つまりざっと3分の2ほど)減少していることが確認できるでしょう。
ただし、元データだと「朝刊単独部数」の減少率が23%程度に留まっているのですが、ここで「セット部数」の概念ではなく、「セット部数」を「朝刊」「夕刊」に分解してみると、総部数、朝刊部数の減少率はいずれももっと大きくなります(図表3)。
図表3 発行形態別部数(2021年と2000年の対比、朝夕刊セット部数を朝刊と夕刊に分解)
区分 | 2021年の部数 | 2000年との比較 |
---|---|---|
合計(※セットを2部とカウントした場合) | 3951万部 | ▲3238万部(▲45.04%) |
うち、朝刊部数 | 3240万部 | ▲1949万部(▲37.56%) |
うち、夕刊部数 | 711万部 | ▲1289万部(▲64.45%) |
(【出所】日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』より著者作成。なお、図表中、「朝刊部数」は「セット部数+朝刊単独部数」、「夕刊部数」は「セット部数+夕刊単独部数」を意味する)
この20年間で、総部数の減少率は50%弱、朝刊部数についても40%弱の減少です。
一般紙の「押し紙」疑惑
もっとも、「スポーツ紙」と比べた「一般紙」、「夕刊」と比べた「朝刊」の部数は、それぞれ減少率が少ないのですが、その理由についてはよくわかりません。
いちおう、考えられる仮説を3つほど挙げておくと、①折込チラシの需要が強いこと、②(とくに地方紙の場合は)訃報欄などの需要が強いこと、③新聞社が押し紙などの何らかの「不正」な手段で部数を水増ししていること、などがあるかもしれません。
仮説①折込チラシの需要が強いこと
朝刊に折り込まれる、近所のスーパーだの、不動産だの、量販店だのといった折込チラシをじっくりと読みたい、という需要が強く、チラシ目当てで新聞を購読している人が一定数存在する。多くの場合、チラシは朝刊にしか折り込まれないため、必然的に朝刊の購読が続く。
仮説②新聞の訃報欄などの需要が強いこと
とくに地元紙の場合だと、新聞に掲載される地域密着情報、とりわけ「訃報欄」に対する需要が強く、とくに商売をしている人を中心に、新聞の根強い購読需要がある。
仮説③不正(押し紙、無料紙など)
一般紙の朝刊についても、本来の有料購読者数はスポーツ紙や夕刊と同じくらいに減少しているはずだが、新聞社が不正を働き、実売部数以上の部数を新聞販売店に押し付けている。販売店はそれらの押し紙を捨てるか、近所のホテル、ファミレスなどに譲渡している。
上記①~③は、あくまでも単なる仮説ですが、どれもさほどトンチンカンなものではないと思います。
とくに③については、現実に「押し紙訴訟」というものが各地で相次いでおり、なかには『新聞崩壊?「押し紙」認めた判決契機に訴訟ラッシュも』などでも触れたとおり、裁判所が「実売部数の2%を超える部数は独禁法上の『押し紙』であり違法だ」と認定した、という事例もあるほどです。
いずれにせよ、「押し紙」の実態はよくわかりませんが、新聞社の社会的影響力、情報支配力が徐々に低下するなかで、こうした事例が各地で増えて来ることでしょう。
出版業界も苦しい
紙媒体のメディアの苦境は新聞に限られない
ただ、こうした新聞部数についてもさることながら、「紙媒体のメディアの苦境」という意味では、他の分野にも影響が及んでいるのではないか、という気がします。
その典型例は、書籍と雑誌でしょう。
これについて、良い資料はないかと探していたところ、総務省統計局のウェブサイトに『日本統計年鑑』の過年度データをダウンロードできるページを発見しました。この日本統計年鑑の『第23章 文化』というページに、それぞれの刊行点数(※「部数」ではない)が掲載されていたのです。
さっそく、これについてグラフ化してみました(図表4)。
図表4 雑誌、書籍の刊行点数
(【出所】日本統計年鑑より著者作成)
これで見ると、意外なことに、書籍の刊行点数はごく最近まで増え続けていたことがわかりますし、また、雑誌の刊行点数のピークは2005年と、これもわりと最近だったことがわかります(※ただし、図表4において、2010年以前のデータについては5年刻みですのでご注意ください)。
ただし、雑誌は2005年頃をピークに、書籍も2013年ごろをピークに減少に転じています(雑誌については2016年から2017年にかけてストンと落ち込んでいますが、おそらくこれは「刊行点数」のカウント方法が変わったからだと思います)。
幅広い分野の雑誌が休刊に
では、具体的にどんな雑誌が休刊となったのか。
これについては、『日本統計年鑑』から判明するのは「刊行点数」であり、具体的な雑誌の名前についてはよくわかりません。
こうしたなか、株式会社富士山マガジンサービスが運営する『雑誌のオンライン書店 Fujisan.co.jp』というウェブサイトに、『休刊情報一覧ページ』というページがありました。
これに休刊した雑誌が掲載されているのですが、それらを眺めていると、学術系だと『判例研究』や『感染と抗菌薬』、『海洋と生物』、子供用だと『サンリオキャラクターとあそぼう』、趣味の雑誌だと『パチンコ実戦ギガMAX』や『日本カメラ』といった具合に、本当に幅広い分野で休刊が見られます。
では、部数についてはどうなっているのでしょうか。
今度は公益社団法人全国出版協会『出版科学研究所』のウェブサイト『雑誌販売金額推移』で確認すると、雑誌の売上高は1997年の約1.56兆円をピークに減り続け、2020年では5576億円と最盛期の約3分の1だそうです。
このあたり、著者自身もときどき(実名やペンネームで)紙媒体の雑誌に寄稿させていただいていますし、また、書籍については実名で8冊、「新宿会計士」名義で2冊刊行しましたが、やはり、書籍については初めて執筆した2010年頃と比べると、最近ではなかなか売れなくなっていると痛感します。
やはり、紙媒体のメディアは苦戦する時代なのかもしれません。
電子化せざるを得ない?その「悩み」とは
こうしたなか、紙媒体の雑誌や書籍が売れなくなっているというのは、おそらくはインターネットで何でも手に入るという時代を迎えていることと無関係ではないでしょう。
そういえば著者自身、あまり紙媒体の書籍を読まなくなったと実感します。
いや、もちろん、専門書等については(当ウェブサイトで報告していないだけで)多数読み込んでいるのですが、一般書・教養書のたぐいについては、めっきり手にしなくなりました。
そもそも論ですが、最近だと、知的労働者の仕事は情報を紙に印刷しなくても完結するようになりつつあります。
公認会計士の世界だと、会計基準は公開草案などを含め、基本的には企業会計基準委員会(ASBJ)などの基準設定主体がPDFファイルなどの形式で公表しますし、おもだった法令については、大部分が官庁のウェブサイトにて、PDFやHTML形式などで参照可能です。
当然、情報源がこうであれば、その成果物についても、基本的には電子媒体で公表するのが一般的です。
当ウェブサイトではあまり報告していませんでしたが、著者自身、専門書をこれまで数冊執筆してきたのですが、最近だと専門的な記事については紙媒体で出版するのではなく、おもにウェブ版などに寄稿するようになりました。
もっとも、そうなって来ると、「どうやって課金するか」が大きな問題となり得ます。
専門的な情報については、それなりの値段で販売することができるのですが、当ウェブサイトで執筆しているような「おもに誰でも入手できる情報源をもとに、誰でも簡単に理解できる内容」を執筆した場合だと、なかなか「文章自体を誰かに売る」ということができなくなります。
結局のところ、広告収入に依存せざるを得ず、そうなって来ると、「カネ儲け」をしようと思えば、どこかの「まとめサイト」のように、フェイクまがいのセンセーショナルなタイトルで読者を「釣る」ような記事を乱造せざるを得ないのです。
(ちなみにまったくの余談ですが、当ウェブサイトの場合は「ページビュー(PV)」を目的にした「タイトル詐欺」のようなものはやりたくないと思っていますし、また、情報源が不確かなものについても、あまり取り上げないようにしたいと考えています。)
ウェブ評論のビジネスモデルはまだ途上
いずれにせよ、当ウェブサイトのように「趣味の一環」で運営しているウェブサイトの場合ならともかく、物書きのプロフェッショナルが「広告収入」で運営しているサイトの場合だと、なかなか商業ベースに乗せるのは難しいのではないかと想像してしまいます。
このように考えていくならば、ウェブ評論のビジネスモデルの確立は、まだまだ途上だ、という言い方ができるのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
新聞についてですが、「ましな人を選ぶために選挙に行く」論を実践するためにサンケ〇デジタル購読してます。でも本日はがっかり。新規感染者数はデカデカと強調されてますが、重傷割合のデータなし(多分)。オミクロン株の重症化率は弱毒化によって低くなってるとどこかで聞きましたが、そのデータが重要なのに。
20年後の幼児は電子書籍で絵本読むのかな
?? すでに今の幼児も
電子書籍で絵本読んで
アレクサとお話してますが?
うちの子は古本屋で絵本を買っています。Bookoffさまさまです。
少子化なので絵本等は余り気味です。そろそろ漫画に移行中ですが。
読む人数が減ってきているので中古で足りてしまうのも大きいと思います。
書籍出版点数が最近まで増加し続けている理由としては,PDF入稿で著者がそのまま印刷にかけられる原稿を作れるようになって,写植・校正が割愛可能になったことと,オンデマンド出版で少部数出版が可能になったためだと思われます。(誤植も増えたかも.) 他方,最近は学術系だと本にせずに無償で本の形になったPDFを提供してくれる人も増えてきて,お金を払って本を買う必用がなくなったので,出版物も減っていると思われます。著者の財源は研究費で,そういうものを無償で書くと後年の研究費につながります。正直,印税よりそちらのほうが実質的な実入りがいいです。
書籍ではないですが,報告書なども紙媒体で印刷せずにPDFでネットにUPして終わりにする場合が増えてきたと思います。1日の1/3くらいは仕事でそんな書き物をしないといけません。他の人の書き物のチャックも含めて。
なお,紙の本もスキャンしてdjvuかPDFにしてから,PCやスマホで読んでいます。
休刊情報一覧ページを見ると、「NHK遠山顕の英会話楽習」とそのデジタル版のようなものも入っている。これはNHKラジオでやっている語学講座の教科書で、あんなものも雑誌なのかと思ってしまう。デジタル版が雑誌1点としてカウントされていることで、グラフの1990年代から2000年代の増加の原因はおそらくデジタル版だろうと想像がつく。たぶん書籍もそうなのだろう。
仮説④としてこんなのはどうでしょうか
「スポーツ紙・夕刊紙の落ち込みは一般紙よりさらに激しい」
個人宅でスポーツ紙を購読している方もおられますが、個人的な印象では、大半は喫茶店飲食店などです。そして、日刊ゲンダイや夕刊フジなど夕刊紙はいうに及ばず。これらは部数は出てますが、実際のところほとんどはコンビニやキオスク(これも絶滅危惧種か)で売れ残って廃棄処分となっているでしょう。
コンビニ大手3社では一般紙の朝刊を最低で2部おいています。全国で店舗が何軒あるのかは調べていませんが、店舗数×2部もそのまま産廃扱いでしょうね。
新聞の発行部数減少の割合が低い理由としては、「宅配制度による惰性」が結構大きいのではないかと思います。以前から購読していたし、朝に新聞を読む、テレビでニュースと天気予報を見るという行為がなんとなく習慣化している、わざわざ止めるという判断をし、さらにその手続きをすることすら面倒くさいと感じる、そんなもんではないかと思います。
これで宅配制度が崩壊したら、たちまち発行部数の大減少を招くでしょうね。拙宅でも、長年某紙を購読し続けていますが、宅配制度がなくなったら、わざわざ毎日新聞を買いに行くような真似はしないでしょう。
新聞・雑誌・書籍等々、購入する人は紙に用があって買う人は稀で、殆どの人はその上に載っている情報が入用なだけです。
SDGsを叫びながら、紙の塊を売るのは矛盾です。
従って、電子化は当然の流れでしょう。
web評論は読まれてこそ、価値があると思います。
変なたとえですが、物凄い技術を持っていても、消費者に受け入れなければ(資本主義的に言えば)価値がないどころが赤字の可能性もあります。
商業的利益を出してとなると対象を広く裾野を広げ、薄利多売でしょうか。
昔の東スポみたいに、ある程度「タイトル詐欺」も営業努力になります。
Googleなどが個人の閲覧データを元に広告で利益を得て、一般の人が無料で日常生活をす過ごしていますが、いいのですが。(本当は個人の情報と交換で無料)
質・量の高いこのウェブサイトを大衆化させず、もっともっと存在感あるサイトに発展することを期待します。
新宿会計士さまの公正冷静な
実数での分析提供はとてもありがたいです。
ターミナルや繁華街以外では
町の本屋さんがどんどん減っていくのを
寂しく感じてきましたが
やはりこれだけ売れなくなったのですね。
紙から電子への時代の潮流なのは
いたしかたないですが、
部数よりも本屋さんに並んでる
雑誌の顔ぶれの質の劣化を
個人的には感じています。
あたりもしない株価財テク予想雑誌や
週間ヒュンダイのようなドブサヨ記事の
三文週刊誌は残る中で
質の良い雑誌ほど紙媒体離れの
アオリを食ってしまっていると
感じているのは私だけでしょうか?
昔は週刊のマンガやらクルマ雑誌やらパソコン雑誌、新聞を買ってましたが
処分するのが結構面倒で十数年前から一切買わなくなりました。
雑誌の様な「情報」が重要なものはネットで事足りるし、
マンガやイラストのようなものは紙媒体のほうが所有欲は満たされると思いますが
置き場所の問題、老眼などから今では電子書籍オンリーです。
自分がジジィになったから雑誌の情報の様な刹那的なものに
金をかけなくなったと思ってましたが
実際の売り上げもそんなに減少してたんですね。
株情報誌買う人がいる方が不思議ですね。
いつ取材して記事にして、編集し印刷して配本したのよ。干物でも食べんじゃろってもんです。
その時間差考慮して、先見の明ある方がいるとも思えんし。