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米韓スワップ終了で予想される「日韓スワップ待望論」

「韓日は協力しあわなければならない」。よくこんなセリフが韓国側から出てきます。そして、昨日の『韓銀「米韓通貨スワップを終了」』でも指摘したとおり、韓国銀行は米FRBと締結している総額600億ドルの時限的為替スワップが12月末で終了すると発表しました。またひとつ、韓国が通貨の安全弁を失うことになります。こうしたなか、おそらく近い将来、韓国側から出てくる可能性が高い議論のひとつが、「日韓通貨スワップ待望論」ではないでしょうか。

「韓日は協力が必要だ」

韓国外相「韓日協力が必要。対話で解決を」

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

日本の林外相、韓国外交部長官の祝賀書簡に「感謝」と返信

―――2021.12.16 16:34付 中央日報日本語版より

これによると、韓国政府外交部当局者は16日、記者らと会い、先月10日に就任した日本の林芳正外相が鄭義溶(てい・ぎよう)外交部長官から受け取った祝賀書簡に1ヵ月ぶりに「感謝する」という返信をした、という話題です。

何かと虚偽が多い韓国政府外交部の発表でもあるため、ことの真偽については無批判に信じるべきではないかもしれませんが、いずれにせよ、こんな話題が韓国を代表する大手紙に掲載されるくらいですから、現在の日韓関係がどれだけ冷え込んでいるのか、という間接的な証拠ともいえるかもしれません。

ただ、個人的に注目したいのは、「林外相が本当にそんな書簡を韓国に送ったのか」という点ではありません。

記事の続きにある、こんな記述です。

鄭長官は林外相に日帝強占期の強制徴用と旧日本軍慰安婦被害者問題などの懸案に対する韓国政府の立場を明確に伝え、その他協力する分野が多いだけに対話を通じて解決していくべきと話した」。

これは、今月、林外相と鄭義溶氏が英国で会った際の会話だそうです。

(※なお、「英リバプールで行われたG7外相会合のサイドラインで、日韓外相は韓国側の求めに応じて短時間の立ち話を行った」とする話題については『日韓外相が短時間の「立ち話」:要求したのは韓国側か』でも取り上げたとおりです。)

林芳正外相が訪問先の英国で韓国の鄭義溶(てい・ぎよう)外交部長官の求めに応じ、短時間の立ち話を行ったと報じられています。芯がない岸田首相のことですので、韓国に下手な譲歩をしないかという点は少し心配ではありますが、外相時代に2回以上、韓国に騙された岸田首相だけに、少なくとも文在寅(ぶん・ざいいん)政権の残り5ヵ月弱、日韓間で本格的な対話がなされることはないと信じたいところです。日韓外相立ち話は「韓国の求めで」実現?林芳正外相が今年2回目のG7外相・開発担当相会合に参加するために訪英した、とする...
日韓外相が短時間の「立ち話」:要求したのは韓国側か - 新宿会計士の政治経済評論

不法行為を仕掛けてきたのは韓国側なのだが…

この、「韓日は協力する分野が多いだけに(日韓諸懸案は)対話を通じて解決していくべき」とする発言には、現在の日韓関係が凝縮されているように思えてなりません(※もちろん、韓国が「韓日協力」と称しているものについては多くの場合、日本から韓国に対する一方的な支援ですが…)。

日韓諸懸案については当ウェブサイトで何度も繰り返し説明しているとおり、自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題などの歴史問題、韓国による島根県竹島の不法占拠問題、2018年12月に発生した火器管制レーダー照射事件など、さまざまなものがあり、ちょっと数えきれません。

これらの諸懸案は、ほとんどの場合が「韓国による日本に対する国際法違反行為、外交約束破り、国際条約違反、外交欠礼」などの不法行為です。これらについて日本政府が「解決するためにはまず韓国側が解決策を持ってきてほしい」と要求しているのは、ある意味では当然過ぎる反応でもあります。

いずれにせよ、片や韓国が日本に対してさまざまな不法行為を行っておきながら、片や「韓日協力が必要だ」などと称して日本にアプローチをかけてくるというのも不思議な気がしてなりません。

ちなみに少しだけ余談を述べておくならば、当ウェブサイトとしては、日韓諸懸案を巡る落としどころは、究極的には次の3つしかないと考えています。

日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」
  • ①韓国が国際法や国際約束を守る方向に舵を切ることによって、日韓関係の破綻を回避する
  • ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することによって、日韓関係の破綻を回避する
  • ③韓国が国際法や国際約束を守らず、日本も韓国に譲歩しない結果、日韓関係が破綻する

(【出所】著者作成)

このなかで日本にとって最も理想的な落としどころはもちろん①でしょうが、残念ながらこの①については期待できません。そうなると、現実的にあり得るシナリオは②か③であり、また、非常に残念なことですが、日韓関係の破綻を本気で回避しようと思うなら、あり得るシナリオは②だけです。

ただし、そもそも「日韓関係を絶対に破綻させてはならない」という命題自体が正しいとは限りませんし、また、現実の国際政治は日韓関係とは別次元の問題で動くという側面もあります。

本稿では「上記3つの落としどころのうち、②が必然とは限らない」、とだけ指摘しておきたいと思う次第です。

韓国資産バブルFRB主犯説

米韓為替スワップが予定どおり12月末で終了

さて、脇道にそれるのはこれくらいにして、本日の本題です。

昨日の『9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了』などでも述べたとおり、米FRBと韓国銀行との間の米ドル供給に関する為替スワップが、12月末で終了します。

やはり9本の時限的為替スワップは12月末で終了するようです。日本時間の本日未明、米FRBはFOMCの結果発表を行いましたが、2020年3月に開始した9つの中央銀行・通貨当局等との時限的な為替スワップの再延長に関する発表は見当たりません。このことから、これらのスワップについては12月末で終了すると考えて良いでしょう。なお、日銀などとの5つの常設型為替スワップについては引き続き継続すると考えられます。FRBの14本の為替スワップ昨日の『韓国など9本の「米ドル為替スワップ」は年末で終了か』でも取り上げたとお...
9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了 - 新宿会計士の政治経済評論

こうなると、今後かなりの確率で韓国側から出て来るであろう論点が、「韓日国際金融協力」――、ありていに言えば、「日韓通貨スワップの再開要請」ではないでしょうか。

この「米韓為替スワップ終了」「日韓通貨スワップ待望論」の影響について触れる前に、いちおう、『韓銀「米韓通貨スワップを終了」』でも取り上げた、この為替スワップの終了に関する韓国銀行の公式の説明『韓米通貨スワップ契約関連説明資料』【※韓国語】についてもう一度振り返っておきましょう。

  • 契約終了の背景として、通貨スワップ契約締結後、国内外の金融・経済状況は危機から抜け出し、安定を維持していることが挙げられる
  • 韓米通貨スワップ契約が終了しても、最近の金融・外国為替市場の状況、外貨準備保有額が増加していることなどを勘案すると、国内外国為替市場への影響は大きくないと予想される
  • 最近、国内銀行の外貨流動性事情は良好であり、CDSプレミアム、外貨借入加算金利なども低い水準を維持しているなど、外貨借入条件も安定的な流れを示している
  • 韓米通貨スワップ契約を通じて供給された資金(合計198.72億ドル)も昨年7月に全額返済した後、現在は需要がない

…。

なぜ韓国の外貨準備は増えたのか

このうち2番目の「外貨保有額の増加」については、事実です。

韓国銀行が3日に公表した、2021年11月分までの外貨準備統計によると、韓国の外貨準備高は4639.17億ドルでした。これはコロナ禍が深刻化した2020年3月と比べて、およそ637億ドル増えた計算です(図表1)。

図表1 韓国の外貨準備高(2021年11月)
項目 2021年11月 2020年3月との比較
外貨準備高合計 4639.08億ドル +636.93億ドル
うち金 47.95億ドル +0.00億ドル
うちSDR 153.51億ドル +120.34億ドル
うちIMFポジション 46.31億ドル +18.51億ドル
うち現預金・有価証券 4391.31億ドル +498.09億ドル

(【出所】韓国銀行)

韓国の2020年3月時点の外貨準備高は、4000億ドルの大台を割り込む寸前にまで減少しました。この状態から比べ、ずいぶんと韓国の外貨準備高は増えたものです。

ただし、このうち国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)が2021年8月に追加配分されたことによる影響(+117億ドル)を除けば、20ヵ月間の純増加額は約500億ドル程度と見るのが正解でしょう。

ではなぜ、韓国はここまで外貨準備高を増やすことに成功したのでしょうか。

これに関しては、韓国銀行の公式の説明によれば、「外貨準備の資産を運用することで増えた」というものですが、資産運用だけで20ヵ月のうちに13%も資産が増えるというのは、極めて不自然な話です。

昨今の金利環境下で4000億ドルもの資産ポートフォリオを年利回り6~7%で運用するというのは、よっぽどの敏腕ファンドマネージャーを採用しているなどの事情でもなければ、なかなか考え辛いでしょう。

こうしたなか、当ウェブサイトなりの仮説は、この外貨準備高の増加は明らかに韓国銀行による為替介入によるものだ、というものです。

韓国資産バブルFRB主犯説

というよりも、韓国の外貨準備が増えているのも、家計債務が膨張しているのも、さまざまなリスク資産(不動産、株価、ビットコインを含めた暗号資産など)が値上がりしているのも、すべて根は同じではないか、という仮説が成り立つのです。

これをフローチャート化したものが、「韓国資産バブルFRB主犯説」です。

韓国資産バブルFRB主犯説
  • ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
  • ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
  • ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
  • ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
  • ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
  • ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
  • ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
  • ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上

(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)

まず、コロナ禍のため、米FRBを筆頭とする主要国の中央銀行が金融緩和政策を行い、これにより主要国の市場に資金が溢れます(①)。そして、溢れた資金が韓国を含めた新興市場諸国(EM)に流入します(②)。

ただ、そうなると、韓国ウォンを含めたEM通貨が米ドルなどに対し上昇します。韓国の場合、輸出立国でもあるのに加え、通貨・ウォンが国際化されておらず、為替変動に極端に弱いという特徴があります。経済構造上、とくにウォン高には大変に弱いのです(③)。

そこで、韓国の通貨当局はウォン売り・ドル買い介入を行い(④)、自国通貨安誘導を行いますが、その過程で市中銀行などにウォンが大量に供給され(⑤)、銀行などの金融機関は余ったおカネを家計などに対して貸し出します(⑥)。

家計は銀行などから借りたカネで不動産、株式、ビットコインなどに投資(というよりも投機)し(⑦)、実際、ビットコイン取引市場では韓国ウォンが全世界で第3位の取引量にまで浮上する(⑧)、というわけです(なお、『韓国ウォン、ビットコイン取引量で「世界3位」の衝撃』等もご参照ください)。

キムチコインの価値が蒸発?=韓国メディア報道当ウェブサイトで以前から通貨取引量や国際債券市場などに関する統計をもとに、世界の通貨の実力を探るという努力をしてきたのですが、その成果のひとつは『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』などにまとめたとおりです。こうしたなか、本日は人民元ではなく、韓国ウォンに関するまことに興味深い報道を眺めてみたいと思います。2021/09/15 12:30追記図表1と図表2が同一物だったので、図表1の方を差し替えました。通貨の取引量~SWIFT統計から~当ウェブサイトで...
韓国ウォン、ビットコイン取引量で「世界3位」の衝撃 - 新宿会計士の政治経済評論

猛烈な逆回転

つまり、韓国の外貨準備高が500億ドル増えたことの裏返しとして、その分、韓国ウォンの資金供給量が増えている可能性が濃厚です(※ただし、実際の韓国のマネタリーベースの増え方は外貨準備の増え方とピタリと一致しているわけではありませんが…)。

ただし、上記①~⑧の仮説が正しいとすれば、これがいつまでも続くはずはありません。

実際、数ヵ月前から米FRBが金融緩和を段階的に縮小(テーパリング)するとの観測が高まりつつあることで、先日の『韓国の外貨準備50億ドル減少は為替介入によるものか』でも説明したとおり、韓国の外貨準備が減少する月も増えてきました。

為替介入のためでしょうか、韓国の2021年11月の外貨準備高は前月比で50億ドル少々のマイナスとなりました。韓国の金融は外国(とくに米国)に深く依存していますが、外貨準備高が減少に転じた理由は、FRBのテーパリング観測が強まるにつれ、あるいは韓国国内の尿素水不足などの騒動が深刻化するに従い、ウォン安が進行したからなのかもしれません。ただし、現在の韓国は、500~1000億ドル程度の外貨流出には耐性があると考えられます。それはいったいどういうことでしょうか。FRB主犯説と「株安・金利上昇のダブルパンチ」先日の...
韓国の外貨準備50億ドル減少は為替介入によるものか - 新宿会計士の政治経済評論

これなど、「韓国ウォンからの資金流出に対し、韓国の通貨当局が外貨売り・ウォン買いを行っている」という証拠でしょう(※なお、『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』でも述べたとおり、「韓国の通貨当局が常に為替介入を行っている」というのは、米国財務省自身も認めています)。

米財務省が先日公表した為替監視レポートを読んでいると、韓国が2020年下期にかなり多額の為替介入を行ったと読める記述があります。これは、当ウェブサイトでかなり以前から提唱してきた「韓国の資産バブルFRB主犯説」ともかなり整合している話題であり、また、韓国が公然と為替介入を行っている証拠でもあります(※もっとも、米国は韓国について「不透明」という表現は使っていませんが…)。韓国の資産バブル韓国の資産バブルFRB主犯説当ウェブサイトではかねてより、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う米FRBなどの金融緩...
米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める - 新宿会計士の政治経済評論

また、ウェブサイトのマーケット情報のページで確認すると、韓国ウォンはここ3ヵ月ほど、1ドル=1190ウォンないし1200ウォンを超えそうになると、急激な買い戻しが入り、1180ウォンを切る水準に引き戻されていることがわかります。

これなど、FRBのテーパリング観測によりウォンが売られ、韓国の通貨当局が売られたウォンを買い、外貨準備を取り崩して外貨を売っている動きだ、と考えれば、大変に辻褄が合うのです。

公然と為替介入ができなくなる?

さて、韓国ウォンについて議論するときに知っておくべきは、韓国の外為市場が大変に閉鎖的である、という点です。ここでは韓国メディア『中央日報』(日本語版)の次の記事を確認しておきましょう。

韓国副首相「文在寅政権中にTPP加盟申請書提出」

―――2021.12.16 06:40付 中央日報日本語版より

この記事には、こんな記述が出て来ます。

洪副首相はこの日、モルガン・スタンレーキャピタル・インターナショナル(MSCI)先進指数編入再挑戦と合わせてウォンの域外自由取引許容を『前向きに検討する必要がある』と述べた」。

中央日報によると、韓国の通貨・ウォンについては、現在、「域外市場」がないのだそうです。

ここで「域外市場」とは、その国以外の国・地域でその国の通貨を取引する為替市場(俗にオフショア・マーケットとも呼ばれる市場)のことと思われますが、どうも韓国にはこのオフショア・マーケットそのものが存在していないようなのです。

問題は、それだけではありません。韓国の為替市場は、「輸出入など特定要件を備えていなければ外国人同士のウォン振替もできないほど厳格な規制下」にあるのだとか。

これについてMSCI側は、現在、新興指数に分類されている韓国証券市場を先進指数に編入させるための条件として、▼域外ウォン市場設立、▼24時間外為市場運営、▼外国人投資家登録制と空売り規制緩和――などが必要としているのだそうです。

逆に「先進国指数入り」を目指していながら、オフショア外為市場もなく、外為市場は24時間化されてもいないというのは驚きです。

日韓通貨スワップという幻想

韓国のスワップ外交

ただ、韓国の通貨当局がウォンの外為市場に強い規制を課している理由は、おそらく、韓国経済が為替変動に極端に弱いからでしょう。

だからこそ、韓国がこれまで力を入れてきたのが、スワップ外交です。

図表2は、韓国銀行が外国通貨当局と締結している二国間通貨スワップ、多国間通貨スワップ、為替スワップの一覧です。

図表2 韓国銀行が外国通貨当局と締結する通貨スワップ等
相手国と失効日 相手通貨とドル換算額 韓国ウォンとドル換算額
UAE(2022/4/13) 200億ディルハム ≒ 54.4億ドル 6.1兆ウォン≒51.6億ドル
マレーシア(2023/2/2) 150億リンギット ≒ 35.5億ドル 5兆ウォン≒42.3億ドル
オーストラリア(2023/2/22) 120億豪ドル ≒ 85.8億ドル 9.6兆ウォン≒81.2億ドル
インドネシア(2023/3/5) 115兆ルピア ≒ 80.3億ドル 10.7兆ウォン≒90.5億ドル
中国(2025/10/10) 4000億元 ≒ 628.2億ドル 70兆ウォン≒591.8億ドル
スイス(2026/3/31) 100億フラン ≒ 108.2億ドル 11.2兆ウォン≒94.7億ドル
トルコ(2024/8/12) 175億リラ ≒ 11.8億ドル 2.3兆ウォン≒19.4億ドル
二国間通貨スワップ  小計…① 1,004.2億ドル 114.9兆ウォン≒971.4億ドル
多国間通貨スワップ(CMIM)…② 384.0億ドル
通貨スワップ合計(①+②) 1,388.2億ドル
カナダ(期間無期限)※ 金額無制限

(【出所】各国中央銀行ウェブサイト等を参考に著者作成。なお、カナダとのスワップは通貨スワップではなく為替スワップ。換算レートは2021年12月16日正午時点のものを使用)

合計欄を見ると「1388.2億ドル」とあります。

大変な金額であり、これに韓国が保有するとされる4639.08億ドルの外貨準備高とあわせれば、ざっと6000億ドル分は資金流出に対応できる、という計算です。大変心強いことです。

CMIM以外に米ドル建てのスワップがない

ですが、この図表2を見て、なにか面白いことに気付きませんか?

どのスワップも「ドル換算額」が記載されています。言い換えれば、これらのスワップで米ドルを引き出すものは、多国間通貨スワップ協定である「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)」を除いて、ただのひとつも存在しないのです。

唯一、米ドル建てのスワップが、米FRBとの600億ドルの為替スワップだったのですが、これが12月末で消滅するため、今後は韓国が「二国間スワップ」で米ドルを引き出す術はなくなります(ちなみに豪州との通貨スワップは「米ドル」ではなく「豪ドル」であり、カナダとの為替スワップは「米ドル」ではなく「加ドル」です)。

また、これらのスワップは韓国が「相手国から助けてもらう」というものとは限りません。

たとえばインドネシア、マレーシア、トルコとのスワップについては、発動されるとしたら韓国が要望するという可能性だけでなく、相手国から発動される可能性もあります(※この場合は韓国ウォンが米ドルに両替されるかもしれないため、ウォン暴落のリスクを伴います)。

とくにトルコに関しては、当初金額は約20億ドル分と非常に少額ですが、トルコリラの暴落による目減りにより、韓国が受け入れるべきトルコリラの価値は、当初と比べて半額近くになってしまっています。

さらには、中国とのスワップについてはドル換算して600億ドル少々に達し、韓国が保有する通貨スワップ全体の半額以上を占めていますが、このスワップは引き出せる通貨が米ドルではなく人民元であるため、金融危機・通貨危機に際して役に立たない、という特徴があります。

破格の条件だった日韓通貨スワップ

さて、現在の韓国には米ドル建ての二国間通貨スワップは存在しません(CMIMは米ドル建てですが、これは二国間ではなく多国間の通貨スワップです)。

こうしたなか、韓国にとっては歴史的に、米ドルや日本円などの国際的に通用する通貨での通貨スワップを締結していたことがあります。いうまでもない、日本との通貨スワップです(図表3)。

図表3 日韓通貨スワップの歴史的経緯
時点 その時点の上限額 スワップの内訳
2001年7月4日:CMIに基づきドル建ての日韓通貨スワップ開始 20億ドル 20億ドルの全額がドル建て
2005年5月27日:円建て通貨スワップ開始 50億ドル (円)30億+(ドル)20億
2006年2月24日:CMIスワップの増額 130億ドル (円)30億+(ドル)100億
2008年12月12日:リーマン・ショック後のスワップ増額 300億ドル (円)200億+(ドル)100億
2010年4月30日:リーマン増額措置終了 130億ドル (円)30億+(ドル)100億
2011年10月19日:「野田佳彦スワップ」開始 700億ドル (円)300億+(ドル)400億
2012年10月31日:「野田佳彦スワップ」終了 130億ドル (円)30億+(ドル)100億
2013年7月3日:円建て通貨スワップ終了 100億ドル 円建てスワップが失効したので、ドル建てのみが残る
2015年2月16日:CMIスワップが失効 0億ドル ドル建てスワップについても失効

(【出所】国会図書館ウェブサイトの情報等をもとに著者作成)

もともと日韓通貨スワップは「チェンマイイニシアティブ」に基づき、2001年7月に20億ドルからスタートしたのですが、これに数度の増額や日銀の円建て通貨スワップなども加わり、2006年には総額130億ドルにまで増額されました。

また、2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機では、同年12月に円建てのスワップを200億ドルに増額する措置を実施(※2010年4月に終了)。

さらに、欧州債務危機の最中の2011年10月には、就任したばかりの当時の野田佳彦首相のイニシアティブにより、ドル建て部分が100億ドルから400億ドルに、円建て部分が30億ドルから300億ドルにそれぞれ増額され、700億ドルという破格のスワップが提供されました。

(※余談ですが、当時の李明博(り・めいはく)韓国大統領は、このスワップに感謝するどころか、翌年8月に島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下を侮辱する発言を行うなど、「恩を仇で返した」格好となっています。)

慰安婦像が潰した通貨スワップ復活案

ただ、これらのスワップ自体は、安倍政権下で長らく副総理兼財相を務めていた麻生太郎総理のもとで順次失効。

2015年12月の日韓慰安婦合意などにより日韓関係が小康状態に入った2016年8月、韓国側からの要請で日韓通貨スワップの再開に向けた両国の協議が始まりましたが、こうした流れに水を差したのが、同年末の「釜山の慰安婦像問題」です。

これは、韓国の市民団体が2016年12月30日、釜山にある日本総領事館前の公道上に慰安婦像を新たに設置し、これに激怒した日本政府がその1週間後の2017年1月6日、対抗措置として日韓通貨スワップ再開交渉の無期限延期を発表したのです。

当時の官房長官だった菅義偉総理は、次のような趣旨のことを述べました(国会図書館アーカイブ参照)。

  • 2015年の日韓合意においては、慰安婦問題が「最終的で不可逆的に解決される」、このことを確認している
  • それにも関わらず、2016年12月30日、韓国の市民団体によって在釜山日本国総領事館に面した歩道に少女像が設置をされたことは、日韓関係に好ましくない影響を与えるとともに、領事関係に関するウィーン条約に規定する領事機関の威厳等を侵害するものであり、同条規定に照らして極めて遺憾である
  • わが国は当面の措置として、在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合せ、長嶺駐韓国大使及び森本在釜山総領事の一時帰国、日韓通貨スワップ取極の協議の中断、日韓ハイレベル経済協議の延期、その措置をとることを決定した

つまり、いわば慰安婦像が日韓通貨スワップの復活を潰した、というわけです。

日韓通貨スワップ復活はあるのか?

米韓為替スワップが消滅することが確定している現在、韓国にとっては米ドル建て・金額500~1000億ドル程度の通貨スワップ協定は、いまや喉から手が出るほど欲しい協定ではないでしょうか。

ただ、現状、韓国と「米ドル建ての」二国間通貨スワップ協定を締結してくれる相手国といえば、米国を除けば、日本くらいしか存在しません。日本政府(財務省外為特会)は100兆円を超える米ドルなどの外貨準備を保有しているからです。

(※理屈のうえでは、米ドルを印刷する設備を保有しているとみられる北朝鮮も韓国と米ドル建ての通貨スワップを締結してくれるかもしれませんが、本稿ではこの可能性についてはとりあえず考えません。)

韓国メディアからはときどき、「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」という主張が出て来ることもあるようですが、では、その日本が韓国と米ドル建て二国間通貨スワップ協定を結ぶべきでしょうか。

『米韓為替スワップ:本当の危機は「コロナ後」に到来か』などでも報告したとおり、韓国国内でとりあえずは外貨資金繰りが安定したためでしょうか、韓国メディアではこのところ、「韓日通貨スワップ待望論」が姿を消していました。しかし、本日、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、「困難な時に助け合うのが真の友人であり隣国だ」、「通貨スワップ締結など経済的な共生協力を始めるのがよい」、とする主張が掲載されているようです。朝鮮半島生命線説真のエネミーは、「朝鮮半島生命線説」先日の『中央日報「韓日は争いをやめ...
「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」 - 新宿会計士の政治経済評論

おそらくその答えは限りなく「NO」に近いでしょう。

少なくともソウルの日本大使館前と釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像を撤去することが、通貨スワップを再開するうえでの最低限の条件でしょうし、それ以外にも日韓間には韓国が作り出した問題が山積しています。

少なくともそれらの諸懸案について、先ほど挙げた「3つの落としどころ」のうちの①、すなわち「①韓国が国際法や国際約束を守る方向に舵を切ることによって、日韓関係の破綻を回避する」という努力を見せるのでなければ、日本も日韓通貨スワップには応じるべきではありません。

あるいは、日本も通貨スワップや為替スワップを結ぶなら、まずは基本的価値や戦略的利益を共有する諸国(たとえばCPTPP参加国や台湾など)を優先するのが筋ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (32)

  • ウォンドルは 1USD=1187W 台で、飛び立つ準備をしているようですね。

    > 「日本が韓国の真の友人なら韓日スワップを締結せよ」
    友達なんてささやかないで
    言ったそばから嘘になりそう
    だってあなたはレッドチーム
    ねっ いらないわ

    韓国さんは防疫措置を強化するようですが、武漢肺炎の流行に歯止めをかけるには2週間以上かかります。
    年内は大変そうですね。
    一方、韓国に多いチキン屋やコーヒーショップなどの、フランチャイズ形式で誰でも参入できる個人経営店への打撃は、防疫措置開始と同時に始まります。
    年を越せるのかなぁ。
    韓国の頼みの綱、米韓為替スワップも、12/31で終了しちゃいますね。
    年明けはどうなるのかなぁ。

    せっかく行われている壮大な社会実験です。
    干渉することなく、じっくり観察させてもらいましょう。
    般若湯でも飲みながら。

  • 彼らの定義としては、「韓日協力=受援」なんですよね。
    古から「日本には協力の余地がある」なんて意味不明の表現があったみたいな気がします。

    >2015年12月の日韓慰安婦合意などにより日韓関係が小康状態に入った2016年8月、韓国側からの要請で日韓通貨スワップの再開に向けた両国の協議が始まりました

    ↑この件は、韓国側からの”提案”ではなかったでしょうか?(そろそろ協議を再開してはどうか?)

    彼らにとっての日韓通貨スワップは、日本からの求めに応じて韓国が締結して”やる”べきものなのだし、そもそもが頭を下げられない人たちなのですしね。

    日韓通貨スワップについては、メディアに識者?の観測気球的なコメント(安全弁は多いに越したことはない)が発せられるばかりで、韓国政府や通貨当局から公式要請されることはないと思います。

  • 日本政府の立場でいうと日韓基本条約を毀損した状態、つまりは半生断交状態な訳ですよね?

    それでも通貨スワップが組めるほど生温い日本政府なのでしょうか?

  • 日韓スワップは、韓国側から話が出て来る事は有っても、韓国政府が正式に日本政府に申し込む事は無いでしょう。ましてや日本政府が、それを受ける事は、政権にとっての自殺行為だと思います。

    「何故この時期にCPTPP加盟」を考えたんですが、「日本と交渉したいのでは?」という仮説にたどり着きました。

    韓国は媚中する事で、日米からの保護が、一枚一枚剥がされて行くでしょう。韓国の先進国になって何でも出来るという過剰な自己評価は、それを促進する方向に働くでしょう。

  • 韓米為替スワップが12月31日終了決定の報道に影響されたのか、ドルウォンチャートが昨夜から上昇の兆しを見せていますが、今朝6:40頃大きなドル売り介入でもあったのか、再び下落の動きを見せています。(謎)

    これはひょっとすると新宿会計士様が陳べておられる通り、一時的に増えた外貨(ドル)による韓国銀行当局による市場介入かもしれません史、あるいは他の要因であるのか、今のところそれを確かめる手段を今の私は持っていません。

    ただ一つ云えるのはこうした為替市場に於ける不自然な動きが、今後継続するモノなのかどうかを注視していく必要がありそうだということです。

    かつて昇竜拳と云われた外資によるウォン売りに対し、これに対抗しようとした韓国側のドル売りの抗争、いわゆるワロス曲線として揶揄されたような展開が再び見られるかどうか、今後も当分の間韓国の為替市場から目が離せなくなりそうです。(笑)

  • 麻生さんいるから大丈夫だとは思うのですが、弱腰・優柔不断な岸田だけに安心できません。今の韓国無視だって、言い換えれば何もやっていないのと同じ。髭のおっさんが制裁を検討すると言ってたけど、夏に中間報告。どうせ参議院選挙対策でしょうし、やってる感だけだされても、逆に不快です。菅さんに比べ働かない岸田内閣には本当怒りしか感じません。

    • 安定感ゼロの日和見行動、言うだけ番長日本版、最後まで考え最後までやってから口を利け、などという風説が巷間に広まるなら次の参院選では国民による「お灸をすえる」結果を招くことになりそうです。

  • >少なくともそれらの諸懸案について、先ほど挙げた「3つの落としどころ」のうちの①、すなわち「①韓国が国際法や国際約束を守る方向に舵を切ることによって、日韓関係の破綻を回避する」という努力を見せるのでなければ、日本も日韓通貨スワップには応じるべきではありません。

    《努力を見せる》だと、対北朝鮮での『段階的非核化』と同じに思えます。
    『即時の完全な非核化』に対応する結果を韓国が見せなければ、日本は韓国に騙されるだけだと思います。

  • ほんの立ち話をしただけで、このような新聞発表されるのは相変わらずですね。その度に日本国内の韓国ウォッチャーから「オメー、そんなこと言ったのかよ」と突き上げられ選挙の票を落としかねないので、日本の政治家も韓国の要人と会うのさえ嫌がるのは当然です。日韓の会話を遠ざけているのはむしろ韓国の公式声明・マスコミのこのような振舞いだと思います。日本に限らず韓国と会談する多くの諸国は同じ感想を持つでしょう。宗主国の中国様でさえ「小五月蠅いやっちゃな、今度クラブケーキ喰わしたる」と思っている節があります。

    ところで北朝鮮がドルの印刷機を持っていると、もっぱら噂ですね。かつて第二次大戦中のナチスドイツがユダヤ人の印刷工を使ってポンドの贋札作りに励んだことがありました。当時のポンド紙幣といえば見た目はただの紙切れに印刷されたようなもので、すぐに真似できると思われたのですが、ナチスドイツが国を挙げても、これがなかなか出来ませんでした。紙の質、インクに至るまで偽造しにくいように作られ、尚且つ年を追うごとに進化していったので、とうとう終戦に至るまでイングランド銀行を騙してイギリス国内で流通させることは出来ませんでした。ただ皮肉にもチェックが甘いヨーロッパ諸国の一部銀行は騙されて戦後に混乱させることになりました。
    ドル紙幣用の紙・インクと言わず すべてが不足している今の北朝鮮にドル偽造紙幣を大量に作れる国力があるかは疑問です。それよりもっと手っ取り早く暗号資産を掠め取る方が現実的です。

    ということで、日本もいよいよビットコインのような暗号資産でなく通貨とリンクするデジタル通貨の実験が始まるようですが、掠め取ろうとかマネーロンダリングに使おうと鵜の目鷹の目で狙っている連中が多くて大変です。やっぱり現ナマと貯蓄は金が一番かなと古い考えを持っています。海外送金なんてしないし。最後はどうでもよい話になってしまいました。

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