韓国政府元高官「輸出規制の日本との安保協力は矛盾」
次期韓国大統領候補者の「外交ブレーン」が、「日本が韓国に対して経済安全保障の観点から輸出規制措置を取りながら、安保協力をするのは矛盾している」と述べたそうです。日本が韓国に輸出「規制」を講じた事実はありませんし、まったく次元が異なる輸出管理適正化措置とGSOMIA破棄を両天秤にかけたのは韓国の側でしょう。なかなか理解に苦しむ言い分です。
GSOMIAを巡る曲折
日韓GSOMIA(正式名称は『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』)は、日韓両国が直接、秘密軍事情報を共有するための情報保護協定であり、いわば、「日米韓3ヵ国連携」の象徴のひとつです。
この協定自体、米国が「日米韓3ヵ国連携」の観点から強力に推進していたものの、かつては野田佳彦政権下の2012年6月に署名直前になり、韓国側が突如として「ドタキャン」したという代物でもありますが、安倍政権下の2016年11月にやっとこさ署名にこぎつけ、発効したものです。
そして、この協定自体、その後、韓国側から破棄の動きがあったことを忘れてはなりません。日本政府が2019年7月に発表した、韓国に対する輸出管理体制の強化・厳格化(あるいは「適正化」)に対する「対抗措置」として、韓国政府がこの協定の終了を日本政府に対して通告したのです。
しかも、『あれから1年:いまだにGSOMIA破棄できない韓国』でも取り上げたとおり、この協定破棄の動きは、結局は韓国側からの申し入れにより、事実上、撤回されました。
といっても、韓国側は「GSOMIAの終了通告の効力を一時的に停止している」という立場を取っているようです。
GSOMIA破棄が「対日カード」
もちろん、仮に「GSOMIAの終了通告の効力を復活させる」と宣言したところで、おそらくは米国が強く反発するため、現時点で「終了通告の効力を復活させること」は、事実上は大変に難しいでしょう。
ただ、韓国では、「GSOMIAの運用が不安定化したこと」が「対日外交カードになっている」と信じているフシがあり、かつては「GSOMIAの運用を安定化させることと引き換えに、日本は対韓輸出『規制』(※原文ママ)を撤回すべきだ」、などとする主張が見られたこともあります。
このあたり、『対韓輸出管理の厳格化は日本を守るために必要だった?』あたりで議論したとおり、韓国側では「日本の対韓輸出『規制』は『強制徴用問題』(※自称元徴用工判決問題のこと)に対する報復措置だ」、などと頑なに信じ込まれていますが、注意が必要です。
そもそも論として日本が講じた措置は輸出「規制」ではなく、対韓輸出管理適正化措置であり、しかも韓国の輸出管理で何らかの不適切な事例が発生していたことがその原因だからです。
韓国側では「日本は歴史問題を解決しなければならない」、「強制徴用判決に日本が従わないのはおかしい」、「それなのに日本は輸出規制まで仕掛けてきた」、「だからわが国はGSOMIA破棄などの対抗措置を講じざるを得ない」、という「不等式」が成立しているフシがあります。
韓国が信じる不等式(左辺が日本の不法行為、右辺が韓国の不法行為)
- 日本の歴史問題+日本の輸出規制>強制徴用判決+GSOMIA破棄
(【出所】著者作成)
不等号の向きが左を向いているというのは、「不法行為」という意味で、日本の韓国に対する不法行為の方が、韓国の日本に対する不法行為よりも深刻だ、ということを意味します。
現実の不等号は向きが異なる
一応真面目に反論しておくと、こんな不等式、最初から成り立つわけがありません。
「日本の歴史問題」とやらは「もともとが韓国側によるウソ、捏造のたぐいである」という点は度外視するにせよ、1965年の日韓請求権協定で最終的かつ完全に解決済みですし、日本の輸出管理適正化措置も韓国の不正貿易への対処であり、なんら「不法行為」ではありません。
これに対し、自称元徴用工判決は韓国という国によるれっきとした日本に対する不法行為であり、GSOMIA破棄も(日本はともかく)米国からしたら「せっかくの日米韓3ヵ国連携」に水を差す、見過ごせない動きです。
現実の不等式(左辺が日本の不法行為、右辺が韓国の不法行為)
- 0<自称元徴用工問題+自称元慰安婦問題+竹島不法占拠問題+仏像窃盗問題+火器管制レーダー照射問題+上皇陛下侮辱事件+(…中略…)+GSOMIA破棄
(【出所】著者作成)
現実には、不等号の向きは圧倒的に右しか向きません。
いずれにせよ、韓国のいう「GSOMIA破棄の完全撤回」と「輸出規制の撤回」は、最初から交換条件にはならないのです。
李在明氏の外交ブレーン「輸出規制と安保協力は矛盾」
こうした点を確認したうえで、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に掲載された次の記事を読むと、大変に驚きます。
与党イ候補の外交ブレーン「GSOMIAには懐疑的だが、国家間合意は尊重すべき」
―――2021-12-02 07:04付 ハンギョレ新聞日本語版より
ハンギョレ新聞は、次期大統領選の有力候補者の1人である李在明(り・ざいめい)氏の「外交ブレーン」とされる李鍾奭(り・しょうせき)元統一部長官が1日、日経のインタビューに応じ、GSOMIAについては「必要性には懐疑的だ」と述べた、というのです。
李鍾奭氏はこう述べます。
「日本が韓国に対して経済安全保障の観点から輸出規制措置を取りながら、安保協力をするのは矛盾している」。
この点、李鍾奭氏は「国家間合意はむやみに破棄はできず、尊重しなければならない」とも述べたそうですが、この「輸出規制措置とGSOMIAは両立しない」とする主張は、韓国側の(とくに左派の)政治家からはよく聞こえて来るものでもあります。
仮に李在明氏が次期韓国大統領に就任したならば、GSOMIA破棄が再び日韓間の政治的な問題点に浮上する可能性がある、ということでしょう。
司法府の国際法違反是正は韓国の義務
また、李鍾奭氏は自称元徴用工問題についても、次のように述べたのだそうです。
「日本は認めたくないだろうが、韓国の行政府は司法判決に関与できない。解決策についてここで話すことはできないが、韓国も日本も果敢に未来に向かわなくてはならない」。
このあたり、こんなことを述べる人物が李在明氏の「外交ブレーン」というのも興味深いところです。
そもそも論ですが、日韓請求権協定は韓国の「三権」のひとつである司法府をも拘束する国際協定であり、その司法府が国際協定を無視した違法判決を下したわけですから、韓国の「三権」のうちの残り「二権」が何とかしなければならないのは当然のことでしょう。
どうやって国際法違反の状態を解消するのかは韓国に委ねられていますが、常識的に考えたら、韓国政府が国会に対し、判決を無効化する法の策定を要請するなりすべきでしょうし、当然、問題の判決を出した判事については、別途、弾劾裁判を実施すべきでしょう。
韓国が国際社会において、「国際法をないがしろにする無法国家だ」とみなされたくないのならば、こうした努力をいっさいせず、「行政府は司法判決に関与できない」という言い分は、認められないといわざるを得ないのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
非常にわかりやすい発言です。
この発言をもって、り地域はCグループに格下げ、1年以内に改善実績が見られないならばDグループに編入すべきと思います。
要は、「中共と半島北部へ横流しできるようにしろ、これは小泉との約束だ」程度のことを言っているのだと思います。
日本政府は韓国だけの特別枠を作りそうな気がする
役に立ちそうも無く、安心出来そうな外交ブレーンで、良かったじゃないですか。
首に輪っかをはめられていてそれが悔しくてしょうがないので吠え続けている。
つまりそうゆうことではないでしょうか。
矛盾していると考えるのなら、ごちゃごちゃ言わずにさっさとGSOMIAを破棄してくださいよ。
南朝鮮を切り捨てる時です。パヨクと在日が対韓譲歩を主張しようが、国際法違反を盾に論破し、地元議員に対韓切り捨てを働きかける。切り捨て一択のみ。
安保?韓国と締結してないし無理でしょ?
国際海域での海洋法を知ってて日本のEEZで国旗隠した軍艦が北朝鮮との瀬取り中を発見されて兵装レーダーでロックオンするし、我が国の島嶼部をそこにいただけの漁民虐殺して乗っ取り中だし。
対馬への攻撃意欲も満々。
敵国でしょ?
アメリカ肝いりのGSOMIAでも情報精度低くて役に立たないし。
朝鮮半島再有事の際に日本が中立宣言する邪魔にしかならない。
100%無意味
現実認識も論理も結論もパーフェクトに間違えられるなんてすごいですね。日本人では宮迫博之くらいしかできませんよ。…だからあちらには焼肉屋が多いんかな?
大韓民国憲法の第六条一項には、「憲法に基づいて締結し、公布された条約および一般的に承認された国際法規は、国内法と同等の効力を有する。」と定められています。
しかし、どう見ても韓国政府は日本との協定や合意を「国内法と同等の効力を有するもの」として扱っていません。
韓国政府が条約や国際法をないがしろにする事で、自国の憲法にも抵触しているという事実を指摘する声が韓国内から出てこないのは何故でしょうか?
韓国が政府間協定で締結したGSMIAはロシアを含む22か国。国防当局間で実質的に締結したものが13か国+1組織なんですってね。 少々、節操がないような気がします
GSMIAでは二国間協議で知り得た情報を他言しないのが原則。手当たり次第なのは貰うことしか考えてないからなんですよね。きっと。
>日本は認めたくないだろうが、韓国の行政府は司法判決に関与できない。
そんな韓国内の事情なんて知らんがな♪
>解決策についてここで話すことはできないが、韓国も日本も果敢に未来に向かわなくてはならない
もう、無理に解決しなくても良いのでは?
それぞれが別々に未来への道を歩めばいいんじゃないかな?
GSOMIA破棄が「対日カード」?
ちょっと何言ってるか分からないね。
むしろ、『GSOMIAを破棄できるならしてみろ』と挑発するのが「対韓カード」になるんじゃないの?
司法に従わざるを得ないのであれば、条約締結、合意、その他の外交交渉は司法がやれば良い。
あれ?大統領の権限は必要なくない?
李在明氏の参謀(笑)が期待出来る人罪で、とても愉しみですね( ̄∇ ̄)