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文在寅氏訪日と首脳会談巡り韓国政府から「最後通牒」

韓国は最後通牒を「突きつける側」ではないと思いますが…

長年、コリア・ウォッチングをやっていても、どうしても慣れないのが、「相手に責任転嫁する」という姿勢です。本来ならば韓国が自国の責任で解決しなければならない日韓間の諸懸案を巡り、あたかも「韓日双方に共同の責任がある」とでも主張するような姿勢がその典型例です。「韓日首脳会談が開かれないこと」に業を煮やして「日本に最後通牒を突きつける」という発想も、こうした姿勢の延長にあるのかもしれません。

文在寅氏の訪日

文在寅氏訪日観測の背景

今朝の『文在寅氏の訪日「決まった」?「未定」?矛盾する報道』を含め、当ウェブサイトで何度となく取り上げてきたとおり、「東京五輪をきっかけに文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が日本を訪れ、日韓首脳会談に臨む」とする話題が、一部メディアを中心に「勝手に」騒がれている状況です。

あらためて振り返っておくと、文在寅氏の訪日という話題自体、確認した限りは先月の英国・コーンウォールでのG7首脳会合(サミット)で日韓首脳会談が「不発」(?)となった前後あたりから、一部メディアを中心に報じられ始めたものです。

しかも、報じたメディアもNNN(日テレ系列)、読売新聞、産経新聞、FNN(フジ系列)、さらには毎日新聞、という具合に、「順繰りに少しずつ」というパターンです。

そして、各メディアがいっせいに示し合わせて虚報を流すということは考え辛いため、個人的には次のような可能性があると考えている次第です。

  • ①本当に日韓両政府がそのようなことを検討していて、「観測気球」を上げたもの
  • ②日韓両国(あるいは片方の国)の政府関係者などが勝手な願望を述べたのを記事にしたもの
  • ③日韓首脳会談をわざと「潰す」ために誰かがリークしたもの

日本政府のあずかり知らぬところでやってくる可能性もある?

もっとも、加藤勝信官房長官は今月6日午前の記者会見で、文在寅氏の五輪を契機とした訪日について尋ねられ、次のような趣旨の内容を述べました(動画の23:50~。なお、加藤長官の発言内容については、意味を変えない範囲で要約しています)。

各国首脳の五輪開会式あるいは五輪への出席は、IOCと各国オリンピック委員会との間で調整が行われていると承知しており、韓国においても同様の調整がなされているものと承知している。現時点でわが国に対して、たとえば大統領の訪日をする、といった通報があるわけではない」。

じつは、この発言はとても重要です。

加藤長官の発言にもあるとおり、各国首脳の五輪への出席は、各国が直接、国際五輪委員会(IOC)と調整するものであるため、極端な話、日本政府のあずかり知らぬところで文在寅氏の訪日が決定されるということは十分にあり得る話です。

そして、先週の『菅総理、「文在寅氏来日なら「丁寧に対応」=記者会見』でも取り上げたとおり、菅総理自身は8日の記者会見でジャパンタイムズの記者に文在寅氏の訪日の可能性について尋ねられた際、「訪日される場合は外交上丁寧に対応する」と述べました。

これなど、普通に考えたら「文在寅氏がいらっしゃるかどうかはわからないけれども、もし日本に来られた場合には、最低限、無礼がないようには対処する」といった意味合いではないかと思えてなりません。

首脳会談をやって解決するものでもなかろうに…

というよりも、文在寅政権下に限っても、韓国が日本に対して行ってきた不法行為の数々があまりにも酷すぎるため、1回や2回、首脳会談を実施したくらいで、「日本の韓国に対する不信感が払拭され、懸案が解決に向かう」というものでもないでしょう。

実際、日本政府が韓国に対して求めているのは、基本的には「国際法や条約や国家間の約束を守ること」です。『外交青書 令和3年版』【※PDFファイル、大容量注意】のなかでも、「韓国は重要な隣国」、「地域の安定には日韓、日米韓の連携が不可欠」としながらも、次のように指摘しています。

しかしながら、2020年以降も、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより、日本側にとって受け入れられない状況が続いている(以下略)」(同P21)。

文在寅氏が菅総理と会って具体的に状況がどう変わるとおもっていらっしゃるのかはわかりませんが、首脳会談をしたくらいで、この「日本側にとって受け入れられない状況」が変わるとも思えないのです。

ところが、これに関連し、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、気になる記事が掲載されていました。

「文大統領、懸案3つのうち1つはテーブルに上げてこそ五輪出席」

―――2021.07.12 06:56付 中央日報日本語版より

記事タイトルがカギカッコで括られている理由は、この発言自体が韓国大統領府の「高位関係者」が中央日報の取材に対して述べた内容とされるからでしょう。

中央日報は記事冒頭で、文在寅氏の東京五輪出席を巡り「日本側に事実上の『最後通牒』を突きつけた」、とあります。

「韓国が日本に最後通牒を突きつけた」

笑ってはならない、「韓国政府が日本に『最後通牒』」

まことに失礼ながら、「文在寅氏の側は『最後通牒』を『突きつけられる』側であって、『突きつける』側ではない」というツッコミが出て来そうになりますが、この点についてはとりあえず我慢して、先を読み進めましょう。

この「高位関係者」は11日、中央日報の電話取材に対し、次のように述べたのだそうです(※日本語表現については意味を変えない範囲で部分的に手直ししています)。

  • 青瓦台’(※)の最終的な立場は、日本と解決しなければならない3大懸案のうち、最低1つに対しては誠意ある議論が行われてこそ、文在寅氏の訪日を検討することができる
  • 日本側が最後まで前向きな態度を見せない場合、文在寅氏の五輪開会式不参加を宣言せざるを得ない

※「青瓦台」…韓国大統領府のこと

…。

思わず吹き出してしまいそうになる人もいるかもしれませんが、いちおう念のために記事を最後まで読んだところ、この発言は別に私たちを笑わせようというものではなさそうです。

そもそも、韓国政府の閣僚、担当者らの発言を眺めていると、この手の「自分の責任を相手に転嫁する」というパターンが多すぎます。「解決策を提示しなければならない」の主語は、「韓国政府が」、であって、「日本政府が」、ではないからです。

ちなみに「3大懸案」とは、「慰安婦・強制徴用労働者問題」、「核心部品に対する日本の輸出規制」、「福島原発汚染水放出問題」などだそうですが、「強制徴用問題」、「輸出規制」、「汚染水放出」については、いずれもそもそもそんな問題自体が存在しません。

あらためて指摘しておきますが、自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題はいずれも韓国の一方的な不法行為ですし、対韓輸出管理適正化措置の原因を作ったのは韓国ですし、福島第一原発ALPS処理水の放出は国際社会とのコンセンサスを作りながら適切に判断した結果です。

  • 自称元徴用工問題については韓国の一方的な日韓請求権協定違反
  • 自称元慰安婦問題については韓国の一方的な日韓慰安婦合意違反
  • 主権免除違反判決問題については韓国の一方的な国際法破り
  • 対韓輸出管理適正化措置の原因を作ったのは韓国の「不適切な事案」と信頼の喪失
  • 福島第一原発ALPS処理水放出はIAEAなど国際社会との合意による措置

どれも、日本政府が韓国と「協議」すべき性質のものではありません。

韓国政府の立場は大きく後退?

もっとも、中央日報の記事を読んでいて、もうひとつ気付くのは、先月末に大統領選に出馬を表明した、前検事総長の尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏の発言(『ついに口を開いた尹錫悦氏の日韓「ツートラック」宣言』等参照)と比べれば、ずいぶんと「小ぶり」だ、という点です。

尹錫悦氏は6月29日付の会見で、日韓関係については次のような趣旨の発言をしています。

  • (韓日関係は)未来世代のために実用的に協力しなければならない関係であり、歴史を正確に記憶するため、その真相を明確にする一方、未来世代のため、実用的に協力しなければならない
  • 慰安婦問題や強制徴用問題、韓日間の安保協力や貿易問題などの懸案をすべて同じテーブルに載せて議論する、グランドバーゲン(一括妥結)をする方式で問題にアプローチしなければならない

正直、「一括妥結方式」のくだりなど、なかなかに意味不明です。要するに、尹錫悦氏の発言は、「今までどおり、韓国の都合に合わせてツートラックを展開する」という宣言のようなものであり、これを「日本との関係改善に意欲を示したもの」と見るべきではありません。

ただ、それと同時に数週間前の韓国には、「東京五輪を契機に文在寅氏が訪日し、韓日首脳会談さえ開催できれば、問題はすべて解決に向かう」、といった、やや根拠を欠いた楽観論が漂っていたように思えてなりません。

こうした状況からすれば、この「高位関係者」の発言は、ずいぶんと弱気です。

いちおう、中央日報によれば、この「高位関係者」は「最後通告の『デッドライン』」として「今週序盤」を提示したのだそうですが、なんとなく今までのパターンからすれば、日本政府からほとんど反応もなく放置されているうちに、このデッドラインがどんどんと伸びていくだけの話ではないか、という気がしてなりません。

日本側は「普通の国」として接すれば良い

さて、こうしたなかで気になるのは、日本側の反応です。

中央日報の記事の続きによると、韓国側は「日本との水面下の調整」の場で、「少なくとも1時間の会談時間」を要求したとみられる、と指摘。

ただ、それと同時に「共同通信」が報じたとされる「日本政府関係者の言葉」として、日本側は各国主要人物と面会するにしても、「1人あたり原則として15分程度」という立場を示し、さらには次のように述べています。

「(共同)通信は特に『日本は歴史問題で譲歩してまで、文大統領が来たほうがよいとは考えていない』という外務省幹部の話まで伝えた」。

ある意味では当然の反応ですね。

この共同通信の報道が正しいという前提で申し上げるならば、日本政府の対応は、韓国を「特別な国」としてではなく、「普通の国として取り扱い始めている」、という意味でもあります。

「普通の国としての取扱い」とは、「国際法や条約や約束を守る国」に対してはそういう相手国としてきちんと礼を尽くす一方、「国際法や条約や約束を守らない国」に対してはそれ相応の対処をする、という意味ではないでしょうか。

いずれにせよ、コリア・ウォッチング歴がそれなりに長くても、やはりこの「相手は自分たちと会談をやりたがっているはずだ」、という思い込みに基づく記述には、どう頑張ってもなかなか慣れるものではない、と思う次第です。

あとは読者の皆さまでツッコミを

なお、中央日報には『韓国経済新聞(韓経)』が配信した次の記事も掲載されていて、これについてもレビューしようかとも、最初は考えていました。

韓経:韓国政府「日本、首脳会談交渉に慎重であるべき」…メディア流出に最後通牒

―――2021.07.12 08:13付 中央日報日本語版より

ただ、記事の内容を読んでみると、「ツッコミどころ」については先ほどの記事と重なっている部分も多いため、これについて紹介し始めると冗長になりかねません。

よって、ツッコミにつきましては、各読者の皆さまにお任せ申し上げる次第です。

新宿会計士:

View Comments (82)

  • この1週間、隣国のマスコミはこのネタばっかりですね。勝手に盛り上がっている。もう面倒くさいので、オリンピックも参加取りやめてほしいです。隣国が絡むと勝っても負けても後味悪いし、メダルが取れなかったら、日本のせいだという事が目に見えている。いつまでも審判や相手選手へのSNS等での攻撃も酷いでしょう。ラグビーワールドカップのような清々しさを味あうためにも、ぜひ、ボイコットしてほしいです。

  • >この関係者は「このような状況では両政府間の協議を続けるのは難しい」とし

    じゃ、そういう事で。
    解散。

    • >じゃ、そういう事で。
       解散。

      コレじゃ話が終わってしまうじゃないか~
      ワレワレは地上最悪の粘着ミンジョクだぞー
      これぐらいで諦めると思うなよー
      韓国への愛は無いニカ~

      • 佳乃さま
        だったら自分から「協議を続けるのは難しい」なんて、言わない事ですね(笑)

  • 完全非公開の場で土下座して、少しでも歩み寄った形のコメントを得る。それが韓国の首脳会談戦略でしょう。うんと言わせるまで、打ち切らせたくはないので、どうしても長い時間が必要になります。

    とにかく、韓国としては「どうやって」の部分はひた隠しに隠したいのです。韓国の嫌がることをわかってあえて1回毎にリークしているのが日本のやり方です。

    直前まで、リークから韓国の否定というパターンを繰り返すでしょう。最後否定をあきらめてリークに乗ってこようとするかも知れませんね。

    ただ、リークに乗ろうとしても、リーク直後に官房長官が否定してしまうとそれも出来ない。結構韓国としては日本のメディアと政府が結託したいじめに涙目なのかも知れません。

    • > 完全非公開の場で土下座して、少しでも歩み寄った形のコメントを得る。

      非公開土下座をやっていたのは日本語世代がいた頃までです。金大中政権が最後でしょう。盧武鉉政権からは純粋培養反日世代ですから、韓国が裏で土下座をしていたことなど知りません。文在寅政権では、伝聞で微かに土下座を伝え聞いていたかもしれない外交部職員を飛ばしてしまいましたから、事務レベルですら土下座外交のやり方が分かりません。裏でも表でもふんぞり返っていますよ。

      • あと韓国の中枢が日本語世代だった頃は、日本に何か要求するときも「ここまでなら折れてくれる」ラインを見極めながらでしたが、今の韓国は「だれが一番日本に無理筋な要求をだせるか」になっている印象です。

      • 日本は韓国と違って外交儀礼を守るし、それを変えられないので窮屈ですが、メディアへのリーク戦術は頻繁に行いますね。(韓国も頻繁に行いますが)

        そもそも先に水面下での交渉過程などを公にリークしたのは韓国ですしね。しかも脚色つけてあることないこと混ぜて行う悪辣ぶり。
        しかし、メディアへのリーク合戦なら日本も国内向けに相当やり慣れてるので、いくらでもいやらしくやれます。日本官僚の本領発揮ですね。
        万一韓国が密室土下座戦術をとってきた場合、私は日本の政治家がそれを受けてしまうのではないかと懸念してますが、事前リークを繰り返すことによって、そのリスクも少なくなるかと思います。
        韓国との交渉は全てパブリックにオープンな場でのみやるべきですね。
        いや、外交交渉なんてオープンにやっていたら、決まるものも決まらないんですが、そこは韓国が選んだ道ですしね。

  • 果たしてその3つが狙いでしょうかね?
    個人的には真の狙いは「円」と「AZ」の
    ダブルスワップにあるように感じられます。
    今現在、禍の国に最も必要なものはその2つ
    でしょうから…
    違いますかね?

    • 「通貨」も「ワクチン」も同盟国で製薬会社を持つ米国と協議したらどうか、と言われたら何も返せませんな

      で米国に言ったところで、日韓が先だろう、と返されて終わり

      特別待遇はもうない。まず何より国際法違反という罪を償えと散々言っているわけです

  • 相変わらずのチャーハン戦術というかサラミスライス戦術というか・・

    「最後通牒を選択肢にいれ始めた。(どうだ日本よ怖いだろう?)」

    「最後通牒を選択肢にいれる事を決定した。(日本よ恐ろしいだろう?」

    「最後通牒を発表する用意をし始めた。(恐怖に震えているだろう?)」

    「最後通牒を発表する草案が整い始めた。(日本よ 略」

    ・・・・

      •  ・ムンがガースーにサイゴツーチョーの呪文攻撃。
         「ガースーに0のダメージ」
         「***おおっと!***」
         「ムンはくびをはねられた」

         あるいは、

         ・ムンはマハロールでオリンピック訪日。
         「いしのなかにいる」

  • 言うことが、ことごとくブーメランとして、韓国に突き刺さっている感じがします。

    • 体育の飛び箱で 飛ぶ前にどんどん積み上げて 最後こんなに高くては誰も飛べない。よって飛ばない。やめた。 という段取りと思われる。

      • 韓国って自称世界最高水準の技術で作るモノはポンコツばかりですが、ブーメランだけは百発百中ですよね?

        • ブーメランは宗主国と名乗っても誰も突っ込まないと思います。日本にも野党って分家も出来てますし。

      • その跳び箱を日本にも飛べか、日本に跳べって言っているから丁寧に無視されるんですよね。韓国は自分の状況が全く分かっていないんだと思います。

  • 韓国の人って、無駄な事するねぇ。
    日本を訪問する予定は無いで済むのに、何を未練がましく引きずってるんでしょう。

    • 任期中の南北雪解けという夢が諦めきれない、
      でも北朝鮮が相手してくれるのは米国だけ、
      米国には「そのためにまず日韓が先だろう」と言われる、
      早くやらなきゃ間に合わない、五輪外交しかない、
      でも韓国が日本に頼んだという構図は国民が許してくれない、
      →現在の締め切り前の発狂中

      というストーリーだと認識してます。
      五輪のチャンスを諦める=夢を半分くらい諦める、ということではないかと。
      日本にしたら知った話ではないですな。
      まず"宿題をやってこい"しか言えない。

  • 最後通牒を発した。
    →じゃぁ、来ないでね。
    ではだめですか?
    彼の国の最後通牒って言葉は、羽が生えているかのごとく軽やかですね。
    気楽に回答できます。

  • 日本側の反応「ふ~ん。それで?」

    韓国政府が「東京五輪に箔をつけるために、日本政府は文大統領の訪日を本当は希望しているはずだ。(韓国同様に日本もアメリカから圧力を受けているはずなので)菅総理も首脳会談を開催して、"関係改善"を図りたいと考えているはずだ」というバカげた妄想(=韓国的真実)を捨てない限り、どーでもいーグダグダが開幕直前まで続くことでしょう。
    さらに加えて、「菅総理は嫌韓煽動を国内政治のために利用してきたため、少しでも条件を吊り上げる条件闘争をしているに違いない」という一層タワけた妄想に囚われているため、まずます頓珍漢なことを言い出してくるのでしょう。「3つ全部でなくても良い」とか「対話が始まったというだけでも成果だ」などと言い出しているのは、日本側が条件闘争をしているに違いないという根本的な勘違いの産物ですね。

    外交儀礼を遵守する日本としては、「あんたの国もあんたんところの大統領も全く信用してないから」とは直接的には言わず、遠回しに示してはいるのですが、例によって、全く通じておらず、呆れて放置しているというのが真相であるような気がします。

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