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為替スワップから1年:米国はスワップで韓国を脅す?

早いもので、「コロナショックのFIMA為替スワップ」からちょうど1年が経過します。こうしたなか、少しだけ気になる話題がありました。ジャネット・イエレン米財務長官が韓国の洪楠基副首相兼企画財政部長に対し、2008年の金融危機の際、米韓通貨スワップが韓国を危機から救ったと発言した、というものです。

為替スワップから1年

今になって思い出すと、ちょうど昨年の今頃、世界的なコロナウィルスの蔓延により、金融市場が大きく混乱し、新興市場諸国の通貨を中心に大きく売られるという展開に入っていました。

こうしたなか、米連邦準備制度理事会(FRB)が外国の中央銀行・通貨当局(FIMA)との間でスワップを締結すると発表したのが、ちょうど3月19日のことです(『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』等参照)。

このスワップは、FIMAから相手国通貨を担保として受け入れ、そのかわりに相手国に所在する金融機関などに対し、米ドルのターム物短期資金(7日物、84日物)を貸し付けるという協定のことであり、一般にこれを「流動性供給スワップ」ないし「為替スワップ」と呼びます。

FRBが昨年3月19日の時点で、新たに為替スワップを締結したFIMAは、次の9者です。

  • 上限600億ドル…豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁、スウェーデンリクスバンク
  • 上限300億ドル…デンマーク国民銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド銀行

これらの為替スワップ、当初は2020年9月末までの期間限定でしたが、その後は2回ほど延長され、現在の期間は2021年9月末までとされています。

この9者以外にも、米FRBはもともと、日本銀行、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)、カナダ銀行(BOC)、スイス国民銀行(SNB)の5者との間で上限・期間無制限の為替スワップ協定を保持していました。

実際に各国・地域のFIMAがどれだけ為替スワップに基づく資金を借り入れていたかについては、ニューヨーク連銀のウェブサイト “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページで詳しいデータが公表されています。

最大の借入人は日銀で借入額は2258.39億ドル

これを分析すると、FRBによる為替スワップの貸付が最大となったのは2020年5月26日時点の4489.46億ドルであり、同じ時点で日銀が最大の借入人で金額は2258.39億ドルにも達していたことがわかります(図表1)。

図表1 為替スワップによる貸出実績
相手先 最大貸付額 貸付額が最大となった時点
貸出額合計 4489.46億ドル 2020/5/26
日本銀行 2258.39億ドル 2020/5/26
欧州中央銀行 1449.81億ドル 2020/6/9
イングランド銀行 376.95億ドル 2020/4/1
韓国銀行 187.87億ドル 2020/5/7
スイス国民銀行 114.03億ドル 2020/4/19
シンガポール通貨庁 100.28億ドル 2020/5/26
メキシコ銀行 65.90億ドル 2020/4/7
ノルウェー銀行 54.00億ドル 2020/4/26
デンマーク国民銀行 52.90億ドル 2020/4/16
豪州準備仮払金 11.70億ドル 2020/4/30
カナダ銀行 10万ドル 2020/9/28

(【出所】ニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイルをもとに著者作成)

著者私見ですが、日本銀行が巨額の米ドルターム物資金を借りていた理由は、単純に調達金利が有利だったからだと思います(ちなみに日本銀行による為替スワップの引出額、本日までの平均金利は0.33%、平均デュレーションは45日です)。

当初は高金利での借入を余儀なくされた韓国、メキシコ等

しかし、コロナショックのごく初期のころに、たとえば欧州中央銀行やシンガポール通貨庁、韓国銀行やメキシコ銀行が借り入れたローンについては、金利がその3倍~4倍に達していたことが確認できます(図表2)。

図表2 コロナショック初期の為替スワップの引出額(金利0.9%以上のもの)
借入人 スタート・エンド 金額・金利
メキシコ銀行 2020/4/3スタート→2020/6/26エンド 50.00億ドル・0.9056%
韓国銀行 2020/4/2スタート→2020/6/25エンド 79.20億ドル・0.908%
シンガポール通貨庁 2020/4/1スタート→2020/6/24エンド 21.75億ドル・1.0854%
欧州中央銀行 2020/3/12スタート→2020/3/19エンド 0.45億ドル・1.24%
欧州中央銀行 2020/3/5スタート→2020/3/12エンド 0.58億ドル・1.58%

(【出所】ニューヨーク連銀 “Central Bank Liquidity Swap Operations” のページに掲載されているエクセルファイルをもとに著者作成)

実際、これらのスワップ相手国のうち、常設型スワップ締結国(日欧英瑞加)を除くと、引出額がとくに多かったのが韓国銀行やシンガポール通貨庁、メキシコ銀行であったことを踏まえれば、これらの3ヵ国における米ドル資金需要が逼迫していたという可能性を示唆しているのです。

イエレン財務長官の気になる発言

さて、こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、少し気になる記事が掲載されているのを発見しました。

米財務長官「韓国の危機克服に韓米通貨スワップ重要」

―――2021.03.18 12:05付 中央日報日本語版より

中央日報によると、ジャネット・イエレン米財務長官と洪楠基(こう・なんぎ)韓国副首相兼企画財政部長官が17日、電話会談を行い、イエレン氏が洪楠基氏に対し、「2008年のグローバルな金融危機当時、米韓通貨スワップが危機克服において重要だった」と述べた、というのです。

この点、いちおう米国財務省のウェブサイトでも確認してみたのですが、スワップの「ス」の字もありません。

READOUT: Secretary of the Treasury Janet L. Yellen’s Call with Deputy Prime Minister and Minister of Economy and Finance Namki Hong of the Republic of Korea

U.S. Treasury Secretary Janet L. Yellen spoke today with Deputy Prime Minister and Minister of Economy and Finance Namki Hong of the Republic of Korea.  Secretary Yellen reaffirmed the importance of the U.S.-Korea alliance, and emphasized her readiness to deepen economic and financial cooperation between the U.S. and Korea.  The Secretary conveyed her strong intention to work with Korea, both bilaterally and multilaterally, on regional and global challenges including the economic response to the COVID-19 pandemic and climate change.
―――2021/03/16付 米財務省HPより

したがって、イエレン氏が「米韓通貨スワップが2008年の金融危機克服に重要な役割を果たした」と発言したとする話題については、中央日報の記事を信頼するしかありません。

韓国の資本フローと通貨スワップ/為替スワップ

ただし、事実関係でいえば、イエレン氏はリーマン・ショック当時、サンフランシスコ連銀総裁を務めていました。おそらく、韓国の外貨準備不足が同国からの資金フローを不安定にさせているという問題点を、当時から強く認識していたのでしょう。

実際、韓国は2008年当時、資金流出に悩まされていましたが、2008年10月に中国と総額3200億元の通貨スワップ、2008年12月に米国と総額300億ドルの通貨スワップ、日本と結んだ総額200億ドル相当の円資金通貨スワップをそれぞれ結び、その後は通貨暴落も安定しています。

(※当時の日銀の報道発表などを読んでも、このスワップが「通貨スワップ」だったのか「為替スワップ」だったのかについてはよくわかりませんが、ここでは便宜上、「通貨スワップ」としておきます。)

余談ですが、『日韓通貨スワップこそ、日本の半導体産業を潰した犯人』でも論じたとおり、日本が韓国に通貨スワップの規模を2008年に300億ドル、2011年には700億ドルに拡大したことなどは、結果的に日本の仇となったと考えていますが、これについてはまた今後とも取り上げたいと思います。

ちなみにイエレン氏は2010年からFRB副議長、2014年から18年にかけてFRB議長を務めた人物でもあります。金融政策のトップが財政政策のトップに転じたという意味では、米国の金融を深く知る実務家でしょう。

そのイエレン氏が「2008年の通貨スワップが貴国の危機を救った」と発言したということは、いわば、「韓国の金融の命綱を米国が握っているぞ」という警告にも聞こえます。

実際、米国が韓国に対して提供している600億ドルの為替スワップの枠の撤廃をチラつかせれば、韓国を金融面からも脅すことができる、というわけです。

もっとも、当ウェブサイトなりの分析に基づけば、韓国は昨年1年間で外貨準備をずいぶんと拡充したようであり、単純に「為替スワップを撤廃すれば韓国に通貨危機が訪れる」というものではありませんが、この点についてはまた別途、分析したいと考えている次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • アメリカは金融緩和を継続すると思いますので、現在行っているスワップは、当面継続するでしょう。
    韓国だけ止めるというのは、想像しづらいと思います。
    その気になったら、格付け会社の格付けを下げる方が、簡単でしょう。 韓国が、金利を上げざるを得ない状況を作るのが、一番効くと思います。

  • >洪副首相はこの日、「バイデン政権の核心経済議題と韓国政府の政策基調は共通分母が多く、協力の余地が大きい」と述べた。

    「協力の余地」って言い方がいやらしいですね。助けて貰うばかりなのにね・・。

  • 更新ありがとうございます。

    「日本銀行が借り入れ全額の半分を占めたという理由は、単純に調達金利が有利だったからだと思います」(会計士さん)なるほど。知らなかったです。韓国やシンガポール、メキシコとは金利が全然違いますね。

    韓国はこの1、2年、先進国と為替スワップを増やして来ました。だいぶんドルに余裕が出来たのかと思います(いつものアノ4,000億ドルが〜笑)が、米国は脅しにかかっているという見方も慧眼です。

    • >めがねのおやじ さん
      >韓国はこの1、2年、先進国と為替スワップを増やして来ました。
      >だいぶんドルに余裕が出来たのかと思います。

      いやいや 今現在為替スワップという借金で手に入れたドルはありません、なんとか返しましたから唯一貸して貰えた為替スワップという名のNY連銀からのドル借金は。

       それに為替スワップで借りたドルは民間銀行が借りて利用するもの、大韓民国政府の外貨準備金には計上しない。
       ただねぇ~、これが通じないのが支那朝鮮!
       
       
       

  • 多額の配当や、高値圏にある株の売却、企業の撤退など、韓国から資金を回収できる間は流動性スワップの提供を続けるんじゃないでしょうか。
    資金を抜けるだけ抜いて、韓国が干からびた頃を見計らってスワップを停止というのが、本道でしょうね。
    韓国に貸し込んでいる金融機関は、早く貸し剥がさないと。
    並行して、難民流入阻止と、在コ処分も進めねばなりません。

    • イーシャ様

      自国資本の引き上げを念頭に位置づけた”つなぎ融資”。
      質草は確保してあるのだから懐は痛まないですものね。

      米国は自国企業さえ護れれば、対韓債務(韓国保有米国債)を無効化(相殺)するも良し、債権回収機構(IMF)に取り立てを一任するも良し、やりたい放題ですね。

  • 「2008年の通貨スワップ(正確には為替スワップ)が韓国の金融危機を救った」は韓国が作り出してひたすら宣伝している幻想です。実際は取り組まれた時期と金融危機が落ちついた時期が一致していただけです。因果関係になっていません。

    これは私がスワップの話題が出るたびに書いているので耳タコかもしれませんが「通貨スワップ、為替スワップに金融危機を救う効果はない(例外あり)」なのです。

    で、その例外ですが以下の条件を全て満たすものだけが金融危機を救うことが出来ます。
    ・通貨スワップであること(為替スワップではダメ)
    ・米ドルと自国通貨の交換が出来ること
    ・通貨危機の時、介入資金として使うことが相手国から許容されていること

    この条件を満たすスワップを提供する国はほぼ日本しかありません。以後このスワップを「援助型ドル通貨スワップ」と呼びます。

    韓国は自国のウォンを通貨危機から守るために日本の援助型ドル通貨スワップが欲しいのです。ただ、「援助型」であることから上下関係は明確ですし、そこそこの金融規模を持った韓国が通貨危機を守れる必要額を確保することは困難。そこで、韓国は冒頭に書いた幻想を広めます。「通貨スワップと為替スワップの混同」「スワップなら全て通貨防衛に効果ある」「スワップは対等取引」・・・

    そんな幻想を広めて、多額の援助型ドル通貨スワップを日本からせしめた。しかも頭は一切下げず「対等」と言い張って。それが数年前まで続いていた日本の悲劇です。日本は貴重な外貨準備を韓国に搾取されていたのです。

    この幻想そのものはまだ解けていません。ただ、スワップ全体に対する拒否反応を日本に植え付けたので、日本が援助型ドル通貨スワップを韓国と行う可能性はなくなりました。ただ、スワップはなんでも通貨防衛に効果ありと韓国国内で信じられているので、各国とのスワップで通貨危機対策をしているアピールを国内向けに行うことは出来ています。ハリボテですけどね。

    • 普通のスワップが通貨危機を救えない理由を書いておきます。
      為替スワップがダメな理由
      為替スワップはスワップで手に入れた外貨に対する監視がついています。外貨全て、1セントたりともその国の政府、中央銀行が手をつけることは出来ません。まあ、一応外貨を手にした金融機関からキックバックを受けるとかあるかもしれませんが。

      米ドルじゃなきゃダメな理由
      単純に介入の際不便です。通貨危機とは対米ドルでの自国通貨下落ですから、介入する時には米ドルじゃないと都合悪いです。米ドル以外の通貨を使う場合クロス取引になるので、結局2段階の為替取引が必要です。通貨急落という非常時に、米ドル以外とウォンとの交換なんてめんどくさい要求したら、引いたレート(ぼったくりレート)しか提示されないでしょう。為替は相対取引であることを忘れてはいけません。

      相手国が介入を許容しなければダメな理由
      相手が認めなきゃ介入に使えないのは当然。もし騙してスワップしようとしても、感づかれたところで取引ストップしますし、もし約束違反なら出した資金を即返還要求されます。
      じゃあなぜ介入許容しないことがあるのか。当然ですね。介入で手に入れた通貨を売ってしまったら返してもらえない(デフォルト)の可能性が高まりますし、もしスワップしたのが自国通貨なら、それを売り込まれることで自国の通貨危機が起こるかもしれない。