初のFOIP首脳会談、日本にとってはまずまずの成果
先日の『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』でも少しだけ取り上げた、日米豪印4ヵ国の「FOIPクアッド・テレビ首脳会談」について、外務省のウェブサイトにステートメント(原文と仮訳)が公表されています。本稿ではこれらをもとに、声明で「(中国を名指ししない)対中牽制」や「北朝鮮を名指しした核・拉致声明」などが盛り込まれた点、将来の拡張性が盛り込まれた点など、気になるポイントを紹介してみたいと思います。日本にとっては「まずまずの成果」、というわけです。
FOIPクアッド
先日の『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』では、日米豪印4ヵ国(いわゆる「クアッド」)のテレビ首脳会談の話題を取り上げようと思ったものの、首相官邸ウェブサイトや外務省ウェブサイトの更新が間に合わず、結果的に取り上げることができませんでした。
その意味で、本稿は補遺として、外務省ウェブサイトに土曜日に掲載された『日米豪印首脳テレビ会議』、同ページに掲載された『日米豪印首脳共同声明:「日米豪印の精神」』(※PDFファイル)などをベースに、FOIPクアッド首脳会談について検討しておきたいと思います。
そもそも報道などを見ると、この会合を巡っては「クアッド(=4ヵ国)」というキーワードが強調されているフシがあるのですが、当ウェブサイトの見解に基づけば、重要なのは「4ヵ国」ではありません。「自由で開かれたインド太平洋」、英語でいう “Free and Open Indo-Pacific” (FOIP)です。
このFOIPこそ、日本が進むべき方向としては非常に正しいというのが著者なりの考えです(※ただし、パートナーの選び方については慎重であるべきだと思いますが…)。
この点、たしかに英文の公式発表では “Quad” ないし “quadrilateral” 、つまり「日米豪印4ヵ国協力」という表現が出てきますが、これについては将来的に「5ヵ国」、「6ヵ国」、「7ヵ国」と増えていくという拡張性があるはずです。「5ヵ国目」は英国、「6ヵ国目」はフランスでしょうか?
また、韓国メディアなどでよくみられる「クアッドプラス」という表現に対しても、個人的には強い違和感を禁じ得ません。FOIPはあくまでも対等な概念だからです。たとえば「5ヵ国が参加する連携」ならば「クアッド+1」ではなく、「クインテット」や「ペンタ」など、「5ヵ国」を意味する表現を使うのが自然でしょう。
FOIPのビジョン
さて、余談はこのくらいにして、英語の声明文や日本語の仮訳をベースに、この首脳会談について考えてみたいと思います(ただし、日本語の仮訳版は非常に読み辛いので、当ウェブサイトなりに表現を噛み砕いています)。
まずは、FOIPの考え方です。わかりやすくいえば、次のような内容です。
「日米豪印4ヵ国は、FOIPの共通ビジョンにより結束し、多様な視点を持ち寄ることにした。FOIPの共通ビジョンとは、『自由・開放的・包摂的・健全であり、民主的価値に支えられ、威圧によって制約されることのない地域の実現』である」。
これは、FOIPが「4ヵ国」だけでなく、「5ヵ国」、「6ヵ国」と、拡張性のある概念であることの証左です。要するに、「自由、民主主義、法の支配」などの考え方に賛同する国であれば、どの国でもこれに参加することが可能だからです。
また、共同声明では「新型コロナウィルス感染症」、「気候変動の脅威」、「地域が直面する安全保障上の課題」に言及されていて、実際にコロナ対策や気候変動などに関しての作業部会などの設置も決まったようですが、やはり重要なのは「安全保障」でしょう。
名指しせずとも明らかに中国を牽制
これに関連するのが次の宣言です。
「我々は、インド太平洋及びそれを超える地域の双方において、安全と繁栄を促進し、脅威に対処するために、国際法に根差した、自由で開かれ、ルールに基づく秩序を推進することに共にコミットする」(※仮訳のとおり)。
まずは「インド太平洋」、それから「それ以外の地域」において、「国際法+自由+開放的+ルールベースの秩序」を実現する、という宣言であり、これは明らかに中国に対する牽制でしょう。そのうえで、日米豪印は次のように続けます。
「我々は、法の支配、航行及び上空飛行の自由、紛争の平和的解決、民主的価値、そして領土の一体性を支持する」。
要するに、南シナ海にわけのわからない島を作って占領するという中国の行為を許さない、という意思表示であり、また、紛争を武力で解決しようとする行為や、武力で領土の一体性を破壊しようとする行為への警告です。
あるいは、中国を名指ししていない分、暗にロシアや北朝鮮などもこの宣言に含められているのかもしれません。
さらに、日米豪印各国は東南アジア諸国連合(ASEAN)の「一体性」、「インド太平洋に関するASEANアウトルック」(AOIP)を「強く支持する」と述べ、FOIPとAOIPの将来的な連携に期待を示しています。
裏を返せば、ASEAN各国はFOIPを無条件に支持しているわけではない、という意味でもありますが、このあたりはFOIPの中期的な課題となり得る論点でしょう。
※なお、本稿では日米豪印クアッド首脳会談におけるコロナ対策やパリ協定などに関する話題については割愛します。
北朝鮮に対する牽制を盛り込んだ日本
こうしたなか、個人的に興味深いと思ったのは、次の記述です(便宜上、ここに番号を付しておきます)。
- ①東シナ海及び南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦への対応として、海洋安全保障を含む協力を促進する
- ②国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化への我々のコミットメントを再確認する
- ③日本人拉致問題の即時の解決の必要性を確認する
- ④ミャンマーとその人々の長年にわたる支持者として、同国における民主主義を回復させる喫緊の必要性と、民主的強靭性の強化を優先することを強調する
このうち①については、主語がありませんが、明らかに中国を批判しています。また、②と③については北朝鮮、④についてはミャンマーのそれぞれを、実名により批判しています。
ことに、北朝鮮に関しては、「核」「拉致」という、日本にとっては絶対に譲れない2つのポイントを共同声明に盛り込んだことは、非常に良い成果だったと考えて良いでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、今後のFOIP会合の在り方については、どうなるのでしょうか。
これについては、次の2点が宣言されています。
- 日米豪印の外相レベルでの会合は、少なくとも年に1回は開催する。
- 首脳レベルでは、2021年末までに対面の会議を開催する。
つまり、現時点においてはFOIP会合で定期開催が宣言されたものは外相会合の実であり、首脳会談は不定期、ということです。このため、FOIPクアッド会議は、現時点においてはG7やG20などの既存の枠組みと比べ、見劣りがします。
一部報道によると、今回のFOIPテレビ首脳会談についても、インドが実施に後ろ向きだったとの情報もあるため、依然として「日米豪3ヵ国」とインドの間には温度差があるのかもしれません。
あるいは、G7だ、G20だ、といった既存の首脳会合に加えて、FOIP首脳会合などが定例化されれば、首脳会合が乱立することにもつながりかねない、という点については、たしかに懸念点のひとつではあります。
もっとも、何事も最初は不定期の会合からスタートしたとしても、それが会議として有意義であるならば、結果的に定期会合として定着していくはずです。あるいは、G7に豪印両国を参加させ、G7会合のサイドラインとして毎年FOIPクアッド首脳会合を開催する、といった形でも良いのかもしれません。
いずれにせよ、事実上のFOIPの事務局役を務めるなど、推進役を買って出ている日本にとって、今回の初の首脳会合では今後の課題も明らかになったにせよ、とりあえず初回会談としては「まずまずの成果」が出たと考えて良いでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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管総理から中国の海警法について懸念が延べられたものの、結局共同声明には、事前に報じられたような中国名指しは盛り込まれなかったのですね。ヘタれたと見ることもできますが、外交文書は穏健な表現が基本ですから、従来どおりと見た方が良いのでしょう。
一昔前まで、中国に取り込まれてしまったとか、オーストコリアとか言われていた豪州が、こうして対中包囲網の前線に立ってくれたことは感慨深いものがあります。
この構想(FOIP)によって、サプライ・チェーンも大きく変わりそうですね。
更新ありがとうございます。
「クアッド」で止まらず、「クインテット」や「ペンタ」、「ヘキサ」ぐらいポンポーンと増えて欲しいですね。対中意識した、明らかに中国に対する牽制の意味です。ASEANと全面的に合意するのは難儀かも知れません。
中国は南シナ海に、不自然な脅威となる人口島を作った。領土を勝手に広げるという中国の行為は許せません。また、香港、ウイグル自治区など武力で解決しようとする行為も断固反対とし、自由主義陣営から軍力による行動を仕掛ける事も考えるべきです。
待ったナシです。日本の他国侵略なら話は別ですが、悪魔の中国、北朝鮮なら国民の中立層にも理解得られると存じます。共産党と立憲民主は無視で良いです。
すみません、言い続けます。
Quad, Quint, Sext, Sept, Oct…
Quarted, Quinted, Sextet, Septet, Octed….
FOIPクアッドが胎動し始めたことは喜ばしいかぎりです。
特に米国だけは、バイデン大統領に加えて首脳&外務大臣以外にハリス副大統領も参加しており、期待度の高さがうかがわれます。
また北朝鮮関係の文言が入ったのは、非民主主義国北朝鮮との南北統一を最大目標とする韓国の参加へのけん制となるので、菅総理は良い仕事をしたと思います。
今後の課題のひとつは「英国」の参加でしょう。
インドが過去の統治等で参加に難色を示しているとも言われているようでから。
英国が参加できない場合、120年ぶりに日英同盟を再締結しても良いように思いますね。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(そう自分に言い聞かせないと、自分は間違えない存在と自惚れそうなので)
今後、中国が日米豪印クアッドの分断を狙うことが予想されます。その手段として中国の市場を利用するでしょう。しかし、台湾産パイナップルや豪産ワインのことを考えると、いつ、輸入禁止になるか分からないという危険性がつきまといます。(日本企業としても、難しい判断を迫られるでしょう)
駄文にて失礼しました。
以前「自由で開かれた~」って言うと、中国がムキになって「南シナ海は航行の自由が保証され開かれている」と反論してたけど、しなくなったのはいつ頃からだろうか・・・