個人的に、中小企業を経営していて辟易するのは、役所の窓口があちらこちらに分散していることに加え、依然として役所の電子申請の使い勝手が悪く、申請書を物理的に印刷し、いちいちハンコを押さなければならないことです。香港から金融業者を誘致すると息巻くのは結構ですが、まずは役所の意識改革が必要でしょう。こうしたなか、「国会閣僚席次ナンバー2」の河野太郎行革相が、「ハンコ追放」に乗り出すようです。
国会閣僚席次ナンバー2の河野太郎行革担当相
菅義偉政権における閣僚人事の狙いとは、なにか。
そこにさまざまな狙いが込められていることは間違いないのですが、これについて、産経ニュースに昨日、こんな記事が出ていました。
首相「ポスト菅」候補へ河野、加藤、武田各氏らを処遇 小泉氏は「追試」
菅義偉首相の閣僚人事からは、将来の「ポスト菅」と位置づける次期首相候補の育成方針が読み取れる。<<…続きを読む>>
―――2020.9.23 18:12付 産経ニュースより
菅義偉総理大臣の人事を巡って、産経ニュースは「将来のポスト菅と位置付ける時期首相候補の育成方針が読み取れる」としつつ、河野太郎行政改革担当相や武田良太総務相、さらには加藤勝信官房長官らを起用・抜擢した狙いを、「複数を競わせて求心力を高める手法」などと述べます。
この産経ニュースの見方が正しいかどうかは別として、個人的に注目したいのは、河野太郎行革担当相です。
【参考】外相時代の河野太郎氏
(2019年7月19日付)
河野氏は安倍政権下で外相、防衛相を務め、存在感を発揮しましたが、菅総理がその河野太郎氏をわざわざ行革相に起用した狙いは、菅政権が行政改革自体を目玉にしているということを、国民と官僚に見せつけるためでしょう。
しかも、ただの行革相ではありません。国会でも「ナンバー2の席」(議場から見て中央演壇の右側)をあてがっていることに、行革の成果次第では、河野氏を「ポスト菅」の最有力候補に浮上させようとする菅総理の狙いが見えるのです。
ハンコ使用廃止を要求
河野氏を起用した狙いについて、産経ニュースは、こう述べます。
「首相は河野氏の突破力や発信力に期待を寄せており、最重要課題とする『縦割り行政の打破』を任せた。河野氏は自民党で第2派閥の麻生派(志公会)に所属。同派会長の麻生太郎副総理兼財務相と首相は河野氏に実績を積ませて育てる考えで一致しており、河野氏の存在は政権の安定にもつながっている」。
麻生、菅両総理が「河野氏に実績を積ませて育てる考えで一致している」という点は情報源が示されていないのでよくわかりませんが、たしかに河野氏の存在は異彩を放っています。
では、その狙いはどう出て来るのでしょうか。
河野氏が、さっそく興味深いことを言い出したようです。
【独自】河野行革相がハンコ使用廃止を要求 「できない場合は今月中に理由を」
河野行政改革担当大臣が行政上の手続きではハンコの使用を原則廃止するよう求め、できない場合はその理由を今月中に示すよう、各府省庁に伝えていたことがJNNの取材でわかりました。<<…続きを読む>>
―――2020/09/23 17:57付 TBS NEWSより
TBSによると、河野氏は各府省庁に対し、行政上の手続でハンコの使用を原則廃止するように求め、できない場合にはその理由を今月中に示せ、と要求しているのだそうです。
情報源が情報源だけに、全幅の信頼を置くのは早計かもしれませんが、この報道が事実だとすれば、心の底から歓迎したいと思います。
不肖、当ウェブサイトの著者自身も中小企業の経営者ですが、役所に提出する書類に押すハンコは無駄に多く、また、提出書類も郵送で済めばまだ良いのですが、場合によってはわざわざ役所に出向いて直接提出しなければならないというケースも多すぎます。
これらのなかで事務処理能力が際立って低いのは、日本年金機構や日本年金機構、あと日本年金機構などですが、それだけではありません。IT化が進んでいると自認している税務署にしても、法人税の申告書の電子化については進んでいません。
ただし、いきなり「行政手続きをすべて電子化して欲しい」と要求しても、役所の側だけでなく、私たち国民の側も対応しきれません。そこで手っ取り早く、まずはハンコをなくすということからスタートするというのは、着眼点としてはなかなか面白いところだと思います。
挙証責任の転換
さて、このハンコ廃止という着眼点もさることながら、もうひとつ興味深いのは、そのアプローチです。
TBSニュースによると、「関係者への取材」の結果、河野氏は「ハンコの使用が廃止できないのならば、その理由を『今月中に』示せ」と求めているとわかったとしているのですが、これはどういうことでしょうか。
記事を読んでいくと、ハンコを必要とする手続が約11,000件あり、そのなかで役所が「(ハンコを)廃止しない方針」としているものがあるものがあるのだそうですが、これが事実なのでば、まさにそれを求めることに合理的な説明が必要だ、ということです(日本年金機構さん、聞いていますか~?)。
少し大げさな言葉で申し上げるならば、「挙証責任の転換」でしょう。
つまり、「挙証責任」とは、「~であることを証明する責任」のことですが、「ハンコを廃止するためには、ハンコが必要ではないと(行政改革側が)証明する」のではなく、「ハンコを継続したければ、ハンコが必要であると(役所側が)証明する」、ということです。
政治手法としてはなかなか興味深いものといえるでしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、「ハンコ」とヒトコトで言っても、さまざまなレベルのものがあります。
ハンコといえば、役所に出掛けて住民票や戸籍謄本を取得するときや、自宅に郵便屋さんが書留を持ってきてくれたときに押すケースもあれば、不動産取引の契約書、取引基本契約書のような大きな契約をするときに押すケースもあります。
「実印」、「印鑑証明」という制度自体を廃止したときに、契約書を締結する際の「真正性」(その契約が本当に成立したということ)を証明する手段が問題となり得ます。
個人的には、ハンコに代わってマイナンバーカードをさらに普及させるなどして、契約の成立などを電子的に証明できるようにするような社会的努力が必要と考えていますが、これについては河野氏ひとりが口頭で「やれ」といって実現できる話ではないでしょう。
そもそも論として、「電子政府の総合窓口」の使い勝手を本質的に向上させなければなりません(どうでも良いのですが、なぜマイナポータルや日本年金機構の電子申請はあんなに使い勝手が悪いのでしょうか?)。
その意味では、「ハンコ追放」は行革の取っ掛かりのひとつに過ぎません。
それでも昔から「千里の道も一歩から」と言いますので、これが重要な一歩であることを願いたいところです。
View Comments (57)
企業内書類では、稟議書の押印。
ズラーと並びます、印、印、印欄。いんらん、?。
いらん。
新宿会計士さま
「....日本年金機構や日本年金機構、あと日本年金機構など」
webで手続きができるって、そこから案内がきてたので、登録を進めていったら、最後に「会社の印鑑証明郵送しろ」ってもうバカじゃないかと。当然そこで、登録を中止しました。
ともかく、事業やっていると国税、地方税、年金という完全に重複した手続きが鬱陶しいですよね。歳入庁で一本化できるはずなのに。
河野大臣、官僚の抵抗、嫌がらせがあると思いますが、撥ねつけてください。期待しています。
Epiya様
>事業やっていると国税、地方税、年金という完全に重複した手続きが鬱陶しいですよね。歳入庁で一本化できるはずなのに。
激しく同意。
ちょうど今日、農協へ栽培日誌(作付けや使用農薬を申告し、違反等が無いか農協がチェックする書類)を提出したところ連絡があり、
職員「農民さん、この農薬登録外ですよ」
農民「ん?それウチじゃ使ってない…あ隣の欄のヤツだわ、スンマセン」
などとやったばかりです。A3紙にエクセル方眼紙みたいな書式で背景色分けすらないのでしばしばこうなる。これもweb申請して不備があれば登録時に違反表示出してくれれば済むのになー。デジタル化はよ。
先日もコメしましたが、運転免許証のデジタル化(こちらは小此木 公安委員長から)など、「実務の改革」への具体性=本気度がよく伝わってきていて、看板だけのカイカクを叫ぶようなのと違って期待しております。
迂遠に見えて、マスコミなどの既得権益団体を変えていくための布石が着々と打たれていくのかもしれません。過度に期待すると後の失望が大きいので、静かに見守ります。
押印や印鑑より印鑑証明を取りに行く(行かせる)のが面倒くさいなと思う時がありました。
申請が立て込んでいる時、思わず社長に対して「社長の実物は要らん。印鑑証明書だけくれ」と言ってしまった事があり、かなり凹まれました。
押印は意思確認と責任の所在を明確にするためのものなのでしょうが、印鑑証明の添付を要する厳格なものはともかくとして、認印で事足りるような役所への申請書であれば、「自署の場合は押印不要」でいいのでは?
年金機構の各種申請書にもそう書いてあるのだし・・。
当方、零細企業経営者です。
年金機構の書類は自署でOKと書いてありますが、実際にやると捺印が無いといって返送されて来ますので、ぜひ試してみてください。
気球人 様
コメント大変ありがとうございます。
日本年金機構の書類、本当に腹が立ちますよね(怒)
確かに、先日も社判を押さずに送付したら返送されて来ました。そのままもう一度送りつけてやろうと思ったほどです。
また、本当に事務処理能力が低すぎます。ときどき個人情報の漏洩事件を発生させているほどですから。
引き続きのご愛読とお気軽なコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。
気球人様
新宿会計士様
3週間ほど前に国民年金の申請書を署名のみで申請済みです。
コロナで受理要件が緩くなってるのか、個人での申請だからかは定かではないのですが、今のところ返送はありません。
もう少し様子をみたいと思います。
年金の受取手続きも、年金機構と役所のデータをリンクさせて、請求時はweb上で内容の確認と受取口座の入力、セキュリティのための暗証番号の入力くらいでできる様になれば楽なんですが。
更新ありがとうございます。
国会でもナンバー2の席をあてがっている。「ポスト菅」の最有力候補。更に加藤、武田各氏、追試が小泉氏。私はあと荻生田氏や世耕氏も選考に入れて欲しいし小泉氏は脱党して欲しいです(笑)。岸田氏、石破氏はもうええです。
しかし、ハンコが要らなくなったら、印鑑屋という商売が無くなるだろうなぁ〜。年賀状やクリスマスカードの副業だけではやっていけませんね。でも特に難読の氏名の方には朗報だと思います。高い価格でハンコを買わなくて済みます(笑)。
河野太郎行政改革担当大臣が行政上手続きでは、ハンコの使用を原則廃止するよう求めた件、賛同します。私も日本年金機構にはお世話になってますが、何度も出向き、その度にため息が出ました。
できない場合は「できない」理由を示せ、とはまるで野党みたいなニュアンスが気になりますが(笑)、まあ、省力化だから良いでしょう。
今までのやり方だと、先ず、審議会を立上げ、有識者と利害関係者を集め会議し・・・となる処ですが、河野大臣の手法には、先の「目安箱」いい、何か新しい風を感じさせますね。あとは、これが早期の良い結果につながってくれればいいですけど。見守りたいと思います。
武田総務大臣は「総務大臣」にはどんな方がなったのだろうとWikiで調べましたら、選挙では苦労されてるようです。そのためか、勝共連合のお助けも借り、更にハンコ議連の要職に就かれています。ハンコ使用をやめることができない理由を河野大臣にどのように今月中に述べられるか注目しています。
ホントのところ、両大臣には期待しています。
歳入庁が不都合な理由は何でしょうね?また、マイナンバー使用で個人の懐を除かれるのが嫌という国民が多いようですが、皆さんそんなにお金持ってるんですか。
一つ疑問なのですが、現在実印は、実際どれほどの効力を持つものなのでしょうか。
私個人として、万一実印を悪用されたら困るため、実印は、印鑑証明が必要なときだけ役所に登録して、使い終わったら登録を消しています。
これらの処理は、免許証などの身分証明さえあればできてしますので、わざわざ印鑑を通す必要があるのか?ということに、強い疑問を持ちます。
実印を使うことに、一体、何の意味があるのでしょうか?
実印押印の意味は、仮に融資の書類に押印があり印鑑証明書で○○さんの登録印鑑であることが確認できたとすると、それをもって○○さんが提出した書類と認める、という意味合いでしょうが、単に書類プラス免許証のコピーとかで済まそうとすると、免許証のコピーは別の機会に取得したもので書類は別の誰かが偽造したものだ、と主張される可能性があるからなのではないでしょうか。
普通のサラリーマンをやってると、実印を使う場面なんて滅多にありません。社会人になった時、一応実印を作りましたが、使ったのは一度きりでした。
ところが、最近、実印を必要とする状況になったのですが(理由はナイショ)、どこにしまったものやらさっぱり思い出せず、改めて実印を作成する羽目に陥りました(-.-)
ああ、面倒くさい......
そもそも運転免許証の場合、必ずしも誰もが持っているとは限りません。
更に運転免許証を直接に提示するならばともかく、そのコピーではコピーを作成した日付の公的な証明が新たに必要となりますが、コピー日付の公的証明(運転免許証そのものと同等の信頼度のある公的な証明)は現実にはほぼ不可能ですから。