オフショア人民元が昨日、史上最安値に近い水準にまで下落したようです。といっても、人民元は中国当局がある程度動きを管理しているのですが、その一方、アジア通貨について調べてみると、ASEAN各国通貨と韓国ウォンがとくに大きく下落しているようです。
日本時間の昨日夜、「オフショア人民元」が史上最安値に近い水準に達したようです。
WSJのマーケット欄の情報によると、日本時間の昨日夜10時半までに一時1ドル=7.1899元を付けたようですが、これは2019年9月2日の1ドル=7.1946元に近い水準でもあります。
これについて下落原因をいろいろと調べてみたのですが、中国の経済指標に対する警戒という側面に加え、おそらくですが、香港情勢を嫌気しているという側面もあるのでしょう。
As Its Economy Slows, China Embraces a Weaker Currency / Chinese leaders have said they want to hold the yuan fairly steady(米国夏時間2020/05/26(火) 07:04付=日本時間2020/05/26(火) 20:04付 WSJより)
また、コロナ騒動のさなか、年初来最安値を更新していたいくつかのアジア通貨が、ここにきて、再び対米ドルで下落をし始めているようです。日本時間の昨日夜10時半頃のWSJのマーケット欄に表示されていた数字を年初の相場と比較したものが、次の図表です。
図表 アジア主要通貨の対米ドル相場(年初→日本時間5月27日夜10時半頃)
通貨 | 年初からの変動 | 増減率 |
---|---|---|
タイバーツ | 29.56→31.93 | +8.02% |
韓国ウォン | 1155.02→1237.19 | +7.11% |
マレーシアリンギット | 4.0905→4.347 | +6.27% |
インドネシアルピア | 13883→14710 | +5.96% |
シンガポールドル | 1.3448→1.4195 | +5.55% |
オフショア人民元 | 6.966→7.1875 | +3.18% |
人民元 | 6.9632→7.1685 | +2.95% |
ベトナムドン | 23173→23327 | +0.66% |
新台湾ドル | 29.914→30.06 | +0.49% |
フィリピンペソ | 50.71→50.695 | ▲0.03% |
香港ドル | 7.7915→7.7519 | ▲0.51% |
日本円 | 108.76→107.84 | ▲0.85% |
(【出所】WSJのマーケット欄。ただし、5月27日の相場は日本時間夜10時半頃に同欄に表示されていた数字であり、終値とは限らない)
図表中、「増減率」がプラスの通貨は「米ドルに対する下落」を意味します。ここに示した通貨はいずれも「コンチネンタルターム」、つまり、「1米ドル当たりのその通貨の価値」を示しているため、数値が大きくなれば「通貨下落」、数値が小さくなれば「通貨上昇」を意味する点に注意してください。
これらのなかで人民元はオフショアのものが+3.18%(つまり3.18%の通貨価値の下落)、中国本土のものが+2.95%(つまり2.95%の通貨価値の下落)となっていることが確認できると思いますが、いずれの人民元も1ドルあたり7元の大台を上回ってしまっています。
ただ、図表に示したつうかのなかで、人民元以上に下落しているのが、タイバーツ(+8.02%)、韓国ウォン(+7.11%)、マレーシアリンギット(+6.27%)、インドネシアルピア(+5.96%)、シンガポールドル(+5.55%)の5つです。
とくにASEAN各国の通貨は、コロナ騒動のさなかに大きく売られ、その後はいったん戻したものの、依然として年初来の水準に戻していないという状況が続いていることがわかります。
また、中国人民元を除く東アジアの通貨に関していえば、日本円が年初来小幅の円高となっていますが、日本円は国際的な安全資産とみなされている点に加え、ハード・カレンシーでもあるため、米ドルやユーロと並んで小刻みに動くのは当然のことであり、あまり参考にはなりません。
これに加えて香港ドルの場合は米ドルと「ペッグ」していて、おおむね1米ドル=7.75~7.85香港ドルという非常に狭いレンジでしか動かないため、香港ドルが対米ドルで上昇していようが、下落していようが、このレンジ内であればあまり関係ないと思います。
ただ、ここで興味深いのは、新台湾ドルと韓国ウォンです。
直感的には、中国本土と同じ(?)言語を使う台湾が中国と同一視され、中国とは異なる言語を使う韓国は中国とは切り離されて意識されるような気がするのですが、現実のマーケットはそうなっていません。新台湾ドルは非常に安定している一方、韓国ウォンは大きく下落しているからです。
新台湾ドルが安定しているのは、中国からの入国者を早い段階でシャットダウンし、コロナの防疫と収束にかなり早い段階で成功していた、などの事情も評価されているのかもしれません。また、韓国ウォンが下落しているのは、5月28日の利下げ観測などもあるのかもしれませんが、それだけとも思えません。
具体的には、市場関係者が韓国を中国と「一蓮托生」とみなし始めている、という要因があるように思えてならないのです。
このあたりの見極めにはもう少し時間が必要かもしれませんが、いずれにせよ、興味深い点でもあるといえるでしょう。
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最も経済の実勢を正確に表すのは、やはり名目GDPの米ドル換算だと思いますが、
ウォン安でまた日韓の差が広がりました
韓国人は何故か「一人当たりGDPではそのうちに日本に追いつき追い越すだろう」と願望してる様ですが、
むしろ近年こそが日本にとって最も韓国に追いつかれた時代として、
最大の屈辱の時代だったという過去になると思います
新宿会計士様、更新お疲れ様です。
各国のファンダメンタルと中国との経済的結びつきが如実に表れたものだと見ております。
対ドル為替レートの変動の小さい新台湾ドル、ベトナムドン、フィリピンペソは、何れも中国と距離の空いている国家の通貨であるというのが見えてきます。
香港に対する中国の国家安全法の影響ではないでしょうか?
これが成立し、運用されれば、香港は名実共に中国の一部になってしまいます。中国憎しの米国は香港の優遇をやめ、場合によっては香港ドルの存在意義そのものが失われるかもしれません。
そうなれば、中国本体もドルを入手困難になり、経済の混乱は(今以上に)不可避となります。
台湾と韓国の違いに関しては、米側寄りか中国側寄りかの差も大きいと思います。
中国寄り米国寄りの差もありますが、国内の経済政策の評価も含まれていそうです。
単純な国家の運営の能力(特に経済分野)での市場の評価が出ている面もあると考察します。
人民元の為替相場は,他の通過のようにマーケットで決定されているような格好になっていますが,実際には,巨額の外貨準備に支えられた中国政府による管理相場になっています。今回の人民元安も,輸出を容易にするように,意図的に中国政府が誘導している,と考えた方がいいと思います。自由に海外に出かけられないし,輸入は輸出に比べて少ないので,新型コロナで傷付いた中国経済の立て直しのためには,元安が望ましい,というのは合理的判断だと思います。コロナ以前は元安にしたくてもアメリカに止められていましたが,今はアメリカに気を遣う必要がなくなりました。
中国と一蓮托生のように見えなくもない国々は、いずれも中国とのスワップ締結国。
脆弱な経済基盤に「通貨売りの圧」を常時被っています。首根っこを掴まれてます。
もうアメリカの対中圧力は強まるばかりですからウォンはこれから下がる一方でしょうね。株価は国民が借金して買い支えてますが通貨は彼らにはどうしようもありません。今後ますます対日工作が強まりそうです。
ウォンが、人民元と似たような動きをするのは、結構前からだと思います。マーケットは、ウォンを人民元と関係性が、強い通貨としてみなしているという事です。
今回のウォン安が、人民元の低下に引きずられたものかどうかは、良く分かりません。
先週1244まで行ってますから、そこよりはウォン高だと見る事も出来るでしょう。
更新ありがとうございます。
(対ドル相場)
韓国ウォン1155.02→1237.19 +7.11%
オフショア人民元 6.966→7.1875 +3.18%
人民元 6.9632→7.1685 +2.95%
日本円 108.76→107.84 ▲0.85%
これだけで、ヨロコビです。中国と韓国の一蓮托生ぶり、共に荒縄で身体を括って相手を道連れ、入水自殺を誓ったのに、中国は解いて助かる、、というストーリー(笑)。
めがねのおやじ様
なんて心温まるような素晴らしいストーリー! www
さっきから、ウォンが1240攻防戦に入りました。
昨日抜かれた所は、ほぼスルーしてますね。
とりあえず、1240は抜けたようです。
台湾の通貨の安定は、台湾の経常収支が長期にわたって黒字基調で、外貨準備もしっかりしているからだと存じます。日本ほどため込んでいませんが、日本と同様にしっかり貯めこんでいる国です。約20年前のアジア通貨危機のときも台湾ドルはびくともしませんでした。通貨面で見たときに、台湾は日本と同様に非常に強い国です。だから、どこかの国と違って日本との通貨スワップを求めることもありませんし、実際のところ不要でしょう。
台湾の通貨の暴落があるとしたら、中国に攻め込まれた場合くらいですが、この事態になったら、通貨スワップも意味ありません。日本と台湾で一番必要なのは、アメリカも入れたNATOの東アジア版でしょう。
アメリカが香港の地位を見直そうとしていますが、香港ドルと人民元がどうなるのか非常に興味があるところです。