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「トリアージ」の重要性 医療崩壊進む韓国が反面教師

昨日、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に、さる有名な政治学者が寄稿した「安倍批判」記事を発見しました。これによると、韓国で感染者数が急増しているのは韓国政府が感染者をなるべく正確に発見しようとしているからであり、これには文在寅大統領の指導者としての覚悟を感じる、などとしているのですが、正直、「トリアージ」という考え方からすれば、まったく逆の姿が見えてくるような気がしてなりません。

ハンギョレ新聞の論考に違和感

昨日、とある方から、こんな記事を教えていただきました。

[寄稿]新型コロナウィルスと政治(2020-03-01 20:03付 ハンギョレ新聞日本語版より)

「寄稿」とありますが、寄稿した人物は有名な日本人政治学者です。敢えて実名に触れないでおきたいと思いますが(※リンク先を読んでいただければ一発でわかりますが)、「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』に寄稿なさるくらいですから、いかなる思想の方かは何となく想像が付きます。

いちおう、当ウェブサイトなりに内容を要約しておきましょう。

  • 新型コロナウィルスとの戦いにおける日韓両国の対応は対照的だ。韓国で感染者数が急増しているのは、韓国政府が感染者をなるべく正確に発見しようとしているからであり、大邱に赴いて陣頭指揮を執るムンジェイン大統領の姿勢には指導者としての覚悟を感じる
  • 一方で日本政府は事実を客観的に見ず、主観的な思い込みに基づいて行動している。横浜に寄港したクルーズ船では日本政府の対応のまずさにより船内での感染拡大をもたらし、検疫後帰宅を許された人々は公共交通機関を使用して移動した
  • 日本政府の問題点はもうひとつある。日本政府は感染者などを発見することに消極的であり、功労大臣は国会答弁で、PCR検査は1日100件に達しておらず、地方自治体による検査数は把握していないと述べたほどだ

…。

「韓国素晴らしい」、「日本はダメだ」という、非常にわかりやすい文章ですね。

コロナ感染者数の比較

ところで、

韓国において感染者数が急増しているのは、検査が多く実施されているからであり、日本で感染者数がさほど増えていないのは、検査がそこまで実施されていないからだ

とする主張自体は正しいのだと思います(日韓のどちらが正しいか、という話は別として)。まずは事実関係を確認しておきましょう。

昨日の『「GSOMIA終了撤回から100日」、それが何か?』では、コロナウィルスの感染者数についての日韓比較を行いました。あらためて、昨日時点の最新データをもとに、この日韓比較をアップデートしておきましょう(図表1図表2)。

図表1 日本におけるコロナウィルス感染者の状況

(【出所】厚生労働省ウェブサイトの報道発表をもとに著者作成)

図表2 韓国におけるコロナウィルス感染者の状況

(【出所】韓国の報道発表をもとに著者作成)

いかがでしょうか。

もちろん、日本におけるコロナウィルス感染者数が239人だとは「信じられない」、と批判する人がいらっしゃることは重々承知しています。ただ、そう思う人こそ、まずは首相官邸ウェブサイトに昨日付で更新された『新型コロナウイルス感染症に備えて』を読んでいただきたいです。以下抜粋します。

新型コロナウイルスへの感染のご心配に限っては、最寄りの保健所などに設置される『帰国者・接触者相談センター』にお問い合わせください。特に、先日『相談・受診の目安』として公表しました以下の条件に当てはまる方は、同センターにご相談ください。

  • 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)
  • 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合 高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など))がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方
  • 風邪の症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合

帰国者・接触者相談センター』では、皆さまから電話での相談を受けて感染が疑われると判断した場合には、帰国者・接触者外来へ確実に受診していただけるよう調整します。その場合には、同センターより勧められた医療機関を受診してください。複数の医療機関を受診することは控えてください。

同センターで、感染の疑いがないと判断された場合でも、これまで同様かかりつけ医を受診していただけます。その場合、肺炎症状を呈するなど、診察した医師が必要と認める場合には、再度同センターと相談の上、受診を勧められた医療機関でコロナウイルスのPCR検査を受けていただきます。

トリアージとは?

これによれば、PCR検査を受けるのは、保健所などに設置されている「帰国者・接触者相談センター」が「感染が疑われる」と判断した場合や、かかりつけの医師が必要と判断した場合などに限られますし、また、複数の医療機関を受診することも控えるべきでしょう。

これについて理解するうえで、とても大事な考え方が、トリアージです。

このトリアージという概念について、神奈川県のホームページには、次のように記載されています。

トリアージ(triage)とは、医療資源(医療スタッフや医薬品等)が制約される中で、一人でも多くの傷病者に対して最善の治療を行うため、傷病者の緊急度に応じて、搬送や治療の優先順位を決めることをいいます。

昨日までに当ウェブサイトに寄せていただいた読者コメントでも、複数の方々がトリアージに言及されていましたが、わが国においては希望する人全員にPCR検査を実施しない理由も、

医療資源が制約されるなかで、傷病者の緊急度に応じて、搬送や治療の優先順位を決める必要があるからだ

と考えれば、すっと理解できます。

限られた医療資源を検査で潰せば、医療崩壊にもつながりかねません。少なくとも検査に関していえば、現在、韓国で発生している出来事を見れば、日本政府の対応が何も間違っていないことは明らかでしょう。

あるいは、これまで日本が行ってきた、「コロナウィルスのPCR検査は帰国者・接触者相談センターなどが必要と判断した場合に限られる」とする方針自体が、形を変えたトリアージのようなものかもしれません。

トリアージに失敗した事例

こうしたなか、韓国メディア『聯合ニュース』に、考えさせられる記事が掲載されています。

入院待機確定者また死亡入院患者1人追加死亡(2020-03-01 19:43付 聯合ニュースより【※韓国語】)

記事によれば、韓国・大邱(だいきゅう)市でコロナウィルス感染者が3人亡くなったそうですが、亡くなった方の中に、自宅で入院を待っていた86歳の女性も含まれていたのだそうです。聯合ニュースはこれについて、

政府は病床不足の問題を解決するために、症状が中度、軽度の患者を分離して管理・治療する方針を明らかにしたが、それでも病床の確保の問題が根本的に解決されない場合、こうした残念な状況がいつでも再現されてしまいかねない状況だ

と述べているのですが、言い換えれば、これはまさにトリアージに失敗し、医療崩壊が生じつつあるという証拠でしょう。

ちなみに聯合ニュースの記事を読めば、亡くなった方々の多くは高齢で、かつ、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を持っている場合が多く、自宅待機中に亡くなった方も糖尿病、高血圧、高脂血症に罹患されていたと記載されていますが、これは日本や中国とも共通しています。

しかし、韓国が日本と根本的に異なっているのは、まさに医療崩壊が発生しつつあるという点にあります。聯合ニュースは

1日午前9時時点で大邱における感染確定者2,569人のうち898人が入院措置される一方、1,661人が入院待機中である/待機患者のうち、まず、入院が必要な重症患者は19人である

と述べているのですが、これも驚く話です。

ちなみに韓国政府は病床不足の問題を解決するために、患者を症状別に分類・治療するよう、管理指針を変更したそうであり、大邱でもやっと2日以降、患者の重症度を4段階に分類して治療する方針に転換するのだそうですが、どうも遅すぎます。

医療崩壊といえば、コロナウィルスの「震源地」である中国・武漢(ぶかん)で発生しましたが、韓国・大邱は「第二の武漢」になりつつあるようです。冒頭に紹介した『ハンギョレ新聞』寄稿文の著者の方にはまことに申し訳ないのですが、韓国は日本にとっての「反面教師」と言わざるを得ません。

もちろん、この期に及んで「コロナより桜が大事」とばかりに「桜を見る会」問題の追及に明け暮れる特定野党、特定メディアなどの惨状、あるいは非科学的に「140字でまとめて」と主張しているごく一部の自称保守論客を眺めていると、必ずしも韓国の状況を笑えるわけではありませんが…。

結果論ですが…

さて、わが国ではツイッター界隈などを中心に、「中国からの入国を拒否しなかったこと」や「マスクの供給不足が生じていること」、果ては「トレットペーパー等の買い占めが進んでいること」を巡り、日本政府の対応を批判する声が広く見られます。

ただ、日本政府の一連の対応を巡って、個人的にいちばんすんなりと納得できる説明が、「ケロお」様という方が執筆して下さった『【読者投稿】日本政府の対応はシナリオに沿っている』という論考です。

ケロお様によれば、内閣官房ホームページ内にある『新型インフルエンザ等発生時の行政対応訓練・研修ツール』の訓練・研修用テキストを確認すれば、日本政府の今回の対応は

  • ①「水際対策」は序盤の国内侵入モニタリングのためと割り切る
  • ②国内侵入後は症例集めをして危険性評価を急ぐ
  • ③医療崩壊を防ぎつつ重症者の救命を最優先にする
  • ④患者数の増加自体は仕方がないので、流行の山を遅く、低くすることを目指す

というものであり、とくに④については「最終的には国民ひとりひとりの行動にかかっている」という観点から、国民に対しては「手洗い、普段の健康管理、適度な湿度を保つ、咳エチケット」などの励行を呼びかけているのです。

ちなみに、米国は2月上旬までに中国からの入国者を規制していましたが(詳しくは米CDCウェブサイト “Travelers from China Arriving in the United States” 等参照)、その米国では日本時間の昨日までに、初のコロナウィルス関連の死者が出たようです。

U.S. Reports First Coronavirus Death, Imposes New International Travel Restrictions(米国時間2020/02/29(土) 22:18付=日本時間2020/03/01(日) 12:18付 WSJより)

当ウェブサイトでも「とある福岡市民」様が『【読者投稿】学術論文から見た「入国規制に意味なし」』で指摘して下さったとおり、実際、入国規制については「やってもほとんど意味がない」という学術論文も多数あるようです。いろいろ考えさせられますね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、安倍政権のコロナウィルス問題への対処が100%正しいのかどうかは、正直、現段階では何とも判断できません。しかし、あとから出てくる情報から、「結果的に日本政府の対応が正しかったのか、間違っていたのか」が判断される、という側面が強いと思います。

その典型例が、ダイヤモンド・プリンセス号事件でしょう。

英国船ダイヤモンド・プリンセス号でコロナウィルス感染者が蔓延した件について、日本政府の対応を批判する人は多いのですが、『「神風邪」論の不謹慎さと「コロナより桜」の情けなさ』でも触れたとおり、国際法上、日本政府の対応には限界があったことも事実です。

ダイヤモンド・プリンセス号は、1月20日に横浜港を出港し、2月3日に横浜港に戻ってきたのですが、香港で下船した人の感染が2月1日に判明したにも関わらず、次の記事によれば船内では2月5日の朝まで隔離されず、イベントなども行われていたそうです。

「ダイヤモンド・プリンセス」下船者に訊く~船内で起こっていたこと(2020年02月25日 13時51分付 『ねとらぼおかね』より)

コロナウィルスの蔓延は日本の主権が及ばない場所において発生したのであり、その全責任は船会社と船長、そして船が所属する英国政府にあると言わざるを得ません。

いずれにせよ、現在は医療崩壊が生じつつある韓国などの事例を「他山の石」としつつ、私たち日本国民がやらねばならないことは、国民レベルで意識を高め、ウィルスの蔓延を防ぐことではないかと思うのです。

新宿会計士:

View Comments (82)

  • この教授に、国から多額の研究費が、付いている事が、問題だと思います。

  • 新宿会計士様

    上念司氏がYou Tubeにて、藤原かずえ氏による入国禁止措置に対する論評が紹介されていました。ご参考まで。

    http://agora-web.jp/archives/2044541.html

    結論から言いますと、中国全土からの入国禁止には「国民が喜ぶ」以外のメリットは無さそうです。現状、団体観光が禁止されているため来日者は限られています。

    一方、韓国とはビザ無し渡航が可能であり、移動の自由も確保されているため、事実上制限がありません。影響力は中国の比では無いでしょう。

    • 山田内膳 様

      貴重なデータろ記事をありがとうございます。これを早く読みたかったです(笑)

  • 功労大臣→厚労大臣 ですね♪

    リンク先の記事を一読したのですが、政府の対応がダメだってのは意見だから自由だと思うのですが、ではこれからどうすべきが書いてないのは、今ひとつだと思ったのです♪
    韓国を見習って、安倍総理自ら現場で指揮するとか、全国民検査とかはあんまし現実味がないと思うのです♪

    あと、オリンピックにからめて、
    >感染者数を過小に公表
    ってのは、他所でも耳にするのですが、考え過ぎなように思うのです♪ 
    周辺国に比べて数が少なくても、「少なすぎないのでは?検査体制が整ってないのでは?」って疑問に繋がるし、周辺国からの入国を禁じていない以上、「どうせ入ってきてるよね♪」って言われるわけだから、数だけ減らしても意味ないと思うのです♪

    あと、最後に記事の写真が、死神博士みたいで、悪意を感じるほどなのです♪ 主張の是非はともかく、もう少し良い写真を使ってあげてなのです♪

  • トリアージ、大事ですね。

    一時的に世界は混乱するでしょう。
    協力が必要なときです。
    でも、トリアージ。
    隣国であっても、救いようのない国は黒判定で。
    まぁ、いろんな意味で元々まっ黒ですし。

  • 山口二郎教授の底意地の悪さよ…
    ハンギョレなんて、一般の日本人はほとんど読むことがありません。読むとすれば、5Chの常連か、韓国に特別な関心を払う者か、特別な北朝鮮愛に満ち溢れた者に限られるでしょう。
    一般の韓国人もほとんど読むことがありません。読むとすれば、青瓦台や文在寅の岩盤支持層に限られるでしょう。
    ですが、ここの読者層は、現在の韓国を実際に動かしていく指導層に当たるわけです。ここからハンギョレの記事内容が、現在の韓国の政策に反映されていく確立が最も高いことになります。

    自分が記事を深読みした感覚では、山口二郎教授はトリアージの概念を知っていれば、韓国の現在の医療体制のままでは医療崩壊を起こす確立が高いことまでも知っているように思えます。知っていた上で、韓国の国民に反日感情と間違った優越感を炊きつけながら、韓国が医療崩壊を促進させるようにわざと持って行っている底意地の悪さを感じます。
    韓国国民を罠に嵌めることが罪だと言うのであれば、山口教授の罪は海よりも深いことになるでしょう…

  • 医療崩壊が進むなかでも、韓国は平壌運転。
    ポッケナイナイに励んでいらっしゃいます。

    韓国民からは、いつも通りの他人事発言。
    「これが苦ニカ?」

    大丈夫、大したことではないよ。
    明日に比べれば。

  • 日本の施策については、細部のケアが後手になっている点が今後の課題となりますが、政治情勢を考えた場合この辺が限界であると私は考えております。
    (つい先日までサクラサクラしているようでは…)

    韓国の現状は、先のMERSのでの反省から流行初期段階における検査体制は整えていたようであるが、その後の対処について検討していなかったと私は判断します。
    これから治療体制を立て直そうとしたら、無症状感染者を病院から押し出して自宅療養に変更したり等、ラフな対処をせざるを得ないようにも考えておりますが、国民性を考えた場合かなりの困難を伴いそうです。

    本記事の話題にはなっておりませんが、イタリアの状況も注視しておく必要があると考えております。
    (感染者が見つかった直後、不安を感じた人々が病院へ殺到、感染クラスタを形成してしまい、そこからサブクラスタが展開され…の状況であると考えております)
    なおイランでの状況については保険医療状況が大きく異なるため、参考にする事はないと考えておりますが、我が国での状況がある程度好転した後、支援検討の俎上に上がる余地がありそうです。
    (アメリカを説得する必要がありますけど)

  • 更新ありがとうございます。

    ハンギョレへの寄稿者が、あの山口二郎氏と知って読む気が失われました(笑)。どうせ反日の急先鋒だから、日本を、安倍総理をコケにした話しか載ってないでしょう。

  • 各国の感染者数は検査体勢の相違で当てにならないところがありますが,死亡者についてはきちんと検査ができているという前提では,ある程度死亡者が増えた段階では,その数字から感染者のおおよその人数を推定することができます。ダイヤモンドプリンセスが全数調査によって,感染者の死亡率は大雑把に言って1%くらい,という数字を出してくれています,ただし,乗船客が年配者に偏っているので,武漢のデーターから補正すると(人口ピラミッドの影響も受けるので),ものずごく雑に言って,本当の死亡率は武漢の1/10~1/5の0.2~0.5%程度であろうと推定できます。仮に上限値の0.5%を採用して各国の感染者数と志望者数を見ると,先進国では比較的妥当な値になります。そこで,死亡者が数人以上出ている国ではその200倍くらいが感染者ではないか,と非常に大雑把に推定することができます。死亡者数はWikipediaの「国・地域毎の2019年コロナウイルス感染症流行状況」が更新が早いようです。そうすると,ダイヤモンプリンセス号乗客をの除いた日本国内の感染者数は1000人程度であろうことが推定できます。(アメリカは死亡者の死因の検査が行われてこなかったので,例外です)
    これは,首都圏等で市中感染が始まったことを考えると非常に少ない人数です。その原因をいろいろ分析していたのですが,昨日「新型コロナウイスルの飛沫感染能力はインフルエンザウイスルより低く,主に接触感染で人から人へ感染する」という学説があることを教えてもらいました。この仮説が電車内での感染があまり起きていないこと,握手や大皿から料理と分け合う習慣が少ない日本で感染拡大が遅いこと(気温要因もあると思いますが)をうまく説明してくれます。
    以上のような理由で,今後,日本ではトリアージが必要になるような事態にはならないと予想しています。

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