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茂木敏充外相が「日韓交渉に含み」?断じてありません

久しぶりに、驚いてしまいました。茂木敏充外相が「韓国側が国際法違反の状態を是正するような提案を行うなら、拝聴したい」と述べたことを、韓国メディア『中央日報』が思いっきり曲解し、自称元徴用工判決問題などを巡り「交渉の余地が出てきた」、あるいは「問題解決のためには韓日政府が一歩ずつ譲歩しなければならない」などと主張し始めているからです。ハッキリ申し上げてお話になりません。

日韓間の諸懸案の責任は韓国にある

先週の『韓国保守系メディアの危機感と「GSOMIA延長論」』などでも紹介しているとおり、ここ数日、韓国のメディア(とくに「保守系メディア」)から、「このままでは日韓関係、米韓関係が大変なことになってしまう」、といった「悲鳴」にも近い叫びが続いています。

しかも、普段の韓国メディアは「日韓関係悪化は日韓双方に原因がある」、「だから日韓双方がお互いに譲歩すべきだ」、といった主張を展開することが多いのですが、こと日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)に関しては、韓国メディアには珍しく「無条件復帰すべき」などと主張しているのです。

ただし、日韓間の諸懸案は日韓GSOMIA破棄問題だけではありません。

昨年秋口以降、文在寅政権下の韓国と発生した問題だけでも日韓間の諸懸案を大小思いつくままリストアップしていくと、すぐに10個以上挙げられますが、日韓GSOMIA破棄は数ある問題のひとつに過ぎないことがわかります。

  • ①旭日旗騒動(昨年9月頃~)
  • ②自称元徴用工判決問題(昨年10月30日)
  • ③レーダー照射事件(昨年12月20日)
  • ④天皇陛下侮辱事件(2月頃)
  • ⑤輸出管理適正化措置(7月1日発表、8月までに施行)
  • ⑥慰安婦財団解散問題(7月頃)
  • ⑦日韓請求権協定無視(7月19日)
  • ⑧日韓GSOMIA破棄(8月22日)
  • ⑨対日WTO提訴(9月11日)
  • ⑩釜山「抗日通り」標識設置(10月30日)

少なくとも日本は譲歩しないし、してはならない

このうち⑤(輸出管理適正化措置)については、国際的な輸出管理体制の要請に従って日本が発動したものであり、経済制裁でもなければ不法行為でもありません。日本として当然の行為です(『総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ』参照)。

よって、⑤については「日本が韓国に譲歩する」という性質のものではありませんし、間違っても絶対に「譲歩」してはなりません。

一方、ここに挙げたなかの⑤以外はすべて、韓国が一方的に、日本に対して仕掛けている「不法行為」です。落としどころとしては韓国が日本に対して不法行為をすべて撤回し、必要に応じて謝罪のうえで、日本に生じた損害を回復する以外にほかありません。

こうしたなか、従来の日本政府だったら、「ここで日本が譲歩して済むのなら、原理原則を多少捻じ曲げてでも、日韓関係をうまく機能させることを優先しよう」、などと判断していたかもしれませんし、日本の外務省や経団連、日韓議連関係者などの一部にはそのような動きもあるようです。

しかし、少なくとも現在の安倍政権は、このようなことを考えていません。

それどころか、安倍晋三総理大臣を筆頭に、政権幹部は「韓国が国際約束を守ることが重要だ」と述べ続けています。いわば、「日韓関係の悪化局面は韓国が作り出したものであり、これを打開するためには韓国がアイデアを出さねばならない」との見解だと考えれば良いでしょうか。

茂木敏充外相、従来の見解を繰り返す

先週金曜日の茂木敏充外相の記者会見を読んでいても、こうした見解は明らかです。これに興味深い下りがありましたので、ちょっと長いのですが、そのまま引用してみましょう。

茂木外務大臣会見記録(令和元年11月8日(金曜日)16時18分 於:本省会見室)

【聯合ニュース イ・セウォン記者】徴用の問題に関してお伺いしたいのですが、先日、文喜相(ムン・ヒサン)韓国国会議長が日本を訪問したとき、日韓両国企業による自発的な寄付金と両国国民からの募金で、徴用された方々のための基金を作る方法を解決策として提案しました。この提案に対し、日本政府はどういうふうに評価しているか教えてください。

【茂木外務大臣】ご質問は、旧朝鮮半島出身労働者問題についてということでよろしいですか。

【聯合ニュース イ・セウォン記者】日本でそういう表現をされている問題ですね。

【茂木外務大臣】そのご質問でよろしいですか、それとも違いますか。

【聯合ニュース イ・セウォン記者】そうです。

【茂木外務大臣】ご指摘の件につきましては、韓国の国会において模索されているものであると承知をしておりまして、他国の立法府における議論について、日本政府としてコメントすることは差し控えたいと思います。日本政府としては、韓国政府に対して国際法違反の状態の是正を強く求める立場に変わりありません。まさに、ボールは韓国側、そして韓国政府にあると思っております。

【聯合ニュース イ・セウォン記者】もし韓国政府から、そういうような解決策を提案いただいた場合は、日本政府としてそれが検討の対象になる可能性はあるんですか。

【茂木外務大臣】「その」というのは何でしょうか。

【聯合ニュース イ・セウォン記者】文議長が提案した、そういうような提案です。

【茂木外務大臣】文議長の提案につきましては先ほどお答えしたとおりであります。韓国政府が国際法違反の状態を是正する、こういう案をお示しいただきましたら、当然日本として、それについては拝聴したいと思っております。

―――2019/11/08付 外務省HPより抜粋

茂木外相は韓国人記者から自称元徴用工問題を巡って質問を受け、

  • 日本政府としては、韓国政府に対して国際法違反の状態の是正を強く求める立場に変わりはない
  • ボールは韓国側、そして韓国政府にある
  • 韓国政府が国際法違反の状態を是正する提案を示してくれれば、それについてはまずは拝聴したい

と述べたのです。

中央日報「茂木外相の姿勢に変化」

いかがでしょうか。

とくに「韓国が国際法違反の状態を是正する提案を示せば、まずは拝聴したい」という下りは、従来の日本政府の立場からすれば、当然そのような結論になりますし、その意味で、この発言は従来の日本政府の見解とは、何ら変わっていません。

(※ちなみに当ウェブサイトでもこの茂木発言を「従来と見解がまったく同じだ」という理由で、特段取り上げませんでした。)

ところが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、びっくりしてしまう記事が掲載されていました。

茂木外相「韓国、解決法を提案すれば耳を傾けたい」…気流変わるか(2019.11.11 06:39付 中央日報日本語版より)

中央日報の記事を要約して箇条書きにしておきましょう(※適宜、日本語表現は整えています)。

  • 茂木外相は8日の記者会見で「韓国が国際法違反の状態を是正するような提案があったら十分耳を傾けたい」と話したが、これは強制徴用者の賠償問題に折衝の可能性が生じたのではないかという見方がある
  • 問題解決のためには韓日政府が一歩ずつ譲歩しなければならないという指摘が出ている。日本政府は「国際法違反」と主張するが、各国の司法判断は憲政秩序の問題なので各自判決の効力を相手国に強要することができないからだ
  • こうしたなか、韓国政府は2007年の西松建設の中国人強制徴用被害者に対する和解事例なども参考にしつつ、水面下では和解手続を模索している

(※下線部は引用者による加工)

…。

日韓メディアを問わず、新聞にありがちな、「~という見方がある」、「~という指摘が出ている」という下りは、たいていの場合、その新聞記者の願望であり、本記事もおそらくそのたぐいのものと考えて間違いないでしょう。

それにしても茂木外相の「韓国から提案があれば拝聴したい」という下りが、「交渉の余地が生じて来た」と、どうやったら解釈できるのでしょうか?不思議というほかありません。

この期に及んで「韓国に譲歩せよ」論を警戒せよ!

さて、韓国国内でも、中央日報のような(自称)「保守系メディア」の多くは、「用日論」を掲げていますが、この「用日論」とは、「日本に対しても、利用できるところはタダ乗りしよう」とする、まことにムシの良い主張であり、「権利を行使する一方義務を果たさない」という点では典型的な「食い逃げ外交」です。

ただ、現在の日本政府は、(まだ不十分な点もあるとはいえ)韓国側のこうした「食い逃げ外交」を許さない、という姿勢を明確にしています。そうなってくると、結局のところは

  • ①韓国が国際法や約束をきちんと守る方向に舵を切ることで、日韓関係の破綻を避ける
  • ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することで、日韓関係の破綻を避ける
  • ③韓国が国際法を破り続け、日本が原理原則を貫き続けることで、日韓関係が破綻する

という3つのシナリオのうち、③が実現する可能性が極めて高まってしまっているというのが現状です。

こうしたなか、真に警戒すべきは、日本国内のメディアがいっせいに②を唱え始めることです。

実際、「ATM」(朝日、東京、毎日の各紙)に代表される極左メディアはもちろんのこと、以前『日経「日韓に残された時間は少ない、双方が歩み寄れ」』などでも報告したとおり、最近では日経新聞ですら、②のような主張をしています。

また、「日韓関係が悪化したら中国や北朝鮮を利することになる」、「だからこそ日本はどんな犠牲を払ってでも日韓関係を維持すべきだ」、といった主張は、高名な戦略家のあいだでも見られます(『「日韓関係悪化は中国を利する」、その何が問題なのですか?』参照)。

むろん、当ウェブサイトとしても「日韓関係の無秩序な破綻は避けるべきだ」と考えていますが、ただ、それと同時に、ありとあらゆる犠牲を払ってでも維持しなければならない関係というものは存在しません。当然、コスト・リターンの観点から割に合わない関係は、いずれ清算しなければならないと思います。

今朝の『GSOMIA破棄 韓国は本当に「苦悩」しているのか』でも取り上げたとおり、とりあえず今月22日までは、日韓関係といえばGSOMIAが話題の主流を占めると思いますが、それと同時にそろそろ「GSOMIAの次の論点」に注意を払うべきなのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • おはようございます

    ムン悲惨が今朝帰国したそうです
    まだおったんかい!と、思わず
    突っ込んでしまいました
    帰国して、また嘘の報告しまくり
    で突っ込み満載にしてくれそう

    • 訂正します
      日本、メキシコ遠征から帰国
      とのことでした

      突っ込んだつもりがボケてました
      申し訳ありません
      仕事に集中します

  • 中央日報記事にありがちですね。
    前半はそこそこまともな事実なのですが、後半にいくにつれ妄想が広がっていきます。
    和解がどうのとなって最後は自称徴用工全員の補償あるかもとなってしまう。

    大臣は徴用工との表現すら記者に訂正させる厳格さで臨んでるのに。

  • 韓国メディアの曲解もだんだん激しくなってるようですね。
    しかし、韓国メディアは韓国政府を全力で応援しているのに比べて、殆どの日本のメディアは全力で日本政府に敵対しているように見えます。
    こちらのブログで何度も指摘されてることではありますが、こういうところからして、日本政府は不利なのですよね。

    • 朝のNHKでも、日韓仲良くしようプロパガンダのために韓国語教室での活動を放送してました。

      「韓国人は日本が好き、日本人も韓国が好き」等の言葉を放送していました。確かに個人ベースに落とし込めば、これも正しいでしょう。

      でも、これを放送するなら実際どういうことが原因で日韓関係が悪くなったかを、ちゃんと前提として説明してからしないと、兎に角仲良くしようだけのニュースになりますからね。
      そして、さらに突っ込めばどんだけ韓国人が反日教育を受けていて、韓国人のベースに形作られてる価値観がどうであるかを説明しないとダメやと思いますが、まあこれでは朝のニュースとしては重すぎるか^^;

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     もしかしてですが、「韓国の空気」、または「中央日報内の空気」は、
    「安倍政権のなかにも、韓国への譲歩を考えている人がいる。それを安倍
    総理が認めていないだけだ」という記事しか、受け付けないのかもしれま
    せん。たしかに、対韓国最強硬派の閣僚に後に、対韓国強硬派の閣僚を取
    材すれば、後の人は「(前の人よりは)韓国に譲歩したがっている」風に
    感じます。その意味では、間違ってはいません。

     蛇足ですが、これまでは自民党に取材した後に野党を取材して、「日本
    政界の中には、韓国に譲歩すべきとの声もある」、または自民党内の日韓
    議連の議員を取材して、「自民党のなかにも、韓国に譲歩すべきとの声も
    ある」という記事を、書いていたのかもしれません。

     駄文にて失礼しました。

  • 最初から韓国政府、韓国マスコミ、韓国人は、日韓基本条約を揺るがすことから初めたい。今もそうです。
    小手先の妥協は、日韓基本条約が揺さぶられることを肝に命ずるべきだとおもいます。
    日本としては、現金化までは平行線が相場なのではないかとおもいます。

    • 韓国固有ではなく韓国発祥なんじゃないですかね?

      あとは「妄想」とか「幻覚」とかw

    • 御二方さま
      希望的観測は、日本でも使うと思います。
      希望的観測ではなく、「韓国ではこれが正義で、日本人から見ると妄想」で、どうでしょうか。

  • あのSEALDsなんかも同じですけど、「話しを聞く」=「言う事に従う」と認識している日本語能力の低い方々が居ますしね…まぁ相手の話しに耳を傾けない人達だから、聞くと従うの違いを理解出来ていない可能性も。

  • 更新ありがとうございます。

    聯合ニュースの記者の質問に対して、茂木外務大臣は、シツコイぐらい逆質問と真意を測って、「何を聞きたいのか?」を聞いてから答えてます。慎重です。

    前任のナンチャラ防衛大臣辺りとは違う。デキが違う。頭の中が違う。役者が違う。、、もうええか。

    茂木外務大臣は、言葉が丁寧です。発言の中で【茂木外務大臣】「そのご質問でよろしいですか?それとも違いますか。」とまで念を押している。

    しかしそれでもこれだけ折れて曲がって裏読みした報道は、韓国のメディア自体、異常性丸出し。GSOMIAにしろ徴用工不当判決にしろ、韓国は時間が無い。

    何とか風を変えたいのでしょうが、日本の親韓勢力がコレに乗らないよう、喋らさない、訪韓させないようにしなければならないです。あと11日。でも、もうジ・エンドです。

  • >『中央日報』が思いっきり曲解し、自称元徴用工判決問題などを巡り「交渉の余地が出てきた」、あるいは「問題解決のためには韓日政府が一歩ずつ譲歩しなければならない」などと主張し始めているからです。

    藁をも掴むというのですかしら(笑)。若かった頃、交渉相手にこれを使って「我々は藁ですか(苦笑)」と鼻白まれたことがあります(恥)。

    茂木大臣、藁にされました(笑)。それにしても、私が期待いたしました通り茂木大臣、ぬりかべ外交絶賛実施中ですのね。あの国には、甘い顔も、無礼もなりません。つけこまれます。さっそく、ツルッツルのぬりかべに爪を立ててきました。敵は必至なので藁をも掴みます。ここは一番、滑り落としてしまいましょう。

    それにですよ。藁をも掴もうとジタバタしているのは、政権ではありません。保守派のメディアが政権に翻意させるべく、政権ではなく日本に縋りついているのです。図々しいですわね。

    ともあれ、日韓GSOMIA破棄が実施されるまで、残り11日でございます。安倍内閣そして茂木大臣、このまま、お進みください。避けることのできないものはあるものです。日本は覚悟し、準備すればよいということです。

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