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【読者投稿】パパママショップの消費税

本日はときどき当ウェブサイトにコメントを寄せてくださる読者の方から、興味深い論考を頂戴しました。内容は「消費税の簡易課税制度の益税問題」に関するもので、具体的な事例に対する計算結果を通じて、益税がどのように発生するか、そもそも小売業の家計の手取りがどのようなものかなどについて、非常に生々しいシミュレーションが示されています。なお、論考の性質上、細かい数値がたくさん出てくるため、本稿では数値例を一部割愛しています。

今回は消費税の検証記事

以前から『お知らせ:読者投稿を常設化します』などで報告したとおり、当ウェブサイトでは読者の皆さまからの寄稿を受け付けております(投稿要領については『読者投稿募集につきまして(2019年6月24日版)』をご参照ください)。

さて、当ウェブサイトでは以前より、消費税の問題点について述べていますが、今年6月には『基本に立ち返る:消費税と財務省の、いったい何が問題なのか』のなかで、「消費税の益税問題」について取り上げました。

これについては、私自身が士業(いわゆる「サムライ業」)に近い商売を営んでいるという事情もあり、売上高が5000万円を割り込んでいると、かなりの益税が転がり込んで来てホクホクしている、という話を説明した記憶があります(なお、私自身の個人的な商売について、詳細の説明は割愛します)。

しかし、小売業の場合はそうでもないようです。実際に小売業を営んでいる「カズ」様というコメント主様から、かなり実務感覚に近い分析記事をちょうだいしましたので、一部手直しのうえで転載したいと思います。

ただし、実務的な記事であるという事情もあり、一般の読者の皆さまには見慣れない損益計算書や消費税の税額控除などに関する細かい数値が出てきているため、本文ではかなり数字を簡略化したほか、途中の分析については省略している部分もあります(※カズ様、もし補足などがございましたら、どうかコメント欄にて付け加えてくださると幸いです)。

(※これ以降がカズ様からの投稿です)

パパママショップの消費税(買物する?買物スルー?)

いつも配信記事を楽しく拝見させていただいています。

せっかく読者投稿コーナーを開設いただいたので、「いちどくらいは…」と、非難は覚悟のうえで私の主観のままにまとめてみました。私んちもそうなんですけど、結論から言ってしまえば、「多くのパパママショップは益税が出るほど儲からない」ってことです。

免税点(売上1000万円)に留まる規模では生活は成り立たず、かといって大きく展開しても人件費の負担増に耐えられません。パパママショップは、年金収入や不動産所得のある人たちが、効率よく片手間に経営する専門店くらいがちょうど良いのではないかと思います。

小規模個人商店の検証

粗利益率20%の場合の税負担

小規模自営業者の免税や益税に不公平感を感じられてる方が多いと思いますので、実際にどのような状況であるのかを検証してみました。

消費税の計算は、次のとおりです。

①まず、売上から仕入を引いた金額(売上総利益=粗利)を求める。

②その金額からさらにその他の経費を差し引く(※ただし、経費のうち、人件費、租税公課、損害保険料、利息、減価償却費などは控除対象外)。

③その金額に消費税が課せられる。

モデルケースとして実在の一般小売店の事例を売上規模別に示してみたいと思います。検証する事例は店舗併用住宅(売場20坪の共同仕入形態のボランタリーチェーン、家族経営、粗利益率は20%、減価償却費は80)とします。

売上高1000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 1,000
仕入 800 ②=①×80%
販管費 150
消費税の課税標準 50 ④=①-②-③
消費税(原則法) 4 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 16 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 -64 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 16 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高2000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 2,000
仕入 1,600 ②=①×80%
販管費 200
消費税の課税標準 200 ④=①-②-③
消費税(原則法) 16 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 32 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 74 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 154 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高3000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 3,000
仕入 2,400 ②=①×80%
販管費 200
消費税の課税標準 400 ④=①-②-③
消費税(原則法) 32 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 48 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 258 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 338 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高4000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 4,000
仕入 3,200 ②=①×80%
販管費 220
消費税の課税標準 580 ④=①-②-③
消費税(原則法) 46.4 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 64 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 424 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 504 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

新宿会計士・注①

投稿者様のオリジナル資料では、費目はもう少し細かく分かれています。また、課税標準に対する消費税等の額は、本来ならば108で割ってそれに8%を乗じるのですが、この点については簡略化されているようです。)

新宿会計士・注②

「手元残金」とは、売上高から仕入、販管費、非課税費用などをすべて控除したうえで、それに減価償却費を足し戻した金額です。減価償却費は典型的な「非現金費用項目」ですが、これについての解説は、当ウェブサイトでは割愛しています。

いかがでしょうか。

粗利益率が20%の事例だと、売上高がいくら増えても、簡易課税による納税額(⑥)は、原則法による納税額(⑤)を上回っているため、どのみち簡易課税を採用するメリットはありませんし、益税も発生するはずがありません。

というよりも、小売業の簡易課税原価率は80%が採用されるため、そもそも粗利が20%しかない時点で簡易課税を選択するメリット(益税)がないのです。

また、売上高1000万円の場合、最大の免税額は4万円に過ぎませんし、売上高が増えて来ると、今度はレジの稼働台数が増え、家族以外の人件費も必要となるため、利幅もダウンしてしまいます。

ちなみに、実際の商売で粗利益率が低いケースが多いのは、粗利益率がとても低い商品(たとえば粗利益率がわずか10%に過ぎないタバコなど)の売上が4割以上と大きいためです。

これに加えて自営業者が加入している国民年金や国保には、特定配偶者(年収130万円未満)に対しての掛金免除特例がないため、国民年金だけでも年額196,080円の掛金負担が課されます。

大きな枠組みのなかで、社会保険料も税金の一種だと考えるのであれば、消費税が免税されたとしても自営業者の全体での負担額は決して軽いものではありません。

粗利益率30%の場合の税負担

それでは、次に粗利益率が30%だったと仮定して、先ほどと同じような検証をしてみましょう。

売上高1000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 1,000
仕入 700 ②=①×70%
販管費 150
消費税の課税標準 150 ④=①-②-③
消費税(原則法) 12 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 16 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 28 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 108 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高2000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 2,000
仕入 1,400 ②=①×70%
販管費 200
消費税の課税標準 400 ④=①-②-③
消費税(原則法) 32 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 32 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 258 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 338 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高3000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 3,000
仕入 2,100 ②=①×70%
販管費 200
消費税の課税標準 700 ④=①-②-③
消費税(原則法) 56 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 48 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 534 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 614 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

売上高4000万円のケース
項目 金額(万円) 備考
売上 4,000
仕入 2,800 ②=①×70%
販管費 220
消費税の課税標準 980 ④=①-②-③
消費税(原則法) 78.4 ⑤=④×8%
消費税(簡易課税) 64 ⑥=①×20%×8%
非課税費用等 110
⑦のうち減価償却費 80
単年世帯所得 792 ⑨=④-⑤-⑦
手元残金 872 ⑩=⑨+⑧

(【出所】投稿者作成資料を著者が加工)

いかがでしょうか。

この場合、売上高が2000万円を超えたときに、初めて、簡易課税による納税額(⑥)が原則法による納税額(⑤)を下回ります。

ただ、その場合であっても年額196,080円の国民年金の掛金負担を上回る益税が発生するわけではありませんので、たとえ涙ぐましい努力で利益率の改善に成功したとしても、免税額や益税が配偶者に対する国民年金掛金負担額を超えることはない、ということがおわかりいただけるでしょう。

(中略)

脱サラして4年

「田舎でのんびりしたいな」と思い立ち、脱サラして4年目。今年度から消費税の納付対象者です。

最近は見てないんですけど、笑点だったら黄色い人が好きです。

全然関係のない話なんですけど、去年までワンコイン(500円)で駄菓子が一度に50種類(50コ)販売できてたんですよね。ですが、流通コストの上昇の影響もあってか、さっきカウントしてみると44種類しか販売できません。

消費増税に伴う価格改定があると、40種類(40コ)に減りそうな気がしています。せかっくの軽減税率なんですけど流通コストの増加は販売価格に転嫁されてしまいそうです。消費増税に伴う価格改定があると、40種類(40コ)に減りそうな気がしています。

以上、ここまでを本文とさせていただきます。

(了)

読後感と補足

いかがでしょうか。

カズ様から頂いた読者投稿を掲載するのは初めてのことですが、実務感覚からすれば、なかなか興味深い論点です。とくに、原価率が高いビジネスにおいては、そもそも簡易課税を採用しても益税が発生しないという点は、不肖ながら盲点でした。

ちなみに、著者が営んでいる会社は課税仕入がほとんど発生しないのですが、サービス業として50%の「みなし仕入率」を適用することができるため、売上高が1080万円だとしても、納めるべき税額は80万円(=1080万円÷1.08×8%)ではなく、その半額の40万円で済むのです。

これに加えて、国民年金の制度設計についても、生活者という視線から、改めて指摘をして下さったことに感謝申し上げたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 益税を発生させる事が消費税の目的ではありません。
    むしろ、益税を極力発生させない様にする事の方が、消費税の制度設計で重要です。
    従って、もし「益税が少ないから消費税は問題だ。」という御主張であれば、到底容認できるものではありません。

    本来は、欧米でやっている様なインボイス方式にすべきです。
    今回の増税で、インボイス方式に一歩近づくと思うのですが、如何でしょうか?

  • 私も個人事業を営んでいますが、小規模企業共済なども活用して、税金を出来るだけ収めないようにしています。
    売り上げも1,000万円をこえないように、毎年6月以降は仕事自体休止して、国内・海外旅行を楽しんでいます。

  • 税制は下々にわからないように可能な限り複雑にすべし。
    さすれば、さすがに財務省の官僚までは税理士レベルにまでは落ちないまでも、その手下の税務署OBが退職後に税理士として活躍できるから・・・。

    なんてのは単純すぎる見方ですかね。

    似たようなので健康保険の支払基金の査定をまったく医学知識の無い人間がやっていてトンチンカンな差し戻しをしてくれやがるので恨み骨髄です。

  • なるほど。消費税の根本的な計算構造とは違ってる気がしますが、現状認識としては分かりやすかったです。
    そもそも簡易課税制度は小規模零細事業者の事務負担を考慮して…という制度ですよね。当時から経済団体に忖度した建前感丸出しの制度だった気がしますけど。
    そして墺を見倣え様のおっしゃるとおり、消費税の立法趣旨から見ても益税ありきの議論は論外であり、もし議論するなら以前の論考にもあった制度の不備の是正や簡易課税制度廃止の論議が先ですよね。

    これは以前からずっと思ってたのですが、複雑な消費税の届出や各種特例を駆使し、一般課税と簡易課税を組み合わせて消費税還付や益税のメリットで一儲けしようなんて提案してた会計業界の士業の先生方にも問題があると思います。今では当局が網をかぶせてますが、荒稼ぎした税理士先生たちもたくさんいるのではないでしょうか。
    「だって法律に書いてあるじゃん」ってチート的儲け話をする前に、もっと制度上の問題点を指摘すればよかったのに。素人に「今の消費税法」を理解しろってのは無理ですもん。そういう「儲けた話し」や「得した話し」を聞けば納税意識は低下するに決まってます。納税を損した得したって話にしちゃいけない気がします。そんなこと言う私は青いのでしょうか。
    これから日本型インボイス導入に向けてカウントダウンが始まりますよね。その時になって「事業者の登録が…」「零細事業者の排除も同然では…」なんて騒ぎにならないように、業界の啓蒙活動にも期待したいところです。

  •  この内容は小生にとっては重要です。

     小生は自らの目標を達成した後は技術コンサルタントのような形で現在の業界に関わっていこうと考えております故、個人起業も視野に入れております。ただ、小生の場合は日本国にだけではなく、海外も考えておりますので、この場合はどうなるのでしょうか?

     近い将来に向けて新たな学習が必要です。

     駄文にて失礼します。

  • 消費税を増税するならば一気に10%、20%と上げるべき。
    なぜかというと、もう何度も日本国民が経験した通り
    2%3%ずつの増税では「増税分据え置き価格」という利益の減少や無給労働コストカット、同時に消費者の些細な金額差を意識するコスパ思考が発生し
    消費の減退・デフレ・労働環境悪化の悪循環を発生させているからです。
    とはいえ、そんな度胸ある決断をする政治家やそれを理解できる国民は日本にはいないけどね!(むしろ軽減税率とかいう真逆の愚策をひりだしている)

  • いつも楽しく読ませていただいております。

    益税問題について、私が知っていることをコメントします。

    簡易課税(および少額免税などの、益税の原因となる小規模事業者向け制度)については、
    「小規模事業者に配慮するから、消費税を導入させてね」ということを、国が消費税導入時に約束してしまっていること、
    国際的にも、税制にデミニマス基準を設けるのは(実際問題として取り締まれないので)普通であること、
    以上の2点から、制度自体がなくなることはないと思われます。

    よって、小規模事業者における益税の発生は不可避であると考えられます。
    そもそも、千円未満の少額の益税は、ほとんどの原則課税事業者において発生しうるものですので、
    益税の発生そのものを問題視することは、あまり賛成できません。

    益税の抑制であれば、簡易課税制度におけるみなし仕入れ税率の見直しで良いと思います。
    例えば、軽減税率が導入されると、農業におけるみなし仕入れ税率が、70%から80%に引き上げられますし、
    数年前に不動産業のみなし仕入れ税率が50%から40%に引き下げられました。

    専門誌などでも、毎年、益税問題は議論されておりますので、
    益税問題については、(早い遅いの感じの違いはあれども)国も取り組んでいるのではと思います。

    以上です。記事の論旨とは少しズレていることをお詫びいたします。

    以下、蛇足
    ・日本ではインボイス方式とは言わず、適格請求書保存方式といいます。
    一歩どころかガッツリ進んでおり、小規模事業者も平成41年に完全移行する予定です。
    ・昨今の税制は複雑になり過ぎており、税務署のOBでも理解していないことが間々あるため、活躍する方は多くないと思います。
    ・消費税は国境税調整されるため、日本の居住者が海外の非居住者に役務提供を行う場合は免税になったり還付になったりします。
    以上です。拙文につき失礼いたしました。

  • コメントを頂いた皆様、ありがとうございました。

    消費税は真に困窮されている者ほどに税負担が重く要らない税だと思います。
    ですが、存在を無くせないのなら、せめて公平性を保って欲しいんですよね。

    私個人としては免税点は変えないまでも、簡易課税の適用上限は引き下げるべきと考えています。

    新宿会計士様

    私の投稿を取り上げていただきありがとうございました。
    また、拙い文面を分かりやすくまとめて下さり、うれしかったです。
    文中でご指摘いただいた通り実務の場での納税予定額は【108分の8】で算出しています。

    「買物する?買物スルー?」のくだりも小規模商店主の立場としてはなかなかのジレンマなんですよ(苦笑)
    いつか、雑感オピニオンの稿で関連した考察の機会がありましたら思い出していただけたらと思います。(あつかましいですね・・。)

    これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

    • カズ 様

      今回はご投稿を賜り、大変ありがとうございました。

      ウェブ主権限でかなり端折ってしまいましたが、それでも消費税法に関する理解を深めるうえでは良い論考だったと思います。

      今後とも当ウェブサイトのご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、また、気が向けばご投稿も賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。